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第11話 精霊王は語りけり(2)


よろしくね‼︎







魔王と聖女の赤子……ノエルが産まれて直ぐにソレは起きた。



魔族の中で裏切りが起きたのだ。



裏切ったのは魔王の弟グリース。

その理由は簡単。

グリースはエルリカを手に入れるためだけに、魔族を裏切ったのだ。

彼はエルリカの優しさを好きになった。

エルリカの清らかさに恋をした。

しかし、彼女は兄と結ばれてしまった。

どうすれば彼女を手に入れられるか?



兄……魔王ノイズがいなくなればいいという考えに至ったのだ。



グリースは人間種側に接触し、嘘を吹聴した。

魔族が精霊術を使えないのは魔王の所為なのだと。

魔王が無理やり魔族を従わせて戦っているのだと。

聖女を洗脳して、手篭めにしたのだと。

エルリカという聖女が魔王の元にいたから。

人間種達はその嘘を信じてしまった。



そして………そのタイミングで、エルリカよりも強い聖女の力に目覚めた者がいたのが……最悪だったとしか言えないだろう。



大精霊とまでいかないが、上位精霊に強制的に精霊術を発動させることができる聖女マナエティラ。



彼女の力によって魔王は追い詰められ……とうとう、終わりを迎えることになるーー。



魔王についていた魔族は無残にも殺された。

大切な魔族(家族)を守るために立ち上がった魔王は、大罪人としての烙印を押され……殺されることになるはずが……。

魔王と呼ばれるだけあって、並大抵の力では彼を殺すことができなかった。



……どうしようもできず、魔王封印となったのは不幸中の幸いだろう。



そして……魔王が消えた後……人間種達とグリースはエルリカと赤子を捜したが、見つからなかった。

人間種は早々に諦めたが、異常なほどに彼女に執着していたグリースは、凄まじい執念で《巡りの森》と呼ばれる魔族達の神域でやっと彼女を見つける。

だが……エルリカは既に死んだ後でーー。




どこにも、赤子はいなかったーー。





*****





『エルリカは自らの命すらも捧げてノエル嬢を守るための精霊術を発動させた。流石のわたしも驚いたが……ノエル嬢は冬眠状態コールドスリープになったんだ』

「…………コールドスリープ……」

『いつか世界が平和になった頃に、目覚めるように。幸せになるようにと、エルリカとノイズは願っていたよ』


…………初めて聞いた両親の話に、私は動揺を隠せません。

………だって…ずっといないものだと思っていたんです。

捨てられたんだと、思っていたんです。

なのに……そんなこと急に言われても……。


『………そう簡単に受け入れられないのは分かりますが、これは事実です。唯一の誤算は、《精霊の花園》と人の世界の時間の流れが違ったことですね』

『我らがお前の目覚めに気づいた時には、ノエルはもう暗殺者の道に進んでいた。だが、魔族の血を引くがゆえに我らを認識することはできない』

『だから、この二人、シロエとクロエは受肉し……エルリカの望み通り、君と共に暮らしていたという訳だ』

「シロエ……クロエ……」


まさか、私のために精霊を辞めてしまったなんて。

私はなんと言っていいか分からず、二人に視線を向けます。

ですが、二人はとても優しい顔で……私の足元に歩み寄ってきました。


『ノエル。選んだのはわたし達です。君と共にいたいと、願ったんです』

『だから、自分の所為だとか思うなよ。思ったら、怒るぞ』

「………分かりました」


二人とはずっと一緒にいました。

だから、信用してるし……その言葉を否定するのは、思いも否定することです。

だから、二人がそう言うなら……私はそれを信じます。


「………ノエル」


リオン様が手を取り、優しく握り締めてくれます。

温かくて……なんで分かりませんが、その温度に安心してしまいます。


『さて……ここまで過去の話をしたのは、先ほどの寒気と光柱に関係がある』


精霊王は、真剣な顔で頷きました。




『あの寒気は魔王の封印が解けた証拠。光柱は魔王を封印していた聖女の力が解放され、誰かが聖女に目覚めたのだろう』




あの寒気の正体が……魔王の覚醒?

ということは……お父さんが、封印から目覚めた?


『聖女の力を軸にして、この地に満ちる精霊力も利用していたのだろう。だが、最近のマグノール帝国は精霊術が廃れ始めている』

「っ……‼︎機械化の影響か⁉︎」

『察しがいいな、リオン君。そう……この国では精霊力の消費が少ない。ゆえに封印も緩んだんだろう』


……………じゃあ、これから一体どうすれば……?

私達にそれを教えた理由は?


『で……ここで乙女ゲームの話が出てくるんだなぁ』

「「…………………………………はい?」」

『現在のマグノール帝国は、その乙女ゲームの舞台と一緒なんだ。状況、人物達もな。あ、乙女ゲームとは恋愛シミュレーションゲームのことだぞ』


………いや、待って下さい。

その単語……どこかで聞いたような……。


「……………あ。」

「……なんだ、ノエル?なんか気になることでも?」

「…………いや、その……元同僚が……オトメゲームとか当て馬とかなんか色々言ってたような……」

『あぁ、それのことだ』


…………………あの話がこんなに大事おおごとになるなんて思ってなかったから、全然話聞いてませんよ?


『言うなれば起こりうる未来の一つがゲームのシナリオということだ。そのゲームでは、聖女に目覚めた少女が攻略対象と呼ばれる複数人の男性達と恋愛をして、最終的に愛の力で魔王を倒す的な感じなんだが……』

「……………いや、ちょっと待ってくれ。一体、なんなんだ?それは……。というか、そんな未来が分かるなんて……」

『あくまでも起こりうる可能性だ。世界はいくつもの分岐点を持っているし、この世界がそのゲーム通りになるとは限らない。まぁ、最後まで聞きなさい。これからが重要なんだ』


リオン様が眉間を押さえて呻きます。

まぁ、理解できませんよね。

私はその話を聞いた時、聞き流スルーしましたもん。



『取り敢えず、このままいけば十八禁展開になる』



「「……………………は?」」


私とリオン様の動きが止まります。

今、なんと?


『要するに……元同僚の代わりの立場にいるノエル嬢が、攻略対象達と聖女のアッハ〜ン♡ウッフ〜ン♡って感じの濡場シーンを見まくることになる』

「…………………………はぁぁぁあっ⁉︎」


私は思わず思いっきり叫びながら立ち上がります。

ハッ……⁉︎

もしや、パールが言っていた〝自分がいなくなることでどうなるか分からない〟という言葉はっ……まさにこれっ⁉︎


『で……先ほど言ったように可能性はいくつもある訳で。別にゲームと同じだからと言って、強制力も何もないから……君らが動いてその濡場シーン回避と、ノエル嬢のお父さんを救うように動いたらどうだ?的な話をしにきたんだ。まだ目覚めたばかりで魔王は動き出さないはずだし……』

「いや、それは勿論……他人のそんなシーン見たくないから本気で頑張らせて頂きます‼︎」


恋愛赤ちゃんの私でも流石に、それは嫌です‼︎

なんが悲しくて他人のを見なきゃダメなんですか‼︎


『ついでに上手い感じで破滅シナリオも回避するといい』

「「……………え?」」


…………その言葉にまた固まる私達。

破滅ってアレですか?

滅びちゃって亡くなっちゃう系のアレですか?


「破滅、シナリオ……とは……」

『聖女が下手な行動すると、魔王の手によりこの大陸が破滅する』

「「はいっ⁉︎」」


サラッと言いやがりましたけど、かなりアウトな状況ですよね⁉︎

そっちの方がヤバイですね⁉︎


「…………あぁ……どうしてオレ達にそんなこと……」


流石の腹黒リオン様もことの重大さに胃がキリキリしているのでしょう。

凄く険しい顔で呻いております。


『リオン君が攻略対象だからであり、既に二人の関係がゲームと違うからだな。後、ノエル嬢が魔王の娘だという理由も……』

「ちょっと待ってくれ。オレは攻略対象なのか?」


リオン様はギョッとしながら精霊王様に問います。

精霊王様はキョトンとしながら頷きました。


『あぁ。このままいくと、聖女と……』

「よし、死ぬ気で頑張ろう。手伝えよ、ノエル」

「…………えぇ……」


いや……まぁ、お父さんを助けてあげた方が良いとは思いますよ?

聖女に倒されちゃうみたいですし、精霊王様が助けないかって言ってるってことは……助ける手段があるってことでしょうし。

でも……できれば関わりたくないんですけど。

……ただの侍女ですよ、私。

大陸の命運がかかるとか……。

リオン様は私の本音に気づいたのか、グイッと腰を引き寄せました。


「オレはお前以外の女と仲良くする気ないし、その聖女とかの所為でノエルと離れる羽目になりたくないんだよ」

「破滅とかはいいんですか?」

「いや、良くないが……破滅よりもその女と睦まじくなる方が嫌だ」


あははー……破滅シナリオよりそっちの方が重要だなんて言えるの、リオン様ぐらいですよ。


「でも……私、関わりたくないんですよぉ……関わらなければ濡場シーンくらいは回避できるでしょうし………他は……」


………まぁ…若干、リオン様が他の女性と親しくなるんだろうと思うと胸がムカムカしますけど。

リオン様は、なんとも難しい顔をされました。


「……………いや、まぁ……仮にオレの方の事情は手伝わなくてもいいとしよう。だが、破滅シナリオは?お前の父上のことだぞ?」

「……………会ったことありませんから、なんか、こう…」


こう、上手く言葉にできないんですけど……ねぇ?

一緒にいた訳じゃないので、こう私が助けてあげなきゃ‼︎とか思う訳では……。

リオン様は大きな息を吐かれます。

あ、薄情な奴とか思いましたかな?


「……仕方ないな」

「リオン様?」


にっこりと微笑まれるリオン様。

背筋がゾクッとしました。



「手伝ってくれないなら……今すぐ妊娠させてそのゲームどころじゃなくさせるぞ」



「なっ⁉︎」


思わず噴き出しそうになりましたが、それぐらい言われた言葉は予想の斜め上をいくもので。

わたしの顔が一気に熱くなります。

リオン様は妖しい光を宿した瞳で、ぺろっと自身の唇を舐められて……。

ちょ……纏う空気がっ‼︎色気がっ……‼︎


「………今ここでノエルを抱ーー………」

「わっ、分かりました‼︎協力しますから、止めて下さいっ‼︎」


あぁぁぁあ……恋愛赤ちゃんの弊害がぁぁぁ……。

あんな恥ずかしいこと言われたら、動揺して了承するに決まってるじゃないですかっ‼︎


「よし。じゃあその聖女に関しては他の男をぶつけて。ついでに魔王陛下を聖女の魔の手からお助けするってことで。じゃなきゃノエルの父上にノエルを下さいって言えないからな」

「っっっ⁉︎」


はい⁉︎えっ⁉︎

私のお父さんを助ける理由って……それなんですかっ⁉︎


「破滅云々よりオレにはそっちの方が大事だからな」

「………心の声読むの止めて下さいます?」

「顔に出てるぞ」


…………はぁ……一度了承した以上、まぁもう仕方ないとしますけど。

でも……私達二人でなんとかなるんですか……?

精霊王様は破滅シナリオ(色々な)回避を決意(?)した私達を見て、満面の笑みを浮かべます。


『あぁ、良かった‼︎一応、ルインとシエラ夫人も来るから大丈夫だろう‼︎』

「「……………ルインとシエラ夫人?」」

『わたしの息子とその嫁だ。繋がりのある乙女ゲームの攻略対象と当て馬だったんだが……まぁ、色々と動いて当て馬シナリオを回避した二人だな‼︎』


えっ⁉︎

そんな二人が来て下さるんですか⁉︎

オトメゲームで既にシナリオ回避済みということは……ある意味、この状況では最強の味方ってことですよね?


『まぁ、ちょっとルインがシエラ夫人を愛し過ぎてて、精神的に病み気味なのと、彼女に何かあれば世界が滅びそうになるぐらいだ‼︎シエラ夫人に何もしなければ協力的だし大丈夫だから、どんどん協力してもらうといい‼︎』

「…………全然、大丈夫じゃないだろうがっっ‼︎」


……………リオン様が珍しく胃が痛そうな感じの険しい顔になっています。

私もなんか色々あり過ぎてキャパオーバーしそうです。


「というか、精霊王自ら手助けするのは駄目なのか?」

『あぁ。我ら精霊は精霊力という報酬なくして、人の世に過干渉することを禁じられている』

『禁じられているっていうか……この精霊王の所為なんですけどね?』

『病んでる妻が好き過ぎて殺されそうになったから、過干渉禁止になったんだが』

「「……………………」」


うわぉ。

予想以上になんとも言いづらい理由……。



『まぁ、頑張ってくれ‼︎応援してるぞっ☆』



なんて言いながら、目元にピースサインを添える精霊王様。

この方、シリアスクラッシャーとか言われてませんか?

真面目な空気を壊すのお得意ですよね?




その後……精霊王様が消えた部屋で。






私とリオン様は大きな溜息を吐くのでした。







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