幕間2 魔王国の新たな動き
遅くなりました、今回分です。
1734年 6/20
イザヴェル王国の都であるイザヴェラに今年に入って15回目を数える敵の進軍が迫っていた。グリバール王国と国交を結び、同盟を締結して以降、王都イザヴェラより北側の安全は確保された格好になっている。それ以降は敵の進軍は専ら南側からになっていた。既にイザヴェル側東岸の地域であっても、その大部分が敵の占領下にあるため、そこから進軍されるわけであるが、王都を陥落させられるまでには至っていない。
今回も竜種を主体とした魔獣の軍である。飛竜の群れ5000、地竜の群れ10000、その他の魔獣が10000と言ったところだろうか? それに対する王国軍は陸戦部隊3000、弓兵隊1500を派遣するのが限界である。
両軍が互いに視界にとらえるまで行軍した後、魔獣たちはその行軍速度を大幅に上げる。そして一気に戦闘状態に入るわけだが、数字的に考えて25000VS4500である。王国軍に勝ち目などあるはずもないのだ。ところが、
「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラ!!!!!!!!!!!!」
リック将軍が、愛用の手斧【風神の斧】を振り回しながら、一人魔獣の群れの中を突進して行く。彼の居った後に残るのは、ついさっきまで魔獣だったものの肉塊であった。実は、この規模の魔王国による進軍は何度もあったのだが、その度にこのリック将軍の一人突撃が行われ、これにより敵軍は恐慌状態に陥るのが常であった。
「今だ!」
弓兵隊隊長のマティスの号令により、飛龍に対しての一斉射撃である。弱点である翼を射抜かれ次々に墜落して行く飛竜達。同時に副隊長のスレイマンが代わりに率いる陸戦部隊が恐慌状態に陥っている魔獣の群れを蹂躙して行く。
「・・・クッソ! 毎回毎回あの脳筋野郎め! 何で2万を超える魔獣の群れに一人で突っ込んでこれるんだよ!」
ロキは忌々し気に叫ぶが、それを聞いていたのは、
「・・・不服のようだな? どうだ? 俺の首を直接狙ってみる気はあるか?」
リックであった。何度も繰り返してきた戦闘で両軍の大将どうしが相まみえるのは今回が2度目であった。
「・・・おもしれえ。・・・貴様さえ居なくなればお前たちの国は終わりなのだ。態々出てきたことを後悔しながら死ね!」
そう言うと、手にした雷神の剣でリックを切り裂こうとするが、リックの風神の斧で受け止められる。
その後一進一退の攻防が続くが、
「これでも喰らえ!」
ロキが放ったのは、雷神の剣が持つ魔力を利用した雷撃である。が、リックは同時に風神の斧が持つ魔力で風の結界を発生させる。これによって歪められた雷撃は、
「ギャアアアアアアアア!!!!!」
味方の魔獣たちに被弾したのである。 これによって、ほんの一瞬呆然としてしまったロキであるが、
「しまった!」
ロキが気が付いたときにはもう遅く、リックが自分に対して斧を振り下ろすところだった。それを間一髪躱すが、リックは攻撃の手を緩めない。どんどん追い詰められていき、ついに、
「ゲート!」
軍を置き去りにして一人逃亡するロキ。これで15回の王都襲撃で、15回目の失敗をしたことになる。勿論、この後残された魔獣たちは、王国軍によってすべて狩りつくされていった。損害は怪我人が全体の3割程。死者は0であった。
1734年 6/24
魔王国アガルダは現在のところ、イザヴェル王国の大部分の領土をその支配下に置いていた。王都のイザヴェラと第2の都市であるラーウェの周辺は未だ占領を逃れているため、イザヴェル王国は滅亡を免れているのだが。
アガルダの国主は、表向きは魔王ヴィトということになっている。自分たちが元居た世界からの住人を多数受け入れて植民政策を行っていたのだが、当初は定期的に各都市を訪問するなどの行動をしていたヴィトであったが、3年位前からだろうか、徐々にそういう行動は減っていった。住民たちは変化が起こり始めた当初は全くそれに気が付かなかったのだが、今年に入りヴィトの姿を見たものはいなく、徐々に不安感を抱くものが出てきている。
当初は2級市民として最低限生活の保障しかされなかった元イザヴェル王国民に対しても、新しい農業地を開拓したり、生産性が上がる技術を提供したり、移住民たちにとっては当たり前な生活用品である冷蔵庫や洗濯機といった品々を無理のない金額で有償で提供したりするなど、行政サービスは充実しており、今では元の住民も、移住してきたものも仲良くとはいかないまでもお互いうまくやり取りしていたりする。であるから、魔王ヴィトについて悪くいう者は元イザヴェル王国民でもそうはいないのである。これには、虐殺が行われたコトナ村は、王都イザヴェラに逃げた者以外は全員虐殺されたため、そのことを知らないというのもあるのだが。
そんなわけで、魔王ヴィトがその存在を見せなくなったということ自体、住民の不安の要素なのであるが、加えてこれまで手厚かった行政サービスが滞り始めているのである。例えば、橋が壊れたなどという問題が起きてもすぐに補修などの対応をしていたのが、対応が遅くなったり却下されたりするのである。このことは、魔王ヴィトが姿を見せなくなったことと重なり、元の住民も移住者達も中枢部分に良くない変化が起きたのではないかと不安に思っているのである。・・・実はこの心配は的外れではなかったりするのだが、そのことはまだ住人たちは知らないのである。
ここは、旧コトナ村に建設された、魔王国アガルダの行政庁である。白を基調とした直方体型の建物で、基本、各部屋にはガラス張りの大きな窓が張られており、中は自然の光で溢れており、加えて光が届きづらいところも魔法の光で照らされており明るく外観も清潔感があり美しい。表向きはその名の通り国の行政をつかさどる中心であり、その長たるヴィトのメインの仕事場で、彼の執務室があるのもここなのだが、実のところ龍王ゲルザードの居城となっているのである。
当のヴィトであるが、現在はほぼ正気を取り戻すことが無くなり、この建物の一角で幽閉されていたりする。周囲には彼は療養中ということになっており、ニーズヘッグと名乗るゲルザードが彼から副大統領に任命されたということになっている。行政に関する仕事に中々指示をくれないニーズヘッグに対し下の役人は苛立ちを隠せないが、彼が権力を握ってしまっている以上どうにもできないでいる。これがこの国の行政サービスが滞っている原因であった。
現在ゲルザードは人間形態をとって、ニーズヘッグとして自らの執務室にいる。ただ重要な話があると言って、レギン、ロキ、スロール、マルロー以外の者はこの部屋に近づかないように人払いまでしている。このようにしているということは、魔王国アガルダの行政に関する話ではないようである。
「まずは、エルフィン王国での顛末を聞こうか?」
ゲルザードの問いに、この中で唯一情報を知るマルローが答える。
「まずは、王国攪乱のために派遣していた、閣下の眷属たるギリムなのですが・・・レグルスに討伐された模様です。」
「ふむ、続けろ。」
「次に王都エルフィナ襲撃の件ですが、自然界の魔獣をじわりと侵攻させる予定だったので、落とせはしなくともダメージを与え続けると踏んでいたのですが、まさかの王都周辺に丸ごと結界を張るという行動に出まして、これ以上の侵攻が不可能になりました。」
「ふむ、大規模結界を張るとなれば、高位の術者が複数人必要だろうし、急には魔力増幅のための物資も集められないだろう?」
「ですが、それを何者かやり遂げたようで。そのため、王都エルフィナへの襲撃は一定以上の魔力が無ければ無理でしょうね。」
「湖底の洞窟への襲撃の件はどうなった?」
「テレサに魔獣を350体程を任せて、洞窟へ突っ込ませました。元々勇者一行への牽制が出来れば十分と考えていたのですが、どうやら人選を間違えたようです。申し訳ございません。」
「謝罪は不要だ。結論を申せ。」
「洞窟内を進む彼らに対し隠れて奇襲するようなことはせず、ただ、入れもしない闇竜の住処の直前でほぼ全員で待機し、待ち伏せした勇者たちに逆に返り討ちに会いました。」
顔を下に向けながら、右手中指を額に当てながら、必死に何かに耐えているゲルザード。その先を促したので、マルローが追加の説明をする。
「闇魔法の使い手で、勇者達が行おうとしている儀式に必要であろう存在に心当たりがあったものですから、その者の居場所を突き止め、殺してくるようにテレサに名誉挽回の機会を与えたのですが、今度は勇者達に援護を受けた暗殺対象の当人に討ち取られました。」
「・・・最後の件はマルロー、貴様の失態だな。無能な存在を過大評価するからこうなるのだ。」
「返す言葉もございません。」
「・・・まあよい、少なくとも時間稼ぎという目的は達成しているしな。敢えて責を取るような真似はさせん。」
「で、次に勇者が向かうのは残る土の儀式をするためにヘスベリス王国でしょう。あそこにいる土竜は人間の手で既に封印されております。あれを解除するにはかなり手間取ることでしょう。」
「・・・人間の手でか・・・実は自分たちでやっておいてよく言いおるわ。」
「お言葉ですが、当時の王の命令通りに実行したのですから、人間がやったのも同然です。」
「確かにそうだったな。建造物の外側からわざわざ別の術式で結界を張り直すまでしてな。」
「フフフ・・・」
「まあ、連中が封印を解こうともたもたしている間に、我の封印は完全に解けるのだがな。」
「レムリア大陸はどうしましょうか? 勇者一行も向かうようですし、何かしらの対策をしてもよろしいかと?」
「ふむ。・・・そうだな、例の建造物の内側にある土竜の封印を解くためには、火・氷・風・土・光・闇の6個の宝玉が必要であり、それらは、すべてレムリア大陸に散らばっている。そうだったな?」
「はい、火、風、氷はそれぞれアルカディア、ヘスベリス、ジャンナの各王家で保管されていることでしょう。光と闇はアルカディア王国にある2つの遺跡に1つずつ、そして土はピラミッドの地下に保管しています。」
「それを勇者どもがアッサリ集められたりはしないのか?」
「そのために、200年程、あの大陸で工作活動をしていたのですよ? あの3国が勇者のためとはいえ協力し合うなどありえませぬ。」
「フ、そうであったな。・・・それでは連中は詰みではないか?」
「・・・そうですな。」
2人の不気味な微笑を、表情を変えないようにしつつも強い恐怖を感じて見ているレギン、ロキ、スロールであった。それを知ってか知らずか、そのまま話し続ける2人。
「では、関係個所に妨害できそうなものを派遣しようではないか?」
「では、誰を派遣しますか? 私でもよいですが、他の悪魔を召喚しますか?」
「念のため最善を期す。封印当時の術者は全員参加だ。マルロー、フレイア、ウラヌス、バティスタ・・・そしてここにいる3人、レギン、ロキ、スロールだ。」
「「「!!!」」」
ここで自分たちの名前が出てくるとは思いもしなかったため、驚きを隠せない3人。特にロキはイザヴェル王国を滅亡させる任務に就いていたため、激しく噛みつく。
「何故だ!! こんな中途半端で他の仕事なんかできねぇ! リックの野郎と決着をつけるまでは・・・俺は外せないか?」
「・・・あなた何度失敗していると思っているんです? しかも毎回同じ戦法ばかりで? 魔獣の補充だってタダではないんですよ? 数だけ増やせばいいってもんでもないんですよ?」
「だが!」
「まあ、ずっと外すとは言ってませんよ? 無事任務を成功させた暁には、元の任務に戻しますし、褒美も渡しますよ?」
「・・・何だよ褒美って?」
ロキがそう言うと、ゲルザードが動いた。片手に禍々しい魔力を集め始めて。
「そうだな。マルローの提案は良い考えだな。どうせなら前払いと行こう。・・・さあ、受け取るのだ。」
ゲルザードはそう言うと、強制的にロキの口を開かせると、その禍々しい魔力を飲み込ませる。
「・・・うげぇ、いったい何を突っ込んでやがる!・・・うっ、・・・・ウギャアアアアア!!!」
ロキは悲鳴をあげると同時に床に転がりのたうち回り始めた。その様子を恐怖を強く感じながら眺めるレギンとスロール。やがて・・・
「グガア・・・ガアア!!!」
体を押す痛みに耐えきったのか、雄たけびを上げるロキ。だが、その目からは正気の色は失われていた。それを見て益々恐怖を感じ、全身が震えだす2人であったが、
「さあ、次はお前たちの番だ! 受け取るがいい。 この素晴らしい力を!」
その後、防音魔法が施された執務室で、彼ら2人の悲鳴が他の何者かに聞かれることは無かったのである。その後しばらくして、
「マルローよ、ガイアナ島にあるグルド山の我の封印の祠にその後近づく者はいるか?」
「いえ、嘗て忌々しく封印期間をのばしたレグルスも、再び同じことをすることをおもいつかなかったようで、見張りを置いていますが、地数いた者はいないようです。」
「そうか、ならばよいのだ。もうすぐ気にする必要もなくなるがな。」
そう言って笑いあう二人であった。
その後、ゲルザードはマルローを伴ったままこの建物の地下にある、許可が無ければだれも入ることが許されないある部屋を目指していた。その部屋には正気を失ったヴィトが隔離されていた。心が邪悪に染まってしまう程度であれば寧ろ都合がよかったのだが、正気を失ってしまっては、ニーズヘッグとしての権力基盤すら揺るがしかねない。したがって、病気と偽って秘密の部屋に隔離したわけである。
ゲルザードが再びヴィトに会おうとしているのは2つ理由があった。1つは、
「・・・どうだ? 話すことは出来るか?」
「うああ・・・あ・・・あ・・・ガッ・・・」
「・・・無理そうですねぇ・・・どうします?」
「いつものように、直接脳に聞くとするか。」
ゲルザードは、異世界から来たこの男の記憶に興味があった。自らの世界を捨ててまでこの世界に来た理由、この世界に新たに齎されている科学という知識に基づく様々なものについて。特に前の世界を滅ぼすにいたった戦争で行使された力が何なのか? 歴史的事象として、用語としてはゲルザードも読み取ることは出来たのだ。が、肝心の世界を滅ぼすだけの威力を持った魔法の存在だけは、正気を失った今となっても知識を引き出すことが出来ないでいる。まるで鍵でもかけているかのようであった。だからこそ、その知識はゲルザードにとって重要であると考えていた。実は今回でチャレンジするのは10度目である。
「・・・クッ! 中々記憶が覗けんな。この一か所だけなのだが。・・・マルロー、貴様の魔力も貸せ!」
「はい、直ちに・・・」
マルローはゲルザードの魔力に波長を合わせ、同調した状態で魔力を提供する。そもそも出力が全く異なるので、これをやるとゴリゴリ魔力が減るのだが、マルローは必死に耐える。
「流石、魔力1万越えの人間だけあるな・・・お?・・・おおおおおおお!!!!!!!!!!」
とうとうヴィトの記憶の閂を破ることに成功したようである。そこには・・・・・
「・・・フ・・・フハハ・・・フハハハハハハハ!!!!!!! 素晴らしいぞ!! 何という力だ! まだ理屈はわからぬが、核魔法か! 封印が解けたとしても我に使えるかは微妙だし、他の魔法と違い原材料も必要なようだが、少なくともあのお方には使えるものだろう。・・・確かに使ったらここは滅んでしまうが、少なくとも脅しにはなろう。1度や2度なら見せしめにも使えそうだな。王都イザヴェラ辺りに使ってやるのも面白いかもしれん。」
「しかし、何故今日は覗けたのでしょうか? もしや?」
「我の封印が本気で解けかかっているのだろう。・・・少なくと1カ月以内には融けそうだぞ。」
「それは喜ばしい限りで。我らの計画も本格的に動かせますな。・・・で、コイツはどうしましょうか?」
「そうだな、例の勇者の妨害作戦にこいつも使ってやろう。・・・これを受け取るがいい。」
「ウガッ!・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ヴィトは一言だけ呻き声を発した後、しばらくしてゆっくり立ち上がる。目に理性の色は感じられない。
「こ奴の魔力は、封印されているとはいえ我と契約をできる程度には高い。貴様がピラミッドで待ち構えるのだろうが、うまく使え! 使いつぶしても構わん。」
「御意。」
役に立たなくなったヴィトを逆に使役して使いつぶす。封印が解けかかっているからこそできる芸当であるが、これが2つ目の理由であった。このような動きが起きて、危機的状況が間近に迫っていることを、レグルス達はまだ知らないのである。
次回は6/12更新です。第10章開始します。それと来週は私用により更新が減る予定です。6/22辺りから平常に戻ると思いますが。その分というわけでもないですが、6/13、6/14も更新予定です。変則的ですがよろしくお願いいたします。




