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眠れる巨人ゾヌルフ・2


ペタラペタラと素足の私が、顔が写りそうな磨かれた廊下を、ペタラペタラと可愛らしい足音を立てて歩いている。


残念ながら磨かれた床は、突然出現したゾヌルフの肉圧や重量や、その一五丈(約45m)の暴力的大きさによって、この国の平均身長の人型生物しか想定していない建物に、多大な負荷と破壊が刻まれている。


磨かれた床は、とても綺麗とは言えない状態だ。


毎日休まず、床を磨いていただいている自動掃除機械には、本当に申し訳ない気持ちになる。

ゾヌルフの出現位置にまだ近いこの辺りは、その破壊の影響がとても大きく、崩れた天井が、愛嬌のある小さなドラム缶のような彼等を圧し潰している姿を見たときは、胸が張り裂けそうであった。思わず歩みを止めてしまうほどである。

壊れた床から下の階に落下し、破損した姿もとても切ない気分になった。


機械らしい一生懸命さで働いていた筈の彼等の亡骸を一つ、亡骸を圧し潰している天井の残骸を、細腕で無造作に投げ捨て除けて、回収する。

細く美しい灰褐色の腕で、無断にて小脇に機械の残骸を抱えた私は悲しみと、この世の無常を感じながら、ペタラペタラと歩きを再開する。


この建物は国の管理下にあるので、勿論この愛嬌のある、自動掃除機械の彼等も国の物、つまりこれを無断で持ち去るのは立派な窃盗罪であるが、既にこの建物は半壊、いや、全壊判定されるような致命的破壊を、私のアバターであるゾヌルフによって受けている。


窃盗罪など今更だ。


今後、混乱が想定される現在、自動掃除機械の一つや二つ、無くなっても気にする暇など国には無いだろう。

狂った運営のお知らせを完全に信じているような私の行動だが、これがただのDLOをイベントなら、それこそ問題など存在しないのだ。


やらない理由がない。


状況が落ち着いたら、自動掃除機械をリビングアイテムに出来るか試そう。


私は先程から廊下に可愛らしい、ペタラペタラと、足音を立てている。これは私ではあるが、歩いているのは勿論ゾヌルフではない。

今はゾヌルフの手の小指よりも小さく、神秘的な灰褐色で死蝋の肌を、大きく露出する格好をした可愛らしい少女の私が歩いている。その肌には、黄鉄鉱の粉末を混ぜた塗料が、曲線を多用する鈍く金に輝く化粧模様を描いている。


この少女はゾヌルフの代わりに私として行動しているが、正確には私ではなく種族技能の【亡者支配】で、保管していた上位(グレート)ゾンビに私の意識の一部(と技能説明には記載されている)を憑依させて操っているに過ぎない。

なのでこの上位(グレート)ゾンビ──識別名称カガリは、憑依した私の意識の一部が、カガリというアンデッド中に入り込み、それがカガリを私だと認識し行動しているのだ。


意識の大部分は、未だ身動き取れず、仰向けでじっとしているゾヌルフの方にある。


DLOのとある墓場フィールドにて出現した、職業がアンデッド専用の職業:暴食鬼(グール)になっていなかった珍しい亡者であるカガリ。その職業は上位符術師グレートカードキャスター

カガリは美しく、術系の技能ならば、適切な素材があれば、何でも素材を消費して、生産するアイテムの霊符に込めて行使できるため、とても役に立つのだ。


今もゾヌルフを周囲の安全を確保しながら脱出させるために、その技能を全力で活用させている。具体的には可哀想な自動掃除機械を小脇に抱えながら、ベタベタと壁に貼っている、生産アイテム【霊符:耐久強化】で建物を強化しているのだ。


Aaaaaa!!と、私というカガリは、少女らしい甲高い絶叫を鍵に、符術師系統の職業技能である【霊符召喚】を発動させた。

カガリの三尺(約90cm)前方に、光の線で直径一尺程の円陣が描かれる、現れた円陣の中央はグラグラと景色が歪み、キラキラ万華鏡のように光を発している。その中央から十枚の霊符が次々と飛び出していった、飛び出した霊符は羽虫のような身軽さで、ビタビタと廊下の壁に等間隔で貼り付いていく。

これは過去に生産に成功した霊符の大幅に劣化した物を、自由自在に素材なしで、召喚して操る技能である。


一度に召喚できる枚数には限りがあり、効果も一〇%まで落ちてしまう職業技能だが、霊符が込められた効果を使い切ったり、破壊されたりしなければ、カガリなら一度に一〇〇〇枚の霊符を召喚して自在に操れる。

霊符は重ねれば効果が上がるが、霊符を重ねられる枚数は、霊符を貼る対象の大きさに左右されるので、今回のように対象が三町(約327m)の高層住宅と、極端に大きくないと効率が悪すぎるのだが。


本来は攻撃用の術を、一度に大量に発動するための技能である。


一見、巨人種(ギガント)アバターが自己強化に使えば、とても有利に思えるが、残念ながら巨人種(ギガント)は、見た目が小さな攻撃やアイテムの効果を、90%減少させる種族技能がある。そのため霊符を巨大にする必要があり、結局十枚程度しか貼れないし効率が変わらないのだ。

アンデッド化することで、巨人種(ギガント)の種族技能を失わせる事が可能だが、そうすると小さなモンスターの群れに襲われると、あっさりHP(ヒットポイント)削り切られて死んでしまう場合がある。


一長一短である。


そもそも、最下位(アンダー)巨人種(ギガント)ならばともかく。

下位レッサー上位グレート最上位マスター巨人種(ギガント)は軽く身長が五丈(約15m)を超えてしまうため、巨人種(ギガント)は通常の人間の大きさである、妖精種フェアリ台の霊符を作成しようとすると、米に文字を書くような職人技が、プレイヤー側に必要なのだ。


全く割に合わない。


職業:上位符術師グレートカードキャスターのカガリというアンデッドを有する私なら、霊符を用意するのもさほど手間ではないが、ちゃんと効果の高い霊符は相応の素材が必要なので、やはり割りに合わないだろう。




◆────────────────◆




私が時折、Aaaaaa!!と絶叫して召喚した霊符を、等間隔で貼り続けていると、どこも壊れておらず、電灯がちゃん機能している明るい廊下にたどり着いた。


ここは何やら人の気配が濃い。


廊下には一人も居ないのだが、生者を感じとるアンデッドの感覚が、生物が沢山居ることを告げている。


そういえば、私のアバターであるゾヌルフの近くは、人の気配が殆どしなかった事に思い当たる。


更に私は、そもそも幾つも部屋をゾヌルフがぶち抜いているのだから、当然ながらそこに居た筈の人間をゾヌルフが潰してしまっているのでは無いかと、当たり前の事実にこの時になってやっと考えが及んだ。


高層住宅を倒壊させなくても、既に私は大量殺人を犯していたようだ。


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