雷神の剣
1734年 7/22
カデナの町を出発して2日目、街道沿いを闇の遺跡目指して只管南下しているレグルス達。微妙な景色の変化しかないのは相変わらずである。周囲には草原が多いため見通しも良い。であるから、ちょっとした変化があれば気が付きやすい状況であるのは確かなので、仮に敵襲などがあれば、かなり早い段階でそれを察知できるはずである。ところが、魔獣の大規模集団が現れるような形跡は全く見受けられない。勿論、襲撃されるのを待っているわけではないので、何もないのは良いことなのではあるが、正直拍子抜けのような感覚を味わっている。
「ねえ、レグ、闇の遺跡はあとどのくらいで着くの?」
「そうだな・・・あと300㎞程で着くと思う。地図で調べた位置が正確だったならな。日数的にはあと4日ってところか?」
「結構歩いてきたと思ったけど、まだまだね。」
「・・・そうか。まだ4日もこんな日を繰り返さなければならないのか。・・・歩くのは良いんだが、それしかできないからな。」
「まあまあ、こう、自然を眺めてると心が和まない?」
「俺にそんな趣味はねぇよ。・・・まあ、ただの愚痴だから気にしないでくれ。」
「そう考えると、馬車の有難味って大きいよね。移動中好きなことが出来るし。」
「それはあるね。僕もしばらく絵は書いてないし。」
「ラルフの場合、暇そうなときは大抵ねてるよね? アンタ。」
「そうなんだよ!・・・そうか、俺に足りないのは昼寝だったのか・・・」
「いや、だからっていきなり寝始めたら普通に置いていくからな。」
「分かってるわ、レグ! 言ってみただけだ!」
そんな会話を4人でしていたところ、道のはるか先に一人の男が立っているのが見えた。歩いているのではなく立っているのだ。とはいえ久しぶりにすれ違う旅人である。・・・そのまま歩いていくと、その人の見た目が徐々にはっきりしてくるが、相変わらず動く様子がない。
まず、筋骨隆々の大男のようで、腕組みをしている。鎧も来ていて、剣と盾も装備しているようだ。そして、やはり何かを待っているように見える。そして更に近づいて気が付いたことは、こちらを睨んでいるように見えることと、ただならぬ気配を発し続けていることである。
『レグよ、気ぃ付けよ。・・・この男ヤバい奴や。』
ゲンも反応したし、少なくとも只の通りすがりではなさそうだ。そして、ここまで近づいたところで、ラルフの表情が変わった。目線を追ってみると、ヤツの腰に下げられた剣に向けられているのが分かる。いったいそのその剣が何だというのか?
そんなことを考えつつ、同時に警戒をしながら、その男に近づいていく。そして、男から話しかけられる。
「貴様らの中に強者はいるか?・・・いや、愚問だな。貴様ら4人とも強者だな。死にたくなければ全力で抵抗してみることだ。」
そう言って、腰の剣を抜いた男は、レグルスにいきなり切りかかってきた。剣の達人だったのか、その振り下ろされる斬撃は鋭く、一撃で人を両断する勢いである。とはいっても、レグルスに避けられないレベルではなく、左腕で軽く受け流そうとしたのだが、・・・受け止めた瞬間、レグルスの全身が硬直する。剣が持つ雷の力で痺れてしまったのだ。麻痺に対しても耐性のあるレグルスであったが、油断もあったのか、耐性効果が働かず、全身がしびれてしまっている。とはいっても2、3秒でそれは回復するのだが、その一瞬が明暗を分ける。
直後、袈裟切りを受けて、体から血を吹き出し、続けざまに男に蹴りを入れられ吹っ飛ぶレグルス。・・・幸い意識は切れなかったようで、自分で回復魔法を掛ける余裕はあったようだ。
「喰らいなさい! ファイアボール!」
エストの大火球が男を襲うが持っている剣で両断され威力を霧散させてしまう。そして背後から強襲したアレクの短剣による刺突はしっかり男の盾で防がれてしまう。さらに一拍遅れてラルフの大上段の一撃が男を襲うが、それを剣で受け止める。そのまま鍔迫り合いをすること十数秒。
「テメェ!! その剣はどうやって手に入れたぁ!!!」
3人が食い止めてくれている間に、自らのダメージを回復させたレグルスが立ち上がったところで、ラルフがこの男に問いを投げかける。・・・確かにあの剣には見覚えがある。そして、ラルフがここまで過剰反応をしている。そこから導き出される答えは、
「ア? どっかのチンケな村を滅ぼした時に、ある男を殺して貰った戦利品だぁ! ・・・ん? もしかしてお前ら関係者か? へ! これが欲しいなら俺を殺してみな!」
これで4人とも、コイツが今は無きコトナ村でギルドマスターをやっていたギブソンを殺した男だということが理解できた。持っている剣は雷神の剣で間違いないだろう。
「貴様ぁ!!」
一度離れたラルフが激高しながら切りかかるが、それを全て受け止め、一瞬ひるんだ隙を、その男、ロキは見逃さなかった。腹部に蹴りを入れられ吹っ飛ぶラルフ。
「フハハハハ いいぜ! やはり戦いはこうでなくては!」
「おい! さっきはよくもやってくれたな! いいぜ、掛かって来いよ?」
レグルスは、ロキを手招きする仕草で挑発する。
「はん? 1度は切られた分際で何偉そうに言ってやがる! 掛かってくるのはそっちなんだが、・・・まあいい。・・・今度こそ殺してやる!」
そう言うや否やレグルスに向かって一気に距離を詰め、一気に切りかかるロキだったが、剣を振り下ろす直前、レグルスの右拳が鎧ごとロキの鳩尾にめり込む。そして呻き声を上げる間もなく拳のラッシュを放つ。十分に練った気を一発一発に込めて。
30秒ほどその猛攻を受け続けたロキは、最後の一撃である右ストレートを受けて10m程転がりながら吹っ飛んでようやく制止する。剣を持つ力は残っておらず、既に着ていた鎧は原型をとどめておらず、既にその役目を終えていた。ロキの顔は自らの流血に染まっていた。頭骨も骨折しているようで、頭の形も変形しており、既に致命傷であろう。
「・・・強えぇねぇか?!・・・やるな!・・・俺は満足だ。・・・はは、これでやっと人間を止めることが出来る。」
ロキがそう言ったとたん、その体が一瞬、紫色の光に包まれたかと思うと、傷ついた人間の体は崩れ去り只の肉塊に変化したかと思うと、すさまじい勢いで肥大し始めたのである。
その見た目の気持ち悪さに、しばし呆然としていた4人であったが、若干恐怖にかられたエストがそれに向かって火魔法を放つ。炎上するが、肥大する速度の方が勝っていたようだ。この状態では、レグルスの生気収束波も効果が無いようだった。そしてとうとう高さ10m程まで肥大した後、急速に異形の形に変形していった。
その姿は、頭部はまるで牛のようであり、頭から2本の角が生えている。胴体は完全に人間のそれである。但しものすごい筋肉量であることを除いてであるが。全身の肌は黒く、下半身には腰布のみを纏っている。そして右手にはどこから出現させたのか巨大な金棒を握っていた。
「これはミノタウロスだな。魔法は使わないが超怪力の難敵だ。」
動き始めたミノタウロスはまるでこちらが見えていないかのように、適当に地面に金棒を叩きつける。その瞬間、地震と呼ぶのも軽く感じられるほど大きな揺れが発生し、レグルス達を襲う。そのため4人とも転倒してしまいすぐに立ち上がることは出来ない。寧ろ金棒の直撃を受けなかったのが幸いである。
このまま第2撃を喰らっては終わりだったのだが、どうやら行動は遅いようだ。もしかしたら、ロキの精神が壊れて理性を失っているのが原因かもしれない。ミノタウロスがもたもたしている間に、起き上がった4人のうち最初に攻撃したのはラルフだったのだが、
パッキン
嫌な音を立てて砕け散るラルフの愛剣。全員距離を取ったのを確認して、再びエストの火魔法が襲う。体が整った今の方がどうやら攻撃が通じるようだった。全身に火が付き、苦しんでいるのが分かる。苦し紛れに金棒を振り回しているが、こちらが見えていないのか見当違いに振り回している。
そのときラルフは、明後日の方向に走り出した、残りの3人は一瞬、?を頭に浮かべたが、すぐに行動の意図を理解する。ラルフが走った先は、ロキだったのもが人として最後にいた場所であり、そこには雷神の剣が転がったままだったのだ。
雷神の剣を手に取るラルフ。そしてすぐさまミノタウロスの後ろに回り込み、右アキレス腱の辺りに斬撃を加える。ミノタウロスは苦しみの雄たけびを上げ、さらに激しく金棒を振り回す。がどうやら移動はできないようだ。腱を切られたのが聞いているらしい。しかも動きが更に鈍くなっている。・・・もしかしたら雷神の剣の発する雷撃がミノタウロスを麻痺させているのかもしれない。
そして正面に回っていたレグルスは、それまでために貯めていた気を一気に収束し開放すると、それは一直線に飛んでミノタウロスの人間で言えば心臓がある辺りに大きな風穴を開ける。そこから、緑色の血液らしきものが流れ出る。そして止めとばかりにラルフがミノタウロスの肩口まで飛びあがり、首に剣の一閃を放つと、それの体と別れた首はそのまま地面に自由落下したのである。
首が地面に落ち、その衝撃から大地が揺れる。とはいっても、先ほどの金棒の振り下ろし程ではなく、少しびっくりする程度の物であった。そしてミノタウロスだったものは、今度はまばゆい光に包まれたかと思うとそのまま風に吹かれたた粉のように消えていったのである。
「倒したのか・・・」
ラルフが少し方針除隊気味に呟く。アレクが軽く肩を叩いている。レグルスもため息をつく。
「ギブソンさん! 敵は取ったぞ!」
そう言って、雷神の剣を天に掲げたラルフ。少し剣が光った気がしたが、それは気のせいではなかったかもしれない。その光は徐々にラルフを包み込んでいく。
「?! これは?」
ミノタウロスとの戦闘中も、雷神の剣を手にしてからのラルフの動きがよくなったとレグルスは感じていた。大体あの巨大な化け物の肩口まで飛び上がって見せたのだ。雷神の剣は所有者を選び、選ばれたものには大きな力を与えるというが、そのことは、ラルフの実際の行動がそれを証明していた。
「ラルフ! お前、剣から認められたんじゃないのか? ちょっとステータス見てみろ?」
「? ああ、そうだな。 どれどれ・・・ん?!」
ラルフ LV95 天職 戦士 剣の才能 現在の職業 冒険者
HP 4153
MP 211+1000
力 2016+2000
きようさ 614
すばやさ 710+1000
魔力 10+1000
技能 剣LV285 盾LV156
+ MP+1000、 力+2000、 素早さ+1000、 魔力+1000
【雷神の剣】装備中
旅の成果で素の実力自体が成長していたのもそうであったが、明らかに雷神の剣の加護を受けているようであった。
「おお? 我ながらすげぇな! つうか、素直にうれしいぜ。」
それはそうであろう。ギブソンさんの次の所有者に認められたということなのだから。
「それはそうと、今のはやっぱり魔王国の差し金だったのかな?」
エストの問いである。尤もな疑問であるし、王都レムルの時のボスと同じように変身したことを思えば重なる部分もあるが、今回は何と1体の襲撃である。当然疑問に思うが、
「絶対にそうだよ。この雷神の剣が証拠だ。ギブソンさんの物を持っている時点でね。」
「あ! そうか。・・・そうだよね。」
レグルスの説明に納得したようだ。そして気を取り直し旅を続ける4人。この日から4日後、無事闇の遺跡に到着し、闇の宝玉を手に入れることに成功したレグルス達。どちらが先かは分からないが、とりあえず待ち合わせ場所の王都レムルに転移するレグルス達であった。
次回は7/2更新予定です。




