激突
思ったよりも早く作業が終わったので、遅くなると言ったのに逆に早くなってしまいました。それではどうぞ。
火竜が暴走を始めてから4日。その火竜に術をかけた張本人であるラーヴァナは退屈していた。マルローの指示通り、現場であるガイン島からは離れてサイード島に来たのは良い。が、そのまま指示通り勇者一行から隠れ続けるつもりなどなかった。ラーヴァナは悪魔族の中でもその戦闘力だけで見た場合、トップクラスの実力を誇る。この世界に現れた悪魔だけで比較しても、彼より上位の存在はマルロー以外にはいない。その男が、勇者一行の中に、マルローさえ警戒する人間がいると耳にしてしまった。その瞬間から、任務を遂行しようという意思に、対戦してみたいという欲求の方が勝ってしまった。
ラヴァーナはいくら強者だと言っても悪魔族の自分が負けるなどとは夢にも思っていない。だが、命令違反をするつもりもなかった。だが、【確実に葬れるならばよい】という指示があった為、勇者一行を一度に相手をするのではなく、一行の要になる者だけ孤立させることを考えた。
その待ちに待った勇者一行が、サイード島に到着したようだ。どうやって知ったかは知らないが、術者である自分がここに居るだろうと確信してきたのだろう。ここで予定していた行動に移る。飛竜の群れ2000にコモドの街の襲撃を指示した。そうすれば、対処を急がなければならない連中はラーヴァナを討伐する組と街を防衛しようとする組に分けて行動するだろう。そして、一行の中での実力差を考えれば、レグルスという男とそれ以外に分かれる可能性が大だ。仮にそうでなかったとしても、こちらにレグルスが来るのは間違いないだろう。他に数人来たところで、誤差程度にしか考えていない。
・・・ラーヴァナの予想通り、こちらに少しずつ近づいていた10人程度の塊の中から、1人強力な気配をまき散らしながらこちらに向かってくるのが確認できる。そして、残りも街に引き返しているようだ。ラーヴァナは、猛スピードで飛翔する存在を待ち構えるのみである。
レグルスを除く他のメンバーはコモドの街の手前辺りに転移してきた。勿論、街を巻き込まないようにするためである。そして、しばし待つこと数十分。飛竜の群れが真っすぐ街へと向かっている。まずは注意をこちらに引き付けるため、ラークが飛竜の一体の頭部を弓で射貫く。そして見事命中し、そのまま墜落してくる。同時にエストが火魔法、リーフが雷魔法で上空を飛ぶ飛竜を攻撃する。そのうち数頭が地上へ落下してくる。・・・そしてそのことで、飛竜達はこちらを脅威として認識したようだ。攻撃を受けなかった個体や攻撃を受けたがダメージが小さかった個体が進行方向を変え、こちらの地上にめがけて飛んでくる。
飛竜が地上に降りてきたところで、リーフの魔法、シャイニングピラーが発動する。敵と認識したものすべてを選択的に滅するこの光魔法は飛竜の群れに大ダメージを与える。全体の3分の1がこれだけで絶命。残りもかなりのダメージを受けたようだ。残った飛竜は、カペラの風魔法、エストの火魔法、ラークの氷魔法で殲滅され、それでも生き残った個体をラルフやアレクが直接武器で切り裂いてゆく。2000程いた飛竜の群れはそれほど時間もかからず街に被害を出さずに殲滅することが出来た。
「っと。・・・これで全部殺ったかな?」
「大丈夫じゃない? 起き上がっている竜はいないみたいよ?」
「ですわね。この街の安全は守られましたわ。」
ラルフ、エスト、ミリアムが状況を確認しあっている。
「・・・レグは大丈夫かな? 一人で行っちゃったけど。」
アレクが若干心配そうだ。
「火竜を狂わせたほどの術者なんだよね? そんなのと一人で戦うとか心配よね。」
珍しくカペラもこんなことを言っている。エストは何も言わないが不安げな表情だ。それに対してラークが、
「相手もかなりの手練れと思った方がいいが・・・アイツを信じるしかあるまい。俺たちには敵の存在を辿るとかは無理だしな。今更追えんよ。それに相手の強さが分からないような奴じゃない。一人で行ったということは勝つ自信があるってことだ。だから心配するな。」
そんなフォローを聞きながら、レグルスが向かっていった方向を見つめる一同であった。
レグルスは術者の魔力の波動を進むにつれて明確に感じ取れるようになっていた。サイード島に来てからそうだったが、ここまで進んできてそれがより強く感じる。・・・火竜を狂わすことが出来る術者である。自分の気配をもっと隠すこともできるだろうに、それをしている気配はない。そして、自分の接近も認知しているだろう。そこから考えられることはただ一つ。
『待ち伏せされてるよなぁ。』
『せやな。多分強いで。』
『ゲン、そのココロは?』
『強さに自身がないなら、もう少し気配を隠すさかいな。それに罠の一つもはるんとちゃう? それもしないっちゅうことは、まともにやってレグに勝てると思ってるのとちゃう? 寧ろ、まんまと一人でやってきたと思ってるんやないか?』
『・・・成程な。・・・だったら、ボッコボコにするだけだな。』
『せやね。・・・って、御登場なさったようやで。気張りや!』
「貴様がレグルスか?」
「・・・そうだが、お前こそ火竜を暴走化させた術者で間違いないな?」
「ああ、俺はラーヴァナ。その術者は俺で間違いないよ。だったらどうする?」
「一応聞くが、術を解除する気は?」
「・・・あるわけないだろ! 寧ろ貴様、よく一人でここに来たな。俺に殺されるとは思わなかったのか?」
「ああ、思わないな。弱者に強者は倒せない。当たり前のことだ。」
「! 貴様! 俺を弱者といったのか? ・・・後悔するぞ。」
「どっちにしろ戦うつもりだったんだろ? それに後悔なんぞしない。殺れると思うなら殺ってみるがいい。」
レグルスがそう言うや否や、そのまま空中にてラーヴァナは殴りかかってくるが、それを躱しつつレグルスも応戦する。互いに殴りかかるが、どちらもまともにはヒットしない。それでも、互いの頬や脇腹をかすめたりはしているが、大きなダメージを与えるには至らない。
ここでラーヴァナは地上に降りるように促す。そしてレグルスも追随する。互いに少し距離を取ってから第2ラウンドである。ここでレグルスが強く地を蹴ったかと思いきやもうラーヴァナの目の前に出現していた。そのまま飛び膝蹴りがラーヴァナの鳩尾にヒットする。そのままレグルスのラッシュが始まる。
「グ、・・・ゴハッ・・・グァ・・・チィ!」
地上での接近戦はレグルスに分があったようだ。堪らず後方にはねて回避しようとするラーヴァナ。だが、このチャンスを逃すレグルスではない。そのまま追撃することを決めるレグルス。一直線に後方に下がったラーヴァナ目掛けて突っ込んでいく。そして一旦その手前でもう一度勢いを増すために地面を踏み抜いた瞬間、そのポイントに魔法陣が突如として出現し、黒紫色の魔力が吹きあがる。
『かかったな!』
ラーヴァナはほくそ笑んだ。態々地上戦を選んだのは理由があったのだ。あらかじめこの魔法陣を用意していて、レグルスに踏み抜くように誘導したのだ。効果は混乱と麻痺と幻惑が同時にかかるようになっている。特別な装備でもない限り人間という種である以上、どんなに鍛えようともこれを耐えきるのは不可能である。とくに混乱状態になってしまえば、武闘家特有の状態異常を吹っ飛ばすという技も使えない。ラーヴァナは勝利を確信した。・・・そして魔法陣を踏み抜いてしまったレグルスは、そのままそこで勢いをつけて体ごと蹴りを放ち、ラーヴァナの鳩尾に右足をめり込ませる。そしてそのまま10m程吹っ飛び、大木の幹に激突して停止した。
「・・・グェェェェ~!・・・カッハッ!・・・クソ! 何故だ!」
理由は簡単であった。混乱と幻惑はゲンこと幻獣の革手袋の装備効果、麻痺は神龍の武闘着の装備効果である。しかも若干の耐性とかではない。全く効かないのである。ただ、それをこのラーヴァナに説明してやる義理は無い。今の蹴りによるダメージと作戦失敗による動揺から動きが鈍っているラーヴァナに対して十分に気を込めた拳によるラッシュである。3分程殴られ続けただろうか? 最後に右ストレートを左頬にもろに喰らって数m吹っ飛ぶラーヴァナ。そして止めを刺そうと近づくレグルスであったが、
「・・・これでも喰らえ!」
恐らく殴られながらも詠唱は続けていたのだろう。闇魔法【ダークレーザー】がレグルスを捉えたかと思いきや、発動の瞬間、魔力の異常な高まりを察知出来たレグルスが辛うじてそれを躱すことに成功する。・・・その直後、十分に練った気を込めたレグルスの拳にてラーヴァナの頭部は爆砕するのである。
『終わったな。・・・もうちょいしたら、火竜も正気を取り戻すんとちゃう?』
「だといいがな・・・」
その後は、心配しているであろう皆の元へ転移するレグルスであった。
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この様子を、一本の木の頂上にくっ付きながら観察していた眼球型の魔物がいた。戦闘が行われている間ずっと、そしてレグルスが立ち去るまでじっと一部始終を観察し続けていた。そしてその音声と映像、それから測定されたエネルギー量とその属性がデータ化され転送されていた。すべての役目を終えると、その目玉型の魔物は、そうプログラムされていたかのように静かに朽ち果てていくのだった。勿論、この様子がレグルスによって悟られることはなかった。
同日、アースガルド帝城にて
「・・・ラーヴァナ、倒されましたね。それもほぼ一方的に。」
「私の言うことを聞かないからこうなるのですよ。・・・ですが、かわりに貴重なデータを頂きました。」
フレイアとマルローである。早速送られてきた戦闘データに目を通していた。
「私も何度かやりあっていますが、ここまでの本気での戦闘はしませんでしたからね。ラーヴァナ程の手練れでも、全力を尽くしてもこれですか。タイマンでは私でも勝つのは無理かもしれませんね。」
「あの男、状態異常は聞かないのかもしれません。あの魔法陣には複数の状態異常効果があったはずです。なのに何でもないように次の行動に移っていた。・・・恐らくば装備の効果でしょうが、そっちの方向で罠に嵌めるのはやめた方がよさそうですね。」
「ええ、ですが、彼の死の間際に放った闇の魔法は躱していました。ということは、闇属性には耐性は無いのかもしれません。攻めるならそこですかね。まあ、そんなことを考えなければならないのもあと少しですけど。」
ゲルザードの完全復活はもう少しのようである。
次回は5/17予定です。




