第6.5話 間違いを間違いと認められないほど、愚かではない
竜皇リヴィット・フォン・マグノールの正妃。
それがわたくしの身分。
しかし、所詮は張りぼての正妃。
竜皇ゆえに。
血を残すために。
わたくしは、無理やりリヴィット様と結婚させられた。
リヴィット様が拒否すれば、わたくしは結婚することはなかった。
だけど、あの方がわたくしを受け入れたから。
わたくしには拒否権がなかったから。
だから、わたくしは子を産むための道具として正妃にさせられた。
全部、自分の最愛を作らなかったリヴィット様が悪いのに。
わたくしと結婚してから……番を作るなんて。
どうして、もっと早く番を選んでくれなかったのか。
だから、わたくしは……自分だけ簡単に番と結婚したリヴィット様が憎かった。
何も知らずにリヴィット様に守られている側妃が憎かった。
竜人と番の……愛の結晶である子供が憎かった。
でも、命まで狙った訳じゃない。
そんな、死んで欲しいほど憎んでいた訳じゃない。
わたくしの敵意が、他の竜人種達を巻き込んでいるのを知っていた。
でも、リヴィット様と側妃が、第二皇子を愛していると思っていた。
だから、わたくしが敵意を向けたって……なんの障害もないと思っていたのよ。
でも、そんな考えは甘かったのね。
わたくしは、知らなかった。
あの子が、そんな環境にいたなんて。
わたくしは、知らなかった。
ずっと暗殺者を向けられていたなんて。
「バルトロ団長」
「はっ……」
「わたくしは、確かに憎かったわ。でも、命を狙っていた訳じゃないの。死んで欲しいと思っていた訳じゃないの」
あの子がそんな孤独にいるなんて、知らなかった。
「直ぐに……リオンの環境改善をお願いできるかしら?」
「畏まりました」
バルトロ団長は一礼をして……暗殺者を連れて部屋を出ていく。
わたくしはそれを見て……大きく息を吐いた。
わたくし達、竜人種はプライドが高い。
しかし、間違いを間違いだと認められないほど、愚かではない。
「………わたくしも、悪いところがあったけど……リヴィット様の方が質が悪いわね」
国内のバランス。
つまり、竜人種と獣人種……仲間意識が強いがゆえにわたくしの機嫌を損ねると、竜人種全体に響くと思ったのかしら。
………もう、竜人種達は貴方に幻滅しているのに。
強さを一番とする竜人種。
リヴィット様の一族が竜人種の中で最強で。
リヴィット様がその中でも特別強いから王座についているけれど……。
これから、どうなるでしょうね。
「…………何も知らなかったとはいえ…わたくし達はリオンへ償いをしなくてはならないわね」
命が狙われるような酷い環境の中……わたくしの憎しみが余計にあの子を苦しめていた。
わたくしの憎しみが、あの子を孤独にさせていた。
流石に……これ以上、苦しませる訳にはいかない。
せめて……不当な扱いは終えましょう。
わたくしは何も言わずに、窓から覗く空を見上げた………。
*****
皇城にいる妹であり、正妃であるヴィーナから呼び出しを受け、謁見したディアスト公爵家当主ジャイルは……第二皇子の相談を受けた時、なんの冗談だと思ってしまった。
リヴィット陛下と側妃の息子。
ヴィーナが憎むのは当たり前なのに、あの子は第二皇子の手助けをしてあげて欲しいと言ってきたのだ。
「今更何を……」
「暗殺者を、仕向けられていたらしいの」
「っっっ……‼︎」
それは、わたしが差し向けていたものだ。
それはそうだろう。
リヴィット陛下の所為で、ヴィーナとわたしの幼馴染は引き離された。
なのに、陛下は自分だけ番と結婚した。
そんなの、許されるはずがない。
何故、ヴィーナが苦しまなければならない。
だから、わたしは暗殺者を差し向けた。
竜人種は強い一族だ。
竜と人の姿を持つ戦闘民族だ。
だから、暗殺者を向けられたって……返り討ちにする自信がある。
だから、この国で皇族に対して暗殺者を差し向けることは警告の意味合いが多い。
側妃は陛下の番ゆえに、厳重に守られていて手出しはできなかったが……第二皇子は、ヴィーナに同情した竜人種達によって不当な扱いを受けていたから、手出しがしやすかった。
第二皇子に暗殺者を差し向けたのは、竜皇に対する反抗だったのだ。
〝お前の行動が原因で、暗殺者を差し向けられるほど憎まれているのだぞ〟という。
だが、ずっと暗殺は失敗していたのだ。
だから、陛下が対処しているのだと思っていた。
「………陛下がお守りしているのでは……」
「いいえ。リオン自ら、暗殺者を殺していたそうよ」
「…………………は?」
わたしはそれを聞いて固まる。
ずっと……失敗していたのは、陛下が守っていたからではないのか?
「陛下にとって守るべきなのは番だけなのでしょうね。賢皇と言われていても、番に盲目なのよ」
「………………」
「それにね。幼い姿でいたのは、未熟ならば自分が皇位を継承することがないだろうと判断したからなんですって。暗殺者から自衛して……わたくしに同情した竜人種達によって不当な扱いをされて。今回……とうとう耐えきれなくなったらしくてね……死んで欲しいなら自分は死ぬとわたくしに直接言ってきたのよ……。流石に……これは知らなかったじゃ済まないと思うのよ………」
あぁ……あぁ……確かにコレは、知らなかったでは済まない話だ。
不当な扱いを受けていたなら、この国における暗殺者を差し向ける事の意味を知らないかもしれない。
それに……第二皇子は竜人種と獣人のハーフで、わたし達ほど強いとは限らなかった。
なのにわたしは、彼が幼い頃からずっと……暗殺者を差し向けていた。
つまり……もしかしたら、本当に第二皇子は死んでいたかもしれないという訳で。
暗殺者を差し向ける意味は、警告。
だが、何も知らずに暗殺者を差し向けられていた第二皇子からしてみれば……ただ死んで欲しいと願う者がいると解釈する訳で。
ずっと、竜皇と側妃に守られていると思っていた。
しかし、第二皇子は本当に独りだったというのだ。
………わたしは、自分の間違いを認められないほど、愚かではない。
「…………我が、ディアスト公爵家が……必ずや、リオン様をお支えしよう」
「ありがとう、お兄様」
わたしは、この罪を……償わなくてはならない。
そうして、わたしは妹の部屋を後にした。