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傾き出す

「なるほど」


 僕からの要望を聞くとスケルトンが顎に手をやった。まとまりのない願望、形にもなっていない希望のようなものだったが伝えたいことは伝えられる限り伝えたと思う。自分で言うのも変だが実に平和ボケした展望だった。サブカルチャーに毒されていると言ってもいい。ただ、ハッピーエンドを好む僕らしいとは強く思う。心から”しこり”が消えたような気分だ。


「しかし、まあ納得といいますか……」


 魔女は腑に落ちたと言う反応だ。飾らない言葉ではなかったが態度などでバレバレだったのだろう。


「えっとつまり、全てを賭けて戦わないように立ち回るってことでいいんだよね?」


 吸血姫に至っては噛み砕いたようなことを言っては自画自賛するように頷いていた。気を良くしたのか噛み締めているような表情をしている。


「その、難しいとは思うけど僕はこうしたい。と思ってる」


 勝手に唾を飲み込んでしまう。事前に全てを受け入れてくれるなんてことを言ってくれたが、審判の時を待つ気分だ。命の軽いこの世界で、相手を根絶させる世界規模の戦争をしている世界で、なんとも平和主義的な発想だ。少しでも理性が働けば無茶なことを言っていると思ってしまう。

 これがもし同じ人類種同士の戦いなら、と思ってしまう。まあそれでも十分に無理筋なのは理解しているし、前世で争いがなくなってない理由は僕の価値観では計り知れないだろう。それがファンタジーじみたこの異世界ならもうお手上げだ。僕が学んだ歴史でも”ただその国の人間だから”というだけで悪感情を持たれ、時代と人の”うねり"によって戦争へと変貌してしまっている。


「えっとその、難しいかなーーいや難しいとは思ってる、思ってはいるんだ……」


 ただそこへ至る道は想像でしか手が届かない。こうなればいいな、ああすれば、と案が浮かぶが実現性はどれほどのものだろう。僕は前世では高校生ではあったが、現実がそんなに甘くないことは既に知っているーーいや、望まなくとも染み込んできた。前世はそんな情報に溢れていたし、異世界に来てからはそれを履行するように不幸が襲ってきた。


(いや、変えられるだけのものを自分が持っていなかっただけかもしれない……)


 でも今は希望の光はある。か細くも僕はダンジョンマスターで、前世の科学が味方になる予定。お花畑通りに進むとは到底思えないが、前世で科学が全てを席巻していることを知っている。ファンタジーが跋扈するこの世の中でも有利な力にはなるはずだ。

 僕は心を無理矢理に折り合わせていると、スケルトンが口を開いた。


「しかし方針は決まりましたな。後は手繰り寄せるだけです」


 固い意思を感じるような声色。体の緊張が解けるようだ。しかし


「方針に反対はないけど、でもそんなに器用に立ち回れるものなの? それに今は時間も惜しい状況で、野良のゴブリンに侵入者の相手して貰っている」


 吸血姫が軽い口調ながらも厳しい言葉を放り込んできた。


「時間がないのは同意しますが、既に方針は決まりました。侵入者は生かして返すほうがいいでしょう、喫緊は撃退する方法を考えることです」


 魔女が非常に頼もしく見える。というか全員が賛成してくれているみたいで安心した。 


「というか、ゴーレムちゃんの意見は? もしかして、聞かなくても大丈夫な感じ?」


 吸血姫の言葉を聞いて体が固くなった。

 そういえば、失念していたと。


「そこはゴーレムですから、マスターの命令には絶対従うでしょう」

「派遣したゴーレムも同様でしょうな」


 思わず深い息を吐いてしまう。良かったと思わずにいられない。


「そうだねー、今更なことだったか。ごめんね、話題を戻そう。侵入者君の撃退はどうする、あいつらゴブリンごときにはやられそうにないし」

「呼んだゴブリンも強い個体もいませんでしたし。嫌がらせくらいにしかならないでしょうな」

「まだ生かして返すことができるんですから、都合がいいとも言えるでしょう」

「まあ、確かにね」

「それにゴブリンの進軍方向と気分次第では彼らを釘付けにも出来ます。まあ楽観しすぎてはいけませんがね」

「ん、それってどうゆうこと?」


 吸血鬼は純粋に分からないと言った具合だ。僕にもゴブリンの行動がどうなれば彼らをーーと考えた時点でうまい具合に着地できた。伊達に元人間、サブカルチャーに浸かってはいなかったと過去の自分を褒めてやりたい。


「街とかに向かえば対処せざるおえない、ってことだよね?」

「その通りです。さすがはマスター」

「んっと、それって人族特有の思考? どうゆうこと、マスター」

「えっとつまり、放置したら街とかに被害が出るだろう? 侵入者はダンジョンをいち早く叩くような人間だったり、それを放置できない組織から派遣された存在な訳だから、暴走したゴブリンを無視できないってこと。かな」

「なるほどね、流石マスター!! これを見越してゴブリン共を焚きつけたって訳だ、ズル賢いっ!!」

「えっ、いやあ、それほどでも……」


 ありありと褒めている姿に困惑を隠しきれない。ズル賢いって言われるのは妙な気分だ。


「野良のゴブリン共もマスターの役に立てるんだから、価値のない命でもありがたいってもんだよ」


 そしてこう続けて言われたら考えさせられる。僕はゴブリンとはいえ利用し、使い潰して命を賭けさせたのかと。


「吸血姫、これは仕方のないとはいえ尊い犠牲です。それにマスターに対しズル賢いなんて、智謀や策士など褒め方があるでしょう」

「あそっか、ごめんねマスター。さすがは我らがマスター、いよっ智謀の策士」

「吸血姫、その態度では煽っているのと大差ありません」

「む、加減が難しいなー。ねえ、お手本見せてよ」

「お手本ですか、さすがはマスター我らを超える智謀に感服しましたーー」

「うわっ、普通過ぎて何の感想も抱けない。スケルトンは、スケルトンだったらマスターをどんな風に讃えるの?」

「……それに答えてやったとしても損するしか未来が見えませんな」

「えー、いいじゃんやってよー」

「……時間を無駄にせず話題を戻しましょう」

「えー、まあそっかー。まあそうだね、話題を戻そっか。魔女もサボらないで知恵出してよ、恥ずかしがってないでさー」

「……いつか、覚えてろ」


 僕は謀殺のような真似事をしたのかと悲嘆に暮れそうだったのだが、彼らのやり取りに吹き飛ばされてしまった。力も抜け、毒気も抜かれたように穏やかだ。

 でも、時間はないと意識をはっきりとさせる。こんな状況だが落ち着いてもきた。理性も偏りなく動いているように思える。撃退する方策を練らなければ。

いつもありがとうございます

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