Review.12:それぞれがそれぞれに。
葛木瑠奈と太陽の姉弟は、常平学園中等部に入学した頃から、いやこの玖刻市に移り住んでから、常に怯えながら暮らしてきた。
彼らは、親族には見えない『何か』が見えていた。
それが幽霊なのか何なのかは分からない。
分かろうとしてくれる者もいない。
二人の話を信じるものは、誰もいなかった。
常平の中等部に入学する頃には、そのことを他人に話すことはなくなっていた。
「狂っている」「おかしい」などと、思われたくは無かった。
――しかし。
そんな二人の前に、驚くべき出会いが転がりこんできた。
〈現象研究会〉だ。
彼らは周囲の視線を気にする事無く、己の知的欲求を満たすという『建前』のもと、世界のために動いていた。
そんな彼らに、感銘を受けた。
憧憬の感情さえ抱いた。
それが、ある事件で、今はこうして自分たちもその一員。
誇らしくもあり、また驚きでもあった。
「皆の役に立たなくちゃ」
胸に抱いていた決意が、言葉として口からこぼれる。
瑠奈は、あらやだと赤面した。
「……僕も。僕も役に立ちたい」
瑠奈は横を向く。
そこにはこれまで、そしてこれからも共に歩くだろう太陽がいる。
「行こう、ルナ」
「うん」
更なる聞き込みに向かうため、二人は歩き出した――。
◇
部長が赴いたのは、あの人がいる保健室だった。
こつこつと、白塗りの扉を、部長は丁寧にノックする。
「どーぞ」
返事を確認して、部長は扉を開けて中に入る。
ちゃっかりオレも後に続く。
「失礼します」
「ども、藍造時先生」
「……そろそろ来るんじゃねぇかとは思ってたんだ」
オレたちの前には、一人の保健校医。
適当に切り揃えられた黒髪に、端正な顔には無精髭、フレームレスの眼鏡。
小柄な体に纏うのはヨレヨレの白衣。
彼の名前は、藍造時 創流。
常平が出来る前にあった〈高天原高校〉のOB(卒業生)であり、玖刻市の不可解な〈現象〉について深い造詣を持つ人物である。
「おう、間。身体は大丈夫か?」
先生が、本業らしい質問をしてくる。
「はい、今んとこは」
「そうか。なら一安心だ。まぁお前は現象にやられた訳じゃないからな。気を張り詰めすぎるな、ってことだ」
紅茶を美味しそうに啜り、一息置く。
「それで、だ。――〈名無しの怪〉についてでも、聞きに来たのか?」
ご名答。
部長が、はいと頷く。
「ん〜……残念ながら、俺も良くは知らないんだ」
なんとも珍しい。
先生にも知らないことがあるとは。
「なんせ現れたのがつい最近だろう?いかんせんデータが無くてなぁ」
オレらにも紅茶を準備しようと席を立ちながら、先生は頭を掻く。
「あ、先生。お構いなく」
部長がやんわりと先生を止める。
「ん?遠慮しなくてもいいんだぞ……?」
笑う先生に、部長は言い放った。
「今から現場に行くものですから」
再び、ソウル登場。
彼もサブレギュラーという存在に確立してきました(笑)
実際は、著者自身「保健室の先生」に憧れていたりします。
なんていうか、色々とラク…じゃなくて楽しそうじゃないですか?
イベントは全部参加できるし(笑)