どうしたら
ほどなくして作られた最奥、全員が入ってもまだまだ余裕のある大部屋に到着した。魔族は一直線にコアへと向かいそれへと手をかけ、何かを確かめるような様子を見せる。僕はそれを見てまさに心臓が掴まれたようで、生きた心地がしなかった。その気になればコアを砕き、この命を奪うことも可能。それを自分以外の存在に、それも信じるに値しない存在に握られているというのはこうも気持ちが悪いものなのか。僕はそれを実感を伴って感じた。
「これがダンジョンコア。なるほど、作ることも使うことも出来るが理解しがたいな。魔石とは違うように見えるが……」
突然胸に走った痛み。変化したとはいえこの体は人間のそれとは違う。心音はしても擬似的なものであり、異常を感じようがそれが有効な攻撃でない限り痛覚までは届かないはず。
「なるほど、確かに聞いた通り繋がっているようだ」
一体何がと魔族に目を向ければ、こちらに目を向けながらコアへと爪をたてて傷をつけるように弄んでいる。
「傷をつけないほど手加減してもその苦しみよう、なかなかに興味深い」
やめてくれ、と声を出そうにもそれを許さないほどの苦みと痛み。歯を食いしばり痛みが去るのを我慢するように硬直することしかできない。何かを考えようにも痛みが理性を奪い、本能の指向性すらも決めていく。
「マスター!!」
「マスター、大丈夫ですか!!」
「しっかりしろ、マスター!!」
大丈夫だという強がりすら許されない。返事をしようと意識が芽生えても痛みへの反射で息が漏れるだけ。逃れないのに痛みに全神経が集中していく。より鮮明に走る痛みが感知され、不規則な痛みが覚悟の隙間をぬうように襲ってくる。
しかしそんな痛みもふと消え去る。やっと解放されたと、痛みの残響も止まぬなか魔族の愉快そうな声が耳に届いてきた。
「おっといけません、役目を忘れるところでした。早く手駒を増やしてください、まずは雑魚でも構わないから数を揃えたい。万はいかなくとも千は欲しい」
「いや、あの……」
「さあ早く、遅くとも明日に来るであろう敵に見せつけなければいけません」
尾を引いているどころか、しがみついている痛みに喘ぎながら何かを言おうとしたが言葉を失った。無茶にもほどがある。僕の魔力でその数を揃えることは不可能、それも明日までにだ。しかも明日には敵がやって来るという無視できない情報も無造作に言われ、頭は混乱に引っ搔き回された。
「マスターに代わり発言してもよろしいでしょうか」
「……まあいいでしょう。言ってみろ、骨」
一瞬冷えきった空気に痛みすら凍りかけるなか、スケルトンは落ち着いた様子で僕が言いたい以上のことを言葉にしてくれた。僕の魔力において召喚できる限界、回復までの時間、魔力の代わりに魔石を用意するも手が足りないこと、集めるにしても周囲の環境によっては不可能だと、そしてその他こまごまとした要因。
それらを相手を怒らせないように飾り立てながらも短く、丁寧に言いながら説明し終えた。
「それは本当ですか?」
魔族の目がこちらを射抜く。僕は言い訳もせずに頷くも、さらに重くなった空気に口を動かす。
「しかし、ですが、増やして揃えることはできます。指示するものだけを喚び出し、手下をこの周辺で集める方法です、どうでしょう」
「なるほど。ではそこにゴーレムなどの無機物、ゴーストなどの精神体も加えれば数は用意できそうですね」
「そう、ですね」
魔力が足りるだろうか。一抹どころではない不安がどんどん肥大していく。もし搾り取られるだけ搾り取られたら僕はどうなるだろうか。ただの部品として飼い殺されるのではないだろうか。それだけの戦力を用意して何をするんだろうか。どれをどう考えても悪い未来がチラついてくる。
自身に選択権無く、望みもしない方向へと引きずられる。逃れようにも方法がなく、踏み入れれば抜け出せそうにもない。魔王軍からダンジョンマスターへとされて僕にも風が、とも思っていたのが懐かしい。本当にほんの少し前の話なのに、どうしてこうも状況が悪化しているのだろう。確かに選択は最上ではなかった。しかしここまでの事態を引き起こすほど失敗だとは思えない。人里を探すのもこれからを考えたら必要だ、人を助けたのだって伝手を作るため、なるべく死人を増やさないように相手を追い払ったのだって、いつでも切り捨てられるであろう存在を使ったのも、悪くはないはずだ。選べる選択肢の中では、自身の知識の中では、思いつく中では、最低と評するほどではないはずだ。
「では……残念ですね、命を焼べて魔力を搾り取れないなんて。役割を果たしてもらうまでは殺せません。死ぬ寸前まで魔力を捧げなさい、我ら魔王軍のために」
どこで間違えたのか、それともどう足掻いてもこんな結果になってしまったのか。いっそ亡命なり人族に魂を売ればよかったのか、死ぬ覚悟で和平をと叫べばよかったのか。
僕は最初から世界の歯車は僕をすり潰すように配置され、動いていたのではないかと錯覚した。自分の才覚だけではどうしようもできないほどの流れ、それに逆らえるほどの機会も能力もない。ただこうして死を、自分の不幸を無理やり食わされ続けなければいけないのか。
「……はい」
どう不幸へと転ぶにしろ、今は返事をするしかない。逆らったところでどうなるのか当てもなければ案もない。ただはっきり言えるのは今の状態で抵抗したところで無意味で、愉快な進展など望めないということだ。
いつもありがとうございます




