差があることに
やめろ、という念話を飛ばす暇もなくゴーレムの攻撃が始まった。四方八方周囲の岩壁から魔族目がけて大きな棘を生やし、その数を隙間なく増やしていく。もちろん僕らを避けるようにして。そして岩の槍衾は魔族へと襲いかかり、襲いかかり続け、周囲の岩を消耗しつくして広さのある空間を構成するまでに至った。中央に剣山を裏返しにしたようなオブジェを作って。
その間ものの一秒程度、思わず”倒したか”と心に湧き上がる光景。しかしそれは後ろから聞こえる声にかき消された。
「これは興味深い、土くれにしては意志の乗った攻撃ーーおっとこれはこれは」
そして握るように添えられた手が再び首を襲い、耳元から聞こえ出した声がこう言った。抵抗はするな、と。すると魔族は面白そうに喉を鳴らし、僕に言い聞かせるように口を開いた。
「あれに命令しろ、もう私に攻撃はするなと」
「……わ、分かりました」
僕は言われた通りにゴーレムへと命令を出す。すると魔族は首から手を離し、自分が標的であった攻撃の痕を興味深そうに観察し出した。何か特別なことでもあるのか隅々まで、姿勢を変えて上から下へと体勢を変えながら。
(マスター。あれは何ですか)
(ゴーレム……あれは魔王軍のだなーーなんだろうな、恐らくはそれなりの地位にいる奴だ)
(それは本当ですか?)
(いや正直裏は取れていない。だが実力差は明白だ、だから逆らわないでくれ。何とか助けてもらえるよう頼んでみる)
今現在、僕の頭を悩ませているのはゴーレムの助命だ。あの攻撃を避けたことなどそれに比べれば瑣末ーーではなく重大ではあるのだが、心がそちらに逸って仕方がない。脅しや戯れにゴーレムだけではなく、見せしめに他の奴も可能性がある。
(……機嫌が良さそうだから大丈夫、かもしれないそう思おう)
(マスター。申し訳ありません)
(ああ本当に全くその通りだが気にしないでくれ……すまん、本当に気にしないでくれ。何とかしてみる)
と僕は言いながらも、助かる可能性は低くないだろうとも思っていた。理由は魔族の機嫌がいいこと、それに付随するように浮かんだ怒りを覚えるほどの攻撃ではなかったこと、または予想以上の収穫があったのではないかなどなど。少し楽観的な考えに支配されていた。現に有無を言わさず、速やかに殺されてはないのだから相応の理由があるはずだ。
「やはり、そのゴーレムには自立した思考がありますね。魂、とまでは言い切れませんがそれに準じるほどの意識がある。違いますか?」
そして唐突に魔族が口を開き、目だけをこちらへと向けていた。僕はどう命乞いをしようかと、どう切り出そうかと思っていたのでその言葉に意表をつかれてどんな返しを期待しているのかと固まってしまう。
「……まあ答えなくても構いません。考える材料があるというのは暇をつぶすに困らない、思っていたよりもここは愉快な場所のようだ」
「……はは、左様ですか」
面白そうに喉を鳴らし、体を揺らす様は容姿も合間って不気味だった。こちらを楽しそうに見ている細くなった目がそれを強化している。僕はたまらないといった様子で笑う魔族に合わせ、愛想笑いの顔を維持しようとするので精一杯だった。
「では興味も尽きないですがコアに向かいましょう」
「は、はい。あのゴーレムはーー」
「ここに置いていけ」
「はい……」
とりあえずは殺されーーこの場では殺されなかったと安堵したが、向かう先は僕の心臓。当然というか足取りは重くなるし、開示したくないものも多くある。だがそれも希少性や交渉次第では命をつなぐものに出来なくはない。しかしそれすなわち底を見せると、これ以上ないと、まな板の上に乗ることを意味する。
どう決断するべきか。僕はそう考えながらも決定権や主導権は自分には無い、そんな隙間を心に感じながら魔族の後について行くのだった。
いつもありがとうございます




