第12話 ヤンデレ夫婦との邂逅
サブタイトルは、『聖女は早々に撃退しました。』
前作(第一部)のヤンデレ夫婦登場です‼︎
聖女覚醒ーー。
それは、マグノール帝国だけでなくこの大陸中に伝わりましたーー。
そして、今日ーー。
この皇城に、その聖女が暮らすことになったのですーー。
まぁ、ぶっちゃけ?
私達はその聖女様と会うことはありませんけどね。
「というか、よかったんですか?」
「なにが?」
「聖女様との謁見ですよ。皇族全員が行くはずでは?」
ベッドの上で「ふぁ〜」と欠伸をするリオン様。
子供姿だからなのか、午後の昼下がりの暖かさで眠そうにするリオン様はこてんっと首を傾けました。
「いかなくていいよ。かかわったら、ゲームのてんかいにまきこまれるかもしれないし」
「………まぁ」
「それに、せいじょにあうとしてもルインふさいにあったあとのほうがいいでしょ」
そういえば……明日、隣の大陸のエディタ王国からルイン・エクリュ侯爵とその奥方が来られることになっているんですよね。
最近、この土地では精霊術がほとんど使えなくなりましたし……作物などもうまく育たなくなっています。
ゆえに、精霊術に長けておられるご夫妻をお呼びして原因を探ろうということらしいです。
「まぁ、げんいんなんてわかってるのにねぇ」
この間、言っていたように機械化によって精霊術を使う人が少なくなったため、不作やら何やらが起きていて。
ですが、リオン様がそれを教えてしまうと中々に問題で。
まず、誰から教わったと言う話になりますし……もしリオン様が気づいたとなったら、下手をしたら救国の英雄になってしまいます。
そうなると今後は継承争いに影響が出たりする訳で。
………この状況を打破するために来られるエクリュ夫妻に解決してもらう、と言った方が穏便に済むのです。
「というわけで、きょうはひきこもるよ」
「畏まりました」
と、籠城を決め込んで数十分後ーー。
私達は思いっきり頭を抱えていました。
『リオン様〜。寝ていらっしゃるのですか〜?』
扉の向こうには護衛数名と、第一皇子、聖女様がいるようで。
一体、どうしてここまで来たんですか……。
(ノエル……)
リオン様は小声で私を呼びます。
私達はなるべく気配を殺して、話しました。
(なんで、せいじょが……)
(挨拶に来たと言ってましたが、会うのは断ったんですよね?)
(うん。こどものすがたにひきづられてるってことにしてるからね。このじかんたいはおひるねタイムだから、ねむいからごめんなさいってしたよ)
………となると、聖女の要望ですか?
『マリン様。マリン様はリオン様が起きてらっしゃると言いましたが……やはりリオン様は寝てらっしゃるんじゃ……』
あぁ、予想的中。
護衛、そうです。
そのまま寝てるで押し通しなさい。
『でも、精霊さん達がリオン様は起きてるって………』
えっ、精霊ってそんなこともできるんですか?
使えないから分かりませんでしたよ?
『ですがお返事が……』
『もしかして、何かあったのかも⁉︎精霊さんっ‼︎』
このままじゃ押しいられる⁉︎
一体、どうすればっ……‼︎
(ノエル、まじゅつをっ‼︎)
(あっ‼︎)
私は魔術を発動させて、リオン様の部屋を空間支配します。
精霊と相性の悪い魔族。
なら、魔族の力で発動した空間支配により、精霊の反応が悪くなるはず。
(リオン様、ベッドに‼︎)
(うんっ‼︎)
リオン様は慌ててベッドに入り、私は扉を開けてそこにいる人達を見ました。
数名の護衛に、憎らしげな顔をする第一皇子様。
それに……青い髪と琥珀の瞳を持つ可愛らしい少女。
彼女が聖女でしょう。
私はニッコリと微笑みながら、頭を下げました。
「申し訳ございません。浴室の掃除をしており気づくのに遅れてしまいました」
秘技・気づきませんでした作戦です。
すると、聖女らしき方がガバッと近づいてきました。
「あ……あのっ‼︎」
「はい、なんでございましょう?」
「急に中の様子が分からなくなったんです‼︎リオン様は無事ですか⁉︎」
「…………お言葉ですが、どうして中の様子を?」
低い声で問うと、彼女はビクッと震えます。
ですが、彼女は引きません。
「それはっ……精霊さん達に教えてもらって……」
「まぁ⁉︎プライベートな空間を勝手に探ったのですか⁉︎皇族の方の部屋ですよ⁉︎」
「へっ⁉︎」
「ということは貴女様はリオン様でなく、竜皇様の部屋も、第一皇子様の部屋も、他の皇族の方の部屋も勝手に探っているのですね⁉︎なんて危険なんでしょうかっ……‼︎」
私の言葉に第一皇子と護衛達はハッとする。
そう、リオン様の部屋を探れたってことは……機密がある部屋も探れちゃうってことですよね?
「そんなことはっ……」
「………聖女マリン。少し、話がしたい。君の能力を教えてもらわなきゃいけないようだ」
第一皇子がそう呟いて、聖女の手を引き去って行きます。
その後を慌てて追う護衛達。
そーですよ……リオン様への挨拶よりもそっちの方が大事です。
そこまで馬鹿じゃなくて良かったです。
こうして上手く撃退した私は、バタンと扉を閉めました。
「ノエル、さすがぁ〜」
リオン様がベッドから起き上がり、ニマニマと笑います。
私はニヤリと笑ってカーテシーしました。
「それはどうも。取り敢えず、魔術を発動しておけば大丈夫そうなので、今日は空間支配したままでおきますね」
「そうして」
ちなみに……その後、聖女が来ることはなかったです。
*****
そして……翌日。
その方達はマグノール帝国を訪れられました。
漆黒の髪に真紅の瞳。
凛とした顔立ちに、漆黒の軍服を着られた美青年。
その隣に立つのはストロベリーブロンドに、葡萄酒と翡翠の瞳を持たれる美少女ーー。
エディタ王国軍部の中佐であり、侯爵であるルイン・エクリュ様とその奥方シエラ・エクリュ様。
ぶっちゃけ、美男美女過ぎて我が国の者達はその美しさに気圧されておりました。
竜皇自ら招いたので、本来なら国賓扱いなのですが……お二人はそれを望まず。
代わりに、エクリュ夫妻はリオン様に謁見したいと申し出ました。
そして現在ーー。
エクリュ夫妻はリオン様の部屋に訪れております。
「君がリオン・フォン・マグノール第二皇子?」
「えぇ、初めまして。ルイン・エクリュ侯爵」
ソファに座り向かい合うリオン様達。
まぁ、この部屋に訪れて頂いた理由はリオン様が大人姿になるためなんですけどね。
というか……本当にお若いご夫婦ですよねぇ。
お膝抱っこがデフォルトなのがちょっと謎ですけど。
「一応、馬鹿親父に話は聞いてるよ。迷惑をかけてごめんね?」
「………まぁ……殴りたい気持ちにはなりましたが、教えて下さった情報は確かなので」
「殴っても良かったよ?」
「流石にそれは無理です」
至って和やかなムードですが、相手はドラゴンスレイヤーの異名を持つ恐るべきハーフエルフ。
一応、警戒しておきましょう。
「ルイン。私にも挨拶をさせて?」
「あぁ、そうだね」
お膝の上にいられたエクリュ夫人はニッコリと微笑まれて、私達に視線を向けられます。
「シエラ・エクリュよ。仲良くして頂戴?」
「リオン・フォン・マグノールです。よろしくお願いします」
「あら……貴方の方が身分は上なのだから、普通に喋ったら?」
「よろしいですか?エクリュ侯爵」
「勿論」
リオン様はホッと息を吐かれます。
流石に精霊王様にエクリュ侯爵がいかに危険人物か教わった身としてはそうなりますよね。
「で……そちらのお嬢さんは?」
リオン様の背後に控えていた私はエクリュ侯爵に言われて、カーテシーをします。
「ご挨拶遅れて失礼致しました、エクリュ侯爵ご夫妻様。リオン殿下の侍女を務めております。ノエル・ノワと申します」
「オレの最愛の人だ」
「ぶふっ⁉︎」
思わず噴き出してしまいましたが、エクリュ夫妻はそれを聞いてニマニマと笑われます。
え、なんですか……その笑顔……。
「あははっ、なーんだ‼︎男だからシエラに近づいたらどうしようかと思ってたけど……それなら大丈夫かなぁ?」
「あぁ。精霊王からエクリュ侯爵が夫人をどれだけ愛しているかは聞いている。だが、オレはノエルしか興味がない。安心してもらっていい」
「そっか。俺のことはルインって呼び捨てでいいよ?」
「では、オレのこともリオンと」
急激に距離を縮めるリオン様達に私は驚愕します。
エクリュ夫人もそれを見て嬉しそうになさっておりました。
「ノエルちゃんも私と仲良くしましょう?ねぇ、良いでしょう?ルイン」
「勿論。君はシエラを傷つけようとしないでしょ?」
「しないですよ。こんな化物じみたお力を持つ方の奥方を傷つけようなんか思いもしません………あ。」
私は思わず停止してしまいます。
いや、確かに……気配から只者じゃない感が伝わってきてるし、凄まじい精霊力とは違う力の圧があるんですもの。
だから、つい……。
殺されるかなぁ……と思いましたが、エクリュご夫妻はのほほんと笑うだけでした。
「俺の力を分かっていながら普通にしてられるのは凄いね?うちの国だと顔面蒼白の奴ばかりだよ」
「うふふっ、素直なのは良いことだわ。でも、ノエルちゃんもリオン様も私達に負けず劣らずの力を持ってるわよねぇ」
………どうやら化物と言ったことはお咎めなしみたいです。
良かった……。
「オレは狼獣人と竜人のハーフで。ノエルは魔族と人間のハーフだ」
「そうなんだ?俺は精霊とエルフのハーフだよ。この中でハーフじゃないのはシエラだけだね」
「………ちょっと仲間外れみたいだわ」
少し拗ねたような顔になられるエクリュ夫人。
彼女は「まぁ、良いけどね」と言って笑いました。
「ノエルちゃんも座りなさいな。話は長くなりそうだし」
「よろしいのですか?」
「あぁ、座れ」
リオン様に許可を頂き、その隣に座ります。
「ノエルちゃん。私のことはシエラと呼んでね。それと畏まらなくて良いわ」
「………分かりました」
まぁ、ご本人達から許可を頂いたしオッケーですよね?
こうして、やっと……私達は本題に入ります。
「えーっと……精霊王から事前に聞いた話だと、リオン達も乙女ゲームの登場キャラなんだよね?」
「いえ、私は違います。元同僚が当て馬?だったらしいんですけど……転生した記憶?を取り戻して、寿退職したので……代わりに専属侍女になりました」
「あら……そうなの?私と同じかと思ってたわ」
そう言えば、シエラ様はその当て馬シナリオを回避された方なんですよね。
まぁ、ぶっちゃけこっちの最重要は滅亡シナリオの回避なんですけど。
「確か……《精霊と乙女と愛のワルツ》の続編の舞台なんだっけ?」
「えぇ、確かね」
「「……精霊と乙女と……?」」
首を傾げる私達に、シエラ様はお答えしてくれます。
「精霊達にその元同僚の記憶を探らせておいたのよ。で、その乙女ゲームの情報を手に入れてきておいたの」
「………記憶を探る……そんなことができるのか?」
「俺とシエラぐらいだけどね?」
なんて暢気に言ってますけど、それって凄いですよね?
だって、その人が情報を隠しててもお二人には意味がないってことですもの。
あぁ……でも。
昨日のように、精霊術を使えば部屋の様子を探ったりはできるんですよね……。
「二人とも顔が険しいけれど、何かあった?」
「……昨日、聖女が精霊を使ってこの部屋の中を調べたんですよ」
「まぁ、そうなの?人のプライベートを探るって最悪ねぇ」
「ふぅん……精霊。次にリオンの部屋を探ろうとしたら………」
ゾワリッ‼︎
背筋が凍りそうな威圧に、私とリオン様は臨戦態勢に入ります。
ですが、それを見たルイン様はケロっと笑いました。
「あぁ、ごめん。君達に向けた訳じゃないよ」
「………いや、すまない」
「いやいや。俺の威圧で動けなくなるんじゃなくて、応戦しようとするってことはそれだけ強いってことだよ。流石だね?」
「………皮肉にしか聞こえないぞ」
リオン様が冷や汗を掻きながら、構えを解きます。
私もそれに従いました。
うわぁ……マジで怖いですね、ルイン様。
自分に向けられた訳じゃないのに、あの圧……エグすぎですよ。
「ちょっと休憩してからまた話しましょうか」
………と言って、紅茶をおかわりするシエラ様。
この空気の中でそんなこと言えるって……凄いですね。