レムルへの侵攻と大猿
前話で一部、設定上不自然な個所が見つかりました。山越えをしている際、虫や蜘蛛が出現していますが、ここはガイアナ島より南で南半球なので、7月だと冬になります。且つここは温帯域なので、本来、冬は虫などは不自然なのですが、巨大蜘蛛の寿命が1年未満であるわけはないので、ここは冬でも昆虫が生育できるくらいは温暖で、夏冬の気温差が小さい地域ということで、どうか一つよろしくお願いいたします。
1734年 7/12
前日のレオポルド王との謁見は成果なく終わり、結局そのまま宿に戻り一夜を明かしたレグルス達である。隣国ヘスベリスとの緊張の高まりによって、自分たちにもスパイ疑惑がかかる始末で、今のところ王を説得する手段は無いのである。別に諦めるつもりはないが、少なくとも宝物庫に無断侵入して、勝手に拝借してくるわけにもいかないため、とりあえずは待機しようということになった。
勿論、状況によっては先にジャンナ王国に行くということも考えられるのだが、ヘスベリスの国境の町リセルでの兵士の話と、ここアルカディアでの話が完全に食い違っていることに不自然さを感じていた。どちらの国でも敵が攻めてくるのを待ち構えているのである。情報が誤って伝わるにしても、なぜこのように伝わるのか不明であり、本来そのような事実はないのに、この大陸の情勢を不安定にさせようと企む何者かがわざと誤情報を流しているのではないか?等と考えてしまう。
そんな訳で、宿の中で腐っているわけにもいかず、王都レムルの中を散策しているところである。といっても全員で行動しているわけでもなく、レグルスに同行しているのはエスト、カノーである。レグルスとカノーが意気投合し食べ歩きをしようということになってそれにエストが追随した形だ。他は、ラーク、ミリアム、リーフの3人はこの街の名所巡りに行ってしまった。そしてラルフ、アレク、カペラは普段の服装に殆ど気を使わないラルフのために彼に合う服装を探しに被服店を中心に巡るらしい。
「レグ、この串に刺した鶏肉うまいな! 間に挟まった葱もいい仕事をしている。」
「こっちの豚肉のやつも結構いけるぞ。」
「アンタ達よく食べるわね。」
レグルスとカノーは仲良く串焼きを正に歩きながら食べている。エストは肉を食べるという気分でもなく、ましてや歩きながら食べようとは思わなかったため、横を歩いてはいるが、2人が食べているのを眺めているだけである。2人が持っていた串をすべて平らげた辺りで喫茶店を発見する。
「・・・何々、・・・お? チョコレートパフェだって。シュネー産のカカオから作ったチョコレートををたっぷり使用した一品って書いてあるね。・・・入ろうか?」
「俺、あそこに住んで長かったけどカカオは試さなかったな。食べてみるか。」
「・・・アンタ達、まだ食べるんだ。・・・まあ、いいけどね。スィーツは私も興味あるし。」
早速入店して、席に座る3人。すぐに店員がやってくる。
「ご注文はいかが致しますか?」
3人はメニュー表を眺めながら、口々に頼む物を言う。
「私は、このチョコレートパフェとホットティーを一つ。」
「俺は、チョコレートパフェの大とコーヒーをひとつずつ。」
「僕も彼と同じもので。」
「・・・畏まりました。お持ちしますので少々お待ちください。」
そして10分ほど待って出てきたものにエストは驚愕する。そして、カノーは目を輝かせている。その対象は勿論、ホットティーやコーヒーではない。・・・チョコレートパフェ(大)である。これは・・・1Lはあるな。何となくノリで頼んだ大盛りのチョコレートパフェは想像を超えた量だった。
「・・・マジか・・・食えるのか? コレ。」
「折角頼んだんだから、残さないで食べなさいよ。・・・あ、私は自分の分だけでいいから。」
「・・・いただだきまーす!」
困惑するレグルスをよそにガツガツ食べ始めるカノー。ものすごい勢いである。そして15分後・・・
「・・・苦しー、もう食えん。甘いのはもう無理。」
「僕はもうちょっと食べたいかな?」
「カノー・・・ほんとよく食べるのね。」
「エストはそんなに食べないんだね。」
「・・・そりゃ、もう少し甘いもの食べたい気もするけど、あんまり食べると太ったらやだし。」
「・・・ふ~ん、全然そんな風に見えないけどね? もうちょっと食べても全然大丈夫じゃない?」
「・・・そ、そお? ・・・そっか太っては見えないか。・・・そうかそうか・・・えへへ。」
レグルスは思った。この子(といっても150歳越えだが)はいい意味でもそうでなくても正直なのだと。空気を読まず失礼なことも言うが、相手が喜びそうなことも平気で言えるのである。・・・あ、もしかして何も考えてないだけか・・・何となく真相にたどり着いた気がした。
そろそろ出ようと思ったとき、店の中がザワザワしてるのに気が付いた。店員が慌てている気がする。とはいっても今はピーク時ではない時間帯のハズなのだが、現にそこまで客が入っているわけではない。とりあえず会計は済ませて外に出ると、偶々というか、それぞれ別方向から、ラーク達とラルフ達が走って来ていた。何か起きたのか?
「慌てて来てどうしたんだ?」
「情報は未だだったようだな。この街にヘスベリス軍が接近しているって話だ。アルカディア軍も大至急応戦準備をしているらしい。市民には避難指示が出たぞ。」
「ラーク、ちょっと待って。・・・それ本当にヘスベリス軍?」
慌ててまくしたてたラークに、カノーがその情報の真偽を問う。
「・・・ああ、そう聞いたぜ。勿論俺が見たわけではないがな。」
「ヘスベリス軍って、魔物部隊ってある?」
「いや、無いはずだぜ? 来ているのは人間の部隊なんだろ?」
「その数は大体5000位かな? そのすべてが禍々しい気を放っているんだけど? 絶対魔物だよ?」
「アレク、お前双眼鏡持ってなかったか? ちょっと貸してくれ。」
レグルスは悪いとは思いながらも、3階建ての建物の屋根に上り、そこから双眼鏡でレグルス自身も感じる気の集団の方向を観察する。・・・見た目は・・・普通の人間だ。が、確かにカノーの言うように、彼らから感じる気は魔獣のような禍々しさを感じる。
「どういうことだ?」
ラルフが意味が分からないというような言い方をしているが、正確に状況を把握しているものはこの中には誰もいない。が、少なくとも確実なのは、あの軍隊は見た目は人間であるが、その中身は魔獣でありそう見えるように何らかの偽装がされているということである。・・・何のためか?・・・!・・・アルカディア、ヘスベリス両国に戦争をさせようとする存在が仕組んだことと考えれば説明がつくのではないか?・・・だとすれば、あれが魔獣の集団だと知らしめる必要がある。だが、ただ殺しても奴らに掛けられた偽装魔法が解けるとは限らないし・・・
「・・・アイツらの見た目を元に戻した方がいいの? 普通にできるよ?」
全員がカノーの方を向く。すると浮遊の魔法を使って空に浮き上がると、ヘスベリス軍(仮)の進行路の先に軍が丸ごとはいるような超巨大な魔法陣を描く。描いている最中は微かに筆跡が光っていたが、描き終わると消えていった。やがてヘスベリス軍(仮)がその魔法陣の中に入り始める。・・・そして、全軍が魔法陣の中に入り終わったその時、カノーはその魔法陣を発動する。その魔法陣を底面とする高さ10m程の円柱が出来上がり、中に入った兵士が一様に苦しみだす。数十秒後、円柱状の光が消えて現れたのは、ヘスベリス軍と思っていた存在ではなく、ホーリーエイプを中心とした魔獣たちであった。・・・一人だけ人間が混じっていたようだが、恐らくは司令官であろう。
「ええ!!!・・・何なんだアレは? 聞いてないぞ?!」
アルカディア兵の一人の発言である。彼らは人間であるヘスベリス軍との戦いの準備をしていたのである。命を失う覚悟はとうにできてはいるが、魔獣と戦うなど心の準備が出来ていないのである。兵たちに動揺が広がっていく。
「ええい!! だらしがないぞ!! 貴様ら! 祖国を守る覚悟は無いのか!」
「将軍! だってあれは無いですよ! あんなのに勝てっこ無いじゃありませんか?」
「行けというなら行きますが、ホーリーエイプは1体でも鍛え上げた兵士十人以上でようやく仕留められるような存在です。それが5000はいるんでしょうか? 俺達全滅しますよ?」
「ウググググ・・・だが、やるしかあるまい。俺たちがやらずして、誰がやるというのか・・・すまない、俺と一緒に死んでくれ!」
「将軍~!・・・え?・・・アイツらはいったい?!」
もうすぐここに来るであろう敵軍に突っ込んでいく一般人と思われる者が10名弱、一気に敵の集団に近づいたと思ったその時、そのうちの一人が前方に閃光を放つとそこから逃れた2割の魔物を除いてすべて消滅したではないか? その後も彼の仲間たちが、次々に敵の魔獣を打倒していくのが見えた。
「うおおおお!!!! 彼らに負けるな! 全軍突撃!!」
「・・・「「応!!!!!!!」」・・・」
2週間ほど前、ゲルザードの手によって強制的に人ならざる力を宿らされた、ヴィトの元部下にして異世界人であるスロールは、特に正気を失うようなことは無く、理性を保っていたために、人に見えるように偽装した魔獣の一軍を率いて、アルカディア王国の都であるレアドを攻撃するように命令されていた。
特に残虐な性格というわけではないスロールであったが、自らの保身のためには何でもする男でもあった。率いる軍はヘスベリスの国旗を掲げている。責任を隣国のヘスベリス王国に擦り付けるのが目的であったが、スロールの良心は特に痛まない。そうしなければ、自分の居場所が失われてしまう。それどころか、自らの命さえ保証されないのである。そのため、他者を犠牲にすることは自分のためと割り切っていたのである。
この魔獣の集団は、事前に設置した転移陣によってやってきたのであるが、アルカディアからすると、突然王都レムル付近に出現したように見えるだろう。そして、預言者を語る、悪魔族のウラヌスによって、事前にヘスベリスが侵略してくると偽情報が流されていたはずである。この戦いでこちらが勝つ必要も、王都レムルを制圧する必要もなかった。この攻撃をヘスベリスの仕業として、アルカディアに報復させるのが目的であった。そうすれば、ヘスベリスからはアルカディアの側から侵略行為を働いたと見えることだろう。
そんな訳で、スロールはもしもの時に得た尋常ならざる力もあり、この行軍を気楽に考えていたのであるが、ここで、計算外の事態に陥る。突然、率いた軍の下から魔法陣が起動し、魔獣に掛けられた偽装魔法が解かれてしまったのだ。レムルにいるものからすれば、ヘスベリス軍だと思ってたものが魔獣に変化した。そして、出現した軍は初めから魔獣たちであったと分かってしまうだろう。こうなってはもはやこれまで。いっそ王都レムルを陥落させるまで徹底的に蹂躙しなければならない。
スロールがそう思ったその時、一軍を激しい閃光が包み込む。危機感を感じ自分はとっさに回避したが、用意した魔獣の80%が閃光に飲み込まれ、そして消失したのである。
「! いったい何だというんだ!! 何なんだあの光は!!!」
そうやって叫んでみたが、もうどうしようもない。これを好機とばかりに、アルカディア軍がこっちに突入してくるではないか。それを見てスロールは腹をくくる。どうせこれを失敗すれば生きて戻ったとしても自分は殺されるのだろう。そう思い、あの時ゲルザードに押し込まれた禍々しい力を完全に開放することを決意する。
「・・・ガ、・・・ガガガガガ・・・アアアアア!!!!!」
そのように叫び声を上げると、全身に体毛が生えだし、体が肥大し始める、そのまま大きくなり、5m程まで大きくなった。やせ形のひ弱な体は筋骨隆々の肉体へと変貌した。差し詰めホーリーエイプの巨大版といったところである。
「・・・これは・・・すごいぞ!!」
スロールは、敵味方関係なく暴れ始めた。本人は正気を保っているつもりなのだろうが、周囲から見るととてもそのようには見えない。今度は人間が大猿に変化したことで、驚愕をもって見られているようだ。片っ端から近くにいた魔獣や兵士を掴んでは投げ飛ばしていた。そこにラルフが自分の持つ剣に走ってきた勢いを載せ、スロールの左腕に切りかかる。
「ウギャアアア!!!」
大猿に変化したスロールの手首から先を切り落とすことに成功し、大量の血液が噴き出る。その後怒り狂ったスロールによってラルフは吹っ飛ばされるのだが、その際にできた隙を勇者一行は見逃さなかった。リーフが落雷を、エストが火球を、カペラが風刃を、カノーが闇炎を直撃して尚、起き上がろうとする大猿にラークが極大の氷塊を叩きつけると、声を発することも無く、スロールだった大猿は後方に倒れ絶命するのだった。
次回は6/16予定です。その次はちょっと間隔が空いて6/22の予定です。




