賢者の孫の危機
「・・・参ったね、これは。」
敢えて、闇属性の魔法を放ってみたが、飛来してきた龍に効いている様子はない。カノーは少年ぽい見た目に違わず物理攻撃全般に適性は無い。襲撃してきた敵を倒すには他の属性魔法で戦うしかないのだが、
「・・・これなら・・・どうだ!」
そう言って、アイスジャベリンを発生させ、龍達に集中砲火を浴びせる。この魔法自体は基本的な氷魔法なのであるが、カノーの魔力は3万を超えているためその威力は尋常ではない。一つ一つが氷精霊のペンダント所持のラークの全力の一発の5倍程度はあるのだが、それを一度に500発、迫ってきた龍達にお見舞いする。
高威力のアイスジャベリンに胴体を蜂の巣にされ、次々に撃墜されてゆく龍達。それでも、数の任せて突撃してくるのだが、その片っ端からミンチにされ、カノーに近づくことさえできない。
「・・・何なの? たかがエルフであの魔力・・・このままじゃこちらが全滅するわね。」
今回の襲撃だけは失敗が許されない悪魔族のテレサは、次々に撃墜される龍達を見ながら自らの気配は消し、そっとカノーに接近する。そして、
「バインド!」
「しまっ・・・」
相手を麻痺させる闇魔法【バインド】によって、カノーは言葉を発することすらできなくなった。本来闇魔法の得意なカノーには効くはずがないのだが、襲撃してくる敵を倒すのに夢中になっていて、テレサの魔法をレジストできなかったのであった。
「・・・やったわ! 任務成功ね? ・・・フフ、私ってばやればできる子なのよ。」
そう独り言を言いつつ、目の前で転がっているカノーを蹴り飛ばす。
「・・・・・」
カノーは激しい痛みを覚えるが、麻痺しているために呻き声を上げることすらできない。そうこうしているうちに、魔獣たちが賢者の家の敷地内に侵入してくる。
「あれだけの魔力を持っていたんだもの、コイツが賢者ヒューイの孫で間違いないのよね?・・・あら?」
テレサはカノーが首から下げている、闇精霊のペンダントを発見してしまった。
「間違いないようね。・・・こいつは頂いておくわね。」
カノーはテレサを睨め付けたかったのだが、麻痺しているためそれもできない・・・
「・・・もうここには用は無いんだけど、コイツどうしようかしら? 私手がバッチくなるの嫌いだし。・・・龍達に食わせればいいか。・・・ねぇ、アンタたち、これ食べていいわよ。」
そう言って、カノーを放り投げた。直後、数十体の龍たちがカノーに群がる。一体の龍の咢がカノーをかみ砕かんとする直前、その龍も含めた集団をエネルギー波が襲う。その高エネルギーに龍達は忽ち蒸発する。
「!!!!! いったい何なのよ?!」
エネルギー波が飛んできた方向を見てみると、先日湖底の洞窟で痛い目にあわされた張本人レグルスの右の掌から湯気が立ち上っているところだった。
「・・・アンタら! いったいどんだけ邪魔すれば気が済むのよ!」
いや、邪魔したの今回が初めてですが? 前回は寧ろこちらが邪魔されましたが? とレグルスは思ったが、彼女にしてみれば、そういう話ではないだろうと思い敢えてツッコミはしなかった。
ミリアムはカノーの元に行き、回復魔法を掛けると、麻痺しただけのカノーはすぐに回復したようだ。
「おお! 先日の綺麗なお姉さん! 助けに来てくれたんですね!」
王都エルフィナで結界を張るための魔力を譲ってくれたエルフの少年と同一人物とは夢にも思わず、目をぱちくりしている。
「・・・うそ? あのクソ生意気なガキが・・・賢者の孫?・・・」
昨日喫茶店で最悪な印象を持ってしまったエストが軽く毒を吐く。
「・・・積もる話は後にしようぜ! まずはこいつら片付けてからだ。」
ラークの一言で、一斉に攻撃を開始する勇者一行。リーフの光魔法シャイニングピラーで地上にいる魔獣も、空を飛んでいる魔獣も均等に攻撃していく。弱いものはこれだけで地に落ちてゆく。闇属性の龍も弱点属性の魔法であるため、即死だ。残った敵も、ラーク、ラルフ、カペラ、アレクが掃討して行く。固まっていたエストもラークの言葉で我に返ったのか、火魔法で攻撃を開始している。
そして、こそっと転移魔法を起動して逃げようとしていたテレサをレグルスはしっかり捕まえていた。
「ちょっとぉ! 放しなさいよ!」
レグルスはテレサを背後からしっかり捕まえている。チョークスリーパーの体勢だ。とはいえ、完全に首は絞めていないが。・・・ここで、カノーがゆっくりと立ち上がる。
「人のことを殺しに来ておいて、それは無いんじゃない?」
カノーは右手に魔力を集め始める。
「・・・おーけー、話を聞こうじゃないか?・・・そちらの要求は何だ?」
カノーが集めた魔力はすぐに闇の魔力に変換される。横で見ているだけで相当な禍々しさを感じる。それを見て魔力のむけられる先のテレサは止めようとするのに必死だ。
「ねぇ! ちょっと待って! ねぇってば!」
「僕ね、今まで一人で暮らしてきたから、悪い人がいるなって考えもしなかった。」
「・・・いや、私、人じゃないし。」
「・・・居るんだね。人を殺してもなんとも思わない奴。」
「だから・・・やめっ!」
「僕は許さないよ! 人の命を弄ぶような人を!」
「だから、私は人間じゃないって! 無茶いうな!」
レグルスは思った。この子が言っているのは人間だからとかそういう話じゃないと。まあ、命乞いに忙しいのは分かるけどね。
「頼むから、それを近づけるのはやめてくれ~!」
「君はそうやって命乞いをする人を助けてきたのかい?」
「・・・・・いや・・・まて・・・はなせばわかるから・・・」
「さよなら・・・【ディケイ】!」
そう唱えた直後、手にしていた闇の魔力が、テレサを襲う。その魔力は速やかにテレサに吸収され、直後テレサの体から虹色の泡が無数に発生する。
「やだよ・・・しにたく・・・・にゃ・・あ」
言葉を発することが出来たのはここまでだった。そのまま地面に崩れ落ち、腐食が進行する。1分後、嘗てテレサであった肉塊から刺激臭が漂っている。臭いのが不快だったのか、即座にヘルファイアを唱えて燃やしてしまったが。
「・・・ラストは衝撃的だったが、無事でよかったよ。」
どこからどう見ても残酷以外の何物でもない魔法で止めを刺したことに戸惑いは隠せないが、別に彼に非があるわけでもなく気を取り直して声を掛けるラークである。
「危ないところを助けてもらって有難うございました。」
「いや、俺たちの仲間も君に助けられているからお互い様だよ。」
「仲間って? ああ綺麗なお姉さんの?」
「? ああ、ミリアムか。 俺の彼女だぜ。」 「違います!(怒)」
ラークの返答に被せるように言うミリアム。この旅、意外とラークにとって口説き落とす時間はあまりなく、以前にょり大分ましに放ったものの、友達以上になかなか行けてなかったりする。
「ですよね。・・・そうは見えませんもん。明らかにお兄さんには似合ってないですもんね。」
流石のラークもあまりにも失礼な言い回しに、額に青筋を浮かべるのを堪えられなかったが、そこで止めて無理にでもスマイルを維持する。実はミリアムはミリアムで、今の発言で少しイラッとしたのだが。それを表情に出すとラークが図に乗る可能性があるため、必死で我慢したが。 まあ、それはそれとして、レグルス達も自己紹介を済ませていく。
「話が脱線したけど、ここは賢者ヒューイの家で間違いないんだよな?」
会話の流れを変えようと、レグルスが本題を切り出すと
「そうなんですよ。僕はヒューイの孫でカノーと言います。まだ150年しか生きていないですが。」
「うそ?! まさかの年上!」
エストが驚愕しているが、エルフが長命であることを考えれば驚くことではない。ないが、見た目自分たちの中では最年少のリーフより若い見た目で、実はここにいるものの祖父母よりもはるかに年上であると考えるとギャップ感は酷いものがある。
「でもまあ、僕はエルフの中でも童顔の方ですよ。」
「いや、そういう問題じゃないと思うんだけど・・・」
「実はそういう問題だったりするんですよね。普通エルフで150といったら、いいところ中年の小父さんってとこですから。この見た目は十分子供っぽいですよ。」
150過ぎで童顔と言ったから、カペラがツッコミを入れたのだが、長命のエルフならではの事情を聴かされると納得せざるを得ない。
「人間でもそうだと思うのですが、魔力が高いと寿命って延びるじゃないですか? だから高い魔力だった祖父のヒューイも600歳まで生きたのですが、魔力が普通だった両親は300歳位しか生きていないんです。普通、エルフの寿命は300歳位なので、ほぼ寿命通りですね、うちの両親は。」
「どういうこった?」
よく分かっていないラルフが聞き返す。
「実年齢は皆さんの何倍も生きているかもしれませんが、実際、僕はまだまだ子供なんですよね。行きつけのお店でも、何十年も通い続けているのに未だに子ども扱いです。50歳位の若造に見えるそうです。」
人間の自分たちとしては感覚が分かりにくいが、要するに自分はまだまだ子供だからそういう扱いでいいということだろうか?
「ふ~ん? 要するに、君はどちらかというと、年上なんだから敬え~って感じじゃなくて、年下の後輩のように接したほうがいいってことかな?」
カペラが確信を突いた発言をするが、
「・・・だいたいそんな感じです。・・・ハイ。」
正解だったようだ。
「で、皆さんはどうしてこちらに? そして襲ってきた連中は? 何かご存じです?」
カノーはまだ状況がつかめないのかそんなことを聞いてくる。そこでラークは、現在の世界の状況、自分たちの旅の目的、そして、闇の術者と闇精霊のペンダントを探しにここまで来たことを話す。
「・・・成程。・・・僕はあの悪魔に邪魔ものと認識されたわけだね。僕を騙して味方にしようとかは考えなかったのかな?」
確かに、あのような魔法を使うカノーが敵になったと考えると非常に恐ろしい。先入観にとらわれない考え方をするのだな、とレグルスは素直に感心してしまった。
「でも、失敗したよね。うまいこと言って味方に付ければいいものを、あろうことか殺そうとするなんて。これは黒幕を倒さない限り僕は安心して寝られないってことだよね?」
「・・・まあ、そういうことになるな。」
レグルスがそう返答するが、さらにそれに対して
「ここまでされて僕も黙ってはいない。祖父のように僕も魔王退治に参加させてもらうよ。皆さんよろしくお願いいたします。」
「ああ、よろしくな!」
ラークがそう返事をする。カノーが仲間になった瞬間である。
「カノー、早速で悪いが、湖底の洞窟に来てもらって構わないか?」
勿論、精霊の儀式を行うためである。頷いてくれたので、早速闇竜の元へ転移する一行。
湖底の洞窟に着いてみると、人間形態になった闇竜が出迎えてくれた。黒を基調としたドレスを身に纏った、長い黒髪の、見た目の年齢が20台前半、見目麗しい女性の姿だった。
「勇者リーフ、待っていましたよ。・・・やはりヒューイの孫が持っていたのですね。彼から発する気が当時のヒューイと酷似していますからよく分かります。闇魔法の適正も完璧のようですね。」
「精霊竜の儀式をやってもらえますか?」
「はい、条件はそろいましたので、問題はありません。・・・では!」
そう言うと、闇精霊のペンダントに増幅された闇の魔力がリーフの体の中に吸い込まれ、闇の儀式が完了する。
「これでいいかしら。・・・リーフは闇魔法には適性は無いようですね。ですが、これによって、あなた自身の闇魔法に対する耐性は大きく上がったはずです。きっと今後の旅の助けになるでしょう。」
「有難うございます。」
リーフは礼を言うが、
「これで5つ目だったかしら? 残るは土の儀式のみなのかしらね? 他の精霊竜から話は聞いているかしら?」
全員首を横に振る。何を話そうとしているのか皆目見当もつかない。
「・・・そう。私も詳しくは分からないのだけど、もうずいぶん前から土竜の気配がしないのよ。」
「・・・「「!!!!!!」」・・・」
「・・・どういうことでしょうか?」
ラークの声色が変わる。彼女に怒ってもしょうがないのだが、土竜がいないとなるとこの儀式は完了しないことになり、龍王ゲルザードを再封印することが出来ないということにつながる。それでは今まで何のために旅をしてきたのかわからなくなってしまう。
「恐らくどこかで封印されたのかもしれません。だとすれば彼が元々いたレムリア大陸のどこかということになるのですが、彼の気配を感じない以上、元居た場所なのか、移動したのか全く分かりません。」
「・・・土竜が倒された可能性は?」
レグルスはそう聞くが、もしそうなら可能性は完全に潰えてしまう。
「いえ、それはありません。彼の気配が無くなったのは、今から300年前。その時に例えば魔王のような大きな力が土竜に接近したり、土竜の討伐が可能なほどの多数の魔獣が集結するようなことも感じませんでした。・・・ただ、彼のの気配が消えたのです。その際大きな魔力は感じましたから、封印された線が濃厚だろうと私は考えます。」
「魔王や魔獣の仕業ではないと? では?」
ラークがそう問うが、それに対する闇竜の答えは、
「人間の仕業だろうと私は考えています。考えたくは無いですが、他には考えられないのです。」
そもそも何故人間がそんなことをする必要があるのか? 闇竜の考えを素直に受け入れられない一行であったが、そんな中レグルスが語り始める。
「俺は歴史好きで、レムリア大陸の歴史についても読んだことがあるのだが・・・確か王国歴1415年 8/7のことだったか、レムリア大陸に出現した邪竜を封印することに成功したと書かれていた気がする。・・・もしその邪竜というのが土竜のことを指しているのなら、話につじつまが合う。」
「・・・ってことは、その封印を解除してやればいいってだけじゃないか?」
こういう場面では珍しくラルフが発言してくる。
「推測の通りならそういうことになるだろうが、はっきりする前に結論づけるのは早計だぞ。」
「でも、行ってみるしかないのではないでしょうか? レムリア大陸に。」
ラークが慎重な意見を述べるが、リーフが言うようにまず入って切る以外の選択肢は無さそうである。
「よし、次はレムリア大陸だ。とはいえ、色々あったから、2,3日ゆっくりしないか? シュネー村で。」
「何でシュネー村よ?」
急ぐ状況で、何故レグルスの里帰り(?)をさせなければならないのか。そんなことでエストが噛みつくが、
「勿論、理由はあるぞ。まず、地理的にガイアナ島からがレムリア大陸に一番近いという点、2つ目は今まで極寒の地にいたから暖かいところに行きたいという点、3つ目はカペラの妹ユーフィの様子を見に行くという点である。」
「2つ目の理由は置いておくとして、地理的に近いのは確かに大きいわね。ユーフィに私も久しぶりに会いたいし、行きましょう! シュネー村へ。」
話を聞いていたカペラは嬉しそうである。そんな訳で一行はレムリア大陸に行く前にシュネー村で休息を取ることに決定したのであった。
事実上この章は終わりですが、次回は今回の話の後半で書いた、レムリア大陸で起こった過去の話を描く予定です。幕間とお考え下さい。これを含めて計2話程、本編に入る前に書くと思います。ご了承を。次回は6/8の予定です。




