Review.11:非日常的日常のハジマリ。
――〈名無しの怪〉と遭遇した次の日。
火曜日。
その放課後。
オレたちは、現象研究会の部室にいた。
……にしても昨日は大変だった。
気を失った後、どうやらオレは皆に保健室に運んでもらったらしい。
自身は、気を失う直前のことを良く覚えていない。
霞がかかったように曖昧だった。実は、
昨日の夜の気を取り戻した後のことも良く覚えちゃあいなかった。
頭痛がひどかった。
その程度しか分からない。
本当に、忍びない気持ちでいっぱいだ。
「昨日はご苦労だった、諸君」
部長が、申し訳なさそうに言った。
「あの、演劇部はどうなったんですか?」
苦笑しながらも、サンが聞く。
「演劇部に限らず、第二体育館を使用している部活動は、しばし第二での活動を控えるように言ってあるよ。心配しないでくれたまえ」
流石、部長。
手際が良いことで。
「……あ、警備員さんとかは大丈夫なんですか?」
サンの横で話を聞いていたルナが、ふと感じた疑問を口にした。
その質問に、部長は表情を固くする。
「それは、もちろん言いくるめてあったのだが……」
どうしたのだろう。
歯切れの悪い部長は珍しい。
――ん?
「あった」?
どうして過去形なんだ?
「……何かあったんすか?」
「うむ、それがだね、私もついさっき知ったことなのだが――どうも警備員の一人が行方不明になっているようなのだ」
『!』
驚きが、皆に走る。
思いのほか事態が深刻であることを、その警備員が行方不明ということは、暗黙のうちに告げていた。
……これはうかうかしてはいられない。
早いとこどうにかしないと、次の被害者が出てしまうのではないか。
「今日のところは、何も手出しはせずに様子見をしようと思う」
予想外の部長の一言に、オレは焦った。
「部長ッ、何を言ってるすか!そんな暇、オレたちには無いは――」
「分かっているよ、間君」
部長が、オレの話を遮る。
「だからこそ、だ。情報が倒錯し、上手く収集出来ていないこの状況で、闇雲に動くのは好ましくない。足場を固めることからしなければ。違うかね…?」
正論なだけに言い返せない。
まったくもって言う通りだ。
「……そうっすよね。すんません」
「いや、分かってくれたなら良いんだ」
微笑む部長に、ついオレも笑ってしまう。
こういう時こそ焦らずに、確実に。
……また部長に教えられたな。
「それでは、これから行う作業を分担しておこうか」
部長が眼鏡を押し上げながら、皆を見回す。
「葛木君たちは、まず生徒たちへの聞き込みを。出来るだけ情報をかき集めてくれ。そして、出来れば情報源の特定も頼む」
『はい!』
「綾瀬君は、学園図書館の文献で調査を。禁書棚の開放を頼んである。好きにしてくれ」
「わかりました」
「椿君」
「はい、大西部長」
部長のかけ声に、一人の女性が、壁をふわりと通り抜けて姿を現した。
腰まで流れる美しい黒髪、透き通るような白い肌、見に纏うは白装束。
この大和撫子の名前は、椿 芙蓉。
現象〈部室棟の仄明かり〉の原因であった人。
今では、オレたちに協力してくれる、人畜無害の幽霊さんである。
「君は学園の、夜の見張りを頼む。どんな些細なことでも報告してくれ」
「仰せのままに」
「では、行動してくれ」
部長の一声で、それぞれが己の役割を果たすために、動き出す。
椿さんは皆に一礼をすると、幽霊らしく姿を消し、綾瀬・葛木姉弟は、静かに部室を後にした。
部長と、オレが、ポツリと取り残される。
「ぶ、部長…オレは?」
「あぁ、間君は私についてきてくれたまえ」
そう言うと、部長は席を立った――――。
さて、ついに本腰を入れて動き始めた〈現研〉。
彼らの運命やいかに…。
今回のストーリーのキーパーソンは「綾瀬」です。
彼女の動向に注意!