Review.27:唸る葬剣。
オレは得物片手に、寝室の隅にうずくまっていた。
何故かって?
〈名無しの怪〉にオレの存在を気付かれないようにするためだ。
寝室の隅。
そこには藍造時先生が札で、人の気配を遮断し〈現象〉が干渉できない不可侵地帯を作っていた。
そこにオレは潜み、〈名無しの怪〉を待ち伏せている。
綾瀬はというと、ベッドの中で御守りを握り締めしきりにこちらを見ている。
大丈夫、とつぶやく。
そして、零時を過ぎた頃。
遂に――
――――みしぃ
(来た……!)
オレと綾瀬は目を合わせる。
――ぎぎ ぎしぃ
闇が濃度を増し、室内の温度が急激に低下する。
「…………」
ベッドで震える綾瀬に、軋む闇が群がる。
――きぃ きぃ ぎしり
闇の隙間からは、ロープが見え――いや、違う。
ロープはあんなに白くはない。
なんだろう、あれは?
――――すぅ
見えた。
――あれは、腕だ。
死肉のような白さに変色した、いくつもの腕。
それが、綾瀬に群がっている。
「…………!」
こいつは、最近現れたばかりの〈現象〉では無かったのだ。
これは、〈名無しの怪〉なんかでは無かったのだ。
「〈渡り廊下の葵の手〉……!」
『七不思議』が一つ。
ようやく、正体を現しやがったな。
黒鞘から静かに、刀身を引き抜く。
刃こぼれを起こしている刀身を、淡い光が包んでいく。
「……糞野郎が」
淡い光は、オレの激情にあわせて赤熱し始めた。
――ぎしり すぅ きぃ すぅ
「行くぞ……!」
不可侵地帯から、飛び出る。
――瞬間。
闇が、想だにしない来客にざわめいた。
散ろうとする。
「逃がさねぇ!」
連続で、闇に光を叩きつけた。
修羅の如く、刀を振るう。
慈悲の気持ちを持たず、唯々冷酷に。
高速で闇に光を叩きつける。
紅蓮の斬撃は着実に闇を滅ぼしてゆく。
――――!!
闇から、声にならない叫びが漏れる。
それは、第二体育館で聞いたあの絶叫と同じもの。
しかし、耳など貸す事は無い。
「罪には、罰なんだよ……ッ!」
闇が光に圧され、徐々に白い腕があらわになっていく。
「――これは……」
綾瀬が、ベッドの中でつぶやいた。
「間流古典斬鬼術……ッ」
だが、オレはそれにも耳を貸さず、綾瀬についた汚らわしい病原菌を討つことだけを考える。
「随神――――」
刀身が、紅の光で何倍にも伸びていく。
――紫電一閃。
緑紅光の長き斬撃は、壁や家具などの現実の物質を透過し、白色の腕たち――〈現象〉だけを確実に捕らえ、斬り刻む。
「……夢佩刀」
神の鉄槌の如き一撃の下、技の御名をつぶやく。
こうしてオレは、綾瀬に憑いた〈名無しの怪〉を葬り去ることに、成功したのであった――――
はい、「怒髪天を衝く」の黙雷君でした。
いや、怖い怖い(^_^;)
ありゃマジギレですよ。
もしかしたら、あれほど怒る描写はは初かもしれませんね。