知の試練と最大の脅威の対抗策
1734年 8/27
いよいよセファレント大陸へ向かう日がやってきた。レグルス達はアジトから少し離れた広場に集合している。
「精霊竜達が連れて行ってくれるって話だけど、まだ来てないみたいね?」
「・・・そうだな。」
「時間はどれくらい掛かるんだろうねぇ?」
「そもそもこの人数だし、乗り切れるのか?」
「・・・振り落とされたりしないかしら・・・」
エスト、レグルス、カノー、ラーク、カペラがそれぞれ話している間に、精霊竜達もやってきたようだ。が、とりあえず人間形態のままだ。・・・まずは光龍が声を掛けてきた。
「・・・もしかして待たせてしまったかのう?」
「いや、そうでもないさ。・・・早速だが、どんな感じで乗ったらいいんだ?」
「?」
レグルスの質問の意味が分からないといった感じの光龍。 話が通じなかったからなのか、レグルスの口調が若干強くなる。
「だからな? 俺達だけで10名だろ? アンタ達にどんな感じで乗ったらいいんだ? って聞いたつもりなんだが・・・」
「・・・おお?! 意味が分かったぞい。 儂らが飛んで、それに乗っていくと思ってるのだな? 違うんじゃよ。 だいたい儂らは移動の手助けはすると言ったが、乗せて飛ぶとは誰も言ってないはずじゃ。」
「あたし達は別に初めて神域のある大陸に行くわけじゃないからね。 行ったことがある私たちがゲートを使えばあっさり移動できるって訳。」
風龍の追加説明にがっくりするレグルス達。・・・いったいどれくらいの速さで飛ぶとか、到着するまでどれだけかかるとか、数日かかる場合、どうやって寝泊まりするのかとか心配していたのがすべて無駄だったわけである。
「ちゃんと詰めて話をしないのが悪いのよ? 納得したのなら、もうちょっと離れてもらえるかしら・・・うん、それくらいでいいわよん。」
水龍の指示で一定のスペースを開けた後、その場所に転移陣を起動させた水龍。
「これでいいわね? この転移陣は知の祠に通じているわ。 さあ、いきましょう?」
自ら起動させた転移陣に早速入っていく水龍。数秒後あっさり転移してしまった。他の精霊竜も次々に潜っていく。最後に行こうとした火竜だったが、
「? お前たちも早く行った方がいいんやないか? ワイももう行くで!」
火竜も転移していった後、慌てて後を追うレグルス達であった。
転移した先は針葉樹の森であった。所々からザワザワと風が木々の枝を揺らす音が聞こえてくる。さらに周囲をよく観察すると、木を組み上げて作られた祠があることに気が付いた。
「クヴァシルよ、いるのじゃろう?」
『ん? ああ、光龍か。久しいな。・・・それに人間もいるようだな。もしかしてその者達は神域を目指すものか?』
どこからか声が聞こえてくる。そしてレグルス達に語り掛けてくる。
『神域に行きたいのならば、我らの定めた試練を超えなければならない。知の試練を乗り越える覚悟はあるか?』
レグルス達は全員頷く。どこからかそれを見たのか、満足そうな声が響いてくる。
『うむ。・・・では、始めるとしよう。・・・汝らはただ一つの問いに答えられれば良い。』
次に発せられる言葉を待つレグルス達。そして投げかけられた問いに困惑する。
『正しき事とは何だ? 述べてみよ。』
投げかけられた問いは、極めてシンプルだ。それ故、どう答えていいか迷ってしまう。
「法律に違反していないこと?」
「嘘をつかないとか、人に親切にするとか?」
「・・・道徳的なこと?」
エスト、アレク、コーネリアがとりあえず答えてみるが、天から降ってくる声は無反応だ。
「・・・今の答えではダメなのですか?」
『・・・ふむ。間違ってはいない。・・・が、満足いく答えでもないな。・・・もう少し考えてみるがよい。』
そこから真剣に考えだす一同。そこから中々次の答えが出てこない時間が続く。そして、
「貴方の満足いく答えとは違うかもしれないが・・・」
ラークが語り始める。
「本来、正しいか正しくないかは人間が自らの価値観で決定していることで、一般的に正しいとされる事柄も国の権力者の主観で決定されていたり、人間のこれまでの営みで自然と決まっていったものだ。時にはその国の辿ってきた歴史なども関係してくるだろう。・・・だからあえて言えば、そのときの条件によって何が正しいかは変化していくのだと思う。だから、完全に正しい事なんて無いし、むしろそれを猛進することの方が危険だと思うぜ。だが、自分が正しいと思わないことをするのは間違っていると、それだけは強く思うぜ!」
しばらく沈黙が流れる。・・・そして、
『・・・一つの答えではあるな。・・・いいだろう。これを受け取るがいい。』
そう言うと、空中に何かの鍵が浮かび上がる。これをラークが受け取る。
『・・・あと2つの鍵があれば、神域への扉は開かれよう・・・』
「受け取っておいてなんだが、試練はこんな感じでよかったのか?」
『元々、人間が神域に立ち入るのを拒んでいるわけでは無いのだ。ただ、誰でもというわけでは無いというだけでな。まして神域に危機が迫っている状況では猶更だ。』
ダグナーガの件はまだ話していなかったが、当然ながら察知していたらしい。
『次は力の祠に向かうがよい。精霊竜どもがいるのならばすぐであろう・・・』
その言葉を聞くや否や、火竜がゲートを開いている。早速力の祠へ移動するようだ。
『気を付けるがいい・・・かの邪神は異世界人から極めて危険な力を得たらしい。それを発動されたらこの世界は滅びに向かうだろう。』
「・・・ちょっと待って。その異世界人ってヴィトのことでしょ? まさか、その危険な力って・・・」
『奴は部下達にこの大陸にあるウランを集めさせているらしい。本来命あるものが手を付けてはいけない力がそれには含まれている。神といえどもそれは同じであるし、その方法も知られてはいないのだが、奴はヴィトからその知識を受け継いでしまったようだ。』
「!!! ちょっと、それはまずいって! どうするのよ!!」
クヴァシルが口走った異世界人というフレーズにコーネリアが過剰反応。その真意を伺おうと、皆コーネリアの方を向くが、
「ああ、もう! 簡単に言うとね、見渡す限りを一瞬で焼け焦げにできる魔法をダグナーガは手に入れたってことよ。」
「・・・それって、魔力さえあればいくらでも撃てる魔法なのか?」
「それがね、元々ある物質からエネルギーを引き出す魔法といえばいいのかな・・・引き出す元が無ければ成立しないのよ。・・・だからその材料であるウランを集めてるってことでしょ?」
レグルスの質問に簡潔に答えるコーネリア。それに対してアレクは、
「ってことは、使われる前にそのウランってのを横取りすれば、魔法は発動しないってこと?」
「奪えればね。でも奪ったとしても目の前にあったらそのまま発動されて終わりよ?」
「・・・奪ったうえで、それを使用できなくする必要があるのか・・・」
ダメか~といった雰囲気で呟くアレク。それに対してカノーが、
「奪って別次元にでも放り込むしかないのかな・・・」
「そうね。こっちが起動した収納魔法に放り込めば行けると思うけど、問題はそもそもヤツがウランを自分の収納魔法に入れてるだろうということよ。どうやってヤツの収納魔法に干渉するかってところが最大の問題点よね。」
収納魔法の中は別次元である。それは起動する者によって微妙に違うのである。だから他人が収納魔法でしまったものを取り出すのは事実上不可能な筈である。ここにきて新たに出てきた大問題に頭を抱えるレグルス達であったが、
「そういうことなら、問題ないよ。僕なら他人の次元倉庫にも干渉できるから。・・・人それぞれ特定の魔力波長ってのが合ってね。それを目印に探していけば・・・」
カノーはそう言って、どこかに手を突っ込んだと思えば、何かの瓶を取り出した。
「・・・何か見覚えのある・・・って、それ俺の香辛料の瓶じゃねぇか?! 返せ!」
そう叫んだのはレグルスである。・・・どうやらカノーはレグルスの次元倉庫から秘蔵の香辛料を取り出したようである。それを見てコーネリアが驚愕する。
「・・・マジ? 前世も含めて初めて見たんですけど・・・いける・・・これならいけるよ!」
自分の元居た世界を滅ばしたに等しい魔法の思わぬ対抗策の発見に満面の笑みを浮かべるコーネリア。
『解決する方法を見つけたようだな。知の試練に合格を出したのは正しかったようだ。』
クヴァシルから満足そうな声が聞こえてくる。
「・・・そろそろ行くぞい。次は力の祠じゃ」
そう言ってメンバーの転移を促していく光龍。残る試練はあと2つだが、問題なくクリアできるだろうと予感できるスタートであった。
今日は短めですみません。キリが良かったので。次回は8/7(水)です。




