第5話 腹黒わんこ皇子演出の舞台(1)
あと3話でイチャイチャ突入(になるはず)‼︎
今後ともよろしくどうぞ‼︎
翌日ー。
リオン様はまた五歳児姿に戻っていました。
え?そんな伸縮自在なんですか?
「いま、しんしゅくじざいとかおもわなかった?」
ジトッとした目で見られながらも私はそれをスルーして、朝食のミルク粥の用意をします。
リオン様は「はぁ……」と溜息をつきながら、お皿を受け取りました。
「ノエルのいうとおりだったってことだ。さすがにきゅうげきなへんかをからだがうけいれきれなかったみたいだ」
「まぁ、でしょうね」
「これからはじょじょにならしていく」
「畏まりました」
ということは暫くはリオン様はお子様スタイルということですね。
私は若干笑いながら、ムスッしたリオン様のお口を拭く。
いや……子供姿だと身体能力が低下するって言ってましたが……本当にお子様っぽいですね。
お口の周りに、ミルク粥が付いてますよ。
「……取り敢えず…今日は諦めますか?」
「………ノエル…」
「冗談です」
リオン様は更にムスーッとしながら、もぐもぐと一生懸命無言で食べ始めました。
…………拗ねましたね。
精神年齢は変わってない的なこと言ってましたけど、絶対外見に引きずられてますよね。
まぁ、そんなこんなで。
朝食(さり気なく自分の分も用意してました)を食べ終えた私達は、昨日と同じように軽く準備体操をして、早速相手さんに揺さぶりをかけることにしました。
「で……どうやって揺さぶりをかけるんですか?」
「いらいにんは、せいひさまのじっか……こうしゃくけのとうしゅ。つまり、せいひさまのあにうえだ」
「へぇ……そうなんですか?」
「あぁ。せいひさまのほんらいのつがいは……せいひさまと、そのあにうえのおさななじみらしい」
なるほど……確かに、そうなると公爵家当主様が幼馴染と妹を悲しませた竜皇様や側妃様……リオン様を恨むのは分かりますね。
「じゃあ……いこっか」
「え?」
「………ん?」
私とリオン様の動きが止まり、互いに顔を見合わせる。
どうやら、互いの認識に齟齬があるみたいですね?
「リオン様も行くんですか?」
「いくけど?」
「昨日の大人スタイルなら分かるんですけど……子供モードなので、今日はお留守番かと」
「……………あぁ……それでもいいけど……このすがたをみせたほうが、あいてのどうようをさそえるだろう?」
ニヤリ……と五歳児に似合わない、悪そうな笑みを浮かべるリオン様。
………あぁ……反撃モードってことなんですね。
「まぁ、さいしゅーしゅだんはちからわざでかいけつするけど」
「結構、脳筋ですね?」
「………そこそこちからがあるなら、それでおどしたほうがはやいことだってあるだろう?」
「……………あぁ……」
それを脳筋と言わずしてなんと言うのでしょうか。
リオン様はベッドの下にいきなり手を突っ込み、ズルリッ……と、頑張りながら何かを取り出しました。
「………あー……」
私は出てきたソレを見て思わず苦笑してしまいます。
リオン様も落ち着いた様子で、頷きました。
「やっぱりノエルはきづいてた?」
「まぁ前職が前職なので」
そこにいたのは血塗れになった状態で簀巻きにされている黒服の人物。
ベッド下に人がいることは分かってましたけど……まさかそんな風に暗殺者を捕まえとくなんて、思ってもみませんでした。
「さて……なにもしらないせいひさまは、これをみてどーおもうかなぁ?」
リオン様はクスクスと楽しそうに笑いますが、私は若干引き気味になります。
いやぁ……怖いですねぇ。
ここまでの話を整理すると……リオン様は、幼い頃から暗殺者を送られてきました。
ですが、その身体能力で返り討ち……というか。
というか……身体能力五歳児レベルになってるって言ってましたけど、それで暗殺者を撃退できるって……この時点でヤバいですよね。
まぁ、とにかく。
今回、私という手駒ができたことで反撃に転じることになり……暗殺者ギルドは脅して問題解決。
次に依頼人である正妃様のお兄様に揺さぶりをかけるため、正妃様に接触を……。
「って。これ、私、あんまり役にたってませんよね?」
「んー?ノエルがやりかえしたいのは、ぼくのあにうえでしょ?だから、でばんはもうすこしさきだよ」
「あら。覚えてたんですか」
「じょうほうしゅうしゅーにきょうりょくしてもらったけど……きみのしたいよーにすればいいっていったでしょ。あんさつしゃとか、こうしゃくのことは、きほんぼくがなんとかするから」
…………え、なんか偉いですね?
私のこと、すっごいコキ使いまくるのかと思ってましたけど……全然そんなことなかったです。
…………私はなんとなくリオン様の頭をなでなでします。
「………なに?」
「いや……なんか予想より良い主人だったので?」
「……いいあるじだからって…あたまなでるの……?」
小さいので撫でたくなるんです。
「……いいけどさ……。ノエル、ちょっとだけぼくのふぉろーをおねがいしていい?」
「あ、私に何かさせる気なんですね?」
「うん。あのね……」
私はリオン様からこれからどう動くのかを聞き……そんな上手くいくのか?と若干不安になります。
ですが、リオン様がすっごい悪い顔をしているので……多分、成功するんでしょうね……。
念入りに打ち合わせを終えた私達は、暗殺者を引きずりながら、正妃様へ会いに行くことにしました……。
*****
正妃ヴィーナ様の部屋が近づくほど、護衛達が殺気立っていく。
私達はその殺意に晒されながら、皇城の廊下を進んでいました。
「待て‼︎」
しかし、その途中で声をかけられて私達は歩みを止めます。
後ろを振り返ると……そこには漆黒の鎧を纏った茶髪の妙齢の男性が立っていました。
えぇっと……彼は確か……。
「やぁ。バルトロきしだんちょう」
リオン様はニッコリと笑って挨拶をします。
あぁ、そうです。
この人はマグノール帝国騎士団の……バルトロ団長でしたね。
私は「ご機嫌よう」と一言告げた頭を下げます。
団長はリオン様と私を見て……ギロリッと睨まれました。
「………どこへ向かう気だ、第二皇子」
険のある声。
リオン様は探るような視線をバルトロ団長に向け……そして、小さな声で応えました。
「………せいひさまのところだよ」
「…………っ‼︎」
ぶわりっ‼︎
髪が逆立ちそうなほどの殺気に、私は一瞬でバルトロ団長の懐へ入り、ガンッ‼︎とソレを蹴りつけます。
「なっ⁉︎」
「流石に皇城内で抜刀するのは如何なものかと思いますが?」
バルトロ団長の顔が驚愕に染まる。
そう……私が蹴り押さえたのは、団長の手が添えられた剣の持ち手。
つまり、剣が抜けないようにしたという訳です。
「貴様っ……騎士の誇りである剣を足蹴にするなどっ……‼︎」
バルトロ団長は顔を真っ赤にして、私を殴ろうとしてきます。
ですが、その拳が当たる前に私は一歩後ろに下がっておりました。
「あら、失礼。何もしていない……それどころか皇族であるリオン殿下に抜刀するように見られましたので。まぁ、騎士の誇りを大事にしてらっしゃる団長がそんなことするはずありませんよねぇ?」
「っっっ‼︎」
言葉を失くす団長。
今更ながらに自分の浅はかさに気づいたのですかね?
リオン様は酷い扱いを受けていようが、皇族……第二皇子様です。
そんな方に剣を向けようとするなど……国と皇族に忠義を誓っている騎士のすることじゃありませんよねぇ?
「ノエル」
リオン様の呆れたような、面白がるような声で名前を呼ばれて私は振り返る。
そして、ワザとらしく頭を下げました。
「失礼致しました、殿下。御身の安全を最優先に致しましたので……」
「いいよ。ゆうしゅうなじじょがいて、よろこばしいかぎりだ」
……さて。
これでリオン様には優秀な侍女がいると他の方達への牽制になりましたかね?
リオン様は私をチラリと見て満足そうに笑い……バルトロ団長に向き直りました。
「ぼくが、せいひさまになにかするかとおもってるの?」
「……………」
「ちがうよ。ぼくはききにいくんだ」
バルトロ団長の顔が怪訝なモノに変わります。
リオン様は私が引きずっていた……今は地面に放り出された黒い者をチラリと見て……告げました。
「ふあんなら、いっしょにくるといいよ」
リオン様はそれだけ告げて、先に歩いて行かれます。
私もそれに従うように、また暗殺者を引きずりながら歩いて行きました。
チラリと後ろを振り返れば、犯罪者を見るかのような目で睨みながらついてくる騎士団長。
本当、竜人種というのは仲間意識が強くて嫌になりますね。
そこまで……正妃様を案じるなんて。
リオン様だって、半分はその血を引いているのに。
絢爛豪華な装飾の施された扉の前ーー。
正妃様の部屋に辿り着いたリオン様は、大きく息を吐いてから、扉をノックしました。
『誰です』
「リオンです。すこし、おじかんをよろしいでしょうか」
『なっ⁉︎』
扉の向こうが騒がしくなる。
そういえば……先触れもなしに来てしまいましたものね。
動揺するのも仕方ないかもしれません。
「ぼくのじじょとバルトロきしだんちょうもいっしょです。いれていただけますか」
暫くの沈黙の後、ゆっくりと開かれていく扉。
そして……リオン様の演出の策略が開幕しますーー。