Review.14:闇迫り寄りて包囲。
赤レンガで外装を覆うレトロな建築物。
――常平学園付属図書館。
その四階。
普段は、何人も立ち入ることが禁じられている禁書保管室。
そこに理沙の姿はあった。
保管室に備え付けられている情報端末で、今回の事象に関連していそうな文献を検索し、実際に読んでみる。
――ひたすらその作業の繰り返し。
まだ寒さ残る春。
外は、すっかり暗くなっている。
そして現在。
午後七時を少し過ぎた頃。
黙雷たちと別れて、ゆうに二時間が経過していた。
理沙は、平凡というものがあまり好きではなかった。
どうせ一度きりの人生だ。
楽しく、オリジナリティ溢れる、他人とは一線を画した特別なものでありたい。
――だからこそ。
当然の如く人一倍の勉強をしたし、この怪しい部活にも入ったのだ。
それが今……この部活は自分でも驚くほどにかけがえの無いものになっている。
理沙は苦笑しながらも、一人書物に目を通していく。
パーソナリティの一つにでもなるだろうと思い、入った部活が、現在一番大事で、彼らと過ごす時間は輝く宝物のよう。
これはもう断言できる。
私はこの部活を辞めることなど出来ない。
……失念したと笑うしかない。
キーボードを打ち込んだり、パラパラと本のページを捲る音だけが、既に閉館時間を過ぎ、人の気配が消え失せた図書館で、途切れる事無く続く。
未だ有力な情報が見つかっていない。
――時間だけが刻々と過ぎていく。
「人一人を隠すくらい力があるって事は〈七不思議〉か何かなのかな…」
――七不思議。
それは玖刻市内で最も害のあるものをピックアップしたもの。
純粋にカテゴライズされたもので、七つ全て知ると呪われるとか言う類ではない。
「えっと……私たちが片付けて、新たにランクインしたものを含め、今の〈七不思議〉は――…」
・『虚公園の汽笛』
・『エントランスの柱時計』
・『雄獅子姿の髑髏』
・『食堂の狂い包丁』
・『深夜の夢幻回廊』
・『渡り廊下の葵の手』
・『悠久池の回遊魚』
「の、七つか。一番最初は、校外だし今回は関係は無い。最後も、校舎内には関係を持たないし、候補として削除。二番目と四番目、そして五番目は事象と場所がはっきりと分かっているから除外するとして……三番目だって〈首吊り死体〉とは結びつかないし……」
となると、残りは〈渡り廊下の葵の手〉しかない。
けれども、この現象も今回と関係があるとは考えにくい。
強いて関連性を挙げるなら、伸びてくる〈ロープ〉と〈手〉ぐらいだろうか。
「う〜ん……」
理沙は、書き殴った現象表を見ながら、頭を抱える。
――その時だった。
あの音が聞こえたのは。
――――ぎしり。
「!?」
身体が強張るのが、自分でも分かった。
それと同時に、周囲の薄闇が濃縮するのを感じる。
闇は凝り固まり、濃度を、粘度を、密度を増し、小型の蛍光灯スタンドの明かりだけではなんとも心細く、弱々しく感じられる。
――――ぎぃ。
「こ、この音は……」
この何かが軋むような音は。
――明らかに〈名無しの怪〉のそれだ。
しかし、あれは第二体育館内のみでの〈現象〉であって、この図書館に関係は無いはず。
されど理沙は、自分の背後に、周囲に、吊り下がる何かの存在を確かに感じていた。
闇が蠕動を始め、理沙の鼓動も、恐怖のため、否応無しに高まってくる。
――――しん――――
音が、止んだ。
闇が、徐々に、理沙に歩み寄ってくる。
……このまま、自分も彼の警備員のように何処かに連れ去られてしまうのだろうか。
今現在、此処に具現化している〈現象〉は確かに〈名無しの怪〉だ。
と、なると、この〈現象〉は第二体育館だけのものでは無いということになる。
具象範囲は、学園全土に及ぶのかもしれない。
そうなると、夜の常平に、安全な場所など、何処にも無い。
この事を、伝えなければ。
部長に。
間君に。
は ざま く ん に―――――
ついに〈現研〉にも被害者が!?
どうも、気になる展開ですか?昼行灯です<(_ _)>
こーいう展開(メンバー特定の誰かが狙われる)はシリーズでも初ですね〜。
さて、どうなることやら。
次回をお楽しみに!