賢者の家
1734年 6/16
レグルス達が闇竜から、700年前の闇精霊のペンダントの所有者の情報を聞き、エカナの街に向かおうとしていた頃、旧アースガルド領、帝都ガルドの帝城の皇帝の間にて、悪魔族のテレサが同じく悪魔族のマルローとフレイアから、湖底の洞窟で起こったことに関して追及を受けていた。
「なるほどなるほど。・・・3週間以上も、闇竜の部屋の前で黙っていたのは勇者を待ち伏せするためだったと。」
「で、まともに彼らとやりあった挙句、戦闘時間はほんの数分間で、危険だからと逃げ帰ってきたと?・・・素晴らしい判断ですわね?」
テレサより受けた報告を聞き終えて、マルローとフレイアがそれを要約して確認したところであった。勿論、最後の称賛はフレイアの皮肉であり、それを黙って聞いていたテレサは只々元々大きくはない体を更に縮めている。
「で、でもですよ? 彼らがあんな人間離れな能力を持っているとは思わなかったもので・・・」
「テレサ・・・私は勇者一行の強さの情報を事前に話していたはずですが・・・聞いていなかったのですか? ラーヴァナをタイマンで倒した男もいるのですよ?」
「・・・・・」
「そもそも貴方が連れて行った軍勢は300とごく少数だったはずです。確かに貴方には勇者を待ち伏せしてできる限り足止めをしろと指示しましたし、目的をぼかす為、闇竜襲撃を装えと指示もしましたが・・・、だからと言って闇竜の部屋でそのほとんどを待機させるとは思いもしませんでしたわ。」
「まあ、ちょっとは軍勢を割いて、移動中の彼らを襲わせるようにしたところはある意味期待どおりでしたが、そっちに割り当てる数が少なすぎましたね。結果彼らにゆっくり湖底の洞窟の旅を楽しませるだけだったようです。」
「・・・はぅ・・・」
「・・・まあ、いいです。テレサ、次は無いですからね! それはそうとフレイア、王都エルフィナの襲撃失敗の件はどう思います?」
「散発的に魔獣が襲う状況を作ることで、成功しないにしてもゆっくり疲弊させられる予定だったのですが、まさかそのすべてを切られるように王都全体に結界が張られるとは・・・」
「あの規模の結界は相当な術者ですね。たしか勇者の仲間の一人に光の魔法が得意なものがいたはずですが、それでもあの結界は張れないはず。少なくとも別の誰かが絡んでいます。・・・例えば賢者ヒューイとか?」
「まさか賢者ヒューイはないですよ? いったい何百年前の人だと・・・」
「フフ、別に彼本人とは限らないじゃないですか。彼の子孫とかなら十分に考えられますよ?」
「マルロー様? 何か情報をお持ちで?」
「ええ、嘗て賢者ヒューイは人嫌いなため、ミーミル湖の南岸の街エカナより更に南の森に一人で住んでいたと聞きます。本人はさすがに死んでいるでしょうが、その子孫はまだそこにいるのかもしれません。勿論いるとは限らないのですが・・・」
「見つけたら殺しますか?」
「そうですね。可能であればそうして下さい。・・・それと、もしも闇精霊のペンダントを確保できるようであれば、手に入れたいところですね。彼らに対するこれ以上ない妨害になるでしょう。」
「・・・聞いていましたか、テレサ? もう一度あなたにチャンスを与えます。かつての賢者の家の捜索と彼の子孫を発見した場合の殺害、そして、闇精霊のペンダントの確保。何度も失敗して、マルロー様の顔に泥を塗るような真似はしないように。」
「・・・はい、今度こそ間違いなく・・・」
そう返事をしたテレサはもう一度スヴァール大陸に転移していった。
「彼女は大丈夫なんですかね?」
「もし発見できたとして、再び勇者一行が絡んでくるようなことがあったら難しいかもしれません。あの子では勇者リーフはまだしも、レグルスの相手は無理です。」
「・・・でしょうね。5つ目の儀式が行われることは覚悟しましょう。ですが、6度目はそう簡単には行えませんから。何しろ土竜は・・・」
「ある場所に厳重に封印を施していますからね。そもそもその場所を探り当てるところから始めなければならないですから・・・」
「それでも何とかしそうなのが彼らですが、要は時間が稼げればよいのです。恐らくは彼らがレムリア大陸に行って色々動いている間に、ゲルザード様の封印は完全に解けることでしょう。そうなれば、表向きゲルザード様がヴィトの飼い犬のふりをなさることになっていましたが、その必要もなくなります。」
「マルロー様、そうなれば、・・・」
「ええ! ようやく我々の本当の計画が始まりますよ。・・・フフ、楽しみです。・・・」
1734年 6/22
エカナの街で一泊したレグルス達は、昨日本に書かれていた情報を頼りに南東の方向に歩いていた。記載されていたことを信じるならば、50㎞程で到着するはずである。ただ、集落ならいざ知らず、森の中にある家である。しかも樹をくりぬいて作った家とのことだから、完全に自然に溶け込んでいる可能性すらある。これで、賢者の孫の情報も無ければ、その家が朽ちてなくなっていた可能性すら考えるところである。そういう意味では、その家があるのは確実であろう。そう思いながら、森の中の道なき道を進んでいる。
「・・・分かってはいたけど、歩くの大変ね。」
「ですわね。・・・この下草とか かき分けながら進むのが大変で。」
「ああっもう! 小枝がうっとうしいわね? ねえ、エスト? この辺、火魔法で焼き払ってくんない?」
「コラコラコラ! それは流石にまずすぎるだろ?!」
「・・・冗談だし・・・本気にすんなや! 馬鹿ラルフ・・・」
「んだと! 言わせておけば!・・・フガフフッ!・・・」
エスト、ミリアム、カペラと口々に文句を言ったところで、真に受けたラルフがツッコミ。それを冷たく返されて逆切れしそうになったところでラークに止められたラルフ。ラークはナイスインターセプトである。
「だけど、結構歩いたよね? 40㎞位来たかな?」
「そうだな。 文献の記載通りなら、あと10㎞ってとこだな。」
「うわぁ・・・まだそんなにあるんだ・・・」
アレクが聞いてきたので、レグルスが答えたのだが、エストが軽くショックを受けたようだ。
「・・・さっきから魔獣の気配が強くなってきてません?」
今のはリーフである。以前と比べて索敵もできるようになってきているリーフであるが、
「確かにそうだな。・・・しかもこれから進む方向にいそうだな。」
「って、レグ、これって一頭二頭じゃないよね?」
アレクも感じたようだ。
「そうだな、これは大軍だな。中には強い魔獣もいそうだ。急いだほうがいいだろう。」
「・・・ちょっと待ってよ! ・・・流石にしんどい・・・ペースが・・・」
カペラがちょっとへばっていた。道ではないところをかき分けて歩いている上に、それが雪道だったりする。ところどころズッポリ埋まったりして歩きやすいわけはないのだ。当然疲労もたまる。
「はいはい、分かった。他に辛い奴はいるか?」
レグルスの呼びかけに、カペラの他ミリアム、エスト、リーフが手をあげる。
「・・・分かったよ。今 回復魔法を掛ける。」
ということで3人に回復魔法を掛けるレグルス。ミリアムが掛けてもいいのだが、本人が疲れているからやめておいた方がいいだろう。直後進行を再開し、先を急ぐのだった。
レグルス達がそんなやり取りをしていたちょうどその頃、その賢者の家では、賢者ヒューイの孫であるカノーが自分のベットに横になっていた。とはいって具合が悪いわけではなく、ただ自堕落に過ごしているだけだが。
「あ~あ、暇だなぁ~」
自分の祖父ヒューイは典型的な人嫌いだったと聞く。が、一人では処理しきれないほどの魔獣に襲われていた時、助けてもらった勇者カミュに心酔し仲間になって以来、旅が終わった後も人を拒絶することは無くなったのだとか。
その後、これはと思う人材には弟子入りを認めるようになり、彼が400歳位のころに弟子のひとりと結婚。結局ヒューイ自体は600歳位で死去するのだが、ヒューイのただ一人の息子は魔法使いとしては普通で、嫁は早くに貰うのだが、エルフの寿命は魔力に大きく影響を受けるらしく、350年程生きた後、老衰で死去した。
その息子であるカノーは今から150年程前に生を受けた。両親とは100年程は一緒に暮らしていたが、両親に先立たれてからは、この祖父の家に一人暮らしが続いている。見た目が少年に見えるのは、祖父から引き継いだ強大な魔力のせいだろう。もしかすると、祖父を大きく超えるのかもしれない魔力で加齢よりも自己再生が勝っているのだろうと思ってはいる。
先の人生が特別長いと感じているからなのか、自堕落な生活をすることが多いカノーではあるが、祖父とは違い決して人嫌いではない。なので、よく街には遊びに行ったりしている。金は時々魔獣を狩ってギルドにて監禁したりしているので、街で買い物する金に困ることは無い。昨日も、ここから一番近い街であるエカナに行ってきたばかりである。
「しっかし、まさか王都の結界構築に協力してくれた人の仲間と行きつけの食堂で会うとはね。」
そう独り言を言ってみたが、3週間ほど前の王都襲撃は強烈な経験だった。魔獣は自分で狩ったりするので珍しくもないが、街を、それも王都を襲撃するとか前代未聞であった。それを人間族の綺麗な女性が必死に守ろうとしている光景に目を奪われた。同時に自分も何かをしなければならないと思ってしまった。だからあの場でその女性に魔力を渡したのだ。・・・その時に他にも仲間がいたことなんか目にも入っていなかった。だから、相席したときにいた女性のことなんか覚えていなかったんだが・・・
「・・・あれは怒っていたよな・・・」
一体、何が原因だったんだろうか? やっぱり自分を覚えていなかったことが原因だろうか? とか思っていたりする。 正解は、本人が綺麗ではないといわれたと思っている なのだが、流石にそこまでは分かってはいない。 とはいえ、苛立っている雰囲気は伝わってきたので、もしまた会えるなら、ちゃんと謝りたいなとは思っていたりする。
「でもなぁ、何が起こっているんだろうな?」
これまでに人間族の来訪がこの国になかったわけじゃない。鎖国をしているわけではないので、普通に人は入ってくるが、王都で出会った魔力を渡した人物や昨日喫茶店であった人、怒らせた女の子もそうだけど、横にいた彼氏(?)は凄いと思った。自分の半分くらいの魔力の持ち主に初めて会ったのだ。しかも、多分だが彼は魔法が本業じゃないはずだ。それだけすごい人たちがこの国に来ていること。そして、今までになかった魔獣の襲撃。・・・昔、父や母が祖父から聞いた話を聞かせてくれたが、勇者とともに戦った魔王との戦い。そんな非日常の世界を感じさせる何かが今迫っているような気がしてならないのである。
「あれ?」
何でもっと早く気が付かなかったんだろうか? 今更ながら、この家にかなりの多数の魔獣の気配が近づいてくる。数は・・・1000以上はいる。・・・悪魔もいるようだ。
「数がいくらいても関係ないけどね。」
愛用の【破壊神の杖】を持ち、首から【闇精霊のペンダント】を掛けて、急いで家を出ると、牛型の毛むくじゃらの獣、バッファローというんだったか、それらが多数こちらにつこんっで来るのが見えた。すかさず火と闇の合成魔法である【ヘルファイア】をお見舞いする。水や低温では消せない炎に包まれ、次々に息絶えていく魔獣たち。
空から飛んでくる魔獣も、これも彼が得意な魔法である氷魔法【アイスジャベリン】で串刺しにしていく。この家に近づくや否や次々に絶命していく魔獣たち。このまま彼の無双が続くと思いきや、
「やっば・・・」
龍である。物理攻撃の強い彼らは、純粋な魔法使いには相性のいい相手ではない。勿論前衛がいるような環境なら話は別であるが、今はカノー一人である。しかも、
「あれって、闇属性の龍ばっかり・・・」
カノーが得意なのは闇魔法である。それに耐性を持った龍が多数なのである。先日レグルスが討伐した邪龍ギリムよりは格下なものの、それでもその数500程。試しにヘルファイアを撃ってみる。
「ギャアアアアアアアアッ!!!!!」
怒らせただけだった。冷や汗を流すカノー。その様子を見て、今度こそ任務成功とほくそ笑む悪魔テレサであった。
次回は6/6です。




