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格闘聖職者の冒険譚  作者: 岩海苔おにぎり
第9章 闇竜とエルフィン王国に迫る危機
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襲撃される王都エルフィナ

1734年 6/1


 レグルス達が邪龍ギリムと事を構える少し前、王都エルフィナから50㎞程離れた針葉樹林帯の一角に、今や事実上の魔王国NO.2となっている悪魔マルローが滞在していた。マルローがここに滞在している理由は2つあった。


 1つは、勇者一行への妨害工作である。既に彼の主である龍王ゲルザードは、眷属の一体である邪龍ギリムを召喚できる程度には復活できている。ちなみにマルローのような悪魔族は、自らの契約主がいる世界であるならば、問題なく異世界へと渡ることが出来たりする。ゲルザードが今の状態まで力を取り戻すより遥か前からこの世界で暗躍出来ていたのはそのためである。


 とはいえ、ゲルザードが完全復活するまでにはもう少し時間が掛かるのである。それよりも早く勇者がゲルザードを再封印する力を持ってしまっては相当面倒になる。そのための時間稼ぎのために、闇竜の住む湖底の洞窟に魔獣を解き放ったのである。これで、少なくとも勇者達は簡単には闇竜に面会することすらかなわないはずである。まあ、そのせいで闇竜配下の魔獣と戦闘になってしまったようであるが。もし可能ならば、闇竜ともども葬ってしまうまでである。


 もう1つは、単純に魔王国による世界征服の一環である。ここエルフィン王国には人間の国以上に魔法が発達している。放置したままでは脅威となることが目に見えている。そのため従えさせるか、滅ぼすかの2案が考えられたが、従ったふりをされて後に噛みつかれるよりは滅ぼした方が早いという結論になったのだ。で、少しでも自軍の消耗を抑えるために、敢えて強大な邪龍ギリムを南方に配置して、それから逃れた魔獣たちを配下に着けようという計画であったのだ。


 王都エルフィナの周囲に魔獣を集めさせる計画はうまくいった。魔獣の制御はいつでも問題なくできる。・・・レグルスを含めた勇者一行3名が邪龍ギリムの討伐に向かっていった情報は既に掴んでいた。恐らくギリムはレグルスによって討たれてしまうだろう。それに関しては計算外だが、魔獣は既に集めてしまったため、ギリムは無事役目を果たしたといってよい。寧ろ、今王都エルフィナには勇者パーティの主力が不在なのである。今が王都襲撃のチャンスである。


「・・・さて、そろそろやりましょうか。」


 マルローが自身の持つ魔力を薄く広げていき、その魔力は広いミーミル湖の周辺全域にまで及ぶ。すると事前にマルローによって精神操作を受けた自然の魔獣たちが一斉に王都を目指して行動を開始して行く。一か所に固まっていない分一時的な防衛は容易いだろうが、それが断続的に続くとなれば・・・


「これでも結構な嫌がらせにはなるでしょうが、一応私の配下の魔獣も加えておきますか。」


 そう言って配置した魔獣は2000程であった。うち半分は竜種である。


「こんなところでしょうかね。仮にこれを凌げたとしても、この国は相当弱ることになるでしょうし、私のここでの仕事は完了でしょうね。忙しい身ですし次に行くとしましょう。」


 そう独り言を言うと転移魔法陣を起動するマルローであった。




 マルローが魔獣を自然の魔獣とは別に一気に召喚したことによって、その強大な気配はエルフィン王国軍の知るところとなった。当然のように王都を守るべく速やかに軍編成が行われる。


「出現した魔獣は約2000ですか。探知できた魔力反応から竜種も含んでいるようですね。出現した魔獣はここより東方50㎞で徐々に西に向かっているようですね。」


 女王ディアナは探索魔法の使い手であった。自ら魔法を行使し、敵の内訳を言い当てる。西に向かっているとは、すなわちここ王都のある方角である。どこを標的にしているかは言わずもがなである。


「恐らくは魔王国でしょうが、この数ならば全軍で迎え撃てば王都にダメージは出ないでしょう。出撃命令を出しなさい。」


 そう言って出撃していった軍は、前衛部隊1500、弓兵部隊1000、魔法部隊1500である。数の上では勝っているし、後衛部隊の力に絶対の自信を持っているエルフィン王国である。仮に竜種が多数いたとしても負けはしないであろう。




 王国軍が大挙して王都の東側へと出撃して行く。その様子を王都民とともに見送っていた、居残り組5名である。戦闘準備を急ごうとしたエスト達であったが、


「もしかしたら、ここで戦う羽目になると思ってしまったけど、あれだけの軍勢で迎え撃てば勝てそうね?」


「てゆうか、あたしらより気が付くの早かったってことだよな? 今軍を派遣してるってことは。」


「そういうことだね。今より少し前に誰かが索敵したんだろうね。流石魔法大国だよ。」


 カペラとアレクが口々に言うが、ここ以上に魔法が発展している国は無かったりする。エルフは基本争いごとを嫌う種族ということで有名だったりするのだが、それはイコール戦争をしないにはならないようで、いざ有事の際にはこのように行動が早いというのをまざまざと見せつけられた格好である。




 少しだけ時間が経過する。東へと行軍していたエルフ軍が、魔獣の群れを発見する。それは、魔獣の側からも同様であったようで、すぐさま戦闘が始まった。


 魔獣の群れは数が多い割には、戦闘を指揮するような存在はいないかのように、只管無秩序に突っ込んでくるのみであった。幾ら強大な魔獣と言えども、戦略もなく突撃するだけでは大した脅威ではない。ただその半分が竜種であることを除けばだが。高火力の後衛部隊を守る役割を持つ前衛部隊は、竜種の突進に悩まされることになる。体当たりで吹っ飛ばされ、耐えたところをブレスが襲ってくるのである。この攻撃に前衛部隊は早くもガタガタにされる。


 だが、両軍が乱戦状態になっているより後方部分に、エルフ魔法部隊からの火・光の融合魔法である爆発魔法が数十発も着弾する。これにより、まだ先頭に加われていない魔獣たちが戦闘をする前に戦闘不能になっていく。それを見て本能的に感じたのか、飛行可能な魔獣が前衛部隊を飛び越え、魔法を放っているところを直接攻撃しようとするが、それは同じく後衛部隊の弓兵隊がそれを許さない。飛竜も含めて、後衛のいるところにたどり着く前に打ち落とされて行く。


 勝負は王国軍の前衛部隊の壊滅が先か、魔獣の群れの後方が壊滅するのが先か、という状況になったのだが、・・・結果、王国軍の魔法部隊の火力が勝ったようだ。突入してくる後続の圧力は徐々に小さくなり、前衛部隊の大きな犠牲を払いながらもどうにか大軍の撃退に成功したようだ。戦闘開始から1時間後のことである。


「何とか撃退に成功したようだな。被害状況はどうだ?」


 今回の行軍の団長を命じられたファルコンが状況確認を求める。


「被害は主に前衛部隊ですね。無事なものは全体の2割といったところです。軽傷の者2割、重症の者4割、死者2割です。」


「・・・そうか、思ったよりも被害が甚大だな。戦死者は丁重に弔うとして、問題はこの襲撃が今後どうなるかだな。同様の規模で短期間のうちにもう1度来たら、・・・マズいな。」


 周囲にいた直属の部下たちはそれを聞いて皆深刻な表情をするが、それも一瞬であった。


「防衛には成功したのだ。胸を張って帰還するぞ。」


 ファルコンは軽々しく内心を口に出してしまったことを心の中で詫びつつ、深刻に考えるのは自分だけでよい。そう思い、強引に気持ちの切り替えを図ったのだった。だが、


「・・・何だ?・・・これは?」


 索敵魔法が得意なファルコンの部下の一人が、かなりの数に及ぶ魔獣の魔力を検知してしまった。それが一か所に固まっているのではない。一つの反応に恐らく数匹の魔獣、それが王都周辺のかなりの広さの中に点在しているのである。しかもそれらすべてが、王都の方向に移動しているのである。そしてそのいくつかは王都内で検出されている。これはもう襲われていることに他ならない。そして、これは王都がこれから散発的に襲われ続けることを意味する。


「クソ! 全員に通達。戦闘態勢を維持したまま、王都に帰還。そのまま全員防衛任務に着け。魔獣は発見次第討伐せよ!」




 王都軍が、魔獣の群れを討伐し終わる少し前、王都軍の出撃した様子を見て、気持ちが少し弛緩していたエストたちの耳に悲鳴が聞こえてくる。慌てて近寄ってみるが、


「熊だ!・・・熊の魔獣だ! 3頭いる!」


 見るとメインの通りに体長3mはある熊の魔獣が2頭歩いていた。そしてもう1頭は、一人の男性の(はらわた)を貪っている最中であった。


「・・・ヒッ!」


 あまりにも残忍な光景に表情が引きつるミリアム。その熊にエストのファイアボールが命中する。すぐさまその火力で炎上する熊の魔獣の一体。これで残りの2体はこちらが脅威であると気が付いたようだ。ものすごい勢いで走ってくる熊の一頭にラルフが剣を一閃、上半身と下半身を分断した。残り一頭はカペラが放った風の刃がその首を切り落としていた。


「クソ! どうなっていやがる?」


 ラルフがそう言っている間に、アレクが索敵魔法を展開する。・・・すでに街の中に魔獣が数体紛れ込んでるのが確実であった。出現場所はバラバラだ。


「どうすんのよ、これ! 手分けして向かう?」


「やめておいた方がいいよ。下手したら皆やられちゃうよ?」


 色んな個所に現れたのならと、分かれて行動することを提案したエストは、アレクにすぐさまダメだしされる。


「でも! このままじゃ、街の人は・・・」


「歯がゆいけど、一か所ずつ行くしかないよ。できることをしよう。・・・え?」


 アレクが言葉を終えようとしたその時、再び新たな魔獣の反応が。それも今までとはまた違うところに。念のため範囲を広げてみると、魔獣が散発的に全方位から近づいてきているのが分かった。


「どんどん魔獣が近づいてきている。これキリがないよ。」


「この国の軍は何やってるのよ?・・・ってさっき出ていったばかりだったわね。どうしよう・・・」


 実は先ほど魔獣の群れを迎撃しに向かったのはほぼ全軍に近い。残った兵士も何もしていないわけではなく、王都に現れた魔獣を各個撃破しているところであった。つまり、現時点で打てる手はすべて打っていることになる。


「ねえ、ミリアム? アンタの光魔法で何とかならない? 魔獣が入ってこられないようにする結界魔法とか?」


「・・・あるにはあるのですが。・・・私の魔力では半径30m程の結界は張れますけど、王都エルフィナ全域というわけには・・・」


 実はこれでも普通は高位の魔法使いでも無理なレベルである。光魔法の実力がトップクラスのミリアムでこれなのである。街単位となれば、数十人の高位魔法使いが協力して取り組まなければ結界を張ることは無理であろう。ミリアムの返答を聞いて、エストは絶望感を感じずにはいられなかった。


「ねえ?」


「!」


 突然、エルフの少年に声を掛けられた。


「君、光魔法使えるの? しかも結界魔法。」


「はい、使えます。が、今は役に立ちそうも無くて、ごめんね。」


 結構上から目線で声を掛けられたのにもかかわらず、動揺からか普通に返答したミリアム。


「何で?」


「何でって、私の魔力が足りないからで、そのせいでこの周囲位しか張れないので。」


「足りないのは魔力だけ?」


「もしかしたら、使用可能な魔素量(MP)もかしら?」


「OK! ねぇちゃん、おでこ出して?」


「?・・・別にいいですけど?」


 言われるがままにおでこを出すミリアム。それに自分のおでこを合わせてくるエルフの少年。


「!!!!!!」


 その一部始終を見ていたエスト、カペラ、ラルフ、アレクは初めは少年の行動にあっけに取られていたが、我に返ると、少年をミリアムから引きはがそうとするが、当のミリアム本人から待ったがかかる。


「・・・え? ナニコレ? 魔力が漲ってくる。」


「僕さあ、光魔法は使えないから、結界張れそうな人探してたんだよね? その人に僕の魔力かしてあげたらかなり大きな結界張れると思ったから。でも思ったほど渡さなかったから、君も結構な魔法の使い手何だね。やるなぁ。」


「・・・話は後です。まずは結界を!」


 するとミリアムを中心に巨大な魔法陣が王都エルフィナを余裕で包めるほど大きく展開し、結界魔法が発動した。


「すごい、近づいてきた魔獣が逃げて行っているのが分かるよ。あとは、今王都にいる魔獣を討伐すればいい。それも結界効果で弱っているはずだし。」


「そう、それはよかった。僕も見つけたら倒しておくから。頑張ってね~。」


 その少年が去ってゆく様子を呆然と見ていたエストたちが我に返るのに数十秒を要したのである。その後は王都に巣食う残敵を相当するのにそう時間はかからなかった。そして、邪龍を討伐し終えたレグルス達が合流するのはこれより少し後であった。


 








 


 

 





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