転生者コーネリア
1734年 7/26
道中、商隊が竜の群れに襲撃される現場に遭遇したリーフ達は、生存していた少女コーネリアを保護し、サラの町に到着していた。当初はここで保護した少女と別れるつもりだったのだが、ここへの移動中、話を聞いてみたところ、この子はジャンナ王国の北部の街モルダビ出身で、父の仕事に偶々同行していたそうだ。そこで、どうせなら祖国のジャンナ王国まで連れて行った方がいいだろうということになったわけである。
ラーク、ミリアム、リーフ、カノーの4人は情報収集がてらサラの町を散策中である。現在コーネリアは取った宿でお昼寝中だ。偶々この町に到着したとき寝ていたからなのだが。なのでそのまま起こさないように部屋に置いてきている。起きた時に一人だと不安になるだろうからとカペラもお留守番だ。
「遺跡のことは結構な人が知っていたよね?」
「ああ、道も整備されているようだし、明日には光の宝玉を入手できるだろう。」
カノーとラークが話している通り、光の遺跡の正確な位置は町の人への聞き込みで簡単に分かってしまった。あとは明日現地に向かうだけである。
「ここまで、殆ど魔王国側の妨害行動は無かったですよね?」
「ですわね。しいて言えば、あの商隊への襲撃なんでしょうけど、私たちに対してではなかったですわよね?」
「だが、あの竜の群れを統率していたやつは、レアドの襲撃の時のヤツのように体を変化させていたな。そう考えると、魔王国の手の物なのだろうが、あれに何の意味があったというのか。」
リーフ、ミリアム、ラークが思った疑問を口にしたのだが、それに関しては持っている情報が少なすぎた。このまま話していても答えは出てきそうになかった。
「案外、僕らを待ちきれなくて、適当に襲ってただけだったりしてね?」
カノーの適当な答えを否定できる要素もないのである。寧ろ正解の可能性もある。いずれにしろ、これから何かがあるかもしれないと警戒しておくに越したことは無いであろう。
「それにしても、コーネリアちゃんって、10歳とは思えないほど大人ですわよね?」
「だな、両親を亡くして悲しいだろうに。こっちの質問には的確に答えてくれる。」
「・・・たどたどしさが全くないですよね? あの位の子だと、知らない人に話しかけられたら、『あの~』とか『え~と』とか言いそうなのに、まるで大人と話している可能な感じがすることもあります。」
ミリアム、ラーク、リーフも言う通り、話の受け答えが10歳のそれではないのは皆感じていた。どこから来たのか、どんな目的てあの場にいたのか、話の視点が子供のそれではないのである。
「寧ろ、襲ってきた竜のことなんかも向こうから聞いてきたね?」
カノーの言うように、本来聞きたくないであろう、自分たちが襲われた状況を聞いてきたし、それを聞いた後何故そんなことをしたのかとか、こっちも推測しかできないことも聞いてきた。その過程で、あの竜たちが魔王国の軍勢だったかもしれないと話したら、魔王国とは?と聞いてきたので、なるべく簡潔に話そうとしたら、事細かに質問されたのである。それはもう、イザヴェル王国の大半が占領されたことや、アースガルド帝国を滅亡させたこと、世間一般に知られている、魔王と呼ばれるヴィトのことや、それを隠れ蓑に暗躍する本当の魔王ゲルザードやその部下達ことまで。
「特に、魔王ヴィトのことを熱心に聞いてましたね。」
「ああ、その正体が異世界から来た人間だとかな。まあ、魔王国の話は有名だろうから、どこかで聞いたことがあって、興味がわいたのかもしれないが。」
リーフはコーネリアが魔王ヴィトという言葉に過剰反応したことに強い印象を持ったようだ。それに対しミリアムは今後のコーネリアのことが心配なようだ。
「あの子の家は大きい家のようですし、そこの家の使用人が預かってくれるといいのですが、両親がいないとなるとそれも難しいですわね。」
「その辺はジャンナ王国のお偉いさんにでも話してどうにかしてもらうしかないだろう。」
自分たちにできることは限られているが、安心して任せられる人に預けるまでは責任を持とうと考えているラーク達であった。
「・・・ん?」
「あら、目が覚めた? ネリアちゃん、お茶でも飲む?」
「うん、ありがとう、カペラさん。・・・ここどこ?」
「ああ、サラの町の宿屋よ。」
ボーっとした頭がだんだん覚醒してくる。ああ、ここに着くちょっと前に馬車の中で眠ってしまったんだっけかと私コーネリアは思い出した。
「ずっと見ててくれたんですか? ・・・ごめんなさい、寝ちゃって。」
「別にいいのよ。・・・あなたの寝顔を見てニマニマしてたから。退屈はしなかったよ。」
「他の人は?」
「サラの町を見に行ってる。そのうち戻ってくるわよ。」
竜の群れに襲われてから数日が経ち、頭の中がかなりクリアになってきた。どうやら、私は2度目の人生を与えられたらしい。1度目の人生、マーニャはあの喫茶店でミーシャとお茶をしている最中に閃光と爆風とともに終わったらしい。あれは、今思えば核攻撃を受けたのだろう。その後あの世界がどうなったかは分からないが、それによって私を失った父ヴィトがどういう行動をとるか想像するに難しくない。
それはそうと、私はコーネリアとしてこの世界で2度目の人生をおくっていたのだが、まさか竜の襲撃という事件がきっかけで、前世の記憶が戻ってしまうとは。どうやら私は転生というのをしてしまったらしい。問題はこれからのことである。両親は他界してしまった。やりきれない思いはあるが、こればっかりは運がなかったと諦める他は無い。が、いなくなったことで、私たちが住んでいたあの家は維持できないだろう。一度帰りはするが、使用人の皆さんにはお暇を与えるしかないだろうし、私一人で生きていくしかないのである。10歳の身で何ができるのか。これまでの私は普通の10歳の女の子であった。だが、前世の記憶が戻った今ならうまく立ち回る方法が見つけられるかもしれない。・・・今のところノープランだけど。
それよりも、一昨日だったか、きっかけはあの襲ってきた竜の正体を聞いたことだったと思うが、そこで魔王国のことが聞けた。まあ、コーネリアとしても多少は聞いたことがある話だったが、その話の中で引っ掛かったのが魔王ヴィトというフレーズである。父と同じ名前というのが因果を感じる。というよりも、前世のころ、父は異世界に行く方法を見つけたと騒いでいなかったか? その世界は自分たちの世界ヴァルハラよりも魔素が多い世界で、環境的には自分たちも生活可能だとか、将来の移住も視野に入れられるとか話していなかったか? だとすると、マーニャとしての私が死んだ後、核戦争にでもなってヴァルハラがとんでもないことになって、こっちの世界に来ているとすれば? しかも平和的な移住ではなく、元の住民を虐げる方法でそれをやっているとすれば? それは許されないと思うし、本当であれば止めなければならない。
まあ、本当にそうかはまだわからないけど、ラークさん達がそれを止めようとしているなら自分も付いていった方がいいのではないか? とか思ってしまう。 まあ、自分がそう思ったとして10歳の女の子を連れて行ってくれるかは別問題なのだが。というか、それは無理であろう。かつてのマーニャだった私は土魔法を得意としていた。父もかなりの魔力を持っていたがそれが遺伝でもしたのだろうか?
土魔法は通常、身体強化とか回復魔法とか、初球の魔法であれば地味な効果の魔法が多い。が、ある一線を超えると他の属性の魔法と一線を画す程強力な魔法となったりする。土魔法は名前の通り、土に由来する魔法で、武器や防具を強化したり大地の力で体を治癒したりして活用するのが普通だが、本当は星そのものや重力、そして原子核にもその効果を発揮できる魔法だったりする。ただそれを使うためには、莫大な魔力に加え、それを認識できる科学の知識も必要だったりするのだが。重力の概念が無ければ隕石魔法の【メテオ】は使えないし、原子の構造すら知らない者は、いくら強力な魔力があっても核魔法【フレア】は発想すら出てこないであろう。前世の私はその両方を持っていたため使うことが出来たのだが、余りにも危険なもののため使用したことも無く、使えることを誰にも話したことも無かったのだが。まあ、話したりしたら普通に引くよね? いつでもアンタを殺せるよって言っているようなもんだし。
で、今の私は、前世の記憶が戻る前はただの少女をやっていただけなので、魔法の訓練はしたことも無く学校で最低限の教養を教えて貰っていたのみであった。その範囲では魔法の授業もあったので、初級の魔法はいくつか使えたりはするのだが。でもその程度である。目の前にいるカペラさんのような魔力は持っていないはずである。・・・あれ、私っていつ他人の魔力を感じられるようななった? 前世のときにはできてはいたが、今はそんなことは出来ないはず。・・・いやいや、現実をありのままに受け入れなければ真実は見えてこないのだよ。・・・これは使えるようになったと考えるべきだろう。・・・きっかけは、そう、記憶が戻ったことだよね。・・・ふむ、前世でできたことが今できるとなれば自分の立ち回り方も変わってくるか。
「はい、お茶いれたわよ。・・・随分考え込んでたみたいだけど? 大丈夫?」
かなり心配させてしまったようだ。昔から一度考えこむと他人の話し声とか一切聞こえないで思考の海にのめり込むので、よく「無視するなー!」ってミーシャにも怒られたっけ。
「ごめんなさい。」
「別にいいのよ。ゆっくり整理して考えれば。相談事があれば言ってくれていいのよ?」
「有難うございます。まだ、これからどうしたらいいか分からなくて。」
「そんなに心配しなくて大丈夫よ。私は別にして仲間には偉い人もいるし、何とかなるって。子供なんだから、もっと大人に甘えてもいいのよ~。」
「・・・カペラさん達に助けられて本当に良かった。」
「・・・何というか、ネリアって大人っぽいよね。話し方とか、考え方とか。」
バレるはずはないのだが、そう言われてしまうとギクッとしてしまう。でも、今更子供の振りをするのもね。というか、記憶が戻った今では戻る以前の口調に戻すのは抵抗感が半端ない。もう不自然でも何でもこのまま通すしかない。・・・元の私を知っている人に会ったらどうしようか・・・う~む。
「・・・そうかな?・・・えへへ。」
「あ、今のはちょっと子供っぽかった。緊張ほぐれてきたかな?」
意識しないで接することが出来るようになるのはもう少し先のようである。
1734年 7/27
宿で一夜御明かしたリーフ達は、そのまま光の遺跡を目指し、辛うじてついている道に沿ってジャングルの中を進んでいる。
「あれがそうじゃないの?」
カペラが言うように目の前には一般の民家とそう変わりがない大きさの石造りの建造物が100m程先に見えていた。更に近づいてみると、ドアのようなものは無く、出入りは自由なようであった。とはいえ、盗難防止のため、アルカディア王家の認証した札が無ければ宝玉は持ち出せない仕組みになっているらしく、事前にそれは渡されていた。
遺跡の内部は驚くほど何もなく、中央になる台座に光の宝玉が乗るのみであった。ミリアムはそのまま光の宝玉に手を伸ばしてしまい、結界に手をはじかれてしまう。
「・・・痛いですわ。」
涙目のミリアムを慰めつつ、預かっていた札を掲げると、展開していた結界が無くなったのが分かった。それからリーフが宝玉に触れるとあっさり手に持つことが出来たのである。
「よし、これで集まった宝玉は3つ目だな。あとはレグルス達が順調に行っていれば、4つ目も手に入っているはずなんだが。」
「ラーク、そしたらあたしたちは、あとはレムルに戻っても大丈夫な感じ? 転移魔法起動しちゃうけど?」
「ああ、カペラ頼むわ。」
その後、カペラによってゲートの魔法が起動し、予定通りレムルの街に戻っていくラーク達。そこで、あとから来るはずのレグルス達を待つのだった。
次回は6/28です。次回よりレグルス達の動向に話は移ります。




