Review.28:緊急事態。
――朝。
どうにか綾瀬に憑いた〈名無しの怪〉、いや〈渡り廊下の葵の手〉を祓ったオレたちは、うはぁと脱力していた。
「………」
「………」
二人して、ソファーに。
睡魔に打ち勝とうとして、うつらうつらとしている。
時刻は、午前十時。
学校はとうに始まっていたが登校する気にもならず、こうして二人でだれていた。
――いや、まぁ唯だれていた訳じゃあ無いんだ。
藍造時先生や現研のメンバーには、メールで事を伝えておいた。
そう、〈名無しの怪〉が本当は『七不思議』の一つであったこと。
無事に、綾瀬からそれを祓ったこと。
全員、驚愕と共に綾瀬の無事を喜んでいた。
今、学校ではそれぞれ奔走しているはずだ。
そう思いを馳せていると、二人の携帯に着信があった。
なんだろうと、受信ボタンを押す。
電話のようだ。
『間かッ!?』
その声は、先生だ。
しかし、声音には焦燥を帯びている。
オレの向かいでは、綾瀬が「部長からだわ」とつぶやいている。
「どうしたんすか?」
『いいか、落ち着いて聞いてくれよ』
自身が焦りながら、先生は言う。
『〈渡り廊下の葵の手〉が、学園内に蔓延しはじめた……!』
「な…ッ!!」
瞬間、言葉を失った。
『こんな真っ昼間にもかかわらず、そこかしこで〈現象〉の具象化が起きている。火災警報器を鳴らして、どうにか生徒たちは非難させたんだが、如何せん頭の固い教師どもがな、オレを非難しようと追いかけてきやがる……ちっ、こんなことしてる場合じゃ無ぇのによ』
スピーカーの向こう側からは、荒い息遣い。
おそらく走って逃げまわっているのだろう。
『そこで、間。頼みがある。俺が今から言う番号、そこに電話してくれ。藍造時から、って言って、常平に来て貰うんだ』
「は、はい。分かりました!」
『うし、じゃあまた後でな!』
電話番号を足早に言った後、先生はブツリ、と急いで通話を切った。
事態は切迫している。
「えらい事になったぞ、こりゃあ……」
「間君!急いで常平に行きましょう!」
部長と話を終えたらしい綾瀬が、蒼白な顔で叫ぶ。
オレもそうしたいところだが、まぁ少し待ってくれ。
先生の頼みを実行しなければならない。
オレは、先生に聞いた番号を急いで押し始めた―――
物語は起承転結でいう「転」を終えて、
黙雷たちは「結」へ走り始めました。
ついに、学園全体を巻き込む大騒動となります。
次回もお楽しみに!