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格闘聖職者の冒険譚  作者: 岩海苔おにぎり
第11章 邪神ダグナーガ
91/102

旧イザヴェル王国領と旧アースガルド帝国領での大虐殺

1734年 8/21


 レグルス達が、ピラミッドがあった場所にて土竜を復活させていた頃、ゲルザードは既に南極点にいた。ここへ到着したのは3日前であるが、自身の主を召喚するための魔法陣を展開するため、マルローの配下の悪魔族を数十名は、既に1週間前から派遣済みであった。そのため設備としては既に完成していてる。


 問題なのは必要エネルギーであった。これまでゲルザード自身が過去に封印される以前から貯めていた魔素に加え、700年前に蜂起した際に人類を殺戮して奪う生命力を変換することで充分な筈であったが、それは当時の勇者カミュによって力を封じられて阻止されてしまった。その時点で必要なエネルギー量の70%といったところだ。ここで以前レムリア大陸から吸い取った生命力に加え、さらに別世界からやってきたヴィトを中心とする者たちを利用することによってある程度の生命力は集めることが出来た。結果として無駄になったようにも見えるが、ゲルザードが魔界から累計数十万に及ぶ竜種の召喚も、それらが死滅した際にきっちり生命力は回収できている。それをすべて合わせればダグナーガ召喚に必要なエネルギーを満たすことが出来たのだが、実際はその竜種を召喚する際にもエネルギを消費しており、実際は必要エネルギーの90%といったところである。要するにまだ不足のエネルギーがあるため、ダグナーガの召喚は未だなされていないのであった。


 そのゲルザードは、前もって建設させていた防寒施設にて部下達とともに暖を取っているところである。あと1カ月もすれば秋分になるため、360度すべての地平線の彼方はうっすら明るくなってはいるが、それでもほぼ一日暗闇状態である。それがもう半年は続いているはずでありこの場の寒さは極限状態である。当然ながらここでは生物の痕跡は全く見当たらない。


「・・・やはり、ジャンナ王国を滅亡させられなかったのはデカいな。」


 ゲルザードの呟きに部下の悪魔たちも頷いている。というのは、その際に20万程の竜を魔界から召喚したのである。その際にかなりの魔素を消費してしまったのだ。それはジャンナ王国を蹂躙して生命力を回収することで使用したエネルギー分は回収し、更なる上乗せを考えていたのだ。しかし、ふたを開けてみれば召喚した竜は全滅、ジャンナ王国への被害はほぼ無しといった具合であった。死滅した竜の生命力は回収したとはいえ、総合的に見ればエネルギーは大幅にロスしたことになる。計画通りに行っていれば目標値には到達していたであろう。


 そんな中、ピラミッドにて勇者妨害を任されていたマルローが帰還した。


「ゲルザード様、御報告があります。勇者一行がピラミッドの地下に行った際に、ピラミッド自体を崩落させました。本当はヴィトに始末させようとしたのですが、勇者の仲間の一人に正気に戻されましてな。そのためヴィトは始末し、連中もろとも瓦礫の下になっていただきました。」


 特に喜びを見せることも無く淡々と語るマルロー。仕事を成功させた者の語り方には聞こえない。


「・・・確実に始末できたのか?」


「申し訳ございませんが、そこは未確認でございます。私も脱出する必要があったものですから。ですが、仮に生還したとしても封印の祭壇諸共、瓦礫の山に埋もれたはずです。少なくとも土竜が復活することは無いでしょう。」


「ほう、ならば最低限の仕事はしてきたというところか・・・それよりも問題がある。ダグナーガ様を召喚するのに必要なエネルギーが10%程足りないのだ。」


「それは、この地の磁場を利用してもなお不足ということなのですか?」


「そうだ。・・・それを利用した上で不足しているのだよ。それで今思案していたのだ。」


「成程ですな。であれば私に妙案があります。」


「・・・申してみよ。」


「は。・・・最初の占領地にペットをたくさん飼っておられましたな?」


「ペットだと?・・・ああ、ヴィトが自分の世界から連れてきた人類のことか?」


「ヴィトも居なくなりました。そろそろ頃合だと思うのですよ。誰が主なのかを分からせてもよろしいかと?」


「・・・ふむ。ヴィトはたしか300万程連れてきていたな。それに元々そこに住んでいた人間もいるな。奴らは未だ我のことをヴィトの部下だと思っているようだが、そろそろ思い知らせても良いかもしれん。我の存在を示し、歯向いそうなものは片っ端から殺すか。」


「フフ、国民一人一人が主権者等と本気で考えているような連中です。ゲルザード様の正体を知れば、絶望か発狂か、それとも抵抗か?」


「・・・とりあえず抵抗する意思のある者はすべて殺せ。原住民も移民もどちらもだ。」


「・・・アースガルドの方はどうします?」


「そっちもあったな? ともかく我に従う意思のある者は生かしておいて構わん。が、それ以外のものは殺しまくれ。そうだな・・・合計500万程の人類をいけにえに捧げればエネルギーは充てんできるだろう。」


「イザベル王国側が150万、アースガルドが350万てとこですか?」


「そうだな・・・イザヴェル王国側は貴様が向かえ。アースガルドはウラヌス、バティスタでいいだろう。我は既に封印も解け、こちらの準備はもう万全なのだ。分かったのなら早く魂を刈り取ってくるのだ。」


「「「御意」」」


 そう言って、直ちにこの場から消える3悪魔。それを見届けながら、今度こそ大願成就が目の前にあるとほくそ笑んでいたゲルザードであったが、直後その表情が変わる。遠く、レムリア大陸の方向にて土の魔力の高まりを感じる。ゲルザードには分かってしまった。土竜が復活したのを。本来ゲルザードは他の精霊竜と同じ神々の眷属である。であるから同格の存在には敏感なのだ。


「マルローのやつめ。結局すべてしくじっていたのか。・・・まあ、よい。我の封印は解け、必要なエネルギーも集まるのは時間の問題である。ダグナーガ様さえ召喚に成功してしまえば勇者など居ても居なくても関係ないのだ。」


 そう呟いて微笑をたたえるゲルザードであった。




1734年 8/22


 ここは旧コトナ村の西方100㎞に位置するユレアの町である。ここには元々の住民の2万人の他に異世界ヴァルハラの移民が5000人程が生活している。占領された当初は抵抗していた原住民も、抵抗さえしなければこれまで通りの生活を保障されるどころか、見たことも無い文明の利器を与えられ遥かに豊かな生活が出来るようになったからか、移民とともに現状を受け入れてしまっていた。


 この町に異世界から移り住んだ者も現在の状況に大きな不満は持たなかった。元々はヴィトの打ち立てた異世界移住政策に乗っかったのである。多少の苦労は覚悟のうえであったが、実際こちらに来てみるとこれまで通りの生活が保障されており、環境も以前の世界ヴァルハラの戦乱が起きる前の状態よりもはるかに自然に恵まれていて、周囲には豊富な魔素もある。はっきり言って快適な生活が待っていたのである。あえて不満を言えば、テレビを通じての放送は娯楽系のものやこの世界に関することものが殆どで、アガルダ帝国と名乗り始めたようだが、政府が何をしているのかや戦争や政治的環境が今どうなっているかは全く知らされることがなく、住民が政治にかかわる機会もなかったのである。


 ここに新たに住むようになった一人のジェームスもそのことに対しては不満を持ちながらも、この世界に来てからの基盤が完成していないために、あえて独裁の形をとっているだけで、基盤が整い次第元の世界のような間接民主制を強いていくのだと考えていた。ヴィトは結局は大国同士の戦争を止めることは出来なかったが、それでも自由と平等を国是とする国家の大統領をしていた人物だ。だから、準備が整い次第、国民に権利を委譲していくと考えていたのである。


 そんなことを考えていた時、不意にテレビの電源が入る。当然であるが、テレビを見るのも見ないのも個人の自由である。だから勝手に電源が入ることは無い。例外を挙げれば、国家の一大事があってそれを全員に知らせる必要があった場合である。今回もそういうことなのかもしれない。そう思いジェームスも注目して見ることにする。すると画面の中で、一人の男が腕組みしながら不敵な笑みを浮かべて立っていたのである。


「国民の皆様、御機嫌よう。 これから重要なお知らせがありますよ。 まず、先日ヴィト大統領は死去されました。」


 この発言に衝撃を受けるジェームス。最近彼の話を聞かないとは思っていたのだ。だが、それでもまさか死んでしまうとは思ってもみない。


「で、副大統領の地位にあったニーズヘッグ様が大統領の地位を引き継ぎ、このアガルダ帝国の新たな国主となられます。」


 ジェームスの頭の中にも顔が思い浮かぶ。個人的な感想だが、嫌な目つきの男だったと記憶している。この時点で悪い予感がしている。


「ニーズヘッグ様は名をゲルザードと改め、アガルダ帝国への力の一極集中を政策に掲げられました。具体的には、これまで減免してきた税を魔素の形でいただきます。その量は・・・」


 画面の中で勝手なことを話し出すマルローという男。魔素を徴収するとかいっているが、その量はこれまでの生活がほぼできなくなるような量で、税の範囲を超えている。民主国家のやることではない。ジェームスは怒りが沸き立つのを抑えられないでいる。


「ちなみに、何からとは申しませんが、お配りしている備品の中に感情センサーを内蔵させていましてね、今回の税はこちらにとってよろしくない感情を持っている方々から徴収することになっています。」


 今の発言の意味も分からず、イライラを募らせていたジェームスであったが、不意に胸の痛みが襲う。するとテレビ番組とは違う声がテレビ自体からしてくるのである。


『そうそう、この器具には呪いがかかっていましてね? こちらが指定した対象から、そちらの意志とは無関係に生命力を吸い取れるようになっているのですよ。・・・あ、御心配には及びません。あなたから頂いた命は有効に活用させていただきますので・・・』


 そんな声を聴いた数秒後、ジェームスはあまりの痛みに気を失ってしまう。・・・心筋梗塞であった。強制的に心臓を止めてしまうことによって、生命力をほぼロスなく回収するという装置がテレビなどの支給された備品に事前に設置されていたのである。・・・ジェームスのように政府に反感を持った者が、この放送を聞いて生命力を抜かれた者が多数出て旧イザベル王国領は大きく混乱することになるのである。のちの統計でその被害は旧イザベル王国領全体で150万にも上った。それがマルローの手によるものだと知る者はごく一部の中枢にいるもの以外誰も知らないのであった。




1734年 8/23


 アースガルド第2の都市メナムナの上空に一柱の悪魔がいた。ウラヌスである。


「フン、面倒なことだ。・・・だが仕方がない。片っ端から殺すとするか。」


 そういって繁華街に舞い降りるウラヌス。そこには国家のありようこそ変われど平穏な生活をしている民衆が大勢いた。その人々が集まるところに向かって炎を吐きだした。一度の炎で50m先まで獄炎に包まれる。そしてその位置を変えて・・・殺戮は繰り返される。・・・当然衛兵もやっては来るが、ウラヌスの槍で5人が一突きされ絶命してしまう。それだけで遺体は原形をとどめていない破壊力だ。それを見て残りの兵は逃げ出そうとするが・・・1時間後、帝都に生存者は全体の10%にも満たないであろう。それほどの大虐殺であった。この街だけで100万近い人命が失われたのである。


1734年 8/24


 バティスタは帝都ガルド沖を飛んでいた。


「要は沢山死ねばいいんだよな? だったらこれでいいんじゃね?」


 津波であった。本来この辺は地震などないところであるが、意図的に魔力を用いてエッダ島が浮かぶ湾で巨大津波を発生させたのである。そうとは知らない一般市民はいつも通りの生活をしていることだろう。このままでは帝都ガルドやその近郊にに住む人々は全滅である。とそこでバティスタにとっては邪魔者が入る。


「させないよ!」


 バティスタの周囲を鎌鼬が襲う。風龍であった。風龍の放った真空の刃がバティスタを切り刻もうとするがそれをすべて躱すバティスタ。


「ちょっとだけ遅かったようだな?」


「?! しまった!」


 バティスタの術法が完成してしまったのだ。高さ20m、幅100㎞の大津波が帝都周辺の海岸線を襲うとそのまま帝都とその周辺が海水に侵食されていく。そしてその津波は沖へと引いていき大多数の人々が海絵と投げ出されていく。


「・・・ああぁ・・・なんてことを・・・許さないよ!」


「フン! 俺の役目は以上だ。貴様と遊んでいる暇は無い。」


「あ! 待て、この野郎!」


 そう風龍が叫ぶのも遅く、あっさりどこかへと転移してしまったバティスタ。拳を強く握りしめた風龍の掌には血が滲んでいたのだった。


次回は7/22予定です。

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