Review.25:嵐の中の静けさ。
――数分後。
五〇二号室前。
改めて、オレはインターホンを押す。
しばらくして、扉が開かれる。
中から顔を覗かせたのは、今度こそ綾瀬。
「よっす」
「ど、どうぞ上がって間君」
先生との会話で無駄な緊張が解けたオレに対し、綾瀬の声にはまだ若干の緊張が見られた。
「んじゃ、お邪魔しますッと」
推定1LDKの綾瀬宅にお邪魔する。
滑らかなフローリングの廊下を抜けてリビングへ。
ベージュやブラウン、ライムやモスグリーンを基調としたインテリア。
なんとも落ち着きのある部屋だ。
なんだ、てっきり女子の部屋だというとピンクとか使っているのかと覚悟していたが……。
あの綾瀬がそんなことするわけないか。
似合わない似合わない。
実際、オレの部屋とそう変わらないじゃないか。
――まぁ、それはさておき、だ。
オレはさっきから気になっていることがあるんだ。
「綾瀬、どうして頭にバンダナなんかつけてるんだ?」
「――え?……あ!」
慌てて隠す綾瀬。
いやもう遅いから。
「掃除でもしてたのか?」
「その、えっと、まぁ、ね……」
あからさまに視線を避ける。
当然か。
オレも綾瀬の立場ならそうしてる。
「あ、どうぞ座って」
綾瀬は、二人がけのソファーをオレに薦め、自分はキッチンに消える。
「手の込んだもんはいらないぞ〜?」
一応、その背中に声をかけておく。
「分かってるわ。それに手の込んだものなんて私作れないし」
盆にクッキーと紅茶を載せてやってくる。
「藍造時先生の紅茶を飲んでから、少し凝っちゃって」
盆を机に置き、紅茶を差し出し、自分もソファーに座りながら、綾瀬が言う。
「横に座らなくてもいいだろ。狭いよ」
「あッ……ご、ごめんなさい!」
急いで向かいのソファーに腰掛ける。
「さッてと。んじゃあ、どうするよ?学校がないと随分暇なもんだよなぁ」
クッキーを摘み、ソファーに沈み込む。
「そうね……特にすることも無いし。どうしましょう?」
ようやく落ち着きを取り戻した綾瀬も、小首をかしげる。
「〈名無しの怪〉をどうこうするっても、夜だしな」
今は、まだ昼だ。
次は、紅茶を飲む。
「お、美味いな」
「本当?」
私がブレンドして入れたの、と綾瀬は顔を輝かせる。
「そりゃ凄いな。味は先生にも負けてないぜ」
嬉しい、と微笑む綾瀬。
その表情にドキリとしたことは、絶対誰にも秘密だ。
「なぁ、綾瀬。お前さ、部屋綺麗に片付けてるよな」
話をそれとなく逸らす。
「え、そ、そう?」
どうしてここで挙動不審になる?
「あっちはどうなってんだ?」
閉められたドアに手をかける。
こっちにも部屋があるんだよな。
「あ、いやそっちは……!」
綾瀬の静止も聞かず、スライドさせて扉を開ける。
「うぶ……ッ!!」
そこは、押入れの扉だった。
中から洪水の如く流れ出した荷物によって、オレは押し潰される。
「間君ッ!?」
「むぐ〜……ぐあ〜…うにゅうぅぅ」
呻くオレを、荷物の山から慌てて引っ張り出す綾瀬。
「いッてて……」
改めて、目の前の荷物の山を眺める。
ゴミ袋に詰められた衣類、鞄もろもろ、多数の書籍などなど。
さっき、挙動不審になった訳が分かった。
……こいつ、オレが来る前にここに全部押し込んだな。
「間君!こ、これには訳が…!」
赤面した綾瀬が、オレの横に立ちオロオロとしている。
「あー……いや見なかったことにしとこう」
笑いながら、立ち上がる。
人間臭くて良いじゃないか。
服の埃を払いながらつぶやく。
「オレには何も隠そうとしなくて良いんだぞ?」
「……え?」
「仲間って、そんなもんじゃねぇか」
目を瞑る。
「オレ、〈現象研究会〉の奴になら誰にでもこの命、預けられるよ。綾瀬は違うか……?」
目を開くと、綾瀬はこちらを向いて微笑んでいた。
「そうね……私も、そうだわ」
綾瀬の弱点見たり!の巻ですね(^^)
人間誰しも完璧な者はいないと言うことで一つ。
実は昨日upしようと思ったのですが、寝忘れてしまっていました(笑)
申し訳ないです(^_^;)