湖底の洞窟
「成程、そんなことがあったのか・・・」
自分たちが邪龍と戦闘している間、王都エルフィナを魔獣たちが襲撃し、突然現れたエルフの少年の助力によってミリアムが結界を張ることに成功したこと。それらを聞いて驚くと同時にホッとするレグルス達3名。二人は自分たちが留守の間に襲撃があったという事実に驚いているようだが、レグルスはエルフィナ全体を覆う結界を張れたことに対する驚きの方が勝っていた。
都市丸ごと結界で覆うためには、少なくとも魔力は3万以上、使用するMPに至っては5万は必要だろう。ミリアム自体もかなりの魔力の持ち主で、今では魔力9000、MP8000に到達している。とはいえ、現状では自分の視界に入る範囲に結界を張るのが限界だろう。その人物に魔力とMPを貸し与えてできない規模の結界魔法を行使させることがどれだけ難しいか。そのエルフの少年の魔法の技量がどれだけの高みにあるのか、想像しようとしてもしきれるのものではなかった。
「だが、この結界がある以上、この街はしばらく安全と言っていいな。俺たちもここで黙っているわけにはいかない。湖底の洞窟に行かないとな。」
ラークの言うように、本来の目的である闇竜に会いに行かねばならないのである。早速、再度女王ディアナに面会し、邪龍討伐を報告し、湖底の洞窟に向かう許可を求める。
「あの邪龍を討伐しましたか。・・・国の代表として、感謝します。ちなみに、邪龍は魔王国とは関係があったかどうかは分かりますか?」
「戦闘中に、軍門に下らないか?と勧誘を受けました。ゲルザードの配下と思って間違いないでしょう。」
湖底の洞窟の件、配下の邪龍を派遣してきたという件、そして、それによってもたらされた今回の王都襲撃の件。これらを考えると、魔王国アガルダはエルフィン王国に対して明確に侵略行為を働いたことになる。これは事実上の戦争状態といってよいだろう。レグルスの返答を聞き、今後どのようにこの国の舵取りをすればよいのか、不安を隠しきれない女王ディアナである。
「それはそうと、この度の王都襲撃に対して防衛の協力をしていただいたと聞きました。合わせて感謝いたします。」
これには、エストら居残り組は少し照れ臭そうだ。
「それで、王都を覆う結界が張られたと報告を受けたのですが、何かご存じですか?」
ミリアムは、あるエルフの少年の助力によって結界を張ったことを報告する。
「ミリアム王女が・・・重ね重ね感謝します。・・・しかし、少年ですか・・・私も国王として、王都の民のことに関心がないわけではありませんが、そのような常識外れの力量を持った存在については把握していません。もし王都の住民であれば、そのような才能の持ち主のことが私の耳に入らないわけがありません。・・・能力を隠して住んでいるのか、ここではないところに住んでいるのか。」
女王陛下も、助力してくれた少年の存在に心当たりがないようだ。いきなり現れて、そして去っていったとい少年のことはその場にいなかったレグルスでさえ気になっていたが、現時点ではこれ以上の手がかりは無さそうだ。一旦忘れることにする。ここで、ラークが本題である、湖底の洞窟へ入る許可を改めて求める。
「そうですね。邪龍も討伐されたことですし、約束通り許可はしますが、洞窟内は魔王国が放った魔獣がいるはずです。闇竜の支配下にある魔獣を倒しながら進んでいると聞きます。くれぐれも気を付けるのですよ。」
その後、女王と挨拶を済ませ退室する一行。レグルス達は城を出て、すぐさま湖底の洞窟に向かうことにした。湖底の洞窟は王都エルフィナから馬車で3時間いったところに入り口がある。準備を整えていざ出発である。
現在レグルス達は馬車に揺られながら、それぞれ時間を過ごしている。アレクは描きかけの絵の続きをしているし、他のメンバーも会話をしながら時間を過ごしている。いつもは女性陣3人がつるんで話をすることが殆どなのだが、今日に限ってはそうはなっていない。
珍しいというわけでもないが、カペラがラルフいじりをしているし、しばらく顔を見ていなかったせいか、ラークがミリアムにちょっかいを出していた。嫌そうなそぶりを見せながらもまんざらでもないように見えるのは気のせいだろうか・・・リーフはアレクの作業を興味深そうに観察している。で、レグルスとエストは互いに不機嫌そうにしながらも肩を寄せ合って黙っている。・・・いつもと違うのははっきりってこのせいであった。そんな中で、エストが口を開く。
「話は聞いたけど、一応大丈夫だったの? 怪我とか?」
「ああ、闇の魔法を受けてダメージは受けたが、すぐ回復したよ。」
「アンタがそうなるって、相当ヤバかったのね。」
「まあな。安全に戦うには戦力足りなかったかもな。そっちはどうだった? 俺たちいない間。」
「今日の襲撃を除いたら暇だった。退屈してた。」
「・・・そっか。パーティ分ける配分ミスったようだな。スマン。」
「別に謝ることではないでしょうに・・・今日なんかはむしろ戦力足りなかったくらいだし、結果オーライよ。」
「そうかもな。・・・まあ、次からは気を付けるよ。」
「ん。・・・ちょっと寒いからもう少し寄ってくんない?」
「ああ」
何だかんだで事の成り行きを注目していたメンバーからは、レグルスに対してもう少しいう言葉があるだろ?とか喧嘩してるのにそれだけくっ付くとかどんだけ仲いいだよ?等のツッコミが頭を過ったが、とりあえず丸く収まりそうであることに一安心するのであった。
湖底の洞窟は水深100mもあるミーミル湖の底のさらに下に続く洞窟である。湖の大きさも、東西に1500㎞、南北に600㎞という規模である。徒歩で移動する関係上、恐らく最深部にたどり着くまで2週間以上はかかるであろう。洞窟の入り口に到着した一行は、本来いるはずの警備兵がいないことを確認して中に入っていく。いないのは魔王国が放った魔獣に襲撃されたからである。その魔獣は今も中で暴れているのであろう。ただ、これだけの深さがあるため、最深部に到達できているかは不明である。
洞窟は基本緩やかな下り坂であった。ところどころ急激に傾斜が急なところもあったが、長い距離を進みながら少しずつ下っている印象がある。道幅は想像以上に広かった。4人位なら横に並んで歩けるレベルである。時々更に広い空間まである。分かれ道も存在していたが、流れてくる空気から進む道を間違うことはなかった。気温については、最初は外と同じような寒さであったが、しばらく歩くと思いの他、内部は暖かいのに気が付く。防寒着さえ着ていれば寒さを感じないレベルだ。気温を見ると+8℃もあった。
ここまで来る間、何度か弱めの魔獣に遭遇していた。これまで戦ってきた経験から、恐らくはもともと洞窟にいた魔獣であると推測できた。実際遭遇しても襲ってこなかったため間違いないであろうが。
洞窟に入ってから2時間は歩いただろうか。時間はもう夜7時位になった。今日はここで一夜を明かすことにする。天井の岩盤の上にはたっぷり水があるせいもあるだろうが、ここの洞窟内は全体的に湿っぽい気がする。まあ、岩石が水を通すわけではないが、僅かな隙間から水が少しずつ入り込んでいる可能性は否定できない。とはいえ、ここが浸水でジャブジャブになることは無いだろうが。
湿気が気にはなるため、見つけた広い空間に魔法で防水を施したのち、大人数用のテントを張る。洞窟内で火を熾すわけにはいかないため、しばらくは携帯食のみだ。
「モグモグ・・・贅沢は言えねぇけど、パンだけだと味気ないよなぁ。」
「そうよねぇ、基本、旅先でも暖かいものあったからねぇ。」
「あなたたちは自分で作らないんだし、贅沢言わないの。」
好き勝手なことを言い始めたラルフとカペラをエストが窘める。実際、本当にパンだけというわけではなく、干し肉少しと野菜ジュースが割り当てられている。洞窟内で食べる食事にこれ以上求めるのは間違いなく贅沢であろう。
「そういえば、敵対するような魔獣には出会いませんでしたね。」
「そうだな。出会ったのはもともとここにいたであろう魔獣の弱めのものだ。ここを襲撃した魔獣はもっと奥にいるに違いない。闇竜の配下になるだろう強めの魔獣もな。」
思い出したように話すリーフにレグルスが考えを述べる。ラークも、
「まあ、気は引き締めて行こうぜ。先はまだまだ長いんだ。どこかで敵が待ち伏せしていないとも限らない。何せ、敵さんは俺達よりも1週間以上も先にここに来ているんだ。どこで何してるかわかったもんじゃない。」
と話す。さらにリーフが、
「闇竜は大丈夫でしょうか?」
と不安を口にするが、それに対してレグルスが、
「・・・確定はできないが、闇竜の気が他の精霊竜と近い気を持っているなら、ここよりかなり深い場所で普通に元気で居そうだ。逆に明らかに強大な魔獣の気配が、そこから少し離れたところに固まっているな。魔獣はそこだけでなく、これから進もうとしている道のいたるところにいるようだが。」
「要するにどういうことだ?」
分かってなさそうなラルフが聞き返すが、対するレグルスの答えはこうである。
「あくまで推測だぞ? 闇竜の傍で集まっている魔獣はたまたまそこにいる可能性もあるが、掛かっている時間から足止めをされている可能性がある。道が封印されているとかな?・・・分からんけどな? で、こっから先の洞窟内での気配に関しては、俺たちの待ち伏せの可能性は捨てきれないな。戦闘を何度かすることになるのは覚悟すべきだろう。」
エストも気になることを聞いてみる。
「闇竜の配下の魔獣はどうなのかな?」
「女王陛下がそれとなく言っていたな。・・・闇竜の傍に数体の弱めの気配があるが・・・後は感じることが出来ないな。・・・討ち取られたか、この洞窟から逃げたか、兎に角この洞窟内にはいないな。」
「・・・そう、じゃ急がないとね。」
「・・・無理な行動はできないが、可能な限り先は急がなければならないからな。今日のうちにしっかり休んでおけよ?」
そんなラークの締めの言葉を聞きつつ、程よい時間まで会話をした後、眠りにつくレグルス達であった。
次は5/31更新予定です。




