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眠れる巨人ゾヌルフ・1


◆エクソダスゾンビトロール【ゾヌルフ】◆




それを聴いた時、まず私の頭に思い浮かんだのは。


ついに本当に狂ったのか運営。


というDLOで遊んでいればまず思い付くだろう、ありきたりな感想だった。


その頭がイカれている!としか思えない運営の御知らせが終わり、何故だか、意識が暗黒に呑まれ、そして目覚めた私が思ったのは、狂ったのは私なのか?と思わず己の正気を疑う感想だった。


狂ったのは運営か、私なのか、どちらも正気を保証してくれる存在は無く、今ここで考えても、答えなど見えぬ疑問は飲み込み、私は目の前の現状を受け入れ流される選択しかない。


しかし、目の前の現実という大きな流れに乗るためには、まずは、どうやってここから脱出するかを、考えねばならなかった。




思考を停止し、実行するならば、このまま起き上がってしまえば良いのだろう。


目覚めてから常に感じる重量が、ゾヌルフと名付けた私のアバターである、おぞましくも愛しさも最近は感じられるようになった、愛着ある巨大な腐肉の体に重圧をかけている。

それは自然の法則に従い、ゾヌルフという私の体を押し潰そうと奮戦していた。


幸いなことに、この重圧と自然法則の奮戦が、実を結ぶ気配はこれっぽっちも感じられない。


ゾンビ化している、状態:アンデッドであり、ゾヌルフという私は、鈍いながらも痛みを感じる感覚を残しているのだが、重圧による痛みは無であり、現状は全く苦ではない、動こうと思えば重圧を簡単に跳ね返してしまえるだろう。

LV(レベル):100のゾンビトロールである、やたらめったら高い耐久力を持つこのアバター種族を選択し、課金アイテムのアンデッドカスタムツールという寄り道はあったが、頑丈に育て上げてくれた過去の私には感謝しかありえない。


私よ、ありがとう。


そのせいで、こんな状況に陥っているのだが、それでも感謝だ。



さて、この奮戦を退けるのは、伝わる感覚からして非常に簡単だ。それを容易に実行できないのが、私が仰向けで置かれている状況からくる、良心を咎める悲惨な未来に繋がる周囲の状況と、自然法則の脅威の組み合わせだ。

これは私に対してではなく周囲に対しての脅威、そして破壊だが、それは大回りして、私の善良な考えに刺激を与えている。

急がば回れ、その言葉を産み出した人間の仲間である、私より上手く言葉の意味を扱っていることに、私は称賛の拍手を送りたくなった。


拍手などすれば、ここが崩壊してしまう可能性があるのでしないが。


ここから、周囲の安全を保ちながら脱出の糸口を探すために、状況を整理する必要がある。


私の住まいは全長三町(約327m)の両棲民用の数ある高層住宅の一つだ。


アバターを現実で使えるようにしました!という狂った運営の正気を疑う御知らせを聴いたが、その正気を、とりあえず私は保証せざる得ない。

現状の私は、どう考えてもエクソダスゾンビトロールという、とてつもなく危険な生き物──いや、ゾンビに変わり果てているとしか思えないし、今いる場所も私が現実に住んでいる建物としか思えない。


迂闊に身動きできない状況でも、わかる範囲で確認すると、私が住んでいる部屋と良く似た部屋が幾つも連なる場所を確認出来る、まだまだこれが、信じられないことに現実だと確証できる証拠としては弱いが、安易な行動を躊躇する理由としては十分だ。


迂闊に動けないのは、私であるゾヌルフの一五丈(約45m)もある体が、幾つも部屋の壁や柱を貫いて押し潰し、滅茶苦茶に破壊しているからである。電線は私が引き千切ったのだろう建物中は暗い。非常灯だけが弱々しく光っており、建物の中は、消えた電灯の代わりに私が職業技能で体から放っているライムグリーン色の薄明かりで照らされていた。

たまたま視界に入った、部屋に一つずつ埋め込まれているデジタル時計は、部屋の電気とは別なのか内臓でもされているのか、非常灯と同じく輝きを失っておらず、14時34分を示しながら時を刻み続けている。


ゾヌルフは頭部合計七つの眼を持ち、視界が広い、そのお陰で私の巨大で腐った肉を纏う頭が部屋に突っ込み、夢幻へと導く、細長い卵形の機械の容器に損傷を与えてしまっているのがよく見えた。


容器の中にいる人には非常に申し訳ない。


私は、未だに眠っているその人を、少し羨ましいと思いながら、聞こえないだろうが謝罪の言葉捧げた。


この人、スケルトンだ!──いかにもな骸骨の戦士という装備していなかったら白骨死体と間違えそうだ。




仰向けになった私の頭の上にある、透明樹脂が大半で中に私と同じ両棲民を格納する機械容器は、私が何も考えずに動けば簡単に潰れてしまうだろうと、想像が容易い。

それだけではなく、ここが現実にしろ、現実の両棲民用高層住宅を再現した、DLO運営の性質の悪いイベントというなのイタズラだとしても、今の状況で私である一五丈(約45m)のゾヌルフが動けば、この建物は内部から破壊されて、もしかすると、ポッキリと折れてしまうかもしれない。


想像通りなら大惨事である。


そして、恐らくこの想像は正しい。


起き抜けに混乱し、この体で、すこーし暴れてしまった私は、非常に危機感煽られる軋みと、揺れを体感したのだ。

今、この建物は非常に危ういバランスで建っており、ゾヌルフという怪物になってしまった私は、容易にこの建物を破壊できるのだと認識させられた。


ここが私が住んでいる部屋と同じ位置だと仮定すると、ここは細長く天を貫くような高層住宅の丁度、真ん中に存在するわけで、周囲は同じ規模の両棲民用の高層住宅が針山のように連なる住宅街だ。

そんな状況で三町(約327m)の建物が真ん中から折れれば、破壊は周囲に、ドミノ倒しさながらに広がっていくだろう。


そして、瓦礫の中から、ライムグリーン色に光ったおぞましい腐肉の怪物であり、全長一五丈(約45m)もある巨大な私、ゾヌルフが現れるのだ。


ちょっとその魅力に惹かれてしまう状況だが、完全に怪獣である。


DLOのプレイヤーは多い、御近所さん達が私と同じならば、この建物の半分、一町(約109m)と一八丈(約54m)の建物の重圧で潰れていない私のアバター状況と近いならば、被害は案外軽いかもしれない。想像の中の私のように無傷で瓦礫の中から生還できる可能性がある。

しかし、人気があったとは言え、誰もが数多くあるVRゲームの一つ、DLOをやっている訳がないし、やり込んでいる訳ではない。

私のアバターのゾヌルフのようにLV:100で、それだけでも頑丈であるのに、更に巨体で頑丈な巨人種(ギガント)をアンデッド化して、やたらめったら頑丈なアバター作っている人ばかりではないのだ。


この組み合わせはDLO内でもやっている人が希少な組み合わせである。


LVは上げやすいので、やり込んでいる人の大半は、最大LVの100に到達している筈だが、だとしても、主流は通常の人と同じ大きさであり、巨人種(ギガント)程、頑丈ではない妖精種(フェアリ)アバターだ。

巨人種(ギガント)ともアンデッドも、DLO内ではデカイ等、臭い等、様々な理由で不人気なアバターであり、示し会わせて集まるでもしなければ、DLO内でもすれ違うことも稀だったのだ。


ここから脱出を強行すれば、この建物の倒壊を皮切りに住宅街全体を破壊し、大量の犠牲者が出るかもしれない。


DLOをやっていない両棲民は死んでしまうだろうし、運営の正気を信じるなら、現在オートリスポーンが停止していて、この住宅に住んでいるだろうプレイヤーも死んでしまったらそのままだ。


蘇生技能は保有しているが、瓦礫でペシャンコに潰れたプレイヤーにも効果があるか、さっぱりなのだ。効果があっても恐らくは瓦礫の下から掘り出さなければない。


整理してみたが、非常に面倒臭いという状況を再確認しただけだった。


さて、一体どうすれば良いのか──。




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