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格闘聖職者の冒険譚  作者: 岩海苔おにぎり
第10章 封印された土竜
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コーネリアの混乱

神聖歴 2235年 4/23


 私、マーニャは、祖国であるアマルガン連邦を離れ、同盟国であるヤマツ皇国に異国の文化を勉強するために留学に来ている。この国に来て2年目であるが、自国とは言語だけでなく、気候、衣食住に関する風習、物事に対する考え方等、様々な面で異なり大変興味深い。


 そうそう、部屋に靴を履いたまま上がろうとしたら怒られたなぁ。この国は部屋には靴を脱いで上がるから、それで怒られたんだけど。あとは、書物では読んだことがあり事前に知ってはいたけど、食事の時には箸を使ったり、生のお魚を食べたり、自分の国では絶対やらないことがここでは普通だったりしてとにかく面白い。お陰で毎日が刺激的であるし、留学してから退屈なんかしたことがない。


 同盟国だということで、父は最終的には留学を許してくれたが、ヤマツ皇国の隣国のイーラザニア帝国とアマルガン連邦は200年以上も緊張関係にあり、当然同盟国であるヤマツ皇国もイーラザニア帝国とは敵対関係にあった。そのため、いつ攻撃されるか分からないような国に行くことは許さんとか言われていたんだけど、私が父に後を継いで、将来政治家になるために他国の文化も学んでおきたいと時間を掛けて説得した結果、何とか折れてくれたのだ。


 そう、私の父は政治家をやっていて、アマルガン連邦の大統領をやっていたりする。現在2期目で、国民の支持率は70%を超えていたりする。まあ、すごい人なのは確かなのだが、私からするとただの親ばかなウザイ親父なだけなのだが。


 そもそも、アマルガンとイーラザニアが敵対関係になったのは、この世界ヴァルハラのエネルギー問題が大きいだろう。魔法と科学の力で発展してきたこの世界であるが、200年前のころから、魔素の枯渇が叫ばれ始めた。そこで、魔素の使用制限が世界中で協議され始めた。そして両国がその魔素を消費する2大大国だったことから、どちらのグループがどれだけ魔素を使用するかで揉めたのである。


 歴史を遡っても、両国は宗教が異なることから対立してきた経緯もあって、何度も戦争の直前まで緊張を高めたりもしたのだが、両国とも強大な軍事力を誇っており、一度戦争を始めてしまえばそう時間を掛けずに世界を滅ぼしてしまうだろうという学者たちの研究もあったこともあり、それが戦争をさせないストッパーの役割をしていたのであった。


 そんな状況であったから、態々敵国の近くに留学に行くという行為が、父親として、そして誰よりも政治に詳しいものとして心配だったのだろうが、逆に私は心配してはいない。それは、この国ヤマツ皇国が戦争という手段で紛争を解決しない国であるからである。あえて武装をしないからこそ、逆に他国はこの国には戦争を仕掛けてこないという状況を作り出せていたのである。また、この国は、個人に対しても国家に対しても思いやりを大切にしている国である。だからこそ、イーラザニアもここヤマツには一目を置いているのであろう。ちなみに、イーラザニアとヤマツは隣国ということもあり、2000年以上も前から国家として関係を築いており、大昔は戦争をしたこともあったが、基本友好関係を結んでいたりする。国際情勢的に両国が対立しているからと言って、戦争の心配をするのは早計であると私は思う。結局のところ、父ヴィトは心配しすぎなのだ。


「ねぇ、・・・ねぇってば!・・・ちょっとマーニャ聞いてる?」


「あ、ゴメン。ちょっとボーっとしてた。」


「ふふ、ま~た難しいこと考えてたんでしょ?」


 今は皇国大学の学友のミーシャとお茶をしていたのだった。イカンイカン。


「で、何の話だっけ?」


「ほんとに聞いてなかったのね。いやさ、もうすぐ大連休があるじゃん?」


 そうなのである。この国は4月末から5月初めまで、連続で10日の連休が予定されている。その期間は大学も休みだったりするので、その話なのだろう。


「どうするの? どっか出掛ける?」


「私・・・旅行行きたい!!」


「行きたいって、どこよ?」


「・・・そおねぇ、これからの時期だと北の方とか暑くなくていいかも?」


「フロノの方とか? あそこの花とか綺麗っていうじゃない? いいかもね?」


「そうそう。それに、あそこは温泉も有名なのよ。温泉の香りを味わいながら湯につかる・・・イイワ。」


「・・・もしかして、硫化水素? 嫌よ? まだ死にたくないし・・・」


「そんな身もふたもない言い方して。ちょっとくらいなら、あの匂いが癖になるっていうか・・・ねぇ?」


「それに、ヤマツの人って、温泉に水着も着ないで入るでしょ? ちょ~と抵抗感が・・・」


「ああ、アンタ胸無いしね? ちなみに混浴じゃなかったはずよ?」


「混浴だったら即行却下よ。・・・つうか、私だって胸くらいあります。・・・微乳なだけで・・・」


 しきりに温泉をプッシュしてくるミーシャは巨乳だったりする。・・・余裕か!


「はいはい、でもいいでしょ? 料理も美味しいっていうし、それに・・・新たな出会いもあるかもよ?」


「! マジっすか?」


「・・・ああ、そこ真剣になられても・・・まあ、可能性はあるよね? 私も夢くらい見たい。」


 そりゃそうだ。そう簡単に男と出会えれば苦労は無い。正直、ここに竜が気に来る前は、異国の男性と触れ合える機会があるかなぁっと期待していたのだが、ちょっと微妙なのばっかりだったし。


「じゃあさぁ、ホントにフロノ行く? いつから?」


「・・・そうねぇ、4/30から5日くらいがいいかもね? OK[ならもう予約取っちゃうけど?」


「私はそれでいいわ。じゃ準備しとく。」


「アリサとキョウコにも声掛けたら多分来るわよ?・・・あとは誰誘おうかな?」


 ミーシャがそんなことを言いながら、思案を始めたその時、喫茶店に設置してあるテレビが急遽切り替わる。ついさっきまではバラエティー番組をやっていたのだが、ニュースに切り替わったようだ。・・・何々・・・


『本日、イーラザニア方面から我が国めがけて謎の飛翔体が飛行中です・・・』


 アナウンサーが穏やかではない表情で話し始める。・・・まさかミサイルじゃないよね?


『・・・ピロリロリロリロ・・・ピロリロリロリロ・・・』


 自分たちのも含めて、携帯電話が一斉に鳴り出す。慌ててみると緊急避難速報の文字が・・・飛翔体の落下予定地点は・・・ゲ! 皇都じゃん? マジ?


 慌てて外に出ようと思ったが、どうせそう時間もかからずここに来るのである。今からどこに行こうというのか・・・そう思って外を見ると、既にどこからか出てきた人々によってパニックが引き起こされていた。・・・これ外に出ても無駄だわ。


「どうしようか?」


「このままここに居よう? どうせ出てもどこにも行きようが無いよ? 一応建物の中だし、誤報の可能性もあるし・・・」


 ミーシャが聞いてきたからこう答えたが、正直自分の答えが正しいかは自身が無いし、そもそも正解があるのかも分からない。やりようがないなら慌ててもどうにもならないのである。


「・・・何か・・・達観してるわよね。・・・よ! 流石未来の大統領候補!」


「そういうアンタも余裕ね?」


「まあね、あんたが落ち着いているからだけど・・・ね。」


 自分たちと同じように、店の中で待機する人もいるようだ。ここからでは地下へのは入り口は遠く、速報が流れた時点で外に出ても人の波に攫われただけだろう。・・・そう思い、誤報であってほしいと祈ること10分。窓から激しい閃光が入り込んできた。そのことに驚く間もなく、数秒遅れで強烈な爆風が、建物ごと私たちを吹き飛ばした。私の思考はここで止まる。・・・




1734年 7/21


「・・・ん・・・?!」


 今まで寝ていたのだろうか? 気が付いたら、どこか建物の中のようである。・・・否、このほどほどに感じる振動は現在の居場所が移動中であることを示している。でもこれはバスなどの自動車や列車でもないようだ。自分は今まで乗ったことも無いが、これはまさか馬車か・・・いや、本当に初めてか?・・・割と最近馬車に乗っていなかったか?・・・」それも両親と・・・あれ?・・・記憶が混乱しているのか?・・・私は大学生だったはず。大人にはなっていたはずだ。・・・いや、自立していない人間が大人かと言えば言葉に窮するのだが、今の私の体は・・・10歳位に縮んでしまったかのような感じである。・・・あれ? そもそも私は10歳で良かったんじゃない。そして、ママとパパと旅行をしていたはず。・・・馬車で。


 益々混乱してきた。状況を整理しよう。私の名前はコーネリア。・・・あれ? 同時にマーニャって名前も浮かんだんだけど?・・・そして、両親の名前はモリソンとガラシャ。・・・あれ、これもヴィトとスカーレットという名前も同時に浮かんだ。一瞬知り合いの名前かと思ったが、近所の人にも親戚にもそのような名前の人はいない。そして私はまだ10歳のはずだが、どうして大人になった時の記憶があるのだろう? 


 そのような思考を始めてから数分してようやく自分は10の女の子のコーネリアでパパの仕事に便乗して旅行をしていたのだと思い出す。そしてママと鹿を見ていなかったか? そしてその鹿に黒い怖いものが集まりだして・・・そしたら急にパパとママが慌てだして、馬車を急がせてたっけ? あれ? そこからの記憶が・・・そこでパパに眠らされたような・・・それからどうなったの?・・・それに、まるで他人のような、それでいて自分のような記憶は?・・・しかもいたところが全く違うところの記憶のような・・・っとここまで考えていたところで声を掛けられる。


「お? 気が付いたようだな?」


「オジサンだれ?」


「グッ!・・・お兄さんはラークっていうんだよ。」


 他のお兄さん、お姉さん達が心配そうに私を見ている。


「心配しなくてもいいぞ? お兄さんが街まで連れて行くからな?」


「あれ? パパとママは?」


 今更ながら両親の不在に気が付いてしまった。それに一緒に旅をしていたパパに雇われていた人たち。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・ごめんね、あとで落ち着いてから説明するから。」


 ラーク兄さんは無言になったし、カペラという名前のお姉さんがとても言いにくそうに話している。さっきの状況を思い出せていたので、状況からあの黒く怖いものに・・・というか、あれは竜ね、それに襲われてしまったのだと。もう両親は・・・自分は奇跡的に助かったのだ。・・・だから言いにくそうにしているのだと分かってしまった。


「・・・だいたい分かったよ。助けてくれてありがとうございます。そして両親は死んじゃったんでしょ?」


 ラーク兄さんは顔を背け、ミリアム姉さんは私の頭をやさしく撫でてくれた。まだ混乱が収まらない私は撫でられながら再び寝てしまうのだった。

次回は6/26です。

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