大事の前の小事
それからまず僕たちはゴーレムにこれからのことを説明。コアを守護するために共に埋まってもらうこと、その際の問題点などはあるかなど色々と聞いていった。
「大丈夫か?」
そして確認する意味で、保険をするように聞いてみると何も言わず頷いてくれた。でも内容が内容だけに、伝えている時も口を挟まず聞いてくれているだけだったので引っかかりを覚えてしまう。本心では納得していないような、そんな気配を勝手ながら感じ取ってしまうのだ。どうも一方的過ぎて"不本意ではないが分かりました"という心の声が幻聴のように聞こえてしまう。
「えっとな、無理、してないよな?」
再び頷くゴーレム。
しかし僕の心は晴れなかった。いくら命令に忠実なゴーレムとはいえ、実際に言葉を交わした経験から彼らは感情がないわけではない。信頼していないわけではないが裏切ることは可能なのかもしれない、そう思うとコアと共に埋めてしまうのが躊躇われる。そしてここまで言ってしまったお終いなのだが、埋まっている間に心変わりする可能性だってあるかもしれない。
ゴーレムは人ではないが感情を持っている。心はいずれ変わる、変わることができてしまう。環境も変わるし、自分も他人も不変ではない。子供の時は無邪気に信じていたものを今現在は信じられないように。些細な出来事で恋が冷め、友情すらも迂闊な一言でヒビが入るように。そして劇的でなくとも滲むように、傾き始めるように変わっていくこともある。いつの間にか夢に苦痛が伴うようになったり、楽しいこともそれだけでは続けられなくなったり。
そう僕は今世で悟り、前世を振り返っては懐かしみつつも悲嘆に焼かれていたから。
「いや何かあるだろ? 全部は聞けないと思うが何かあれば聞くぞ?」
そして僕は追い立てられるように言葉を吐く。これでは慮っている皮を被った何かだ。ごまかそうにも再び何かを言えば仮面すら剥がれてしまいそうだ。うまく笑えていないだろうが、声色もおかしいだろうが、決壊してしまえば僕はーー
「あのマスター、念話を繋がないとゴーレムとは会話できませんよ?」
とそんな時、魔女にそう言われてぎこちなくも声がした方へ振り返る。
そうか、確かにそうだ。一体僕は何をしていたんだろうか。焦って単純なことを見落としていた。
(えっと、その、な。無理してない、よな?)
(はい。お任せください。ですがその……)
(……なんだ?)
何かあるんだろうか。
言いよどんでいる間の喋らない時間がとても苦しい。
(できれば早くご帰還ください。栄誉ある役目だとは思うのですが長すぎると少し……)
(……辛い、よな。そうだよな)
(いえ。暇すぎてどうにかなってしまいそうです)
聞き間違いかと脳に届いたはずの言葉を再処理するが、確かに暇だと言った。寂しいやら辛いやらではなく暇と。ただ土の中に埋まることを暇と言ったのかゴーレムは。
(いや、敵も来るかも知れないし案外暇じゃないかもしれないぞ?)
(いえ。見破られる訳にもいきませんし防衛は最終手段です。それにマスター達が本命だと思わせるのであればこちらに敵は来ないかと)
(ああ、まあそうだな)
確かにゴーレムの言葉通り、この策が上手くいけばこちらは安全だ。つまり敵の襲撃は囮であるこちらに集中、というかこっちのみなるはずだ。それにここを採掘されそうになったら奇襲をしかけるつもりだし、確かにゴーレムのやることは保険ーーというか衝撃吸収とか、魔物の中では比較的防御の能力が高いその身を盾にするとかそんな感じだ。
(でももし見破られたらなーー)
(この地を離れられぬマスターのお命。援軍が到着するまでは必ず守り抜きます)
(……ああ、頼ん、だぞ)
なんか調子が狂うが思うところはないらしい。暇すぎて寝るなんてこともないだろうし、何よりゴーレムだ。命令には従い履行するのだろう。
そう思わせるに足る言葉の重みだった。念話ではあるがーーというか念話だからより伝わってきたように感じる。
「ゴーレムに任せれば問題はないでしょう。問題は我々ですな」
スケルトンはこちらの様子を察したのか、まとめるように言っては話題を変えていく。
「そうですね、出来れば懸念を全て処理したいですがーー」
「ゴブリンはそこまで保たないだろうねー、というか多少の穴はあっても主導権を握っておきたいね」
続いて魔女も吸血姫もこちらを見透かしているのか、話し合いを始めた。
確かに僕もそう思わなくもないーーというか言われてみればそうかもしれない、と感じるだけでこの頭脳は何の役には立っていないが置いていかれているようで少し引っかかる。
「マスター、ゴブリンがまだ健在な内に進めて構いませんか? 対処に追われている状態で事態を変えてやれば、気休めかも知れませんが冷静な判断を多少を鈍らせることが出来るかもしれません」
だが魔女に判断を仰がれ、そんな心の違和感もすっ飛んでしまう。気もそぞろな状態で判断できるほど平和ではないし、僕の才覚も乏しい。
「わかった。魔女の判断を信じるよ……それで、良いよね?」
何とも締まらないがスケルトンと吸血姫にも確認を取る。二人ともまあ納得、仕方がないかと雰囲気を滲ませながらも頷いてくれたし問題はあるのだが大丈夫だろう。行き当たりばったりではあるが未来を見通せるわけではない。
問題は都度対処、仲間と僕をーーいや僕自身は信じがたいから仲間を信じよう。適材適所だ。しかし一時的とはいえコアの召喚能力を手放した僕の適材とは、適所とは何だろうかーーいや考えるのはダメだ、情けなくなるーーが考えなきゃダメだ。お荷物がいて切り抜けられるような状況じゃないだろう。
(ではマスター。崩落に関してはこちらにお任せください。万が一でもコアが損傷してしまってはやりきれません)
(ああ……)
自身を守るための策で死ぬなんて笑い話にもならない。ここは仲間内で一番に詳しいゴーレムに任せよう、大地と密接な関係にあるゴーレムならば多少の無理も効くはず。魔術を主軸にして戦わないタイプであってもストーンゴーレムだ。アンデッドのスケルトンは言うに及ばず、魔術を得意とする吸血姫も魔女でも得意分野ではない。腐ってもというか土塊や鉱石からなるゴーレムとは適性が違う。特にストーンゴーレムであるなら尚更だ、魔力量や格にもよるがその身を操る延長で扱うことができるだろう。
僕なりの知識で照らし合わせても問題になるような要素は少ない、はずだ。
「ではマスター」
「……ん?」
そんな考えをなぞっているとスケルトンから声がかかる。だが続きがない、何かを待たれている。
「ん、なんだどうした」
「マスター、ここは一つ」
続けて魔女からも声がかかる。なにを求められているのだろう。
「わからないかなあ、景気良く頼むよー」
吸血姫からも言われるが”その何か”が浮上してきた。だがそれかと言われれば確証がない。なにぶん経験がない、というかキャラじゃない。今世は言うに及ばず、前世でも率先するような人物ではなかったーーというかこれを本当に求められているんだろうか。と唇に悩みが反映されるとゴーレムが肩に手を置いてきた。
ここまで求められればやらない訳にはいかない。気恥ずかしいが不肖、この僕にもそれくらいの心はある。
「えいえい、おー!!」
「……それは一体」
「いきなりどうしたんですか、マスター」
一瞬で包まれる羞恥の炎。スケルトンの言葉も魔女の戸惑いも、吸血姫の声を隠し殺すような笑い声も、変化ないゴーレムの姿勢ですら勘ぐってしまう。
僕は一体、何をどうーーいや”どう”の部分は考えたくない。何を求められていたんだ。穴があったらというかみんなの顔を見たくないし、見られたくない。
「えー。では作戦開始」
そして聞こえる気まずさ混じりのスケルトンの言葉。
見当はずれに間違ってはいなかったが、異世界では通じないことをやるもんじゃない。きっと”前世では”という考えに引っ張られたに違いない。記憶よ消えろ時よ戻れ。今僕の心中を占めるのは絶望的な状況の打破よりも、この恥をどうするかという小さいが喫緊な問題だ。
こうして、我がダンジョンの局面は変わっていくことになる。
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