ロキ
1734年 7/20
レグルス、エスト、ラルフ、アレクの4名は王都レムルから徒歩で南下し、闇の遺跡をを目指している。今のところは大きな事件に巻き込まれることも無く順調に進んでいて、既に道のりの半分は過ぎているはずであった。
「か~! どこまで歩いても景色変わらないな!」
ラルフが叫んでいるが、街道沿いは見渡す限りの草原。遠くに所々山があったりするのだが、特に道が曲がりくねったところもなくここまで歩いてきている。景色の変化はほんの少ししかなかったため、同じところを延々と歩いているような錯覚を受ける。ここに来るまで2つ程そこそこの規模の町があったし、そこで宿泊もしたが、あとはすべて野宿である。まあ、レグルスがしっかりしたテントを張るので、安全面は問題ないのだが、ラルフ的には刺激が足りないのである。
「今日のこの後の予定は?」
「今日は残り時間を歩き続けても次の街にはたどり着かないから、スマンがまた野宿だ。風呂も作るし、飯も保証するから我慢してくれ。」
「まぁ、私は良いんだけどね。・・・ラークも我慢しなさいよ?」
アレクが今日の予定を聞いてきたのでレグルスがいつもの返事をする。その内容にエストは特に不満を感じてはいないようだが、ラルフは少々不満なようだ。
「分かってるけどよぅ、なんかあまりにも変化がないから、旅してるっていう気がしないんだよ。いやな、別に野宿が嫌って訳でもない。その割には快適だしな。向こうの馬車の旅とそう変わらないしよ。」
「じゃ、何なのよ?」
「言ってもしょうがないのは分かっているが、せめて景色が変化してくれればいいだが、今回に限って言えばそれも無いしな。暴れることもできてないし、これで今まで町にも寄らなかったら、今頃気が狂ってるぜ。」
アレクとエストは半分諦めた視線を向けている。ラルフも言っているだけだと分かっているので、少々不平を言っても気にはしないのだが。
「!・・・何かが来るぞ!」
レグルスが言う通り、南東の方角から何かがこちらに向かってくる。どうやらバッファローの群れなようだが。・・・いや、群れというには大袈裟か? 全部で5頭だな。 気が立っているようにも見える。
その5頭のバッファローはそのままこっちに突っ込んできたが、今更これくらいで慌てる我々ではない。エストの先制の火魔法でダメージを与えた後、ラルフとアレクの手持ちの武器で止めを刺してゆく。5頭ともすべて仕留めるのは一瞬であった。
久しぶりに退屈しのぎが出来ていい顔をしているラルフ。程よく発散が出来て嬉しそうである。その横で、淡々と毛皮を剥ぎ、次々に枝肉にして収納に収めていくレグルス。まだ血抜きをしていないのですぐには食べられないが、後日肉料理が振る舞われるようになるのは確実であった。
1734年 7/21
前日はちょっとしたアクシデントは起きたものの、翌日はいつも通り何もなく、順調に旅を進められたレグルス達は、レムルを出てから3つ目の町カデナに到着した。久しぶりの町に皆の表情は明るい。
「今日は飲みだな。酒場に行こうぜ!」
「まあ、いいんだが。ラルフ、明日も相当歩くからな。あまり飲みすぎるなよ?」
「レグ、分かってるって。 いくぞ~!」
「「・・・・・」」
「・・・スルーはヤメレ・・・」
で、酒場に到着した4人は、早速料理と酒を注文し、程々に出来上がったころ、少し暇になったからなのか、酒場の店員のお姉さんが話しかけてきた。
「お兄さん達はどうしてこちらに?」
「ああ、ちょっと南にある遺跡に用があってな。」
何となくの世間話に、本当のことを言いつつも濁して答えるレグルス。
「そうなんだ。・・・でも気を付けた方がいいよ?」
何故だ? と聞き返したら、店員さんは次のように答えてくれた。
「南に向かった旅人が悉く被害に逢っているの。ジャンナ王国方面に向かう商人とか。」
「生き残った人とかはいないのか?」
「何人かはね。だから、どんなものに襲われたのかっていう話なら分かっているんだけど・・・」
生存者がいれば詳しい話が聞けると思ったレグルスだったが、妙に歯切れが悪い。何故だ?
「いや、それがねぇ。とても信じられないような話ばかりで、襲われておかしくなったとしか思えない話だったからね。・・・」
「どんな話だったの?」
アレクが聞いてみたところ、その詳しい内容を聞くことが出来た。曰く、
「ある1人の男が道の中央で立っていて、『貴様らの中に強者はいるか?』と聞いてくるの。で、いないって言うとそのまま殺されるらしい。いるって言うと、『勝負しろ!』とか言い出して暴れるの。しょうがなく護衛か誰かが出てくると勝負させられて、本当は強くなかったりするとそのまま殺される。で、その強者が本気で強かったりすると、・・・」
正直、「ここまで話を聞いて、変なやつとは思うが、信じられない話というほどでもない。」と思って聞いていた4にんであったが、その続きを聞いて感想が変わる。
「『貴様が強者というのは本当だったらしいな。ならば俺も本気になるとしよう!』とか言って、牛頭の巨人の姿に変化して襲ってきたって。それを見たその強者は一目散に逃げだしたと。って、人が変身した後巨大化するとかありえないでしょ? だから、襲われたと狂って妄想と現実の区別がつかなくなったんだってみんな話してるわ。でもね、多くのの人々が行方不明になっているのは本当だし、何かの脅威があるのは確実だとは思うの。だから、気を付けてねって話。」
レグルスは成程なとは思った。確かに簡単に受け入れられる話ではない。が、自分たちはそれに近い例を自分達で経験済みであった。だから、その逃げてきたものは本当のことを言っていたのだろう。だから、自分たちの経験も話してあげることにしたレグルスである。
「・・・ああ、ならこれも信じられないと思うが、実は俺たちは王都レムルから来たのだが、レアドがどこかの軍勢に攻められた際、その中心人物が大猿に変化したんだ。」
「うっそだ~! で、逃げてきたっていうんでしょ?」
「いや、逃げてきたらこの国滅んでるって。あそこ王都なんだし。じゃなくて倒したよ。俺たちが。」
「・・・へ? 本当に? ・・・・えええええええ~!・・・じゃあ、この先、巨人に変身する化け物も本当にいるってこと?・・・ヤバいじゃん!!」
さっきの生存者の話が彼の妄想ではないと分かり、動揺が激しくなった。
「お姉さん落ち着いてよ。私たちはそんな奴を倒してるんだってば。だから、次も見つけたら倒しておくから心配しないで。」
エストの話を聞いて少しは落ち着いたか?
「本当? 絶対だよ! 約束だからね!」
「いや、約束はできないし。・・・だが俺たちも死ぬつもりもないからな。そのうちうわさが流れてくると思うから、それで確認してくれ。」
「ブゥ~分かったわよ。まあ、自信ありそうだし大丈夫かな? ちゃんと生きて旅するのよ?」
「いや、死んで旅は出来ないし。」
「そんなツッコミはいらない・・・あ、時間取っちゃってごめんね、あたし話好きだからつい・・・閉店まで時間あるからまだまだごゆっくり・・・」
そういって隣の席の注文を取りに行った店員さん。・・・数分後サービスでもらったワインの瓶は4人で美味しくいただいた。・・・それはそうと、思いがけず重要情報を聞けたかもしれないレグルスであった。
レグルス達が酒場でくつろいでいた頃、カデナの町から100㎞程南下した地点に、雷神の剣を腰に差した、筋骨隆々の男が一人立っていた。本来魔物の軍勢を与えられているのだが、あえて召喚してはいない。
あの日、ゲルザードによって無理やり飲み込まされた禍々しい力によって、自分は人間とは異なる別な生物に作り替えられたように感じていた。そのあまりの力に体は歓喜しているのだが、理性が納得していない。・・・与えられた力が強すぎるのだ。そのため、あれだけ溢れていた戦う意欲が今は無くなっている。
思い出されるのは、戦っていた時に感じていた楽しさの記憶のみだ。何故そこまで楽しかったのか・・・そこで、自分の命も賭けながらギリギリの戦いをするのがよかったのだと思い至った。だから、魔獣の軍勢は置いてきた。そして、強者が現れるのをここで待ち続けている。・・・実際は待ちきれなくて、戦う価値のない者を手に掛けて暇つぶしをしていたのだが、全く満たされなく鬱憤は溜まっていくばかりだ。
唯一まともな戦闘力を持ったものが現れたと思ったら、自分が変身した途端逃げてしまった。商隊の護衛だったみたいだが、腹いせに護衛対象をミンチにしてやった。まあ、逃げなくても奴を倒した後同じことをしたであろうが・・・どのみちアイツ程度では、変身後の俺を倒すこと等、できはしない。・・・俺は心のどこかで、俺を倒してくれるものを探しているのかもしれない。そんなことを考えながら、もしかしたら来るかもしれない、勇者一行をロキは待ち続けるのである。
次回は6/30です。




