召喚
『・・・今の攻撃は、我に敵対するということでいいのだな?・・・ならば1人ずつ喰らってやろうではないか!』
ゲルザードの体は大きな塔のようでありながら、空中で蛇のようにうごめいている。そして咢から見え隠れする牙は何者をも貫き引き裂くような鋭さがある。体表を覆う鱗は、何の金属を含んでいるのか、黒光りしており、物理的な硬さの他に魔法耐性をも持ち合わせていそうである。また空中でうごめく様子から巨体に似合わず動きが機敏であることが伺える。そして何よりも、ゲルザード自身から漏れ出す覇気が周囲の命ある者すべてを委縮させる。
「・・・こんなの勝てるのかよ?」
皆、思っていながらあえて口にしなかった一言をラルフが口に出してしまった。人間は不思議なことに、思っているだけでは効果がなくとも、口に出すと案外効果が出てしまうものである。勿論、今の話は魔法の話ではない。だから理屈で言ったら不安を口にしただけでは効果など出るはずもないのだが、実際は、この一言で次の行動を躊躇してしまっている。恐怖からか、それとも心理的に行動が制限されてしまったのか、いずれにしてもこの僅かな時間の硬直は、相手に攻撃をしてくれと言わんばかりであった。
ゲルザードは照準を定めると、頭部をまっすぐ・・・リーフにめがけて飛ばしてきた。カメレオンの舌の如く体を固定したままである。しばし硬直していたリーフには避けられるはずもなかったのだが、
「早く逃げろ!!」
そう言ったレグルスは高騰指示ではなく既に行動に移していた。噛みつかれる直前にリーフを蹴り飛ばし諸共攻撃を回避する。直後ゲルザードの咢が地面に被弾し、その場にクレーターが生み出される。
「皆、離れて!!」
コーネリアからの指示に、多少疑問に思いながらもゲルザードを中心に距離を取る一同。その直後、上空に魔法陣が出現した。
「いっけ~!!!」
叫んだ直後、かつて見たメテオの魔法によって出現した、赤熱した巨大な岩石塊がゲルザードを襲う。ゲルザードの頭部や胴体部めがけて十数発命中する。
『!!! グアアアアア!!!!!』
少なくないダメージがあったのか、叫び声を上げながら地に落とされるゲルザード。頭部には多めに当たったのか、岩石塊で頭部が隠れてしまっている。
「まさか、倒せたのか?!」
ラークが期待を込めてそう叫ぶが、そこまで甘くはなかったようだ。瞬時に体中から邪気を発し自らの体を覆っていた岩石塊を破砕し、再び宙に舞い上がるゲルザード。
「おいおい、あれでもダメージないのかよ?」
「いや、よく見てみろ。そうでもないみたいだぜ?」
ラルフの多少絶望の入ったセリフを打ち消すレグルス。確かにゲルザードが岩石塊の直撃を受けた個所は、鱗がはがれ出血している。そして体全体がわずかに痙攣しているようだ。が同時にその表情には怒りがほとばしっていたのである。
『おのれ、許さんぞ!!!』
そう言うや否や、咢を開き、暗く青白い炎を吐きだす邪龍。今度の標的はコーネリアだった。
「きゃあ!」
だが、これはある程度、邪龍の視線を観察していたカペラが察知していたため直撃を喰らう前にコーネリアを抱きかかえて回避する。だが、火炎を吐き終わった直後すぐさま次のブレスを放たんと咢を再びリーフの方に向けたのであるが、その直後、邪龍の下顎を上に向かって蹴り飛ばすレグルス。そのまま上空に吹っ飛ぶ邪龍であったが、何とか空中で踏みとどまる。そしてここまで自らを吹っ飛ばしたレグルスを睨みつけようとしたのだが、既にレグルスの両手には高密度のエネルギーが集まっていたのである。
「これでどうだ!!」
そう言って放たれる生気収束波。それは邪龍に直撃し、同一直線状にある胴体数か所に大きな風穴を開けるに至る。
『・・・な ん だ と ・・・ウグアァ!』
あまりの痛みに動きが止まる邪龍。・・・だが、自身の魔力ですぐさま回復を始める。傷はどんどんん塞がっていく。とはいっても黙って修復を見守るレグルス達ではない。魔力封印から回復したエストも含めて魔法や弓でダメージを加えていく。その集中攻撃にさらされ、既に大きなダメージを受けている邪龍はその回復に専念して攻撃に転じることが出来ない。
『おのれ! 人間ごときが!!!』
「そろそろ行くぞ!」
ラークの掛け声とともに、ミリアム、カノー、エスト、カペラ、コーネリアそしてラーク自身が、邪龍の前後左右上下にそれぞれ光・闇・火・氷・風・土の魔法陣を展開していく。それから逃れようと体を後方に流していく邪竜であったが、魔法陣もしっかり邪龍に付いて移動していく。
「リーフ、今だ!」
「はい!」
リーフは返事とともに、いよいよ最終段階の封印魔法の発動にかかる。6種類の魔法陣がさらに激しく輝き、邪龍を包み込んでいく。このままいけばあと数秒で邪龍の封印が完成する。するのだが、邪龍の口角が広がっているのをレグルスは見てしまった。ゲルザードにとって最悪な状況にもかかわらずのこの笑みに嫌な予感がしたのだが、・・・
「いっけ~!!!」
リーフの掛け声とともに、さらに輝きを増したのだが、本来ならこれが邪龍の中に収束していくはずである。が、寧ろこれが膨張していくのである。
「ッツ! 未だか? えい!!」
「リーフ! ちょっと待て!!」
レグルスの叫びはわずかに遅かった。リーフが追加で加えた魔力をも吸収し更に大きくなったエネルギー塊がごっそり引き抜かれる。そしてそれは、先の方に見える大きな魔法陣へと吸収されたのである。
「しまった!!」
ラークが叫ぶが時すでに遅し。幾重にも組まれた複雑な文様の魔法陣がそれぞれ生き物の如く激しく回転しだし、より輝きを増すと、そこから邪悪なエネルギーがあふれ出す。そしてその場にいたマルローは、
「フフ、・・・成功です。封印魔法を丸ごと吸収することで、どうやら召喚魔法の起動が早まったようです。」
距離があるためか、レグルス達にはマルローの呟きは聞こえない。代わりに魔法陣が大きなエネルギーを発しただ事ではない状況になっていることだけは理解できる。そう思い、レグルスはゲルザードを放置してそちらに向かおうとしたのだが、
『・・・どこに行こうとしている?』
既に満身創痍の邪龍がレグルスの間えい立ちはだかる。この時レグルスは焦っていたのかもしれない。邪龍の中心にけりを放つのだが、体を大きく避けた邪龍に躱されてしまう。そして、邪龍が招雷の魔法を放つ。これが、この場にいる全員に少なからずヒットする。
レグルス達が硬直していた時間は僅かであったが、その間に魔法陣の上方は、闇のエネルギーで満たされてしまった。そしてその中から何かのシルエットが形成されていく。・・・しだいに靄が晴れるかのように闇のエネルギーが霧散していき、・・・ゲルザードよりも一回り程大きな竜が顕現したのである。
『・・・自由を得たのはいつぶりであったかな? やはり体が動くというのは良いものだな・・・』
横に控えていたマルローは膝をつき頭を軽く下げている。ゲルザードの顔は達成感で溢れていた。
『ダグナーガ様・・・』
続けて話そうとしたゲルザードを視線で制するダグナーガ。
『ゲルザードよ、御苦労である。・・・が、このような蟲共に随分てこずっているものよ。』
『申し開きのしようも御座いません。・・・』
『まあ、よい。・・・では早速行くとするぞ!・・・分かっているな?』
『勿論でございます。』
そう言うと、人間形態に戻るゲルザード。そのままダグナーガの元に移動していく。それに対して、リーフもラークもカノーもコーネリアも全員が硬直してしまった。ダグナーガの威容に。邪神といえども神である。本能が体を硬直させる。この存在を呼び出すのを防げなかった時点で敗北は決まってしまったのである。ミリアムに至っては体が震えてしまっている。・・・だが、レグルスだけは諦めていなかった。そのまま全力の生気収束波を放つのだが、ダグナーガの片手で簡単に払われてしまった。
「!」
続けて、飛び蹴りを放ったのだが、尾の一撃で吹っ飛ばされるレグルス。そのまま地面に叩きつけられて気を失ってしまった。
『・・・?・・・何をしている? お前たちいくぞ。』
「あの者達は良いので?」
『マルロー・・・別にどうでもよかろう? それよりもこの世界の神界に行き、完全にここを我の支配下に置くのが先であろう。』
そう言うと、ゲルザードとマルローを体内に取り込み、自らは空へと舞い上がるダグナーガ。直後音にも匹敵する速さでどこかへ飛び去って行った。既に恐怖に取りつかれたリーフ達が後を追えるはずもなかったのである。
すべてが終わったところで、ライズがやってきた。レグルスのところにまずは行く。呼吸をしていることを確認し、胸をなでおろす。その後、リーフ達が固まっているところにやってきた。
「皆は無事なようね? それだけでも良かったわ。」
ライズの発言は、最悪な状況であるにもかかわらずされたため、ラルフは怒りを禁じることが出来なかった。
「何が良かったってんだよ! 結局今までやってきたことは無駄だったんじゃねぇか?!」
「ラルフ! よせよ!」
アレクは止めるが、ラルフは止まらない。
「大体あんなのに勝てるかよ! 皆そうかもしれないが、俺も恐ろしくて震えてしまったよ。 なのに良かったってあるかよ!」
ライズにつかみかかるラルフに、ライズは易しく反論する。
「皆生きてるじゃない?」
「どうにもならんだろ? あんなの!」
「生きてれば必ずチャンスはあるわよ! しっかりしなさい!」
そう言って背中を叩くライズ。・・・それ以上はラルフは噛みついてこなかった。・・・とここで、レグルスが気が付いたのか起き上がってくる。そしてこちらを見つけるとゆっくり歩いてきた。
「・・・すまん。やられた。」
「レグ・・・」
「で、アイツらはどこへ?」
レグルスの問いに、ミリアムは邪神が飛んでいった方向を指さす。
「? あっちで間違いないのか?」
「レグ?」
「いやな、すっちの方角がスヴァール山脈だろ? それに対してあっち側は、そのまま北上していけば普段俺たちがいる世界の裏側ってことになる。それも定説では、陸地はなく、海半球と考えられているところだ。・・・だから何のために行ったのか疑問に思ってな?」
「確かに、レグの言う通りだな。海しかないところであれば、行く意味はないようにも思えるが、とはいえ、無意味な行動をとるとも思えん。」
ラークも地理関係には聡く、レグルスの意見に基本同調する。とここで、思わぬところから考えてもいなかった意見が飛び出す。
『・・・あぁ、それなんやけどな、多分神域を目指してるん思うんよ。』
ゲンである。さらに続けて言う。
『あっちにはな、セファレント大陸っていう超大陸があるんや。・・・せやな、ユグドラル大陸の1.5倍くらいの広さやな。その中心部にこの世界の神が住む神界があるねん。』
この世界の住人は全員驚愕である。異世界人のライズやこの世界の生より前世の方がまだ長いコーネリアはピンと来ていないが。
『まあ、そこでこの世界の神としての権限を奪って、自分がこの世界の神となり好き放題するつもりなんやろうな?』
「! そうか、ってことはリベンジマッチが出来るってことだな?」
『せやな。』「何でだよ?!」
全く違う反応がここで帰ってくる。ゲンはレグルスの意見を肯定するが、ラルフは否定的だ。
「お前もコテンパンにやられたろ! どうするんだよ?!」
「・・・黙っても滅ぼされるだけ。だったら出来ることをすべてやって足掻くさ。」
「無駄だよ! もうやめようぜ! おれはもう嫌だぜ! なあ?」
だが、意外にもラルフに同調するものはいなかった。
「ねえ、直接やられたレグが言うんなら分かるけど、あんた見てただけじゃない? まあ、私もだけどね? どうせ滅びるならやるだけやるに一票かな?」
「フッ、一番ガタイでかいのが一番臆病とか受けるんですけどぉ?」
「!!!」
カペラはレグルスに同調し、コーネリアの小馬鹿にした言い方にブチ切れたラルフだったが、エストの後ろに隠れられ、そのまま睨みつけようとすると、逆にエストに睨まれてしまった。
「うっ」
「あのねぇ、アンタこのままだと格好悪いわよ? アンタだけイザヴェラに帰る?」
「うぐぅ・・・ああ、わかったよ! 行けばいいんだろ行けば! 潔く散ってやるよ!」
エストに諭されとりあえず納得したラルフ。
「まあ、方向性的に反対は無いんだけどな、無策なのは賛成しかねるかな?」
「勿論そんなことはしないつもりだ。・・・がどうしたもんか・・・」
しばし沈黙。その間極地方の冷たい風が吹き抜けていく・・・
「時間かかりそうだから、私たちのアジトにでも行く?」
特に反対意見は無く、自由の御旗のアジトへと転移するレグルス達であった。
次回は7/30予定です。




