Review.29:常平封鎖。
それから、オレと綾瀬は急いで常平学園に向かった。
藍造時先生は生徒を避難させるだけではなく帰すことにしたらしい。
通学路である坂道は怪訝顔の生徒でごった返していた。
流れに逆らうようにして、校門をくぐる。
「綾瀬ッ!部長に連絡を」
「分かったわ!」
「大階段」を駆けながら、オレらは周囲を見渡す。
曇天の下、常平には異様な空気が満ち満ちていた。
そして、決定的な事は。
――――ぎし みしぃ ぎぎぃ ぎしり
至る所から、あの軋音が聞こえることだ。
感染率が以上に高いのか、それとも〈渡り廊下の葵の手〉が自発的に行動を開始したのか。
「綾瀬、部長らは――」
「そこよ」
綾瀬が携帯を手に、大階段の頂を指す。
そこには、確かに部長たちがいた。
藍造時先生や若森先生の姿もある。
そして、見たことも無い男性の姿も。
「あれが…」
オレが先程かけた電話の相手だろう。
「間、先輩に電話してくれて助かったよ」
大階段を上りきると、藍造時先生が笑いかけてくる。
「君が間君か」
男性が声をかけてくる。
確かに先程の相手のようだ。
「あなたが〈玖刻市〉市長、不動 護……」
整えられた茶色の鋭髪。
英知で塗り固められたような表情。
すらりと伸びる体躯。
身に纏うは漆黒のスーツだ。
「いかにも」
そう、彼が。
数多の〈現象〉渦巻く玖刻市を統べる男。
不動 護その人である。
この人も藍造時先生の先輩で、高天原の卒業生らしい。
「本当に、常平を封鎖したんですか?」
綾瀬が問う。
「うむ、一時的に、だがね」
「こうもしないと、教師陣がうるさいだろうが」
藍造時先生が頭を掻く。
「流石の校長たちも市長命令となるとな」
「職権乱用だよ、これは」
不動さんが苦笑する。
「いや、仕方のないことだ」
不動さんの肩をドンマイと叩きながら、若森先生が笑う。
「そうだ。仕事はこれからだ」
藍造時先生がこちらを見る。
「俺たち大人はこれまでだ。――あとは、やれるだろ?」
嗤うその顔に、ニヤリと返す。
「オレたちを誰だと思ってるんですか?」
皆を見渡す。
「天下の廻る〈現象研究会〉ですよ」
どんどん話が進んでますね。
終結に向けてあとは間が駆け抜けるだけです。
皆さんも、遅れぬようついて来てくださいね。