世界樹。
最近は2日に一度の更新になっています。ご容赦を。
1734年 4/27
この日の昼過ぎ、レグルス一行は世界樹の根本に到着していた。遠くから全体像を見ていた時には、非常に大きな木だと認識できていたものが、実際に傍に来てみると、これは木の壁である。これが一方の端から他方の端まで約1.5㎞も続いているのである。そして上空を見ると、夜が近づいているのかと思ってしまうくらい薄暗い。幹がある地点を中心に約2㎞程先まで葉が茂っているためだ。世界樹のあまりの巨大さに、実際に近くに来てみてかえってこれが木であるという実感がなくなっていた。
「・・・でけぇな・・・」
ラルフだけは何とか声を発しているが、他のメンバーは、周囲にいる観光客同様、この巨大すぎる樹木の威容に声を失っている。勿論、レグルス達は観光に来たわけではないのだが、本来の目的を忘れさせる程の光景であった。
さて、改めて前方を見ると、「建物か!」とツッコミたくなるような入り口があり、受付の者が横に立っている。何でも途中までは、内部を通って一気に3000m位まで上がれるらしい。入場の列に並んで待つこと10分。
「えっと、何名様ですか? 11名様ですね。御一人様金貨1枚になりますので、全員分で金貨11枚になりますね。」
入場料が必要だった。しかも高い。・・・渋っても仕方がないので入場料を大人しく支払う。代わりにチケットを貰い幹の内部に入る。内部は10m四方の空間があった。右手を見ると、入り口は2つあり、そのうち一つは開放されていて、緩やかな階段が覗いている。もう一方が気になったので聞いてみると、
「こちらは昇降機になります。一気に3000m地点まで行けますよ。御代は御一人様金貨3枚になります。」
高い! 聞いた直後にはそう思ったが、3000mを延々と階段を上る労力を考えると寧ろ安いのか? そう思い直し、急ぐ旅でもあるし、金貨33枚を支払い、昇降機を利用する。
全員昇降機の中に入ると、中は意外にも明るかった。どうやら、ライトの魔法が使用されているらしい。乗ってから上に着くまで50分程かかるらしい。歩いた場合は・・・きっと相当な時間がかかるであろう。・・・どうやら動き出したようだ。妙な浮遊感を感じつつ昇降機は毎分60mの速度で順調に上がっていく。ここから1時間近くは何もすることがないので、設置されている椅子に腰かけて待つことにする。
ここで、エストから尤もな疑問が出る。
「こんなに生きた木の中を改造したりして大丈夫なのかなぁ?」
「・・・これって、よくあるご質問なんですよね。 世界樹の、養分等を運ぶ管は、もっと内部の方にあるのでそっちを傷つけなければ問題ないんですよ。」
添乗員さんが答えてくれた。・・・そんな些細な疑問を解決しつつ、時間の経過とともに上へと登っていく昇降機。他の観光客はリラックスして会話を楽しんでいるようだ。何故かレグルス達はほぼ無言であったか。そうしているうちに、予定通りの時間に、無事3000m地点にたどり着いたようだ。 昇降機から降りると地上と同じように10m四方の空間がそこにあった。横には階段の出口も設置されている。歩いた場合も同じ場所に着くようだ。そして、一か所出口があり、そこから外に出られるようになっていた。さらに、床が延長する形で設置されており、眼下の光景を存分に楽しむ言ことが出来る。一般の観光客は、ここから外の景色を眺めている。確かに眼下に広がる木の枝やそれにつながる葉の数々が一面に広がる光景は圧巻である。木の葉を下から見上げることはあっても、上から見下ろすことはそうそうないであろう。それが数百mも先まで広がっているのである。
ちなみに、ここから先に進む者はほとんどいないらしいが、どうしても先に進みたい場合は、世界樹の外周を自分で登らなけれなならないようだ。とはいえ、しばらくは木の幹の外側に階段が彫り込んであったが、それでも高度的には高山と一緒である。時折強い風も吹く。そこを壁伝いで登っていくわけである。危険でないわけがない。一応、係の人にその辺りの説明を受け、木を登り始める一行。
時折強き風が吹き、数人のものがバランスを崩しそうになるものの順調に高度を上げていく。いつもであれば、会話の一つも楽しむ一行であるが、実は必要最低限の会話以外行われていない。この現象は、エッダ島に到着してからずっとである。いや、作戦開始の直後からか?
ラークは、この旅が始まってから初めてとなる険悪な雰囲気の中、どうしたものかと頭を悩ませている。この思いは、カペラと今回の作戦に同行したジョバンニも同様であろう。言ってしまえば、イザヴェル王国関係者とライズの確執である。特にコトナ村出身の4人にとっては、ライズは友人知人の敵であるため、作戦上、自己の感情をぶつけていい場面ではないため、必死に我慢しているだろうことは想像できる。加えて、この大陸に連れてこられた手法についてもその感情を悪化させる一因にもなっているだろう。まあ、ライズの側には特別な感情は無いようであるが、それでもこの雰囲気の悪さの原因が自分にあることは百も承知であろう。・・・今のところどうにもならないのであるが、ライズと自分たちの関係は非常に重要なものになる、なんとなくであるが、ラークにはそう思えてならないのである。
樹壁を登りながら知ったことだが、階段が付いている範囲は、高度500mごとに休憩所が彫り込んであるようだ。そこで休憩を挟みつつ5000m地点に到達したところで夕暮れを迎えたようだ。ここから先を目指す人用に、この5000m地点は、少し大きめの空間になっている。さすがにベット等はないようだが、以前、霊峰を登った時に準備していた大人数用のテントがあった為、急遽それを設置して、一夜を過ごすことにする。
ライトの魔法で明かりを灯しながら、携帯食のパンを齧りつく一同。いくら料理好きのレグルスでも、樹木の中で火を熾す気にはなれず、素直にかっちかちのパンに齧りついている。他の観光客は誰もいないため、皆無言だ。
「・・・「「・・・・・・」」・・・」
いたたまれない空気が流れる。そんな中、ジョバンニはポケットを弄り、持ってきていた錠剤を一粒、口の中に彫り込む。今飲んだのは、胃薬だ。医学の知識にも精通しているライズが調合したものだが、なんでも、胃粘膜を修復する成分に加え、胃酸を中和する成分も入っているらしい。怖しい成分の名前も教えてもらったが、ジョバンニには覚えられなかった。が、これがよく効く。・・・気分の問題もあるのだろうが、胃痛がすぅっと消えていく感じがする。・・・ふとラルフの方を見てしまった。ライズを穴が開く勢いで睨んでいる。その見られているライズは・・・目を閉じ、黙ってじっとしている。視線には気が付いているだろうが、何か言われるまではダメっている方針なんだろう。・・・それを見た瞬間、薬の効果が薄れるのだった。そして、この嫌な沈黙が不意に破られる。
「・・・ライズさん、詳しい話を聞かせて戴けませんか?」
声を発したのはリーフだ。
「何についてです? 話せることなら話しますが。」
「あなたの元居た世界について。 そこで、何があったのか? そして、何故こちらの世界に来ることになったのか? こちらの世界に来て何があったのか?・・・いろいろです。」
今までずっとライズの方向を見ていたラルフも、あえて見ないようにしていた、レグルス、アレク、エストも、リーフの質問に対してライズが何を答えるのか注目しているようだ。
「・・・分かりました。・・・そうですね、何から話しましょうか?・・・」
そう言ってから、ライズが話始めた内容は以下のとおりである。
ライズたちが元居た世界は、そこの住人達はヴァルハラと呼んでいた。ライズの見立てでは、文明のレベルはこの世界と比べて、千年は先に進んでいる世界で、魔法が発達していた世界でありながら、同時に科学という知識体系・技術も同時に存在していた。世界の住人はそれらを有効に使い、豊かな暮らしを実現していった。 やがて、世界に存在する魔素や資源が不足し始め、自然環境も破壊され始めると、世界の国々は互いに対立し始め、そして戦争になった。戦争は長期化し、より多くの魔素と資源を消費し、環境破壊もより一層激しくなった。
ここで戦争を止めて、話し合うという選択肢も無くはなかったが、世界の住人たちの世論は、自己の利益のために相手を打ち負かすという意見が大勢を占めていた。そのため、最終的に使ってはならない究極の力を行使してしまう。・・・核魔法だ。 すべての物質には、核力という、物を燃焼させたりしたときに得られるエネルギーとは別次元の圧倒的なエネルギーを持っている。物質そのものを成り立たせるエネルギーだ。通常は、物質からそれを取り出すことは出来ない。が、何事にも例外はあり、ウランを始めとする限られた物質は、その物質そのものを破壊することで、莫大なエネルギーを取り出すことが可能であった。核魔法により、そのことが実行されたとき、相手国の一都市が消滅した。一時は最初に使用した国が相手国を蹂躙していくが、間もなく報復を受けるようになる。・・・そして、世界の住人が気づいたときには、その世界ヴァルハラは、生命が住めなくなるほど破壊されつくし、戦争前に100憶いた人口も、1000万人まで減少してしまった。世界は放射能という有害光線を出し続ける物質に汚染され、それらから身を守る空間内でしか生活が出来なくなった。農業生産すら、光魔法の利用により、辛うじて地下で行われる始末であった。
そして、ある意味世界の人間が望んだとおり、唯一残った大国の大統領であったヴィトがヴァルハラを捨て新しい世界に移住する決断をした。というのが、この世界に来た理由である。
ここまで、横槍を入れることなく、黙って話を聞いていた一同。特に王族の3人は、自分たちの世界も将来、道を誤ってしまえば、決して他人ごとではないと思ったのか、神妙な面持ちで話を聞いていた。まあ、だからといって、他の世界を侵略していいという話にはならないだろうが、いざ、その立場になったらと思うところがあるのだろう。 そしてライズの話は続く。
この世界に転移して、最初に訪れたのはガイアナ島であった。・・・ここで、レグルスが軽く驚く。・・・そこで、ヴィトはニーズヘッグという龍を従える。実はこの龍の正体が700年前に力を封印された魔王ゲルザードなのであるが、その時には誰も気が付かず、従えたというのも、単にゲルザードが従えられた振りをしていただけだった。そして、右も左もわからぬヴィトにコトナ村の襲撃を進めたのはほかならぬゲルザードである。後で知ったことだが、昔の勇者の出身地らしい。・・・ここで、感情面はおいておいて、何故コトナ村だったのか? とい疑問について皆、腑に落ちたようだ。当然、何故イザヴェル王国ばかり徹底的に狙われ続けるのかも。
次に語られたのは、イザヴェル王国の大部分が占領されてからの動きだ。政治家ヴィトが徐々に理性を失っていく様が語られた。今では完全にゲルザードに精神を支配されているらしい。時折正気に戻ることもあるらしいのだが。イザヴェル王国の占領に伴い、数百万の異世界民がこの世界に来ているらしい。そして、ヴィトの変質については語られていないらしく、生き残ったイザヴェル王国民とともに生活しているらしい。ただ、支配をしている形はとっているようで、元王国民は厳しい生活を強いられているようだ。・・・これには、リーフ、ミリアムは特に渋い顔をしている。・・・そして、ヴィトの元の部下は、ヴィト自身の変質に伴い、そのほとんどが、ゲルザードに付いたとのことだ。・・・で、ライズは何かとヴィトに対して諫言を繰り返していたので、邪魔と思われたのか、技術供与の要因として、アースガルドに派遣された。その派遣先にて、自由の御旗のメンバーと接触機会があり、現在に至る。
まあ、語られた内容はこんな感じである。・・・雰囲気はまだ硬いままだが、若干の同情心が芽生えたのか、少しマシになったと、ジョバンニは思う。表情は厳しいままだが。
「最後に今後の懸念ですが、一つには、リーフさんの正体は向こうに知られてしまいました。なので、今後は直接襲われる可能性があるということです。・・・もう一つは、核魔法の知識は、ヴィトの頭の中を通してゲルザードに伝わってしまったいるだろうということです。もしこの世界で核魔法が使われるようなことがあれば・・・」
流石にぎょっとせずにはいられない話である。
「ただ、ゲルザードは封印は解けていない模様です。今のままでは使えないでしょう。それに今のところウランの存在は確認できていません。直ちに対処が必要なわけではないのですが・・・実はこの世界全で広範囲に調べてみると微かに反応があるのです。場所は、この星の裏側・・・」
「裏側?」
「はい。ユグドラル、アースガルド、ガイアナ、レムリア、キルナ、スヴァールの各大陸があるのは、この星の半分に集中していますよね? 残りの半分にある大陸ですよ。 皆さん誰も話題にしませんが。」
「「「!!!!!!!!!!!」」」
一部の者を除き、驚いた表情になる。さらっと、新大陸の存在を断言されたのだから。ちなみに分かってなさそうなのが、ラルフとカペラであった。
今回の一件が片付いたら、次は直接、魔王の仲間と直接争うことになるかもしれない。今の話を聞いて強く考えるレグルス達。とはいえ、今は当面の問題を解決しなけらば。・・・そう思い、このあと少しだけ話をしながら皆眠るのだった。
次回は4/29に。




