戦争の引き金を引く者
1734年 7/6
レグルス達はヘスベルを出てアルカディア王国との国境のあるヘスベル山脈の麓の町リセルに到着したのだが、
「何じゃこりゃ?」
戒厳令が出されているのか、町には軍人が溢れ返り、国境に向かう唯一の出口は検問が行われていた。ラルフはまずは疑問に思ったのか、思わず口走ったようだが、黙っているだけでは埒が明かないため、レグルスは兵士にストレートに聞いてみる。
「俺たちはアルカディアに行きたいんだが、ここを通ることは出来ないのか?」
「すまないが、アルカディアが侵攻してくるという情報が流れているのだ。情報の真偽はまだ不明なのだが、旅人を戦争に巻き込むわけにはいかない。そのためここは通行禁止だ。」
まさかの通行止めだった。食い下がることも考えたが、兵士の警戒の度合いは高く、こういう言い方をしてはいるが、スパイの可能性も考えているようだった。強硬に通行を要求したら捕まえられるかもしれない。
「・・・とりあえずさ、・・・一回宿にでも戻ろうよ? 何とかなるって!」
実際ここにいても埒が明かないのは確かである。というわけで、カノーの言う通り宿に戻ることにする。
宿に戻り、夕食を済ませた後、再び作戦会議だ。
「あの封鎖は解いてもらえないの?」
「それは無理だろう。戦争が始まるのならば、兵士は住民の安全を確保しなければならないし、敵国に行こうとするなら止めるだろう。それでも行こうとするなら、向こうとつながりのある人物、つまりスパイと勘違いされる。まあ、本当にスパイなら目立ったことはせず町に潜んだままになるだろうが。」
峠に向かった方が入国が簡単だったため、カペラは諦めきれなかったようだが、ラークに窘められる。
「じゃどうするの? しばらくここで待った方がいい?」
エスはこう言うが、それだと時間がかかりすぎる上に、下手をすると戦争に巻き込まれることになる。レグルスはそのように説明するのだが、
「だったら、俺たちを攻撃してくる奴は全部倒しちまおうぜ!」
ラルフが乱暴なことを言う。それをやると、アルカディア、ヘスベリス両国とも敵に回す。だから、軍との戦闘は極力避けたいのである。
「待つのもダメ、強行突破もダメということになりますと、もう他の道を探すしかありませんこと?」
ミリアムの意見であるが、現在いるのは、北の関所の手前だが、他に中央に位置する関所と南に位置する関所があるが、正規のルートは同じ状況であると考えた方がよさそうだ。
「じゃあ、海から行きますか?」
リーフが言うように、現状では一番ましに聞こえるが、最大のデメリットは時間がかかることである。それでも、確実に行けることを考えれば、ただ待っているより数段いいのではあるが。
「もうメンドイからさ、道の無いところを突き進めばいいんじゃない? 魔獣はいるだろうけど、そんなのは倒せばいいし、僕の闇魔法でかなり気配は消せるはずだしね。人間にはまず見つけられないと思うよ?」
「どう思う?」
レグルスはラークに意見を求めてみたが、
「そうだな・・・デメリットは確実に歩きになるだろうな。その分遅くはなるが、船よりは早くつけるし港で拘束される可能性も防げる。・・・いいんじゃないか?」
他の皆の様子を見ると、カペラ以外は反対意見は無いようだ。そのカペラも山の中を歩くという行為が嫌なだけのようだ。こうして、アルカディア行きの方針が決まったのであった。
1734年 7/8
一行はリセルの町から南に200㎞程移動したところから山を登り始める。道がないところを強引に進んできたため、山登りの開始時点で既に疲労感いっぱいであったが、回復魔法を掛けつつ強引に進んでいく。カノーの闇魔法で気配を消してきたので、ここから国境を越えようとしていることは気づかれていないはずだ。その分道のない斜面を草をかき分けながらである。回復魔法を掛けながらとはいっても、疲労の蓄積はすぐにやってくる。
「きつい~! 虫はいっぱいいるし、疲れるし、もうやだぁ~」
カペラの我儘である。・・・まあ、本気で言ってないのは分かるので、かえって和んだりはするのであるが、聞いたら余計疲れるのは変わりがない。
「・・・ほら!」
「・・・ウギャアアア!!! って何してくれちゃってるのよ!!!!」
態々青虫を捕まえたカノーが、それを掌に乗せて、カペラの目の前に差し出したのである。
「かわいいでしょ? こういうの見ると和むよね?」
「マジ信じられない!! アンタ頭おかしんじゃないの?!」
「おっかしいなぁ? もしかして、コレ嫌い?」
「見てれば分かるんでしょうがあ!!!」
怒ったカペラは、自らの体を風魔法に乗せて少し先まで飛んで行ってしまった。エストとミリアムも自分がやられたらたまらないと、少し距離を取り始めた。
「・・・え? もしかしてやっちゃった?」
「もしかしなくてもやっちゃったな。 普通は嫌がるだろうに、何であんなことしたんだ?」
素であまり分かってなさそうなカノーにレグルスが窘めるように聞いてみるが、
「・・・いや、皆和むかと思って。・・・あと虫嫌いだ、みたいなこと言ってたから、フリかと思って。」
『女の子の嫌がることやったらあかんで? あの子はボケタイプとは違うさかいにな。』
ゲンにまで窘められるカノー君、見た目が子供のせいか、男連中的にはなんとなく憎めない感じであったが、あまり女性陣に嫌われまくるのも考え物である。しかし、よくよく考えると彼はこの中で最年長である。まあ、ゲンは除いてであるが。・・・で、カペラはどこまで先に行ったのかと思ったその時、
「きゃああああ!!!」
少し先の方で、カペラの悲鳴が聞こえた。慌てて先まで行ってみると、カペラが直径5mはある巨大な蜘蛛の巣にかかっていたのである。飛んでいったのが災いしたのか、完全に粘着していて身動きが取れなくなっていた。そして、巣の主である巨大蜘蛛がまさに捕食しようと近づいていた。が、カノーのヘルファイアが巨大蜘蛛を襲い、直ちに焼き尽くされる。巣にまで引火したが、アレクが巣の粘着しない方の糸をメインに切断してカペラを取り外す。
「大丈夫?」
「・・・一応お礼は言っておくわね。・・・ありがとう。」
助けてくれたカノーに対して礼を言うカペラ。これで、丸く収まればいいのだが・・・
こんな調子で、多少のトラブルには見舞われた一行であるが、2日後には無事ヘスベル山脈を超えることに成功するのである。
1734年 7/11
アルカディア王国へ無事入国を果たした一行は特に問題もなく王都レムルに到着した。目的は勿論、王家が管理している火の宝玉を譲り受けることと、光の神殿と闇の神殿に祀られている光と闇の両宝玉の持ち出し許可を得ることである。この3つの宝玉は譲ってもらうことが出来なくても借りることが出来れば目的達成である。問題は素直に話を聞いてくれるかであるのだが、
王都レムルに到着してから、街の中でリセルの町と同様の噂を聞くことが出来た。勿論、アルカディアとヘスベリス両国の開戦の噂である。が、リセルの時とは大きく異なる点が存在した。それは、ヘスベリス側がアルカディア側に侵攻準備をしているという点である。つまり進行する側とされる側が逆になっていて、どちらの国でも相手の国が攻めてくると言っているのである。
少なくともヘスベリス側の方からは進行してくるような意志は感じなかった。リセルの町では防衛の準備はしていたが、先手を取ろうという動きにはなっていなかったはずだ。自分たちがここに来るまでの間に方針が変化した可能性を否定はできないが、そこまで日数が立っているわけでもなく、変更していたら極めて不自然である。そして、この国には進行する準備をしている様子は今のところ感じられないのである。
「とりあえず、戦争の噂の件は置いておいて、まずはこの国の国王に謁見させてもらおうぜ。」
ラークの言うがままに、王城に行き、国王であるレオポルドに謁見することに成功する。そして、封印されている竜の開放をするために宝玉が欲しいことを告げる。
「その竜を開放してどうしようというのだ?」
レオポルド国王の問いに、土竜を復活させなければ魔王ゲルザードを再封印することが出来なくなることを説明するのだが、
「封印されている竜は歴史上邪竜ということになっておる。尤もらしいことを言いおって、その実、邪竜をを復活させてヘスベリス軍に組み込むつもりだな?」
こちらの話を始めから信じていない様子である。さらに言い分を聞いてみると、
「我が国に現れた預言者の言う通りであった。ヘスベリス側から邪竜を開放したいから宝玉をよこせと言ってくると。そして、預言者はそのまま邪竜を味方につけたヘスベリス軍が我が国を滅ぼしに来ると。」
ここまでレオポルド王の話を聞いて、アルカディア、ヘスベリス両国の情報を意図的に混乱させる存在がいるのを悟ったレグルス達である。この状態でそれを指摘しても火に油であろう。寧ろ今の状態で自分たちが政治犯として投獄されないかが心配である。
「とはいえ、そち達がヘスベリスのスパイであるという証拠もないのも確かである。この国で何もしないならばとりあえず不問とするから、早々にこの城を立ち去るがよい。」
レオポルド王はそう言うと、レグルス達を退室させた。そして、部下たちにレグルス達の動向を監視するように言い渡すのである。
「連中をそのまま逃がしても良かったのですかな? 王よ。」
「ウラヌスよ、貴様の予言通り、宝玉を求める者たちが来よったわ。・・・何、こちらがしっかり監視していれば何もできはしない。それよりも、無実の罪で人を投獄したなどと噂になってはたまらんしな。現に裏付ける証拠はないのだ。我が国は現行犯でなければ証拠や売らず怪我無い限り人を拘束しない方針だ。」
「・・・そうですか。少々慎重すぎる気も致しますが、清廉潔白なところは王の素晴らしき所と存じます。で、ヘスベリス軍のことですが、もしかすると、虚を突いて突然王都周辺に出現するかもしれません。」
「!!! それは誠か?! そうであれば王都防衛の準備をしなければ。 そして本当ならば、今度は我が国の方から打って出なければなるまい。」
「それがいいでしょう。王の力を下賤な連中に見せつけてやるのです。」
王が血気盛んに部下の者に指示する様子を見て、ウラヌスはほくそ笑む。その怪しい微笑みを他の部下の者で見たものはいなかったのである。
次回は6/14予定です。15時までには上げる予定です。




