襲撃された商隊と遺児
お久しぶりです。今日から平常通り2日に1度の更新が出来そうです。
1734年 7/18
ラーク、ミリアム、リーフ、カペラ、カノーの5名は、レムルの都を出て光の遺跡を目指して北西へ進んでおり、現在はその道半ばといったところである。もうすぐアルジェの街に到着するのであるが、目的の光の遺跡まではあと1000㎞程は進まなければならない。
「久々の大きな街ね。・・・今日はゆっくり眠れそうだわ。」
「カペラは今までもゆっくり寝てなかったっけ?」
「馬車の中で寝るのとは安心感が違うのよ! まあ、外に寝るよりは大分ましだけどね。」
「そんなもんかね~」
「カノーは大自然の中で暮らしてたから、その辺が分からないのよ。私のような都会人の気持ちが。」
「・・・へ~・・・スゴイネ・・・」
「・・・アンタ、ムカつくわ。」
カペラはアクタというかなり大きな街に住んでいたため、都会人という表現は必ずしも間違っていないのであるが、彼女はそこのスラム街の出身である。なので、カペラに都会人と主張されると違和感があるとリーフは思うのだが、そこはあえて口にはしない。・・・触らぬ神に祟り無しである。
しばらくしてアルジェの街に到着した一行は、日中は思い思いに時間を潰したのち、夕刻時には酒場に向かい、夕食を摂っていた。
「・・・ここの食事・・・美味しいですね?」
「ですわねぇ~。私はもう少しサラダとかも欲しかったですけど。」
「・・・確かにうまいな。食材もいいものを使ってるし、料理人の腕もいいんだろうな。これだけ肉を使っているのに諄さがない。・・・出されたワインもよく料理に合っているな。」
リーフ、ミリアム、ラークが口々に料理の感想を言っている。頼んだ料理は肉料理ばかりだったのだが、ステーキは表面のみしっかり焼かれているだけのように見えて、内部はレアの状態でありながらしっかり暖かく、噛みしめると肉汁が口の中に溢れてくる。煮込み料理も、いったい何日かけたというのか、じっくり煮込まれていて、フォークで簡単に崩れるし、それでいて肉のうまみが外部に逃げていない。とはいえ、こう肉ばかりでは野菜も欲しくなるという、ミリアムの意見も尤もであったのだが。
「・・・サラダ頼むなら頼んだらいいんじゃない? メニューにあったよ?」
カノーが指をさした箇所には、【店長のこだわり、森の刺激!!】というメニューが書かれていた。これはサラダなのか? 他のメンバーが疑問に思う中・・・
「すいませ~ん! これお願いできますか?」
「・・・ああ、森の刺激ですね? 少々お待ちください。」
頼んでしまった・・・。確かに野菜っぽい気はするが、刺激と書いてあるところは非常に気になる。そして10分程待つと、確かにぱっと見、普通に見えるサラダが運ばれてきた。お好みで掛けるドレッシングも付けてくれるようである。・・・普通においしそうであった。
「へ~、赤、黄、緑と色とりどりでかわいいじゃん! 頼んで正解だったね。」
この時点でリーフは嫌な予感がした。他の者は感じていないようだが、若干だが鼻を刺すような刺激臭を感じていたのだ。・・・特にあの赤い破片が怪しい・・・そんな中、
「じゃ、早速頂きま~す。」
そういって、赤い野菜(?)片も含めて取っていく。それを見て後で取り分けられたらかなわないと思い、赤い破片を除き自分の分をさりげなく取り分ける。そして、
「お!!・・・結構いけるね? 赤いのがいいアクセントになってるよ!」
カノーは気に入ったようだ。それを見て安心したのか、ラーク、ミリアム、カペラも自分の分を取り分けてゆく。勿論赤い破片もだ。カペラは赤いのを多めにとってしまったかもしれない。
「・・・ほんと綺麗な野菜よね?・・・ドレッシングをかけてっと。ではいただきます。」
「・・・あばばばば・・・かりゃぃ・・・てか、痛い・・・」
ラークとミリアムもそろって悶絶している。リーフは事前に危険を察知していたので、自分の取り分にはヤバいのは無い。それでも本来辛くないはずのものも、赤いものに汚染されたのか、少しピリピリしていたが。
「え~?! 美味しいよ? これ!」
カノーは一人主張するが、全員食しているので、賛成は得られない。
「・・・ど・こ・が・お・い・し・い・のよ!」
「やだな、この赤いのなんか、辛くて最高においしいじゃないか?」
カノーは辛いものに特別強いようだった。激辛料理を平然と食べるエルフ。シュールだと思ったのはきっとリーフだけではないだろう。
「・・・でも、おかしいですわね、人一倍辛いものが苦手なリーフが平気そうだったから、私も安心しましたのに・・・って、あ?・・・リーフずるい。一人だけ赤いの食べてない。」
とうとうミリアムに見破られてしまったリーフであった。その後一人だけ味合わないのはズルいと、カペラは何とかリーフに食べさせようとしたのだが、リーフが抵抗している間に、カノーがすべて食べてしまった。・・・その後詳しくメニューを見たら、盛り合わせ内容が記載されており、その中に世界最強唐辛子の竜の息の名がが書かれており、何でもこれから自分たちが向かう光の遺跡の近くの森には、これが自生しているのだそうだ。・・・確かに森の刺激であった。
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注文した食べ物はすべて食べ終わり、ラークとカペラは酒を、残りの者はソフトドリンクなどを飲んで会話を楽しんでいたのだが、どこからか噂話が耳に入ってくる。
「なあ、最近この辺で飛竜の群れがよく目迎されるらしいな。」
「ああ、それは俺も聞いた。中には龍の上に人が乗っていたって奴もいてな、」
「もしかしたら、魔王がイザヴェル王国だけではなく、この国にも目を向け始めたのかもな?」
「それはどうだか知らないが、既に旅人とかが襲われるようなこともあったようだぜ?」
「おいおい! あんま脅かすんじゃないぜ? 俺なんかじゃ絶対勝てねぇよ!」
「まあ、俺もそうだが、そうなったら逃げるしかないよな?」
「だな。どこで出会うか分かったもんじゃないしな。精々気を付けようぜ?」
等という会話が聞こえてくる。
「その出てくるのが北西でなければいいですわね。」
「そうだな。数にもよるが、大群だったら撃退しようと思うのは危険かもな?」
自分たちの目的は、光の遺跡に行って光の宝玉を手にすることである。魔王軍と戦闘することではない。そのため、不用意な戦闘は避けるべきなのだ。そもそも現れた飛竜の群れが魔王軍と決まったわけではないが、人が騎乗していたというのならば十中八九魔王軍であろう。出会ってしまった場合のことは考えておくべきであろう。
「歴史上に出てくる土竜を封印した者の中に奴らの名前がある以上、各宝玉があるところに連中が現れる可能性は高いだろうな。」
ラークはこのように言うが、今こちら側には最大戦力がいないのである。いくら慎重に考えてもしすぎることは無いであろう。
「まあ、気にしすぎるのもだめだよな。もしもの時はリーフとカノーが何とかしてくれるだろう。」
話を突然振られ、困惑気味のリーフに、『やれと言われればやるけどね?』といった表情のカノー。一番いいのは戦闘にならないことなのだが、ラークの言葉に対して拒絶を示さなかった2人を見て少し安心するミリアムとカペラであった。
1734年 7/21
アルカディア王国北西部の町サラと同王国の中核都市アルジェの中間地点を、ある商隊が移動していた。この商隊はジャンナ王国の所属であったが、物資の仕入れのためにアルカディアを訪れていたのである。アルカディア、ジャンナ両国も国交断絶状態が続いており、いつ戦争が起きてもおかしくは無い状態なのであるが、直ちに戦争が開始される状況ではなく、また人の出入国を両国が厳格に管理していなかったこともあり、この商隊に限らず両国の物流の一端を担っていた。
この商隊はジャンナ王国の特産品である豆類や芋類を大量に運んでいた。旅の目的地であるアルジェの街でこれらを売りさばき、その売り上げでこの国では豊富な小麦や肉類を買い付ける予定だ。これを長年繰り返して、この商売を行っているモリソンは多くの利益を上げていた。15年前に娶った妻ガラシャとの間に娘コーネリアを授かり、幸せな生活を築く程度には上手く経営出来ていた。今回は妻と娘の希望もあって同行を許している。特に10歳になったばかりのコーネリアにとっては人生初の大きな旅行である。見るものすべてが目新しいのか、元々かわいい目をキラキラさせている。
「ねえねえ、パパ。・・・あれは何?」
「・・・ん?・・・ああ、あれは鹿の群れだね。草を食べているようだ。」
「えへへ、かわいいね。・・・あ、子供かな? お乳飲んでるね。」
「お? おお、そうだな。ネリアは目がいいな。私の娘なだけはある。」
そんな会話をしている父娘を見て、ガラシャもほっこりしている。そんな中、コーネリアは鹿の群れのそのまた先に別のものも発見してしまう。
「?・・・あの黒いのは何?」
「!!! まずいな、こちらを気づかれなければいいが・・・スマン、ネリアはちょっとの間ここに隠れていてくれないか?」
そう言って、床の敷物を剥ぐと小さな空間があった。そう、子供位は入れそうな小さな空間が。
「あなた! あれって。」
「皆まで言わなくていい。見つからなければいいだけなんだが、念のためだ。」
「・・・ヤダ。」
「娘にはこんなことはしたくないのだが・・・スマン! スリープ!」
「あ!」
その一言で眠りについてしまった娘のコーネリア。その隙にと、小さな空間に娘を入れて、元のように再び敷物を引くモリソン。
「これで逃げ切れれば今のは無駄なんだが、どうか無駄になってくれ!」
そう言って馬車を急がせるモリソンであったが、その黒いものと言われた飛竜の群れの管理を任されていたレギンであった。レギンが受けた命令は勇者一行が光の遺跡に向かった場合の妨害。可能ならば勇者とその一行の殺害であった。それが為された場合、人外の存在に代えられた体を元に戻してくれるとの約束であった。そのため、もし来るのであれば、ここを通るはずであり、連れてきた飛龍を適当に遊ばせながら時間つぶしをしていたのである。
そのレギンが、街道沿いに急いでこの場所を立ち去ろうとする商隊を発見してしまった。元々のレギンは思慮深く優しい人間であったが、人ならざる者に変えられた影響からか、そのような思考は出来なくなっていた。そのため、
「お前たち、あれも襲っていいぞ。」
「・・・「「ギャアアア~ス!!」」・・・」
そのまま飛竜達は商隊を襲う。人や馬の悲鳴が平原にこだまする。その悲鳴の中にはモリソンやガラシャのものも含まれていた。飛竜達はさっきまで生きていた人や馬の肉に貪りついてゆく。そして十二分に堪能したのを見届けたレギンは残虐な笑みを浮かべ、立ち去るのを指示しようとしたとき、突如、鎌鼬が飛竜を襲い数頭の飛竜の首を刎ねる。残りの飛竜が鎌鼬が放たれたであろう方向を凝視する。
「・・・なんてことを・・・あんたら許さないよ!!」
カペラであった。怒りのまま放たれた風魔法が竜の首を飛ばしたのである。そのすぐ後ろには、リーフ、ミリアム、ラーク、カノーが控えている。自分たちの仲間が倒されたのも気にしない飛竜達は、新たな人間の獲物が出現したことを喜び、レギンが命令する間もなく襲い掛かってきたが、ラークの氷魔法、リーフの雷魔法、カペラの風魔法、カノーの闇魔法で次々に討ち取られていく。ここにいた飛竜は全部で30頭程であった。この程度の数であれば、リーフ達の敵ではないのである。
「・・・ほう。もしや勇者殿の方からやってくるとはな。悪いがここで死んでもらうぞ!」
そう言って、自らの体を変形させていくレギン。変化の途中で攻撃する間もなく、僅か数秒で変化が完了した。そこに現れたのは、体の大きさこそ人間のそれよりやや大きい程度、2m程か? それよりも、その外見は全身が鱗に覆われた竜人間とでも呼べばよいのだろうか? まさに異形というよりほかはない外見であった。そして、何より特筆すべきなのが、レギンだったものから感じる圧倒的な力。人間としての種が感じてしまう圧倒的な恐怖があった。ミリアムとカペラは体が震えてしまっている。
レギンが突進してきたのは突然だった。変化が終了した5秒後位だっただろうか? その震えが止まらないミリアムに向けて突っ込んできた。それを止めようと足元を氷で固めようとしたラークであったが、レギンはジャンプでそれを飛び越えてしまう。そしてミリアムを爪で引き裂こうとしたその時、リーフが体当たりで吹っ飛ばしたのだ。
おかしな体勢で地面に叩きつけられたレギン。それは体当たりしたリーフも同様であった。ここでカノーがレギンに対して魔法が暴走する効果の魔法【レックレス】を掛ける。
ここでレギンに大魔法でも使われたら大変なことになるのだが、そうはならなかった。ここで暴走したのは彼に掛けられた魔法だ。何らかの魔力で異形の姿に変形させられたレギン。その魔力が暴走したのである。レギンの体のあちこちが不規則に膨張と弛緩を繰り返してゆく。そしてその魔力に耐えられなくなったレギンは爆散してしまったのである。周囲には彼だったものが散らばってしまった。
何とも惨たらしい様子であった。総勢十数名はいたのであろうが、飛竜達に食い散らかされた跡が残るだけであった。彼らの敵は討ったものの、一同やりきれない気持ちになっていたのだが、
「ちょっと待って。・・・もしかして?」
他の誰も気が付かなかったのだが、カペラが何かの気配を感じたのである。ラーク、リーフ、カノーの協力の下、馬車だったものの瓦礫をかき分けると、床だった部分に扉が着いていたのである。そこを開けてみると、なんと女の子が寝ているではないか。
「これ・・・眠らされているんだね。ちょっと待ってよ?」
そう言って、魔法で起こそうとしたカノーであったが、
「このままサラの街まで連れて行きましょう。だって・・・」
カペラはこの子にこの惨状を見せるのは忍びないと言いたかったのであろうか? 他のメンバーも深くは聞かずにそれに同意し、身元を確認できそうな物をいくつかを持ち出すほかはこの場に放置し、先を急ぐのだった。
次回は6/24予定です。




