対策会議1
1734年 8/25
南極点での戦闘後、アースガルドにある自由の御旗のアジトを訪れたレグルス達は、そこで初めて、ここアースガルドやアガルダつまり旧イザヴェル王国領にて大量虐殺が行われたことを知る。合わせた死者数は600万人を超えるようだ。ただでさえ完璧な敗北で落ち込み気味のところへ最悪な情報が齎されたわけである。明確に実感できる形で示された危機的状況にレグルス達のテンションは一様に低い。
自由の御旗の面々も、同じ大陸に居ながら、突然やってきた暴虐に対して何の対策も取ることも無く、ことの顛末を見届けるしかなかったのである。構成員一人一人を見ても元気に見えるものは少ない。が、だからと言って投げやりになっているわけでもなく、現状を踏まえて進むべき方向を模索しているようだ。テンションがどうであるかは別にして皆忙しそうには見える。
「ねえねえ? 皆何の準備をしているの?」
勇者一行の中では比較的元気なコーネリアが、ライズに問う。
「ええっとね、ちょっと偉い人(?)を呼んで、今後の話し合いをね?」
「? 政治家? 国王とか大統領とか? こんな非政府組織に来てくれるの?」
「ううん。・・・あのね、精霊竜に来てもらおうと思ってるの。・・・だって、神域っていうところの情報なんかまったく分からないし、だったらよく知ってそうな人達に教えてもらおうかと。まあ、人じゃないけど。」
「ゲンちゃんじゃダメなの?」
「ダメってことは無いけど、いろんな意見が聞きたいし。・・・まあ神様まで出てきちゃったからね? 出来るだけ近い存在にも協力してもらおうかと。」
「成程ね。・・・で、来てもらえるの?」
「分からないけど、隊員たちが各地にお願いに行っている筈だから、同意してくれればもうすぐ来るんじゃないかしら。」
「そっか。私、土竜以外は会ったことないから少し楽しみかも。・・・何? 人のことじっと見て。」
「・・・いやね、よくよく見ると小さい頃のマーニャとそっくりだなって思っただけ。」
「そお? 肉体的には完全に別人だし、遺伝子的には繋がりなんかあるはずないんだけどな?」
「そのはずなんだけどね?・・・っていうか、その見た目で、難しい言葉なんか使うと違和感が半端ないね?」
「そうかなぁ・・・別に普通だけど・・・」
「いやいや、普通10歳児が遺伝子とか言わないから・・・」
「まあね。・・・中身20歳過ぎの大学生だしね。」
「・・・まあ、いいか。 それより、ボチボチ来たみたいよ?」
まず最初に現れたのは、ぱっと見はなかなかのイケメンだが、よく見ると女性がするような化粧をしている男だ。動き方も何か、しなっとしていて、・・・はっきり言うと気持ち悪い。そして傍にいるジョバンニがげっそりしている。彼は水龍の洞窟に向かったはずだから・・・
「あっら、綺麗なお姉さんにかわいいお嬢さん、初めまして。あたしが水龍よ。女同士仲良くしましょ?」
「「~~~~~~~」」
内心オカマか!と叫びたかった2人だったが、先手を打たれたのか、先に女宣言をされてしまったため、そこを突っ込めずにいると、
「ええっと、この後は会議室ってとこに行けばいいのよね? そう言えばラークちゃんはどこかしら?」
「・・・多分あっちの部屋にいるんじゃないかと思うけど?」
「久しぶりの再会だもの。・・・ハグしたいわぁ。」
そう言うや否やラークがいるであろう部屋に突撃を敢行する水龍。早く逃げてと心の中で叫んでおくコーネリアだったが、傍からいなくなったところでジョバン二がようやく起動する。
「・・・怖かった。・・・何であれの担当が俺なんだよ!」
本人に聞こえたらまずいので、小声で叫ぶという器用なことをするジョバンニは、ライズに頭を撫でられ荒ぶる心をようやく静める。
「何が怖かったって、いきなり襲われたんだぞ!」
「! 何? いきなり氷ブレスでも吐かれた?」
「ライズ・・・違う。あの姿で抱きしめられたんだ。・・・」
思わず合掌する2人であった。そう思っていると背後からコーネリア的に見知らぬ女性に声を掛けられる。
「あれ? 今水龍の声がしたと思ったけど?」
「あ、風龍様。・・・水龍様はラークの部屋に行ったわ。」
直後、男の悲鳴が上がるが、聞かなかったことにするコーネリアとライズである。あの部屋で何があったかなど想像もしたくない。ジョバンニは今の悲鳴を聞いてガクブルしている。
「やっぱり無事に着いたようね。まあ、転移で来るなら当然なんだけど。まあ、相変わらずのようね。・・・で、お嬢ちゃんは? 初めてよね? 私は風龍よ。」
そう言われて自己紹介をするコーネリア。今度は正真正銘女同士、特に抵抗感はないようだ。
「風龍様は御一人で?」
「いいや、昨日、あの帝都での大虐殺があった後、ここの人達と会ってね。だから昨日からここにいるよ。」
コーネリアの質問に答える風龍。自分達も昨日から来ているが、どうやらそれよりも早く来ていたらしい。
「まあ、肝心な話は後に取っておくよ。また後でな。」
男前な言い方でこの場を去っていく風龍。そうこうしているうちに次の来客が到着したようだ。ヴァンが連れてきたのはお爺ちゃんだ。何故か後光がさして見える。・・・いや、天井の光が頭頂部を照らし反射しているだけのようだ。
「・・・この輝きは・・・もしかして光龍様ですか?」
「誰が禿じゃ! ・・・まあよい。 儂が光龍じゃ。 お二方ともよろしくな。」
誰も何も言ってないんですが・・・と思ったのは秘密なコーネリアである。
「他の精霊竜達はもう来ているのかのう?」
「水龍様はラークとじゃれていらっしゃいます。風龍様は既に会議室に向かいました。」
「・・・そうか。では儂はラークを救出してから向かうとするか。ラークの部屋はどこかの?」
ライズから案内を受けると真っすぐそちらに向かう光龍。ようやくラークは救われるようだ。・・・そう思っていると別の方向からにぎやかな声が聞こえてくる。
「やっぱり肉は甘いタレでじっくり煮込むのがおいしいんや。」
「いや、それも悪くないんだが・・・やっぱり香辛料をふんだんに使ってカリカリに焼くのが俺は好きだな。」
「ワイは辛いのは苦手や。」
「ははは、そうだったな。あの時の混乱状態も唐辛子で一発解決だったしな。」
「まあ、感謝はし取るけどな、あれはあんまりやで。・・・1週間は口の中の感覚は無いし、胃はキリキリするし、最悪やったんやで!」
「それはすまなかったな。・・・ちなみにゲンの好みはどうだ?」
『ワイはな、肉は血が滴った状態の生が一番うまい思うんよ?』
「ゲン、・・・それだけは無いわ・・・」
「せやで。もとのベヒモス丸出しや。そのうち人間丸齧りして、うまいとか言いそうやで。」
『それはあんまりや。・・・イース人だって、生魚を普通に食うやろ? それとおんなじや。』
「いや、ゲン、それはれっきとした刺身という料理であって、生肉とは全く違う・・・」
『違い分からへんがな・・・な・ん・で・や!』
そんな肉の味付け論争をしながらやってきたのは、レグルスと見た目30歳程の三枚目だ。
『お? 綺麗な姉ちゃんとかわいい嬢ちゃんのお出向いやな。・・・火竜や。よろしゅうな。』
「てゆうかさ、何で俺が迎えに行ってるんだよ?」
『ワイが火竜はんとおしゃべりしたかったからやが?』
「・・・知ってるよ。言ってみただけだ。別に不満があるわけでもないしな。穴倉に籠っているよりはよっぽど気分転換になったしな。」
「薄気味悪い穴倉で悪かったわね!」
レグルスの物言いに弱冠噛みつくライズ。
「別に他意は無いんだ。怒らないでくれ。・・・で、もうみんな集まったのか?」
「いえ、闇竜と土竜が未だよ。・・・でもあなたが意外に元気で安心したわ。」
「まあ、落ち込んでも状況は変わらないしな。切り替えてるだけだよ。」
そう言うと、ヒラヒラと手を振って火竜とともに会議室に入っていくレグルス。 まあ、パーティの支柱にいつまでも落ち込んでもらっても困るのだが。そんなことをライズが考えているところに、カノーと若い女性がやってくる。見た目はエストらと同年代に見えるかわいい感じの少女なのだが・・・
「カノー君? この後どちらに行けばいいのかしら?」
「僕もここに来たのは昨日ですからね。よく分かりません。」
ここで、ライズやコーネリアと目が合う。
「貴方はもしかして?」
「闇竜ですわ。今回はお世話になりますね。・・・えっと? ああ、ライズさんって言うのね? 成程、会議室というところに行けばよろしいのね? 場所は・・・大変よく分かりました。ありがとう、ライズさん。・・・では、カノーも一緒に行きましょう?」
そう言ってこの場を去る2人。・・・後姿を見ている分には若いカップルに見えなくもない2人であるが、その実、自分達よりもはるかに長生きしている存在とはとても思えない。もっとも片方はエルフであり、もう一方は精霊竜なのだが。
2人が会議室に入るのを見届けてからしばらくして、大きな衝撃音と揺れがアジトを襲う。周囲の隊員たちは口々に、「地震か?!」と騒ぎ立てるが、間もなく、ここのすぐそばで轟音が鳴り響く。見るとアジトの壁が崩壊し土煙が上がっている。それを聞きつけた隊員が続々と集結してくる。
土煙が晴れると、身長2mは超えているであろう大男が腕組みをして立っていた。なんか爽やかそうな笑みをたたえているが、下半身は道着をはき、上半身はタンクトップだ。そして盛り上がった上腕二頭筋や額からは汗が滴っている。
更に数秒後、半ばあきらめた表情でとぼとぼと歩いてくる男がいる。・・・この自由の御旗のリーダーであるロベルトその人である。何か、惨事を止めたかったが止められなかった無力感に襲われているような感じではある。
「よう!!! 呼ばれたから来てやったぜ!! この男に、うまい飯が食えるって聞いたんだが?」
そういってロベルトを指さす大男。状況から理解できた。この男が土竜だ。
「・・・確かに言いましたけど、何も壁を突き破らなくてもいいじゃありませんか!」
ロベルトの魂の叫びがこだまする。それに対して土竜は、
「まあ、いいじゃねえか。入り口が分からなかったからよ! 他の精霊竜の気配もあったし、めんどくせえから最短距離で行くことにしたのよ。はっはっは~!」
「「「「~~~~~~~~~」」」」
「ということで、おれは他の精霊竜のところに行くぜ! ああ? 気配で分かるからな! 案内は不要だぜ!」
そう言ってあっさり会議室に向かっていく土竜。彼が新しく作った出入り口から生暖かい風が通り抜ける・・・それを見てコーネリアが、
「何というか・・・あの竜は馬鹿なの・・・彼に選ばれたことを光栄に思っていた私は、自分が恥ずかしくなってきたわ。」
これから6体の精霊竜の教えや助言を請うために来てもらったのだが・・・これから行われる会議に頭が痛くなるライズであった。
次回は8/3(土)予定です。8/1はお休みします。私事によりどうしても無理が出てしまうため、しばらくは時々休みを入れる形になることをご了承ください。最低でも4日に1回は更新します。




