第6話 腹黒わんこ皇子演出の舞台(2)
よろしくどうぞ‼︎
赤を帯びた金髪に、鋭い視線。
美しい顔立ちではありますが……その顔には憎しみが浮かんでいます。
ヴィーナ・フォン・マグノール様。
竜皇リヴィット・フォン・マグノールの正妃様は、絢爛豪華な部屋の中……ソファに座って私達を見つめておりました。
相手はヴィーナ様と背後に立つ侍女が二人。
私達の背後にはバルトロ団長。
逃走ルートはサイドの窓、バルトロ団長の背後の扉。
まぁ……なんとかなりますかね。
「ノエル。そのひとを」
「あ、はい」
そんな感じで考えていた私は、リオン様に声をかけられて引きずっていた暗殺者を放り出します。
一気に警戒態勢が上がる室内。
流石、戦闘が得意な種族ですね。
「せいひさまは、そこまでしてぼくにしんでほしいのですか?」
「………………は?」
ですが、その言葉で正妃様の動きが止まります。
背後の侍女も、バルトロ団長も暫くしてからその言葉を理解できたのか……大きく目を見開いて固まりました。
「………一体、何を言っているの……」
あぁ……本当に正妃様はご存じなかったのですね。
自分のお兄様がしていることを。
「ずっと、ぼくをころそうとするひとが、たくさんきました」
「…………え?」
「そんなに、ぼくがにくかったんですか?あにうえのじゃまなそんざいになるとおもったのですか?」
リオン様の声に、悲しみが滲む。
「ぼく、ずっと……いきたくて……しにたくなくて……」
ヒック…ヒック……。
嗚咽を漏らし始めるリオン様。
幼い子供が、泣き出しそうになる姿に……流石に警戒をしていた正妃様達は困惑し始める。
「………ぼ……ぼくというそんざいが、あにうえのじゃまになるなら……おさないままでいようって。そうすれば、ころしにくるひとがいなくなるかなって……でも、かわらなくてっ」
「っ……」
「ぼくは、しんだほうがいいのですか?」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁあんっ………。
リオン様がボロボロと涙を零して号泣し始めます。
私は、そんな彼の元に歩み寄り……ゆっくりとその小さな身体を抱き締めました。
「ノエ……ノエルぅっ……」
「大丈夫ですよ、リオン殿下」
ポンポンっと背中を優しく叩きなから、チラリと正妃様の方を見る。
さて……こっから先は私のフォローの出番ですね。
「ちょっと……ちょっと待ちなさい‼︎一体、どういうことっ⁉︎殺しに来る人って……」
「暗殺者、です。そこに転がっているのも……リオン殿下を殺しにきた暗殺者ですよ」
『なっ⁉︎』
私の言葉に正妃様だけでなく、バルトロ団長までも絶句します。
暗殺者ギルドには、それなりに優秀な暗殺者しか所属できません。
だから、どんな警備の厳しいところだって行けるんです。
だから、帝国騎士団の団長がそれに気づいてなかったということは……リオン様、どんだけ上手く処理してたんですか。
「そ……そんなの知らないわよ⁉︎わたくしじゃないわ‼︎」
「ち……ちがうのですか……?」
「違うわ‼︎暗殺者って何⁉︎わたくしが送っていると思ったの⁉︎」
「いつも……いなければよかったのにって……」
「っっっ‼︎」
正妃様はそれを聞いて沈黙する。
まぁ、そんなこと言ってたら……正妃様も自分が疑われると思いますよね?
「ぼくがいなくなってよろこぶのは……せいひさまかあにうえだと……みんないって……」
「た……確かに、そんなこと言ったかもしれないわ‼︎でも、命までを狙う訳ないじゃない‼︎というか……貴方、リヴィット様に守られてたんじゃないの⁉︎」
「………竜皇様が守っているのは側妃様だけですよ」
「なっ⁉︎」
リオン様は涙声で、自分の状況を話し始めます。
小さい頃から暗殺者を送られてきたこと。
竜皇は国内の均衡バランスのために、リオン様を助けようとしなかったこと。
生きたいがために、ずっと一人で自衛して……その暗殺者を殺し返していたこと。
既に自分の手は血に染まっているから、皇位を継ぐ気がないこと。
自分が幼い姿なのは、未熟なままでいれば……皇位を継承する際に邪魔にならないと思っていること。
そして……そんな日々が我慢できなくなり、こうして聞きにきたこと。
全てを聞き終えた正妃様達は……そんな環境で生きているのを知らなかったのか、顔面蒼白で……リオン様を見つめておりました。
「………そんな…酷い状況だったの……どうして、それを早く……」
「………貴女様がそれを仰いますか?リオン様は、誰に助けてくれと言えたんでしょうね」
「っっっ……‼︎」
正妃様は自身のリオン様への扱いが、リオン様を孤独にしていた要因の一つだと分かっていたのでしょう。
ですが、竜皇様と側妃様に愛されていると思っていたんでしょうね。
「今回、初めて侍女がリオン殿下に付きました。側に寄り添いました。ですから……ずっと我慢してきた孤独感に耐えきれなくなったのでしょう」
「…………孤独感……」
「そんな敵だらけの中で、暗殺者を送る可能性が高いのが正妃様でございました。ですから、リオン殿下は貴女様が死ねと仰られるなら……もう暗殺者に殺されてもいいと」
「なっ⁉︎」
「疲れて、しまわれたようなのです」
私はリオン様の頭を撫でながら正妃様を見つめる。
「誰も味方がおらず、ずっと暗殺者に狙われる日々。生きたいがために今まで頑張っておられたようですが……生きていることを誰も望まれないなら、もういっそと……」
「……………」
正妃様はそれを聞いて、私の腕の中にいるリオン様を見つめます。
そして……顔を歪めて、目を逸らしました。
「………少し……時間を頂戴」
「………せいひさま……」
「少なくとも、わたくしは……貴方に死んで欲しいなんて、思ってないわ」
漂う沈黙。
私達はゆっくりと頭を下げて、正妃様の部屋を後にしました。
*****
「さて……これでむこうはどううごくかなぁ〜……」
部屋に戻ったリオン様はさっきの幼い姿が嘘のようにケロっとしながら笑いました。
……真に迫る演技でしたね。
「あの……別に、私がいなくてもリオン様ならもっと早い段階でなんとかできてたのでは?」
「まぁね。やろーとおもえばできたよ?」
やっぱり。
「でも、ほら……ぼくひとりだとなにかあったときにこまるでしょ?」
ふふふっ……と楽しげに笑うリオン様。
……流石、腹黒様だぁ……。
「さて……あとはノエルかなぁ?」
リオン様はベッドに勢いよく座りながら首を傾げます。
あぁ、私のルーヴィット様への仕返しですね。
「ノエルはどうしたい?」
「……そりゃあ、不当な評価をされたので。それを見返してやりたいと思いますけど?」
「りゅうじんしゅてきにわかりやすいのはけっとうだけど……しかえしは、かならずノエルのてじゃなきゃだめ?」
「………いや、別に…痛い目に遭って下さればどうでも……」
「なら、ぼくがなんとかしてあげよっか?」
にっこり……と笑うリオン様に、背筋がぞわっとします。
私は若干冷や汗を掻きつつ、答えました。
「取り敢えず、協力体制ってことでお願いします」
「………あははっ、ぶなんだねぇ。ノエルにかしをつくれるかとおもったのに」
クスクスと楽しげに笑うリオン様。
ちょっと……味方の私にまで腹黒発動しないで下さい。