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格闘聖職者の冒険譚  作者: 岩海苔おにぎり
第9章 闇竜とエルフィン王国に迫る危機
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邪龍ギリム

作成途中で一回公開になってしまったようです。現在は完成品にしております。失礼いたしました。

1734年 6/1


 レグルス、ラーク、リーフの3名はスヴァール山脈の麓に来ていた。緯度で言うと70度くらいの地点であり、現在午前9時頃であるがまだまだ暗い、極夜の状態である。恐らく正午ごろになっても薄明るくなる程度であろう。そして、そんな状態であるから、寒さも余計に厳しく感じるわけで、悪いことに結構強めの風が吹いていて体からどんどん熱が奪われていく。気温は氷点下39℃、体感温度的にはそれ以下である。


「・・・流石に寒いな。・・・こんなのは俺でも経験したことないぞ・・・」


「・・・何か、寒いというより、・・・痛いです。」


 3人とも真冬の寒さを想定して、完全防備で外に出たつもりであったが、ここまでの寒さはさすがに考えていなかったか、行動を妨げるほどの寒さに必死に耐えながら少しずつ歩みを進めている。それでも、事前に王都エルフィナで勧められるがままに購入した、魔力を通すと発熱する携帯懐炉のおかげで懐だけは温かく、どうにか最低限動けてはいる感じである。魔法で灯した明かりを頼りに前進するレグルス達であったが、


「中々気配が掴めないな・・・」


 困ったように独り言を吐き出すレグルスであったが、ここに何をしに来たのかと言えば、ここに居ついてしまった邪龍を討伐するためである。だから、それらしい気配を探してはいるのだが、通常の魔獣の気配はある程度感じることが出来ても、それらの魔獣たちが逃げ出すような強大な魔獣の気配、つまりは邪龍の気配を感じることが出来ないのである。


「2人とも散開して!」


 珍しく、リーフが2人に指示をする。訳が分からないまま、リーフが跳ねた方向とは別方向に跳躍して逃げるレグルスとラーク。その直後、巨大なエネルギー塊が3人がいた辺りに着弾した。その場から積もった雪が吹き飛び、それでもそのエネルギー塊はエネルギーを放出しきれずにくすぶっている。周囲には闇の波動が漏れている。


「2人とも、あれには極力触れるな。生命力を奪われるぞ。」


 レグルスが今言った通り、光のエネルギーが生命に活力を与える性質があるのに対し、闇のエネルギーは生命から活力を奪う性質がある。そのため、闇の魔法は生命に状態異常を与えたり、周囲から熱を奪ったり、生命力を減衰させたり、極めつけは生物を即死させたりといった効果を持つものがある。複合魔法に使用する場合も、氷魔法と組み合わせればより強力な凍結系の魔法を生み出したりもできる。そんな力を持ったエネルギー塊で攻撃されたことになる。そんな攻撃をする存在と言えば・・・


『・・・外したか。おとなしく喰らっておけば、楽に死ねたものを・・・』


「貴様が邪龍か?」


『エルフどもが勝手に呼称した呼び名なぞ知らん!・・・と言いたいところだが、ここを新たな住処とした我に邪龍などという失礼極まりない呼び方をしていることは聞き及んでおる。我の名はギリムだ。とはいえ、これから死にゆく貴様らに説明することは意味がないのだがな。』


 レグルスの問いに極めて回りくどい言い方で肯定する邪龍ギリム。その背後には2体の飛龍が浮いていた。恐らくはこのギリムの配下であろう。そう考えていると、飛龍2体が闇属性のブレスをリーフの方向に吐く。この2体の飛龍もかなり力を持っているのか、リーフが回避した後の雪は飛び散り、岩肌が怪しい煙を上げている。


「リーフ!、ラーク! その2体の飛龍は頼んだ。・・・コイツは俺が殺る。」


 レグルスの言葉を無視するように、邪龍と2体の飛龍はリーフを襲おうとしたが、1体の飛龍の右目にラークが矢を命中させ、叫び声を上げながらその飛竜は空中で苦しみもがいている。レグルスは邪龍ギリムの脳天に踵落としをきめる。そのまま邪龍は地面に墜落させられ、落下点から雪埃が舞う。残った1体の飛龍にリーフが剣で一閃、飛龍の胸元が少し切れ、血液が噴き出す。だが、どれも牽制程度の意味しかなかったようだ。右目を貫かれた飛竜は自分で矢を抜き、早くも幹部が治癒を始めている。もう一体の飛龍も出血はすぐに収まり、体勢を立て直している。邪龍ギリムはすぐに上空へ飛翔しレグルスの方を見る。


「貴様、我に痛みを感じさせるとは・・・優先しなければならぬのは貴様の方だったようだな。」


 ギリムはそう言うと、レグルスに向けて最初の一撃よりはかなり威力を抑えたであろうエネルギー塊を30個程度作り出した。それが、ギリムの周囲に浮いている。それもつかの間、一斉にレグルスの方に向けて跳んできたのである。これを躱し上空に逃れるレグルスであるが、予め逃げる方向も予測していたのか

そこにも闇エネルギーの塊が浮いて居り、そのうち1個が直撃してしまう。


「・・・クッ」


「レグ!」


 その様子を見たラークが援護をしようとするが、今相対している飛龍に妨害されてしまって、それもかなわない。リーフの方を見たが、もう一体の飛龍と剣と魔法を駆使して必死に応戦している。とてもじゃないが救援には行けそうもなかった。


 レグルスは想像以上のダメージを受けてしまっていた。そのため、苦悶の声を漏らしてしまったが、逆に言えば深刻な状況でもなかった。すぐに何でもないように繕い、さりげなく自身に回復魔法を掛けていくレグルス。同時に自分の体の中心に練った気を集めだす。


『ほう、人間の分際であれを耐えるのか? やるな! 一応聞くが、貴様ゲルザード様の配下に加わる気はないか?』


「微塵も。邪魔だと思うならさっさと殺したらどうだ?」


『安い挑発だな。・・・だがあえて乗ってやる。・・・死ね!』


 ギリムは宙をくねりながら高速で飛翔し、レグルスをかみ砕かんとしてくるが、そのレグルスはそれ以上の速度で飛翔していたため、邪龍の噛みつきはすべて空振りに終わる。その度にレグルスの物理攻撃が命中する。少しずつではあるが徐々にHPが削られてゆく邪龍ギリム。


 一旦レグルスから距離を取ったギリムは、再び先ほどのエネルギー塊である、闇の魔力球を無数に展開し、レグルスの方に放出する。再びそれらを躱し、今度は左方向に回避したレグルスであったが、


「!」


 レグルスが回避したその場所に、闇の魔力で編まれた網が張られていたのである。この網は無色透明で、捕まえたものの動きを阻害する効果があるらしい。どうやら邪龍ギリムは、レグルスに気づかれないように、あの場から逃げそうな方向すべてにこの網を張り巡らせていたらしい。まんまと捕まってしまったレグルスである。


『そこまでのようだな。人間にしては惜しかったが、我にここまでさせたのだ。誇りをもって死ね!』


 ギリムはそう言うと、最初に放った極大の闇の魔力球を作りそれを直径1m程に収束させ、魔力球からは禍々しいエネルギーが放たれるようになる。それを右手でつかみ取ると、高速でレグルスに投げつけた。


『さらばだ・・・』


 この瞬間をレグルスはじっと待っていた。体内に練り続けた気を更に増大させながら。実は体の表面を薄く伸ばした気で守っていたために、この魔法の拘束網には掛かっていなかったのである。このような行動をとったのは、捕まったふりをすれば、次は先ほどの魔力球で一気に止めを刺そうとすると考えたからであった。そうとは知らずに、ギリムは極大魔力球を飛ばしてくるが、ここで拘束を破り、それまで練りに練った気を両掌から放出する。放たれた生気収束波が闇の魔力球に激突する。そして、闇の魔力をも吸収し更に威力を増した生気収束波が、逆に邪龍を襲い、邪龍ギリムの長い胴体を上下に分断しつつ、上空へと消えていった。


『!!!・・・・・なん・・だ・・と。・・・この俺様が、にんげ・・・んごときに負けるとは・・・ゲルザード様、もうし・・・わけありま・・・』


 最後まで言葉を終わらせることなく邪龍ギリムが地に落ちてゆく。それとリーフとラークが残った飛龍を討伐するのはほぼ同時であった。そして、2人がレグルス目掛けて駆けよってくる。


「レグさん、大丈夫でしたか?」


「一時はどうなることかと思ったが、何とかなったな。」


 心配したリーフとラークがレグルスの元に来てこんなことを言っている。


「ああ、何とかなった。2人も無事に討伐できたようだな。邪龍自身が言っていたが、やはり背後にいるのはゲルザードのようだ。俺はヤツに勧誘を受けたよ。」


「「!!!」」


「ということは、王都エルフィナ近郊での魔獣の異常も連中の仕業の線が濃厚だな。」


 ラークはこう言うが、王都周辺の魔獣の増加だけが別件とは考えにくい。魔王国はエルフィン王国と事を構えるつもりなのだろう。ということは、世界の侵略を本格的に開始したということか? ゲルザードの復活は本当にあと少しというところまで近づいているのかもしれない。


「ひょっとすると、王都は今危ない状態になのかもしれない。急いで戻るぞ!」


 そう言って、レグルスは直ちにゲートを展開し、急ぎ王都エルフィナに戻っていく。





 レグルス達が、邪龍ギリムと戦闘を開始する少しだけ前、エスト、カペラ、ミリアムの3名は王都にてお茶を楽しんでいた。レグルス達3名が留守の間、王都周辺の魔獣の調査を行っていたが、魔獣の生息数が大きく増加したこと以外特別異常は発見できずにいた。勿論、背後でこれらの魔獣を操るような存在にお目にかかるようなことも無かったのである。


「・・・平和ねぇ・・・ここの紅茶も美味しいし。」


「ここ、ケーキもいいよね?」


「・・・ですわね。うちのパティシエにも負けてませんわね。」


 ここ数日、幾度となく繰り返してきた会話をし続けているエスト、カペラ、ミリアムの3名。その理由ははっきりしている。エストの機嫌が悪いためだ。魔獣の話とか旅の話とになってしまうと、時折エストの表情が酷いことになるので、なるべくそちらには触れない方向で話を進めているうちに、とりとめのない会話ばかりするようになっていた。


「・・・暇ねぇ~」


「そうですわね~。」


「・・・・・はぁ」


「・・・だぁ! 何とかならんのかこの空気!」


 カペラ、ミリアム、エストの生気を感じさせない様子に、今日に限っては、同じく暇を持て余していたラルフが、それほど暇ではないアレクを付き添わせて同行していたのであるが、この場の空気に耐えきれずに雄たけびを上げる。


「・・・他のお客さんの迷惑になるんだから、急に叫ぶのやめなさいよ。」


「・・・まあ、叫んだのは悪かったが、それにしたって、お前ら、最近変だぞ!」


「変て何がよ?」


「レグに置いていかれて寂しいのは分かるが、もうちょっと生産的なことしようぜ?」


 聞き返したエストに、直情型のラルフは、疑問に思ったことを直球で言い放つ。


「! ちょ! ラルフ!  空気!」


 慌ててカペラが叫んでいるが、そもそもラルフの辞書に空気を読むという言葉は無い。


「・・・そうよ。一人だけで冒険に行っちゃってさ。私を一人にして、・・・バッカみたい。」


「いや、一人でなく3人だが・・・」


「誰もそんなことはいってな~~い!!!」


 ラルフのしなくていいツッコミを耳にして、とうとうエストが吠えだしてしまった。ラルフは今まで女性陣が優しく触らないようにしていた箱をあっさり突いてしまったようだ。全く空気が読めないラルフに対するカペラ、ミリアムの視線が冷たい。・・・このままでは本気で店の迷惑になると思い、アレクが急ぎ会計を済まし、半ば強制的に退店させる。店を出て、再び荒れ始めたエストを宥めるため、どこかに移動しようとしたその時、アレクとカペラはほぼ同時に魔獣の集団がここ王都エルフィナに近づいてきているのを察知した。幸いまだ距離は十分にあるようだが、今までここの周囲を闊歩していた魔獣が一か所に集結したような印象を感じる。


 アレクとカペラの様子を見てか、エストにもスイッチが入ったようで、いつもの敵を前にした時の表情になった。急ぎ襲撃に備え、迎撃態勢を整える5人であった。














次回は5/27予定です。

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