第4話 少しだけノエルが羨ましい
よろしく‼︎
ベッドの上で互いに背中を合わせあいながら、準備体操をする。
……いや、何故か始まっちゃったんですけど……私が背中の方に倒れ込むと、リオン様は思いっきり前屈する。
うわぁ、とーっても柔らかいですねぇ。
ほぼ寝そべってますよ、私。
「で?これからどうするつもりなんですか?」
私の質問にリオン様は「うーん……」と呟く。
そして、今度は私の方に伸しかかってきました。
「……どうするかと聞かれたら、オレは暗殺されなければ問題ないんだよな。だから、暗殺者ギルドからの刺客はもう気にしなくていいんだが……」
「依頼人がどう動くかですか?」
「そうだ」
確かに暗殺者ギルドによる暗殺は気にしなくていいと思います。
でも、それ以外だってなんでもできる。
だって、暗殺者以外の人間を使うことだってできるんですから。
素人だって人を殺すことは容易いです。
毒を使ったり、仕込み刃を使ったり……。
「っていうか、私がスパイとか貴方を殺しにきた暗殺者とか思わないんですか?」
「ない」
「………即答ですか……何を根拠に」
「勘」
「………勘」
「ノエルは大丈夫な気がする」
いや、勘なんて曖昧極まるモノを根拠にしてるんですか……。
最初は私を探るような感じだったのに……まぁ、でも………?
そう信用してもらえるのは、ちょっと嬉しいですよ。
「………そのご期待に添えるよう頑張ります」
「あぁ」
地面に伏せていたシロエとクロエが『クスクス』と笑っているのがちょっと癪ですね。
リオン様は「よし」と頷くと、私から退きました。
「……取り敢えず、依頼人を揺さぶるか」
「ですね。でも、どうやって?」
「………オレが暗殺者を拷問して情報を聞き出したと知っているだろう?」
ぞわりっ……。
……(元)暗殺者の私が身の毛がよだつ笑みを見せるって……中々に怖いんですけど。
「……まぁ、一応は」
リオン様はこの前の夜にシロエ達に観察されているのに気づいていたんでしょうね。
で……今回、二人が私に付き従っているのを見て、暗殺者を拷問して情報を手に入れたと、シロエ達から聞いているの推測したのかと。
………状況把握能力高いですね……。
「なら相手の弱いところを揺さぶればいい」
ニヤリ……と笑うリオン様。
うわぁ……とっても悪そうな笑顔ぉ……。
目が笑ってなくて、口元だけ弧を描くって……。
リオン様が敵じゃなくて良かったと思うレベルで、底知れぬ感があります。
「ちなみになんだが……ノエル」
「あ、はい‼︎不気味だとか思ってないですよ‼︎」
「……………(思ったんだな……?)……まぁ、どうでも良いけど。聞きたいのはそれじゃないんだ。お前、精霊術はどれくらい使える?」
…………ギクリッ。
私はそーっと目を逸らします。
数秒の沈黙の後……リオン様は「まさか……」と呟きました。
「精霊術が、使えないのか?」
「…………てへっ☆」
ワザとらしく誤魔化しますが、リオン様はジーッと私を見つめます。
そして、思い出したかのように「もしかして……」と呟きながら、私に質問してきました。
「…………ノエルは、魔族なのか?」
「…………魔族…?」
「精霊術が使えない種族は魔族ぐらいだと言われているからな」
私はそれを聞いて、キョトンとしてしまいました。
「………そうなんですか…?」
「知らないのか?」
「私、拾い子なんで。赤ちゃんの私を包んでいた〝ノエル〟と刺繍された布ぐらいしか何も情報がなかったんです。だから、精霊術が使えないのが魔族だなんて初めて知りましたよ。呪文を唱えても精霊術が発動しないですし……精霊術の適性が皆無だと言われたので……やっと理由が分かって良かったです」
………ずっと、なんで精霊術が使えないんだろうなぁと思ってましたが……まさかそんな理由があったとは。
驚きですね。
「単に相性が悪いだけの話なんだが……魔族は精霊に嫌われる種族と言われるぐらいだからな。代わりに独自の技術……《魔術》というものが存在する」
「………あぁ、私がよく使う謎の力は魔術だったんですねぇ」
「…………ノエル……」
リオン様は呆れたような顔をします。
だって分からずに使ってたんですもの。
仕方ないじゃないですか。
「でも、そうなると……」
リオン様はチラリとシロエとクロエを見ますが、二人は無言でスッと目を逸らします。
………ん?
「まぁ、いいか。ノエル、気配遮断は?」
「余裕ですよ」
「なら、ちょっと揺すりに行こうか」
軽いノリで言うリオン様に、私は苦笑する。
あぁ……でも。
「リオン様。体調は?」
「ん?」
「気づいてないだけで、疲れてるかもしれないじゃないですか」
急に大人姿になったんですから、あんまり無理はしない方がいいと思うのです。
代謝とか、変わってそうですし。
アドレナリンが出てる所為で気づいてないだけの可能性も……。
「いや、元気なんだが……」
「はい?」
「大人しくします」
私の笑顔にリオン様は直ぐに即答する。
素直な子は良い子ですよ。
「取り敢えず、追加のご飯持ってきますね。大人になったから食べ足りないでしょう?私にも分けてくれましたし」
「…………頼んだ」
「畏まりました」
私は頭を下げて、部屋を後にします。
実を言うと、私もちょっとお腹減ってたんですよね。
*****
ノエルが去った部屋で、オレは頬を掻く。
まぁ……あんまり無理するなってことなんだろうけど。
なんか、一瞬怖かったな……。
『リオンは色んなことを知っているのですね』
シロエ殿の言葉にオレは苦笑する。
「生きるために何が必要なのか。その過程で学んだだけだ」
『……………君も、悲しい人生を生きてきたんですね』
「そうか?ノエルほどじゃないと思うけどな」
『『………………』』
「お前風情が語るな、とでも言いたいだろうが……あくまでオレはオレの意見を言っている。人とは他者と比べて生きるモノだ。そうやって自分は大丈夫だと思わないとやっていけないんだよ」
………この二人はどうやらノエルを心から愛しているらしい。
オレの言葉に、二人は大きな息を吐いた。
『すみません。親の贔屓ですね』
『そーだな。ノエルだってリオンと比べていないとは限らないのに……お前だけ責めるのはお門違いだ』
……少しだけノエルが羨ましいな。
彼女には、こんなにも思ってくれる人がいる。
…………オレも……誰かと共に……。
ううん、弱音を吐いてる場合じゃないな。
オレはゆっくりと笑みを浮かべて、答える。
「気にしてないから大丈夫だ」
『………そう、ですか』
『………そうか』
オレの言葉に二人は苦笑する。
なんだか、とても困ったような顔だった。
『………君は、物分かりが良過ぎますね』
「………そうか?従順なフリをして、その裏じゃとっても酷いことを考えてるかもしれないぞ?」
『……………普通、自分で言うか?』
「オレは言う」
オレは二人に視線を向ける。
そして、その真っ直ぐな目を見つめ返した。
「ノエルの方から話すなら別だが……オレは何も聞かない。その言葉が聞きたかったんだろ?」
シロエとクロエはまた大きな溜息を吐く。
『心理戦が強くて、相手の本音の把握もでき過ぎるのはどうかと思いますね』
「まぁ、ノエルに害は与えないから良いんじゃないか?」
『……………そーだな』
なんとも言えない空気になった時、扉がノックされて返事をする前にノエルが戻ってきた。
いや……別にいいんだが、返事をしてから開けるモノじゃないのか?
「追加のサンドウィッチです……って、どうかしましたか?」
キョトンとするノエルにオレは苦笑する。
なんか侍女っていうより友達みたいだ。
「ありがとう、ノエル」
「どう致しまして」
それから、オレ達は他愛のない会話しながら……追加のサンドウィッチを食べるのだった。