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盤面を変える

(……えっと、これはどうしよう)


 頭の中に意味もない言葉が繰り返される。屈託なく言い放った吸血姫の顔には裏があるように見えてくるし、ひしひしと空気の重みを増していく。


「吸血姫、それはマスターを見捨てると?」


 そんな中で魔女が聞くに聞きたくないところを攻めていった。

 僕は心臓が跳ね上がるかのように苦しくなり、吸血姫に願いはじめる。どうか見捨てないでほしい、勘違いであってほしい、きっと言い間違いやこちらの聞き取り不足だと。


「詳しく聞きたいですな」


 さらにスケルトンも詰めるように重く言葉を響かせる。

 まるで疑いが輪郭をはっきりさせていくようで気持ち悪さを感じた。決めにかかっているような空気が真偽に関わらず締め上がっていく。何かが真実とは別にうごめいている。


「え、そんなことないよ。えちょっと待って、なにいってるの?」


 それに対し吸血姫は調子軽く否定した。”ないないそんなこと”と手を振り、冷えていた雰囲気を吹き飛ばすように妙に明るく、必死さを滲んでしまっているような軽快ぶりだ。


「このダンジョンを放棄すると言いましたよね、それはつまりマスターに死ねと言うのと同義ですよ」

「え、違う違う違う。いや違わないんだけどまだ全部説明してないし、早まらないで。マスターも違うからね、ちゃんと考えてるから」


 細剣を突くような魔女に、薄皮から血を流すように否定する吸血姫。

 僕はそこまで必死に否定されると逆にとも思ってしまうし、そこのことに対し自己嫌悪に苛まれた。自分の芯のなさや弱さ、風見鶏のような心を証明し、突き詰められているようで落ち着かない。


「……ああ、そうだよね。信じてるとも」


 吸血姫の言葉にようやく絞り出した声も力なく、とても情けない。ますます自分の嫌いな部分を裏打ちするようで、閉じる口にも

力が入る。


「……それで吸血姫。ちゃんと説明してくれませんか?」

「ええと、うん。えっとね、つまりーー」


 スケルトンの選ぶような声色に吸血姫が説明を始めた。

 ダンジョンを離れる、その真意と全体像について。


「要は相手にというか、コアを破壊されなければいいだけでしょ?」

「……そうですね。しかし放棄すれば防衛に戦力を割けません。そこはどう考えていますか?」


 スケルトンが促すように相槌、質問をぶつける。魔女はじっと聞く姿勢で、疑いかかっているような表情だ。一言も発していない。


「えっと、そもそも思ったんだけど相手はここに守る戦力があるから攻めてきてるんじゃないのかなーって」


 魔女の静かな圧力に、吸血姫は怯えるように伺いつつも早足に説明を重ねていく。


「情報が流れてるっていっても正確な場所まではわからない訳でしょ、なら防衛する場所を変えれば解決かなーって」

「言いたいことはわかりますが危険すぎやしませんか。万が一でもここが検められれば終わりです。それに相手はもうこちらのコアの使用魔力を捉えています。偽装するにしても遅すぎませんか?」

「いやえっとね、まだ相手はコアを視認してない訳でしょ。流された情報だってここの正確な位置を伝えてない訳だし、可能性はあると思うんだけど……それに他で強い反応を起こせばいいんじゃないかなって、それにそれにコアの魔力ってマスターの魔力みたいなものでしょ? 偽装はそう難しくないかと、思うんだけど」


 吸血姫の説明に少し頭が働いた。確かにコアの魔力というか、コア自体が僕の心臓みたいなものだ。適合させる上で染まっている。それがコアの魔力が、元の自分の魔力かは分からないが、反応の強さに目を瞑れば可能だ。しかしーー


「……そうだとしても既にここを死守しています。いまさら他の場所を擬似的に守っても見透かされますしダンジョンを放置できません」


 スケルトンの言葉に確かにと思ってしまう。ここは既に敵にとって重要と看破され、それを裏付けるように防衛に徹している。アンデッドの大群をすり潰し、炎狼という戦力投入、そして悪あがきのようにゴブリンの群れをけしかけている。どう考えてもここが大本命に見えるだろう。


「……そうだ、ならいっそここを崩落させるのはどう?」


 吸血姫が妙案のように言い放った言葉に頭が止まった。あれだけ魔力をつぎ込んだここを、自分の命であるコアのあるダンジョンを崩落させる。意味がわからない。


「いやそれでは万が一ここを掘られたり爆撃でもされたら終わりです」

「ならゴーレムを一緒に埋めたらどう、生命活動に必要なもの少ないし命令には忠実。コアを抱えるようにして埋まってもらえば多少の爆撃も耐えられるんじゃないかな、それに掘り返されそうになっても手下を起動させて崩落に巻き込めば防衛力もあるし。野良ゴーレムのせいって思わせたらわざわざ掘り返さないでしょ、うん完璧」

「……確かに、それなら偽装の拠点を本命に誤認させればわざわざ危険を冒しはしないはず。ある意味安全かも、しれませんね」


 吸血姫の列車のような並べ立てに魔女が難しい顔をしたまま呟く。そしてそれに追い風を感じたのか吸血姫の口の滑りも良くなっていく。


「そうですよ、そもそも最初の進行で相手が攻めきって来なかったのは何故ですか? 今回もそう、相手は何かしらの意図なり情報の不足があって慎重にことを進めている証拠。それに魔王軍とのにらみ合いで戦力をそんなに割けないはずですし、判断材料を無駄に増やしてやれば動きも鈍るはず」

「……だとしたら偽装する拠点は複数欲しいですね。大規模いえ中規模の魔術で一掃されないような間隔で点在させたいですな」

「そうですよ、幸いというかここは魔物も豊富な森。適当な洞穴なりを作ってそこに住まわせましょう、それを管理すればどれがダンジョンかわからないはずです。それにもし急に戦力を揃える事態になったとしても、アンデッドは簡単に増やせますしーー」

「相手はこちらの今までの戦いからアンデッド主体と思っているはず、防衛の厚さ次第では行けるかもしれませんね。ここを守り切るよりは課題は少なそうです、賭けに頼る部分が多い気がしますがーー」

「ここを守るのも博打もいいとこ、そもそも難しいのは分かってるでしょ?」


 最後の吸血姫の言葉に二人は黙り込む。確かに僕もわかっていた、と思う。ここを守りきれるのはかなり難しい、というか怪しいと。吸血姫の意見を聞いて気づいたのかもしれない。守るべきものの優先順位を。そして意固地かなにかは分からないが視野が狭まり、選択肢を少なくしてしまっていたのだと。

 きっとここを守り抜くよりは勝算は高い。既に一度はコアから離れたことのある身、何を迷う必要があるのか。


「よし、吸血姫の言う通りここを放棄しよう」


 声に出せば決心が固まってくるが、住めば都のこのダンジョン。多少なりとも愛着はある。少し悲しいような寂しいような気分にもなってくる。


「……本当によろしいのですね、マスター?」


 魔女が確認するように聞いてくる。

 そりゃ諸手を上げての案かといったらそうじゃない。本当ならもっと上手く転がってくれたらと思う。それに行く末次第では色々と遠回りすることになるだろう。これがこの時の最善だと思うが、未来の自分はこの時の選択をどう思うだろうか。場当たり的、追い詰められて狂った、もっと影響を考えろと恥じるだろうか。それは今の僕には分からない。

 でもーー


「ああ。すまんな、科学は口頭で色々と教えるよ」


 今の時点で後悔はしたくない。そう思って僕は軽口を叩いた。


「いえ、それだけでも十分です。ではその方向で詰めましょう、万が一でも失敗しないように」

「わかった」


 詰めるだけではなく、行動も起こさなければならない。それにゴーレムにこのことを言わなければいけない。胃が重く感じるが避けられないことが多すぎる、と眉がシワを作るのを僕は感じた。

伏線回収というか分かりやすく収集できず。

遠い位置から紐づけた程度で終わってしまいました。む、むずい。

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