新たな問題
この章もうちょっとだけ続きます。
「レグ大丈夫かしらねぇ?」
「心配しすぎだろ? どんな相手でも負けないって!」
不安げなエストの言葉に、軽い感じで返答するラルフ。考えるのが苦手なこの男の言い方も適当であるが、単独で火竜を操るほどの術者を相手にしに行ったということもあり、エストに限らず不安を覚えていたメンバーにとっては、少なくとも気休めにはなっていた。・・・こちらで行われた戦闘は既に終わり、今はレグルスの帰還を待っているところである。・・・そんなやり取りを初めて30分程経っただろうか?不意に空間が歪むと、そこからレグルスが現れた。
「無事だったか。・・・どうなった?」
「ああ、ラーヴァナという悪魔がその術者だったが、仕留めてきたぜ。」
ラークの問いにあっさり答えるレグルス。それを聞いて、ほっと一息つく一同。ただ疑問も残る。
「そのラーヴァナとかいう術者、何でちゃんと隠れてなかったのかね?」
これは、カペラの一言であるが、尤もな疑問である。もし勇者一行の行動を邪魔したいのであれば、そのラーヴァナとかいう術者は隠れているのがベストで、もし見つけられそうになったら逃げるのが正解のはずである。彼がとった行動は、見つけられそうになったから追跡者を力ずくで葬ろうとした。
「・・・余程自信があったんじゃないかな? レグ一人になっていれば勝てると思ったんじゃないかな? それで武勲を上げて・・・って考えたと思うんだけどね。」
「俺を倒せたら武勲が上がるかは置いておくとして、ヤツが自信満々だったのは間違いないな。俺に負けるとは思っていなかったみたいだ。」
アレクの仮説に戦った本人のレグルスが補足的に同意をする。ここでミリアムが、
「検証もそれ位にしておきますわよ。・・・術者も倒したことですし、ガイン火山に戻りませんの?」
「そうだな。アレク、転移魔法の準備を頼むな。」
そうラークに言われ、魔法を発動するアレクであった。
転移にて、以前に来た火竜の住処に到着した一行である。まずは火竜の状態の確認をしようと、洞窟の奥へと進んでいく一行。そして、最奥に火竜を発見する。少なくとも暴れてはいないようだが・・・
「グルルルル・・・」
これ以上接近するのは危険なようだ。まだ正気には戻っていないらしい。・・・だとすると、その原因は何なのか?ということになるが、
『ワイの見た感じ、狂って暴れるようなことは無いように見えるで。・・・どっちかっつうと、自分が何者かを忘れている感じやな?』
「それって?」
ゲンなりの分析にリーフが追加の説明を促す。
『・・・何つうか、反応が狂ってはいないただの竜って感じやねん。さっきの唸り声は侵入者に対するただの威嚇や。そういう鳴き声やった。鳴き声ってゆうか、【侵入者よ、失せろ。】っていう意味の竜語やった。せやから、狂ってるのとはちゃうねん。』
「記憶喪失みたいなもんだろ?・・・状況は分かったが、じゃ、どうするんだってなったら・・・」
今この時点で的確な意見を言えるものはいないようだ。っとここで、大きなエネルギーの高まりを感じたレグルスはその方向を見たのだが、今まさに火竜がブレスを吐く体勢になっていた。ああ、俺達は火竜を無視して話し込んでいたからな。普通に怒ったのだろう。
「やばい、一旦ここ出るぞ。」
レグルスはそう言って、船が停泊しているサイード島のコモド港に転移しなおすのだった。
サイード島に来てからの一連のやり取りで既に夕暮れが近くなっていたため、結局コモドの街で宿をとることにしたレグルス達。夕食を取った後改めて作戦会議だ。
「改めて確認するが、火竜はどのくらい自分のことを忘れていると思う?」
口火を切ってレグルスが質問する。この辺の判断ができるのはゲン以外にはいない。
『せやな。竜語を話しているという点で、少なくともこっちの世界に来てからの記憶は無いな。ただ、目には理性の光が確認できたから、さっきも言った通り狂ったわけやない。我々のいた元々の世界の記憶しかないとすると、かなり混乱してるやろうな。』
状況は分かった。術に掛けられたショックか、それとも術が解けたショックか、とにかく自己の存在、あるいはこの世界に来てからのことを忘れているということのようだ。では、どうやってそれを思い出すのかということになるのだが・・・中々良い意見が出てこない。
「なんか・・・これ飲めばズバッと思い出せるような薬とか、どっかに無いのか?」
カペラはこう言うが、そんなのがあったら苦労はしない。
「忘れたんなら殴ったら思い出すんじゃないか?」
ラルフの意見だ。それ誰がやるんだよ。やったら激しく怒ると思う。そして何も思い出さないに一票。
「記憶喪失は、同じ状況を再現してやると思い出すと言いますよ。」
リーフの意見は真面だったが、それは人間の場合だし、しかも成功する確率は極めて低いだろう。・・・そもそも、正確な原因が確定できない以上同じ状況というのを再現すること自体不可能だ。
「レグ、人の意見にダメ出しばかりしてないで、アンタも何か意見言いなさいよ。」
「エスト、それが簡単に出るならツッコミ役なんざやってないよ。」
『なあ』
「どうしたゲン?」
『ここはもう他の精霊竜に聞くしかないやん?』
「?!」
『せやな、水龍、光龍、風龍とは面識あるさかいにな。何か手掛かり知らんとも限らんで?』
「・・・そうだな、みんな、ちょっと待ってもらってもいいか? 俺とゲンで話を聞いてくる。全員で行ってもしょうがないしな。」
『ほな待っててや。』
最初の転移先は水龍の洞窟だ。その最下層にやってくると、龍形態のままの水龍が泳いできた。
『あら? お久しぶりね、レグちゃん。それとゲンもね。お昼時なのに大変ね。もしかして、あたしに何か御用?』
「昼? 今夕暮れ時だったはずだが? あ、時差か。」
水龍の洞窟は経度的に相当西に当たる。時間はその分前になるから、よく考えれば当たり前なのだが、昼時に悪いことをした。それはそうと、今回の目的の火竜の件のいきさつを話すレグルス。
『・・・成程ねぇ。あの子も困ったものね。何か力になってあげたいのは山々だけど、ごめんなさい、アイデアは出そうにないわね。』
態々出てきてもらった礼を言い次の場所に転移するレグルス。次は霊峰にある、光龍の住処だ。ここの時間は午後3時といったところか?
『・・・おお! レグルスか! 久しいのう。・・・その後の旅は順調か?』
「かくかくしかじか」
『なるほどのう。・・・そういう話なら風龍の方が適任じゃろうて。向こうの世界にいるときから親しい間柄じゃったからな。彼女に協力を求めるとよいぞ。』
『ゲ!・・・やっぱそうなるのか・・・』
『お前さん、まだ奴のことが苦手なのか? 既に会っているんじゃなかったのか?』
『・・・そうなんやけどな。口ききたくなかったから、そん時は黙ってたんや。』
『まあ、お前たちの経緯を考えたら分からんでもないけどな。ちゃんと頭下げるんじゃぞ?』
『ワイ、下げる頭とか持ってないし・・・』
『ほれ、ワシが送ってやるから、我慢せい。』
「へ?」
レグルスの足元に突如ゲートが出現し強制的に転移した先は、世界樹の頂上にある風龍の住処だった。突然目の前に現れたレグルスに驚きを隠せない風龍。
『のわぁ! ・・・びっくりしたねぇ。 何だい急に。しかもこんな時間から・・・』
驚かされたせいだろうか? 少し機嫌も悪い気がする。ここはコモドと比べても経度差はほぼ無いと言っていい。当然今は日暮れ間近だ。
『・・・ったく、この魔力は禿龍のジジイだね。そのうち風の刃で残った髪の毛散髪してやるから・・・』
少しではなく相当機嫌が悪そうだ。このまま黙っているわけにもいかないので、状況を説明するレグルス。
『あの火竜が狂わされたのがきっかけで、記憶を失ったってのかい?』
「それで、記憶を取り戻させる何かが分かればと来てみたんだが・・・。」
『話は分かったよ。・・・そうさねぇ・・・やっぱりショックを与えるといいとは思うんだが・・・! そうだ! いい手を思いついたよ!』
おお! 流石風龍様。
『火竜はね、炎を司る割には、辛いものが苦手でさ、この世界に来た頃、アンタに似合った赤くておいしい野菜がるんだよって言って、唐辛子を食べさせたことがあったんだよ。』
「・・・・・」
『その時のアイツったら傑作でさ、口から吹いた炎で岩石が溶岩になっちまってさ。あの時はちょっと慌てたね。』
『コイツはこういう女なんや。・・・その後ワイがどんだけ慰めたか・・・』
『アン? ほう、言うじゃないか? 今はゲンジって名乗ってるって言ったか?』
『せや! ワイ本当のことしか言ってないし。』
『・・・アンタがそんななりになる過程を、今ここで全部話したっていいんだよ?』
『ク! うぐぅ・・・』
ゲン、何か弱みを握られてるっぽいな。余り追及するのはかわいそうだな。
『そうそう、それでその唐辛子は、アースガルドの南東地域に生えているらしくてね。私も現物見たら分かると思うから、・・・そうだね、わたしも同行するよ。ついでに火竜の様子も気になるし。』
そう言うと、たちまち人間形態になる風龍。
『な! ・・・マジか。』
同行がかなり嫌なのか、一言はいて絶句するゲン。哀れな。
『ってことで、一度仲間の元に戻るんだろ? 早くしなよ?』
言われるがまま、宿に戻ってきた一行に風龍が同行するようになった経緯を話すレグルス。
「ということは、もう一度あの大陸に行くってことね? わかったわ。でも今日は休みましょう?」
コモドの町周辺はもう暗くなっていた。エストに言われるがまま作戦会議はお開きになる。とはいえ方針は決まった。特別な唐辛子を探しにもう一度アースガルドへ。
次回は5/19更新予定です。




