帝城突入。 そして、思わぬ結末。
この章完結です。
自由の御旗の構成員が帝都防衛軍を襲撃していたちょうどその頃、リーダーのロベルトにジョバンニ、ライズ、レグルスを加えた4名は、帝城の一室に転移してきていた。ここは、昔から存在する武器保管庫である。とはいっても、現在ここ帝国で武器の主流になっている銃火器の類ではなく、剣、槍、斧、弓、盾、鎧といった、他国では重要であっても、ここ帝国ではあまり使用しなくなっている物が多数保管されているのである。銃火器の保管庫は恐らくだが別に用意されていて、そっちはそれなりに警備しているのであろう。
ジョバンニを中心とした諜報活動と、嘗てライズがいた時の記憶から、どのように進めば比較的警備が薄いところを通ることが出来るのかは把握している。それでも、先導役を務めるジョバンニが慎重に扉を開け、人が通行していないことを確認しながら、4名は予定していた進行路を先を進んでいく。その様子を、大きさが1cm程のほぼ眼球のみで構成された疑似生命体が、天井の壁の隅から気配を殺しながら観察していたのを、気づけた者はレグルスも含めていなかったのである。
「報告があります。予測通り、帝都防衛軍の駐留施設に、何者かが襲撃を開始した模様です。」
兵の一人が、皇帝の間にて、そう報告を行う。それを聞いた皇帝テオドールも特に驚いた様子はない。
「で、状況はどうなっておるのだ?」
「数人の強者が紛れ込んでいたようで、こちらの戦力をものともせず、少数にて我が防衛軍を圧倒している模様です。」
「やはり、応援を出した方がよさそうですわね? いかが致します?」
こう言うのは、アガルダ帝国(魔王国)にて、マルローの直属の部下であるフレイアである。勿論、ここでいう応援とは、防衛に対して魔獣の軍団を派遣するかということなのであるが、
「致し方ないな。その方向で頼む。」
「畏まりました。それと、これも予定通りではありますが、我が眷属の視界に、族の姿を捉えております。計4名、その中には貴国に派遣していた研究員で現在は裏切り者のライズもいるようです。」
「もし、こちらの警備網を突破するようなら、始末は任せられるか?」
「ええ、彼女は我々にとっても裏切り者ですし、そのつもりですよ。・・・何でしたら、警備はすべて外してもらって、私一人でも族の相手は致しますが?・・・」
「まあ、わざわざ警備を下げる必要もあるまい。・・・ただ、もしもの時は頼むぞ。」
「御意。」
そう言って、部屋の出口から普通に出ていくフレイア。ここ皇帝の間の直前には広い空間があり、皇帝の元にたどり着くためにはこの大広間を通過しないわけにはいかない。彼女はそこで一人で待つつもりのようだ。
「・・・余程自信があるのか、一人で行ったか。・・・あの陣所ならざる気配。少なくとも人間ではないのだろうが、アイツは何者であるのか・・・まあ、裏切り者を含め確実にとらえられれば文句はないのだが・・・」
皇帝テオドールは、若干の不安を感じながらも、フレイアが出ていった出口の扉をじっと見つめるのだった。
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皇帝の間を出たばかりのフレイアに、マルローからの念話が入る。
『フレイアさん、派遣予定の魔獣たちは、結局どうすることになりましたか?』
『は、既に、軍駐留場所に魔物の軍団を転移させました。もう既に襲撃部隊との戦闘は始まっているようです。襲撃部隊の中には勇者一行もいるようで、苦戦はするでしょうが、それでも戦力的に負けることはあり得ません。・・・それと、この城に侵入者が入り込みました。ライズがいることも確認しました。レグルスとかいう者もいます。私は襲撃に備えて待機中です。』
『ほう。まずは襲撃部隊ですが、撤退するようなら深追いはしない方向で。戦闘が終了した段階で、魔獣たちをその場に待機させなさい。』
『・・・ということは?』
『・・・そろそろこちらにも拠点が欲しかったところです。ちゃんと力を活用できないテオドールはそろそろお払い箱でしょう。ここアースガルドには豊富な資源があるとともに、既に多くの技術供与もしていますから、一からではない分、航空技術も発達させやすい。・・・そう、この世界の多くの者が認知していない、星の裏側にある超大陸に行くことも可能になります。そこには、ゲルザード様の主に当たる方が欲しているモノが多数眠っていると調査結果に出ていますから。』
『侵入者に対しては?』
『討ち取ることが望ましいのは確かですが、レグルスがいるのであれば、貴方では無理です。ライズも可能であれば確保したいところではありますが、優先順位は低いと考えなさい。適当にあしらったら撤退ですよ。それに合わせて、皇帝は私の方で始末します。その後は・・・分かりますね?』
『待機させた魔獣たちに、帝都ガルドを制圧させると。それでよろしいですね。』
『抵抗するようなら、一般市民だろうが、軍人だろうが構いませんよ。どうせここは我々が支配するのですから。別にこの国の国民が重要なわけではありませんしね。まあ、ゲルザード様の家畜にはちょうどいいので、皆殺しは避けてくださいね?』
『は、そのように。』
ロベルト以下4名は、大胆かつ慎重に通路を進んでいた。戦闘も驚くほど無かったと言っていい。事前の調査通り、警備兵に遭遇しはしたが、数秒で片が付いていた。その後追手が回ってくることも無く、ここまで進んできた。恐らくは、外で行われている防衛軍襲撃に意識がいっているのだろう。・・・そう4名は考えていた。事前に想定していた、城内でもかなりの警戒態勢をとっているだろうという予測は外れていた格好だ。
「静かだな。・・・ここまでノーマークだと逆に不気味ではあるが。」
「ですね。でも目立った気配は感じることは出来ません。まだ大丈夫でしょう。」
今の発言は、ロベルトとレグルスである。レグルスは警戒を解いてはいないが、今のところ武装している者の気配は感じないため、拍子抜けしたような感覚にとらわれている。
「私の存在は知っているはずですし、ここまで何もないのは逆に怪しく感じます。・・・警戒だけは緩めませんよう・・・」
城内の状況を知るライズは、不安げにそう述べる。
「・・・皇帝の間まではあとどれくらいだ?」
「そこの階段を上がったら、大広間があります。その一番奥が、皇帝の間ですよ。」
ロベルトの問いにライズが答える。そして、そのまま上の階に上がり、大広間に出ると、その中央に一人の女性が佇んでいた。それを見たレグルスとライズが驚愕している。驚愕している理由はそれぞれ違うのだが、
レグルスは、一見すると何でもない女性に見えて、実は只者ではない風格を兼ね備えた存在が、自分たちがここまで来るまであえて気配を殺していて、そのことを察知できなかったことに対して。そして、ライズは、マルローの直属の部下であるフレイアがこの場に居て、皇帝の間を防衛しているという事実に対して。2人は異なる驚きで一瞬固まってしまった。
「あら、お早いお着きで。ライズさん、お久しぶりですね。」
「そうですね。・・・別に会いたくはなかったですけど。」
フレイアの、知人に対する挨拶に、毒舌で返すライズ。レグルスを含め、他3名はライズの知人であるとは認識したようだが、返答の様子から詳しく聞くまでもなく、確実に敵であると認識できたようだ。
「一応自己紹介を。フレイアと申します。とはいえ、これから皆様には死んでいただくのですが・・・」
そう言うや否や、フレイアは火・闇の融合魔法【ヘルファイア】を唱える。人ならざる魔力によって放たれた、水では決して消すことが出来ない地獄の火炎がレグルス達を包み込む。何者かが初めから分かっていたライズはまだしも、ロベルトとジョバンニの二人は防御体勢すら取らず、呆然としてしまっている。無理もない。魔族?が皇帝の間の防衛に回っていることなど想定していなかったのだ。仕方なく、レグルスが【マジックバリア】の魔法で全員分の防御壁を張る。だが、それでもダメージは殺しきれず、
「グアッ!」 「グエ!」 「きゃ!」
ロベルト、ジョバンニ、ライズの3名が三者三様の悲鳴をあげる。しかし、レグルスも魔法を唱えると同時に殴りかかっており、レグルスの右手がフレイアの顔面を捉えたと思った瞬間、後方にバックステップで躱す。・・・その後レグルスは高速で打撃を与えていくが、いくつかはヒットするものの、紙一重のところで致命の一撃を躱していくフレイア。最後に強烈な後ろ回し蹴りを放ったところで、フレイアは大きく後ろにジャンプして体勢を立て直した。・・・するとここで皇帝の間から、大きな悲鳴が上がったのである。
「それでは、私は退散いたしましょう。あなたたちの命は今度改めていただきますので。・・・では、ごきげんよう・・・」
「待て!」
そう言って待つ者はいなく、転移によって姿を消したフレイア。レグルスは3名の治療をした後、皇帝の間に入っていくのだった。
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この場面から数分遡る。皇帝の間にて。テオドールは自らの地位を象徴する椅子に座りながら、現在の危機的状況に対して、起こった状況ごとに、どのように行動するかシュミレートしていた。当然考えうる最悪の状況に対しても思考を始めていた。・・・するとそこへ、
「皇帝陛下、ご機嫌麗しゅう・・・」
「マルロー! 貴様、今日はこちらには来られなかったのではないか?」
「はい、ちょっと優先度が変わる事態になりましてね。至急報告にと参った次第です。」
「・・・報告とはなんだ?」
「防衛軍の襲撃は、我が魔獣部隊が追い返しました。取り逃がしはしましたが、防衛には成功しております。」
「・・・貴様が予定を変えてまでここまで来たのは、そんな報告をするためな訳がない。本題は何だ?」
「フフ、陛下は御見通しで。もう一つ報告がありますよ。それは・・・」
「だから何だ? 早く申せ!」
「本日がアースガルド帝国の滅亡の日となるのですよ。皇帝陛下。」
「! 貴様! 何のつもりだ!」
「貴方は、我々のためにいい感じで踊ってくれましたが、もう限界のようです。御役目は終わりましたので、この世からお別れをしてください。」
マルローはそう言うと、氷と闇の複合呪文【永久氷結】を唱えた。すると、黒光りした氷のような何かがテオドールに集結してくる。そして、体にまとわりつくと、テオドールから急速に熱を奪う。一気に低温にされた彼の筋肉組織の水分が忽ち凝固し、筋肉組織を物理的に破壊する。その痛みから、
「ギャアアアアアアアッ!」
大広間にまで聞こえるような悲鳴をあげて、そして絶命するテオドール。彼の遺体は、内部から突き破った小さな氷で破損し、全体が巨大な氷によって包まれていた。その横で、軍務大臣のスラが余りの事態に震えている。ここで、レグルスら4名がこの部屋になだれ込んできた。
「「「「!!!!!!!!!!!!!!」」」」
「おやおや? レグルス君じゃないですか? お久しぶりです。それとライズさんもね。・・・といっても今日はここでお別れなのですが。」
「皇帝を殺めたのはお前か?」
そのレグルスの問いに、ニヤッと微笑むマルロー。見ればわかるだろ? ということらしい。
「そうそう。ここは、我らアガルダ帝国の支配下に入ります。アースガルド帝国は本日をもって滅亡ですね。」
「そんなことが許されると思っているのか?」
ロベルトがそう言い返してみるが、
「認めないというなら、帝都に駐留させた魔獣たちを殲滅してみてください。現在待機中ですので、もしかしたら市民の皆様にご迷惑がかかるかもしれませんが・・・」
帝都に住む民衆を人質にとると言っているようだ。これでは、こちらからは魔獣たちを殲滅しには行けない。
「理解が早くて助かりますね。・・・今引くなら、あえて追わないことを約束しますがどうします?・・・やるなら私も本気出しますけどね。」
そういって、抑えていた瘴気を発散させるマルロー。これだけで、3人は気絶しそうになっている。と、ここでヴァンからロベルトに念話が入る。
『軍の防衛に回っていた魔獣が帝都中に展開しだした。現在俺たちは引いているが、そっちはどうなっている?』
『詳しい話は後だ。一旦そっちに合流する。その後撤退だ。』
了解といって念話を終えるヴァン。こっちも忘れずに警告する。
「わかった。ここは引くことにする。但し、俺たちを追って来たり、街に攻撃を仕掛けたりすれば反撃させてもらう。」
「分かりましたよ。・・・こう見えても私、約束は人間相手でも守りますので。またお会いできる日を楽しみにしていますよ。」
その発言を聞くや否や、レグルス達4名は転移魔法にてこの場を後にするのだった。その直後、再び現れるフレイア。
「折角マルロー様がいらしたのに、あの者達を仕留めなくても良かったのですか? とくにあのレグルスとかいう者はただならぬ力の持ち主でしたが?」
「ええ、構いませんよ。確かに邪魔であり、できれば仕留めたいのは山々ですが、まともに殺りあったら、私と貴方、2人がかりで勝てるかどうか・・・そこまでの危険を冒すまでもないということです。」
「あの者はそこまでですか・・・」
「貴方ももう少し相手の力を分かるようにならないといけませんね。・・・それに焦る必要はない。ゲルザード様の封印が完全に解けるのはあと少し。・・・彼らが再び封印の力を得るよりも早い。そうすれば、我らの故郷から、あのお方を呼び出すことが出来る。そうすれば、あのような者は敵ではありませんから。精々、彼らの動きを妨害してあげましょう。それでいいのです。」
「分かりました。では、そのように。で、この国はどうします?」
「ここの大臣たちを使って、アガルダ帝国への吸収の手続きを取らせましょう。アースガルドという国は滅亡です。言うことを聞かなければ殺せばいいですから。使えそうな者をうまく利用してください。」
「では、仰せのままに。」
それを聞いていた、軍務大臣のスラはただ震えることしかできなかった。
レグルス達4名は、その後軍襲撃組に合流した後、帝城で起こった出来事を報告するレグルス達。と同時に、軍襲撃組からも報告を受ける。その後本拠地に戻ってきたレグルス達は、今後のことを話し合っている。
「といっても、こうなってしまってはできることは少ないよなぁ。」
「支配者が変わって、より大変になってしまいましたからね。」
「これまで通り、ゲリラ活動で救えるところは救っていくしかないですね」
それぞれ、ロベルト、ヴァン、ライズの発言である。実際、最後に魔獣が出てくるのであれば、普通の戦士にはどうにもできない。それにレグルス達も先に行かねばならない。
「俺たちは、次はガイン火山に向かうつもりだ。」
ラークがそう発言する。向かう手段はあるのかと問われ、無いと答える。
「それなら、我が組織が抑えている港があります。そこからなら、秘密裏に船を出せるでしょう。船もお貸ししますよ。」
「有難くお借りします。」
ロベルトの申し出にリーフが礼を言う。まだ何かしたいと思っている面々もいるようだが、現状ではどうにもならないのも確かである。後ろ髪を引かれつつ、レグルス達は、自由の御旗の今後の活躍を祈りつつ、新しい旅に出ることになる。
次回は5/9更新予定です。




