いざ、南極点へ
1734年 8/24
南極点にて邪神を召喚すべく準備を進めているゲルザードを追うべくスヴァール山脈まで来たレグルス達であったが、山脈を超えた先である南極地方に入ってすぐに立ち往生してしまった。理由は簡単である。防寒結界を施してあったとはいえ、冬の極地方の寒さは別格なのである。そのため肝心の馬車を引くための馬が動けなくなってしまったのだ。
「流石に困ったな。・・・これ以上は馬車で進めそうにない。・・・馬車は収納魔法で仕舞って、残りは歩くしかないか・・・」
「レグ、ここから南極点までどれだけあると思っている? この寒さの中3000㎞以上も徒歩移動するというのか? お前は耐えられても、他の者が無理だ。」
ラークの反論は尤もである。因みに、今この話をしているのは、まだ馬車の中で、一応、暖は取れていたりする。
『そもそもやな、今から歩いていったら完全にタイムアウトやで。移動中にダグナーガが復活してしまうやろうな。』
「いや、俺も言ってみただけだ。俺ももちろん無理だし、そんなことをするつもりは無いよ。・・・とはいえ、じゃあ、どうするんだ? という話なんだが・・・」
このレグルスの発言を受けて、さらに話そうとする者が出てこない。現状では代案が無いのだ。馬車でのこれ以上の行動は無理。歩くのはさらに厳しい上に時間的制約も出てくる。・・・そう冷静に考え、突き詰めていけば、ここは引き返す以外に方法は無いという結論になってしまうのだが、それを選択することは、これまでの旅が無意味だったことにもなり、それを誰も声に出して言うことは出来ない。
「ゲルザードやその部下達は、こんな環境の中に長期滞在して平気なんでしょうか?」
『多少堪えてるとは思うんやが、奴等は人間とは違うしな。もう少し寒くても、逆に遥かに高温でも普通に存在を維持できるで。ワイもそうやさかに。』
リーフの質問に対して、ゲン自体もゲルザードに近い存在であるからか、平気であろうとの見解を述べる。というよりも、そういう前提で考えていた方がよいであろう。
馬車の外は、そこそこ強い風が吹いている。本来耐えられないほどの風ではないのだが、元々の気温が低すぎるのである。短い時間なら行動できるが、長時間となるとやはり難しい。既に寒さで動きを止めてしまった馬には、ミリアムが回復魔法を掛けている。馬車の中に居ても、外の風の音は時折聞こえてくる。それを聞くだけでそこそこ暖かいはずの空間が非常に寒いものに感じるのである。
「・・・あれ?」
「どうした? アレク?」
「ラルフさあ、なんかピューっていう風の音の他に変な音が混じってない?」
「あ? ピューていう風の音しか聞こえないぜ?・・・あれ?・・・バルバルバルって音も聞こえるな?」
「あ、ホントだ。 これ風の音じゃないよ?」
「ヘリの音?・・・そんな訳ないか・・・」
「ヘリ?・・・ネリア、何それ?」
「カペラ?・・・ああ、知らないよね? ヘリってのは私たちの世界の乗り物で、ヘリコプターの略なんだけど、この世界にはあるわけないんだよね。・・・でも音が似てる気がする。」
カペラとコーネリアがそんな話をしている中、バルバルバルという音は次第にピューという風の音をかき消すほど大きくなっていき・・・そして、ドンという音とともに振動が襲った。慌てて外に出たレグルス達であったが、そこにはレグルス達にとって見たことがない物が存在していた。自分達が乗ってきた馬車のようなものに尾が生えていて、その天井には巨大な十字型の物体が付着したままの状態で回転している。まるでそれを回転させながら空を飛んできたようだ。そんな感想をレグルスが思っていると、
「やっぱりヘリじゃん! 何でこんなところにコレがあるの?」
コーネリアがそんなことを言ってる間に、このヘリとかいう物体のドアが開くと、中から出てきたのは?
「ライズさんだ!」
喜び勇んでライズに抱き付こうとしたコーネリアだったが、感動の再会になるどころか、あっさり躱されてしまう。
「・・・ひどいよ! ライズさん!」
「誰? この子?」
ライズからすれば完全に初対面である。こんなところに子供がいるとは思わず、別に子供嫌いではないものの、いきなり知らない子供に抱き付かれようとされれば、思わず逃げてしまうのも無理はないであろう。
「その前に、何でここに現れたのか説明してくれないか?」
ラークの疑問も尤もであるため、自分の疑問は置いておいて先に説明を開始したライズ。
「まず、大きなエネルギーがイザヴェル王国の辺りから南極点に移動するのを確認したわ。多分ゲルザードね。そしてあなた達もスヴァール山脈まで移動したのを確認した。そのことから、あなた達もゲルザードを追って南極点に向かっているのだと思ったから追って来たのよ。以前会ったとき、そんな装備を持って居そうもなかったから、無茶だと思ってね。」
「そうか。気を使わせてしまったみたいだな。正直助かる。正に立ち往生していたところだ。だが、1つ聞いていいか?」
「レグルス? 何?」
「どうして俺たちの居場所が分かる?」
「それなら簡単よ。リーフ君に発信機を持たせておいたから。」
バッと音が鳴りそうな勢いで後ろを振り返ったレグルスだが、リーフはしばしキョトンとした後、頷いたのである。
「ああ、リーフ君を怒らないで上げてね? 貴方に直接言ったら拒否されるような気がしたから。それよりも早く乗って頂戴。この乗り物でも南極点までは何時間もかかるから。・・・そうそう、馬車とかは収納魔法に仕舞ってね。」
発信機の件とか突っ込みたいところはあったが、実際、八方塞がりな状況であったため、渡りに船であった。拒否する理由もないため素直に従うレグルス達。そんな中、完全にスルーされ、不機嫌になっていくコーネリアにかまってやれるものはいなかったのである。
そして全員乗り込んで、再び回転翼がまわりだし期待が宙に浮く。その後、空気を引き裂く音を出しながら飛行を開始すると陸上ではありえないほどの速度で移動を開始するのである。これであれば、今日中に目的地に到着することも可能であろう。
魔法で空を飛ぶことが出来るものは別にして、それ以外の者は窓から見える光景にくぎ付けだ。普段は見ることも無い光景に目を奪われている。
「大体の想像はつくけど、何があって南極点に向かっているの?」
ここでレグルス達は、レムリア大陸での土竜復活のためのあれこれ、度々襲ってきた魔王軍のこと、そしてヴィトが死んだこと等を報告する。
「そっか、ヴィト様は最後は正気に戻られたのね。・・・でも残念ね。やってきたことの功罪はあるけど、自分の信念でやってきたのは確かだし。・・・あなた達にとっては仇だったことを考えると、私のい持ちは複雑ね。」
ヴィトに長年ついていた彼女にしてみれば、彼のいいところも見えているのだろう。
「この世界では諸悪の根源みたいな見られ方をしていると思うけど、元の世界では有能な政治家だったのよ。戦争で娘さんを失ってからは言ってはならない方向に進んでしまったけどね。」
ここで、コーネリアがライズをツンツンし始める。
「どうしたの、お嬢ちゃん? ! そう言えば、さっき抱き着こうとしてたけど、初対面よね?」
「そんな訳ないでしょ!!・・・あれ? あ! 初対面だ! この世界では初めて会ったよ!」
「え? 変わった言い方をするのね? この世界じゃなくてどこで会ったというのよ?」
「いやあ、知らない子に突っ込んで来れれたらびっくりするか。・・・納得。」
「一人で納得してないで、説明して頂戴。」
その後、コーネリアの前世がヴィトの娘マーニャだったこと。その記憶が最近蘇ったことを話していく。今度はライズの方が感極まった感じになったが、コーネリア的にはもう今更であった。結局感動の対面という風にはならなかったのである。
「・・・それはそうと、ヴィト様を連中が切ったということは、私たちと同時期に来た幹部。レギン、ロキ、スロールはどうなったのかしら? 同じような扱いをされているのではないかしら?」
そんなことを言われても、どんな者かもわからないのでは判断しようもない。・・・埒が明かないと思ったのか、持っていた顔写真をカバンから引っ張り出す。
「・・・「「!!!」」・・・」
「このスロールってのは、レムルを襲撃しようとした奴だな。最後は大猿になってたっけか?」
「こっちのレギンってのは、コーネリアがいた商隊を襲っていたやつだな。」
「! まさか私のパパとママの敵がレギンだったなんて・・・」
スロールに関してはレグルスが、レギンはラークが証言した。それを聞いて、コーネリアがショックを受けている。自分の嘗ての知り合いが今の両親の仇だったことになるから当然かもしれない。
「ギブソンさんの剣を持っていた俺達の敵はロキって名前だったんだな。あの剣を持っていた時点で、ヴィトと同じ世界のやつとは思っていたが・・・」
最後のはラルフだ。これで、確認したかった者たちは全員、ライズが危惧した通り死亡していたことになる。それも捨て駒のような扱いであることも共通していた。
「・・・そろそろゲルザードはニーズヘッグと名乗っていた頃のようにヴィト様の下部の振りをするのを止めたのね。・・・今まで利用してきた異世界人が邪魔になった?・・・だとすると、魔王国の支配下にいる人たちが危険かもね?」
「・・・かもな。急がないとな。」
レグルス達は決意を新たにするが、すでに危惧している通り、虐殺がすでに行われていることをレグルス達はまだ知らないのである。
次回は7/24です。それと7/26は更新できそうにありませんので、その次は7/28を予定しています。




