第13話 〝好き〟
甘々とシリアスをぶち込みました‼︎
よろしくね‼︎
「はい、あーん」
「あーん」
…………気・ま・ず・い。
なんですかこのピンクオーラは。
なんですかこのお二人は。
お膝抱っこしたままお菓子を食べさせあったり、色んなところにキスしたり……見てるこっちが恥ずかしい。
ほら……流石のリオン様だって、恥ずかしくな………なってない。
いや、なんでそんなジーッとお二人を見てるんですか。
ねぇ、気まずくないんですか。
「………………」
リオン様の視線がゆっくりとこちら見ます。
鋭い、肉食獣のような眼。
「なぁ、ノエル。オレもあんな風にイチャつきたい」
「無理です、死にます」
「死なない。大丈夫、甘やかすだけだ」
「無理ですっ‼︎キャパオーバーして死にます‼︎」
顔が無性に熱くなり、私は逃げようとしますが、リオン様に手を掴まれて逃げられなくなる。
リオン様はニッコリと笑って私の手にキスをしました。
「ノエル」
「うぐっ……」
顔を思わず背けると、じっと見つめているルイン様とシエラ様。
私はその視線に固まりました。
「あれ?受けいれられてないの?」
「受け入れてくれてはいるが……ノエルは好きがよく分からないらしくてな。取り敢えず、甘やかすところから始めている」
「あらあら?でも、ノエルちゃんの反応を見るともう好きなんじゃないの?」
「…………いや、あの……」
しどろもどろになる私を見てシエラ様は考え込みます。
そして、ゆっくりと聞いてきました。
「リオン様の側にいるとどうなるかしら?」
「え?」
「答えて?」
シエラ様は優しい笑顔で返事を待ちます。
私は……考えながら、答えました。
「えっと……心臓がドキドキして、死にそうになります」
「うふふっ、可愛い答えね。じゃあ、リオン様が他の女と親しくしていたら、イライラする?」
「イライラ……」
そう言われてリオン様が他の女性と親しくしているのを想像します。
それだけでムカついて、何故か悲しくて……。
「それが好きよ?好きな人の側にいるとドキドキする。でも、心の底から安心して。好きな人が他の人と親しくしてるのは嫌で、悲しくて……独占したくなるの。私はルインの全てが欲しいわ」
「…………………これが……〝好き〟」
なんて熱くて、理不尽で、愚かしい。
でも……何故か……尊いとも思える気持ち。
これが……〝好き〟という感情。
「………ノエル……?」
私はリオン様の服の袖を掴みます。
今までにないような緊張感。
指先が少し震える感覚。
でも、この想いを……伝えたいと思ってしまうのです。
「私は……多分、リオン様が好きです……」
リオン様は私の言葉に首を傾げかけて……意味を理解したのか、大きく目を見開きます。
数秒間の沈黙。
そして……リオン様は意地悪そうな笑みを浮かべました。
「………多分なのか?」
「っっ‼︎だっ……だって‼︎好きなんて初めてだからっ……そのっ……」
「もういい」
リオン様は私の言葉を遮って、頬を優しく撫でてきます。
輪郭を骨張った指がなぞって……下唇に触れる。
優しい笑顔。
蕩けるような瞳。
それを見るだけで私はもう、いっぱいいっぱいで。
いっそ目を逸らしてしまおうとした瞬間ーー。
私の視界はリオン様で染まりました。
噛みつくような、貪るような深いキス。
いつもするよりも、何倍も何百倍も熱くて……ドキドキして、心地いい。
何度も、何度も角度を変えてリオン様は私にキスをして下さる。
そして……ようやく離れた頃……リオン様は泣きそうな顔で微笑んでいられました。
「その言葉が聞けただけで良い。君に好きだって言ってもらえて嬉しい。好きだ、ノエル」
「リオン様……」
「もう一度、好きと言ってくれ」
なんで、好きになったんでしょうね?
甘やかされたから?
好きと素直に伝えられていたから?
その答えは分かりません。
けど……シエラ様の教えて下さった心の動きが好きだというのなら、私は……結構前からリオン様が好きだったのかもしれません。
「好きです……リオン様……」
初めて、私からするキス。
触れるだけだけど、リオン様はそれで顔を真っ赤にして。
我慢するような顔をすると……お返しと言わんばかりに、再び熱いキスをしてきた。
「ノエル……ノエルっ……‼︎」
「…………リ…オン様っ……んっ……‼︎」
リオン様は私の名を呼ぶたびに、胸の中が熱くなって。
うわぁ……自覚しただけでこんなに違うなんて。
さっきよりも死にそうです……。
飢えた肉食獣のような雰囲気を出しながら、リオン様は私の服に手を伸ばそうとする。
ですが、パンパンッ‼︎と手を叩いた音で、私達はハッとしました。
「ほらほら。暴走しないで先に話をしようよ、リオン」
「「………………ぁ……」」
そう……忘れていましたが、ここにはエクリュ夫妻がいらっしゃるのです。
つまり、私達のキスシーンをバッチリ見られていたということで。
私は呻きながら両手で顔を覆いました。
顔が熱くて熱くて堪りませんっっっ‼︎
「…………すまない。嬉し過ぎて暴走した」
「まぁ、好きって言われたらそうなるよねぇ。顔、赤いよ?」
「…………言わないでくれ……」
チラリっと指の間からリオン様を覗くと、その顔が凄く赤くて。
余計に恥ずかしくなったんで見なかったことにします。
「シエラも教えてあげるなんて優しいね?」
「女の子同士の方が通じるし伝わりやすいのよ。それにジレジレカップルより甘々カップル派なの。良いものが見られたわ」
シエラ様の嬉しそうな声。
………うぐっ……人前でキスなんて…恥ずか死にます…。
「よし、もう俺の威圧による警戒も解けただろうし……話の続きに戻ろうか?」
ルイン様はそう言われました。
その場の空気がピリッと真剣なモノに変わります。
………何でそう簡単に空気を変えられるのかが謎ですが……まぁ、私達も割り切れるので人のこと言えませんね。
「俺らの場合は、精霊姫が洗脳されて……まぁ、色々な要因があって戦争になりそうだったから、物理的に解決したんだよ。俺の威圧を感じてたら分かるよね?このことからもゲーム通りの展開になるとは限らない」
「あぁ」
「となると……手っ取り早いのは魔王に直接会うことだね。魔王は多分、復讐のために襲うはず」
「妻と子供……仲間の、か。なら、ノエルに会わせれば……」
リオン様はニヤリと笑われます。
うわぁ……お久しぶりの腹黒スマイル。
そのままリオン様とルイン様は、話し合いに入られてしまいました。
「難しい話は二人に任せて、私達はお菓子でも食べてましょう?」
「そうですね」
話を放棄してシエラ様と暢気にお茶を始めた私達。
話の内容はシエラ様の周りで起きたオトメゲーム関連の話で。
元々のゲームのシナリオと、現実の乖離具合がとても面白かったです。
「互いに一目惚れして、結ばれたんですね」
「えぇ。時々邪魔をしそうな人もいたけど、ルインがいたから乗り越えられたの」
シエラ様はニコニコと微笑まれます。
そのついでに聞いた《穢れの王》関連の話は、魔王よりもタチが悪いんじゃ……?とか時々、《穢れの王》モードになるとか肝が冷えそうでしたが。
シエラ様がいれば問題ないらしいので、このままお二人が幸せに暮らして下されば幸いだと思いました。
…………うん。
暫くして、話がまとまったのか……リオン様達は二人揃って(リオン様は悪そうな、ルイン様は爽やかな)笑顔を浮かべました。
「よし。初っ端からフラグを折りに行くぞ」
「という訳で、今から魔王に会いに行こうか」
「あらあら。じゃあ、行く準備をしなくちゃね?」
……………………物理的な解決に辿り着いたんですね?
というか、シエラ様は普通にそれを受け入れるんですね?
中々に豪胆な方です……流石、ルイン様の奥方。