ガイン火山と火竜の異変
1734年 5/6
ガイン島があるキルナ諸島は、アースガルド大陸から南に2000㎞程に位置する。気候的にも温帯域に属しているため四季の変化もしっかりある地域である。今は5月であるからか、ガイン島に到着したレグルス達にとっては大変過ごしやすい気候である。
目的地であるガイン火山は、この島の中央に位置していて、標高は2185mと火山にしては大きい方か。それでも、霊峰ミズガルムや世界樹に登った経験からか、どうしても大きい山だという印象は持てなかったりする。
航海中、メガロドンとの遭遇騒ぎを除き、大きなトラブルもなくこのガイン島に降り立ったレグルス達は、海岸付近まで島中に広がっている森と木々の上からかすかに覗いている火山の存在に不思議な感覚を持った。火山の近くギリギリまで森が広がっているということは、噴火の頻度はそう多くはないのだろうと推測される。とはいえ、目的は火竜に会うことである。火山のどこにいるのかも情報としては持たないでここまで来たため、まずは行くしかないと決めているが、山の中腹にいるのか、火山の内部にいるのか、それとも河口付近にいるのか見当もつかない。河口付近など、マグマが傍にあるような環境は是非遠慮したいところではある。
ガイン島は300㎞程の島であるため、1日もあれば着くだろうと思っていたのだが、道のない森林地帯を徒歩で進むのは思った以上に時間がかかっている。島に着いたのが昼過ぎであったこともあり、30㎞程進んだところで、少し開けたところを見つけ、今日はキャンプを張ることにした。
「結構しんどいわね。今まで馬車とか使ってたから、もう足がパンパン。」
「確かにね。あたしは風魔法の効果でちょっと楽させてもらってたけど。ちゃんとした道じゃないから、余計に歩きにくかったしね。」
「いや、この森の中を数時間でここまでこれたのは結構ハイペースだったと思うぜ。・・・今日はしっかり寝て明日に備えようぜ。」
エスト、カペラ、ラルフの3名が口々に言う。これまで移動手段は大抵は馬車か船か転移魔法であったため、歩くこと自体はそれほど慣れてない面々であった。
「そういえば、この森、妙に色づいてませんこと?」
「あ」 「そうかも」 「・・・これって紅葉しているよね?」
ミリアムのちょっとした疑問に、今更ながら気が付く面々。アレクは特に疑問に思わないのかポカンとしている。ラークは、何故皆がそんな疑問を持ったのかも理解できたため、ニヤニヤしている。とそこで、レグルスが何やらかごいっぱいに何かを取ってきたようだ。
「茸見つけたから取ってきた。手持ちの野菜とかもあるし、猪は一頭狩って収納に入れてある。・・・今夜は鍋だな。」
「・・・何故平然と茸採ってきてるの? ここ季節おかしくない?」
「?」
当たり前のように秋の味覚を取ってきたレグルスに、意味が分かっていないエストが疑問を口にするが、レグルスには何が疑問なのか分かってはいない。
「いやいや、茸って秋だろ? それとも、それは春に生える茸なのか?」
「・・・ああ。 だってここ、今は秋だし当たり前だろ?」
ラルフのツッコミにようやく疑問の意味が理解できたレグルスは、知らなかったものには衝撃の事実を言い放つ。
「「「へ?」」」
「いやな、俺たち熱帯のアースガルド南端から南下してきて温帯にまで来ただろ? だからここは南半球で、北半球とは季節が逆だから、今は5月なのでここの季節は秋だよ。」
「「「「!!!」」」」
ラルフ、エスト、ミリアム、カペラの4名はようやく理解できたようだ。ラーク、リーフ、アレクは元々知っていたため驚くことはなかったが、ラークには疑問に思っていた面々の言動が面白かったようでニヤニヤしている。・・・直後それを察知されたミリアムに睨まれて大人しくなったが。
「・・・まあ、元気があるものは鍋の準備を手伝ってくれると助かる・・・」
そうして、食事の準備が整って夕食の時間、リーフが火山に着いてからの話をする。
「今のところ、火竜に関する情報って無いですよね。着いてからどう行動しましょう?」
「今のままだと、まずは山に登ってみて、途中で出会うか、洞窟が無いか探すとか、やれそうなことを片っ端からやっていくしかないが・・・ゲン、何か知らんか?」
『・・・火竜の居場所ね。・・・昔と一緒なのであれば、山をそう高く登らないところに自分で掘った洞窟があって、その奥に住んでた気がするんやが・・・700年前の話やし、いなくても知らんで?』
「・・・何で今まで話さなかった?」
『・・・ワイ、聞かれなかったしな。・・・聞いてなかったよね?・・・聞かれたら答えたよ?』
「・・・もういい。分かったよ。・・・」
『・・・何この空気? ワイが悪いのかいな? ワイにあんま話しかけないレグが悪いんやないか!』
「分かった! 俺が悪かった! 許してくれ!」
『・・・・・思う存分歌ってもええ?』
「わか・・・るわけあるか! それはそれ。 絶対やめろよ。」
『ちぃ、どさくさに紛れて言えば通る思うたんやが、ダメだったか。』
レグルスとゲンのやり取りを聞いて、リーフがまとめる。
「それでは、火山の麓から中腹まで、洞窟の入り口を探してみるって方針でいいですか?」
当然ながら反対意見は出なかった。まあ、精霊竜の気配を探るという方法もあるし、それほど深く考えなかったレグルス達である。
1734年 5/8
島に到着して2日後、ようやくガイン火山の麓に到着した。山頂を見ると煙は上がっているものの、火山活動自体は穏やかなようだ。山肌にも下から3分の1位は緑で被われている。ということは、かなり長い期間、大きな噴火が無かったということなのだろう。
「念のためだが、火山周辺は有毒ガスが漂っている可能性もあるから、気持ち悪くなったら回復魔法持ちの誰かに言ってくれ。」
レグルスの注意にうなずく一同。そして、森林をかき分けながら山を登り始める。しばらく上ると、森林地帯を抜け、岩肌がそのままの地帯に到達した。特に流れたての溶岩は確認できなかったが、草もそれほど生えていないところからすると、それなりに有毒ガスは火山から出ているのだろう。火山特有の嫌な臭いもしてはいるし、仲間の体調変化に気を付けながら周囲を探索することにする。ゲンの案内のもと、2時間ほど歩くと、標高800m南東側の斜面に、確かに竜種でも中に入れそうな大きな洞窟の入り口を見つけた。
『以前は確かにここにいたで。今もいる保証はせえへんけどな。』
「いや、この中に確かに何かいる。何か巨大な生き物の気配が。火竜かどうかは分からんが、少なくともそれに類する何かであるのは間違いないだろう。」
レグルスは確実に何かの存在をこの洞窟内に感じ取ったようだ。それを聞き中に入る一同。・・・だが、この洞窟は思ったより長い。10分程歩いただろうか。この洞窟内に入ってから嫌なにおいが強くなり、それは奥に行くにしたがってさらに強くなっていく。そしてもう10分程先に進むと、リーフ、ミリアム、ラルフ、アレクの4名が吐き気を訴えた。すぐさまレグルスとエストが解毒魔法を唱えると体調は幾分ましになったようだ。ミリアムは自分で使おうとしたが、念のためやめさせて、レグルスの治療を受けさせた。それを繰り返しながら洞窟に入って合計1時間も歩いただろうか? そこには火竜と思われる体長7m程の翼をもつ赤い飛竜が鎮座していた。気のせいか、これまで出会った精霊竜とは異なりあまり理性的でないような気がする。何か殺意のような気迫さえ感じるのである。
「なあ、火竜ってどんな奴だった?」
『面白い奴やで。ワイとも話し合うしな。・・・しかし妙やな。全然アイツっぽくないんやが?』
「まあ、行ってみるしかないが・・・」
大きな違和感を感じながらも火竜に近づいていくレグルス達。ここで、
「グルルルル・・・・」
火竜からの唸り声が響いてくる。この時点で、エスト、ミリアム、カペラの女性3名は怯え気味だ。有毒ガスもさらに充満している感じであるし、あまり長い時間ここにはいたくないのだが、・・・ここで、火竜がまさかのブレスを吐いた。・・・紅蓮の炎がレグルス達を襲う。
「きゃあ!」
ミリアムから悲鳴が上がったが、エストがファイアウォールの魔法を防御壁代わりにしようしてそれは食い止めた。が、ここまで近づいてみて分かったことだが、火竜の目から理性の光が感じられない。
『おい! お前! ワイが分からんのかいな?』
「ギィヤーーーオン!!!!」
ゲンの声掛けにも全く応じず、竜の雄たけびをあげるのみである。会話すら成り立たない。そして、ブレスは通用しなと判断したのか、テイルアタックで薙ぎ払おうとするが、その前にレグルスの体当たりで後方に飛ばす。だが、このどさくさで、ファイアウォールは霧散してしまった。その直後、鋭い眼光でレグルスを睨む火竜。
『・・・これおかしいで。アイツ操られてるのとちゃう?』
それを聞いて、レグルスが火竜にかかっている魔法の痕跡とかが無いか確認してみると・・・確かに何者かに操られたかのような魔力の痕跡を確認できた。
「残念ながら、火竜は操られているな。しかも、この術式は術を掛けたものにしか解除できそうもない。もしくはその術者を倒すかすれば元に戻ると思うが。」
「ということは?」
「ここは撤退しかないな。火竜を倒してしまうわけにはいかない以上、今ここにいるのは危険だ。コイツを俺が抑えている間に、アレク他の皆を火山の麓まで転移させてくれ。」
リーフの問いに、レグルスが答える。それを聞いて直ちにゲートを出現させるアレク。そして次々に皆転移にて脱出していった。それを見て、
火竜による、右手での爪攻撃を躱し、腹めがけて水平蹴りをお見舞いすると、後方の岩壁まで吹っ飛ぶ火竜。その直後、レグルスも自らの転移魔法にて洞窟を脱出するのだった。
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レグルスが火山の麓まで戻り、先に戻ってきたメンバーを見る。・・・全員無事に脱出できたようだ。流石にこのようなパターンは無かったため、皆不安げだ。
「・・・レグ、どうするよ?」
ラルフは心配そうに問うが、
「火竜をどうにかしない限り、この先には進めない。何とか術者を探さないと。」
「探すのはいいんですが、何か当てはあります?」
レグルスの物言いに、リーフが問いかけるが、
「・・・・・・・・魔力の特徴は掴んだんだがな。それをどう探すかとなると・・・」
「だったら、その魔力をどうにか辿れませんか?」
「この島の中にいるのならな。さっきからやってはいるが、全く見つからない。それ以上遠くとなれば、流石に分からん。」
「・・・「「・・・・・・・・・・・」」・・・」
重苦しい雰囲気が漂う中、ゲンから大きなヒントが出てくる。
『精霊竜ってな、どいつもこいつも魔力大きいんよ。 でな、それを操れるってことは相当な魔力の持ち主やで。それを遠距離から操るとか不可能や。あんまり遠くへ行きすぎると、それだけで効果は無くなるはずや。せやから、ヤツを狂わせた術者はこの島にいないなら近辺の島にいるのとちゃう?』
「キルナ諸島の島といったら、ここガイン島とここから西のサイード島かウラング島か。まあ、小さい島ならもっと沢山あるが。」
『せや。たぶんどっちかや。・・・というのは、術者しかどうにかできんのなら、殺されないよう、守ってくれる魔獣とか仰山使役してそうやな。それを配置できそうな規模の島っていったら、サイードかウラングかのどっちかや!』
単に魔獣の気配ならと、条件を大雑把に、もっと広い範囲で強そうな魔獣の気配を探していくと、サイード島の方に異常な魔獣の気配が感じられた。・・・これは自然に生息する魔獣のレベルではなく、明らかに何者かがどこからか連れて来た者だろう。そもそもあれだけの魔物が元々いたのであれば、通常の生き物は忽ち狩りつくされ、あれらの魔獣は逆に生存できなくなるはずである。ウラング島にはそのような異常な気配は感じられない。
「サイード島に行くぞ! そこに術者がいるはずだ!」
レグルスの言葉を受け、一行は船の停泊場所まで転移していくのであった。
次回は5/13に。




