第14話 滅亡シナリオを根本から折りました
後、8話くらいで終わりです‼︎
よろしくね‼︎
まさかの物理的解決方法に到達したリオン様とルイン様。
それを受け入れたシエラ様。
そんなお三方&私の四人は……まさかそのまま、魔王様の目の前に転移しておりました。
いや、まじですか。
私、魔族なんですけど、なんで精霊術で転移できるんですか。
そんだけルイン様が規格外だということですか。
「………………は?」
薄暗い洞窟の中ー。
目の前には黒衣の青年が呆然としていて。
茶色の髪に琥珀の瞳。
色合いは地味だけど、その頭に生えている捻れた黒いツノを持つ男性ーー。
魔王ノイズ。
私のお父さん。
その人は、凄く驚いた顔で私達を見つめていました。
「魔王ノイズ殿ですか?」
「…………いや、ちょっと……待ってくれ」
リオン様の声を遮って、その視線は私だけを映している。
そして……ジワリと、涙を目に滲ませた。
「エルリカにそっくりな顔……君は、ノエル……なのか……?」
「えっと……そうらしいです、お父さん」
「ノエルっっ‼︎」
「うわぉ」
お父さんは勢いよく私を抱き締める。
というか、かなり力が強いんですけどっっ⁉︎
「うぅぅぅぅぅぅぅうっ……ノエルぅぅぅう……生きててくれたんだなぁぁぁぁぁぁぁぁあ………」
「ステイステイステイ。待って下さい、お父さん。服が涙と鼻水で汚れちゃいます‼︎」
「無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ‼︎」
リオン様達にSOSを向けても、〝諦めろ〟と言わんばかりの顔で。
うわぁ、助けてくれない‼︎
暫くして(と言っても一時間ぐらい経ちましたが)、落ち着いたお父さんは目を腫らして鼻をズビズビさせながら私から離れました。
「はぁー、良かった。ノエルがいるってことはそんな長く封印されなかったんだな?エルリカは?」
「えっと……」
「詳しい話はわたしからでもよろしいでしょう、魔王陛下」
「ん?」
リオン様はスッと前に出て胸に手を当てて頭を下げます。
ですが、お父さんからは凄まじい威圧が発せられました。
「…………貴様はっ……‼︎」
「お話をお聞き下さい、魔王陛下」
「貴様らが何を言うかっ‼︎このっ……」
お父さんが魔術を構築して鋭い漆黒の鉤爪を出現させます。
その鉤爪がリオン様を抉ろうとする前に、ルイン様がそれを黒い粒子で押し留めました。
「止まってくれる?魔王。あんまり悪いことするようなら……俺が潰すよ?」
ゾワリッ……‼︎
ルイン様から放たれる闇。
寒気と悪寒と、吐き気に……私達はガクガクと身体が震え始める。
「ルイン、駄目よ?落ち着いて」
「おっと……《穢れの王》の力が少し漏れちゃった」
シエラ様の声で、ルイン様は元に戻る。
というか……今ので少しですか……?
ルイン様が本気になったら……一体、何が起きるやら……。
「な……なっ……」
「話を聞きなよ、魔王。世界は変わったんだよ」
「……………は?」
お父さんは意味が分からないと言わんばかりの顔。
そうですよね。
お父さんは……勘違いをしているんですから。
「…………オレ一人の命で事足りるとは思いませんが、オレの命を捧げます。ですから、話を聞いて頂けませんか?」
「なっ⁉︎リオン様っ⁉︎」
なんてことを言ってるんですか‼︎
リオン様は慌てる私を手で制します。
流石に命を捧げると言われたお父さんは……渋い顔をしつつも、仕方なさそうに頷きました。
「ではーー……」
そこから、リオン様は全てを語りました。
お父さんが封印されてから五百年経っていること。
私がお母さんの力により、五百年の冬眠期間を経て、暗殺者を経て、今は侍女として生きていること。
お母さんが死んでいること。
魔王の封印が解けたのは、精霊術が廃れたため。
それに伴い聖女が目覚めたこと。
そして……オトメゲーム関連の話。
話を聞いたお父さんは、困惑しきった顔で呆然としました。
「五百年……?……エルリカが死んだ……?」
「…………お父さん……」
「そんな……」
顔を両手で覆い、何度もお母さんの名前を呼ぶお父さん。
本当に、好きだったんですね。
私も……もしリオン様がいなくなったら……。
「魔王陛下、どうぞ」
「………………ぁ……?」
「話を聞いて下されば命を捧げると言ったじゃないですか」
リオン様は凪いだ笑みを浮かべながら、地面に膝をつく。
…………え?
さっきの言葉は、話を聞いてもらうための嘘なんじゃ……。
「オレがいなくなった後のことはルインがなんとかしてくれる手筈になっているので、魔王陛下の命が狙われることも無いはずです。ですが……この世の全てに復讐するというのなら……きっと、貴方様は聖女に殺されてしまう」
「……………」
「どうか、独りだったノエルをもう独りにさせないでやって下さい」
「ちょっとっ……リオン様っ⁉︎」
「駄目よ、ノエルちゃん」
シエラ様に腕を引っ張られて、私は動きが止まってしまいます。
身体が丈夫で力が強い私はこの手を振り払うことができる。
でも、それはシエラ様を傷つけてしまう。
私は泣きそうになりながら、シエラ様を睨みました。
「なんでっ……」
「見てて頂戴」
シエラ様は優しい声でそう呟く。
私は慌ててお父さんの方を振り返りました。
「お父さん、止めて下さい‼︎リオン様を殺すとか、しないで下さい‼︎」
「…………………」
「嫌です‼︎なんでやっと、リオン様が好きだって分かったのにっ……リオン様が死ぬみたいな展開になってるんですかっ‼︎こんなの、酷過ぎますっ‼︎」
「ノエル……ごめんな」
リオン様は優しく微笑んでいて。
なんで、なんでっ‼︎こんな展開になってるんですかっ‼︎
嫌です、死んで欲しくない‼︎
側にいて欲しい‼︎
なんでっ……なんでっ……。
頬を熱い涙が伝っていく。
お父さんは私とリオン様を見て……大きな溜息を吐きました。
「………お前……僕をロクデナシの父親にさせる気?」
「……………いえ」
「………殺さないよ。ノエルの様子から見て、お前はノエルの大切な人みたいだからな」
…………お父さんは本当に悔しそうな顔で、呻きます。
「それに……五百年も経ってて。ほぼ無関係な子供の命で償ってもらおうなんて、思えない」
「……………バレてましたか」
「お前、腹黒だろ。自分の命を賭けてまで、僕が復讐しづらいようにするなんて……」
「まぁ、そうですね。どうせならノエルと幸せに暮らして欲しいので、復讐なんてする気が起きないようにしてやろうかと」
「…………こんなのに娘を託すのか……」
お父さんは顔を手で覆って、呆れたように呟きました。
そして、嫌そうな顔をしつつリオン様に問います。
「幸せにしてくれるの?」
「絶対に」
「なら、良い」
「はい。ノエルを頂きますね」
「…………そこは下さいだろ………はぁ……仕方ない……」
………………え?
なんでいきなりこんな会話に?
キョトンとする私に、シエラ様はクスクス笑います。
「ノエルちゃんは精霊術の相性が悪いから伝えられなかったんだけど、私達三人で念話してたのよ?」
「……………念話……」
「えぇ。魔王陛下にちゃんと話を聞かせるし、上手くことを運ぶからノエルちゃんを抑えててってね?」
つまり……私が心配したのは、不要だったと?
ギギギッ……とぎこちない動きでリオン様の方へ振り返ります。
「………………リオン様?」
名前を呼ぶと、リオン様はビクッと身体を震わせました。
「……………すまん。ノエルには精霊術による念話が届かないから、伝えられなくて。でも、仕方ないだろ?行き当たりばったりで戦略を練って行動してたから……」
「………………はい?」
にっこりと笑顔を向ければ、リオン様は後退りする。
そして、気まずそうに目を逸らしました。
「………………すまん」
「………………」
「……悪かった。今度から行き当たりばったりで戦略は練らないから」
「心配、したんですよ。死んじゃう気なのかって」
「ごめん」
リオン様は慌てて私の元に駆け寄り、目尻を優しく撫でてくれます。
なんですか、この手は。
「泣かないでくれ」
「泣いてません」
「いや、泣いてるからな?あぁ、本当にすまん。もうしないから……な?泣くなよ」
リオン様は困ったような様子で私の目尻にキスをしたり、優しく抱き締めてくれます。
………………むぅ…ズルい。
「………………今日はずっと一緒にいてくれたら、許してあげます」
「今日だけじゃなくて、ずっと一緒にいる」
額や頬、唇に触れるだけのキスを何度もしてくれるリオン様。
その温度に、さっきまでの不安がゆっくりと解けていく。
「…………………娘のキスシーンなんて……見たくなかった……」
「諦めなよ、魔王」
「そうよ?幸せそうだから、良いじゃない。ノエルちゃん、嬉しそうだわぁ」
お父さんはガクッと両手両足を地面について、嘆きましたーー。