油田へのテロ。エッダ島への渡航。
1734年 4/26
レグルス一行に、ライズ、ジョバンニを加えたメンバーは、ライズの転移魔法で大陸南西部の油田地帯に来ている。正確には採掘場所からやや離れた小高い丘にいて周囲を観察中である。眼下には、巨大な井戸のようなものが設置されていることが分かる。・・・どうやら、これは油井といって、言葉のまま原油の井戸になっていて、ここから採取しているようだ。採取した原油は、パイプラインという配管を通って帝国の主要都市、軍事施設に運ばれているらしい。その周辺を見渡すと、作業をしている者はそう多くはないようだ。・・・もちろん警備に当たっている者も。
現場では、この施設の作業員が、日々の作業に追われていた。ときどき警備員が巡回に来るが、どちらかと言えば、敵襲に備えてというよりは、現場で異常事態がないかの確認をしている。万が一の襲撃には備えて、銃の所持はしてはいるようだが、実際にはほぼ異常が発生しない現場で、行動がパターン化してしまっている。作業員も、時々メンテナンスをする程度で、それほど忙しいわけではない。
「毎日毎日、あちぃよなぁ~。まだ5月にもなってないのにな。この炎天下の作業とか拷問だぜ。」
「あちぃと言うなや。ここどこだと思ってるんだ? 赤道直下だぜ。涼しくなることなんか絶対ないから諦めな。・・・でも、俺も仕事はしたくねぇなぁ。はぁ。・・・あ~あ、早く昼にならんかな?」
「おいおい、仕事始めてから1時間位しかたってないぜ? まさか、もう腹減ったとか?」
「・・・そういうわけじゃないけどよう。毎日毎日メーターの目盛り見てるだけでたるいってだけだ。」
「・・・まあ、それについては同感だけどな。はぁ、なんか刺激的なこととか起こんないかな?」
「お~い、あんま滅多なこと言ってんじゃないぞ。・・・フラグ立ったらどうするんだよ?(笑)」
「へへ、ちげぇねぇ。・・・って、ええぇ!!!」
つい先ほどまで、いつも通り変わりがなかったパイプラインが爆砕したのだ。そこから原油が漏れて行っているが分かる。
「クソ! あそこは異常なんかなかったはずなのに、どうなってるんだ?」
「とりあえず、処置に向かうぞ! ・・・よかったな、刺激的な一日になって。」
冗談を言いながらも、更なる被害を防ごうと、現場に近づこうとする二人だったが、爆砕した箇所に巨大な火球が飛んでくるのが見えて、接近を止める。・・・直後爆砕した箇所から巨大な炎が上がる。そして忽ちその炎はパイプラインを通して燃え広がっていく。そして炎は油井にまでも燃え広がってしまった。・・・これは作業員では絶対に鎮火できないレベルのものだ。・・・そう悟った作業員たちは、安全確保のため現場から離れていく。その後この辺一帯が火の海に包まれるまでそう時間がかからなかった。
この事態を引き起こした張本人たちは、勿論レグルス達である。まずレグルスが生気収束波にて、ぴぷラインを破壊。その後エストの火魔法で点火をし、ダメ押しでカペラの風魔法で空気を送り込んでやった。・・・現在眼下の原油採掘施設は大炎上中である。・・・この場でのテロ行為は大成功と言えるだろう。・・・罪のない作業員たちは無事を祈るしかないが・・・
罪悪感は感じつつも、次の作戦に移るべく、帝都ガルドに向けて、再び転移魔法を実行するライズ。・・・着いた場所は、人通りのない路地裏だった。次の目的は、世界樹のあるエッダ島である。
そもそも、ここアースガルド大陸は全体としては、ほぼ円に近いような形の大陸であるが、北部だけは巨大な湾になっている。その湾の中に浮かぶ、東西南北、両方向にわたって500㎞はある巨大な島がエッダ島である。その島の中央に、地上部の幹の直径が約1㎞、高さが10㎞に及ぶ大樹がある。これが世界樹である。この木は、その巨大さから、数多くの樹上生物の生活の場になっており、この世界すべての生物の命の源とさえ言われているほどであり、ここアースガルドの国民は元より、全世界の人々が信仰対象にしてしまうほどである。更には、この大樹が齎すめぐみである、葉、枝、樹液などは資源としても重要であり、国家が管理していて、個人が勝手に採取することは固く禁じられている。
ところが、それだけ重要な存在である世界樹への立ち入りは、実は自由になっていて、エッダ島にいる人間は特に止められることも無く、この大樹を登ったりすることを認めているのである。勿論、登る前と登った後には、勝手な物資の持ち出しがないかどうか、チェックを受けることになるのだが。寧ろ厳しいのは、このエッダ島への渡航である。それに関しては、アースガルドの許可した者しか島に渡ることは許されない。管理はこの部分でしていると言っていいだろう。
「とりあえず、私についてきてください。」
言われるがままについて歩くこと1時間程。無事港に着いた。とはいって、港は港でも、大きな軍艦や商船、客船などが停泊しているようなところではなく、漁港である。もちろん漁師の皆さんが忙しそうにしていたりする。
何故ここに来たかと言えば、本来の大きな港からでは、勝手に船を出そうとすれば見つかってしまうからである。・・・元々アースガルドは、食糧生産も資源も自前で賄えるため貿易には積極的でなかったことに加え、現在はイースと戦争中である。そもそも国是が世界征服なので、友好関係にある国は少ないと言えるだろう。 であるから、港には軍人が多く、人の賑わいはない。目立った行動をすればすぐに見つかってしまうのである。
というわけで訪れた漁港には、こういう時のために漁業権をわざわざ獲得し漁師として生活している自由の御旗のメンバーがいるらしい。今回はそのニールという名の人の協力で海を渡るらしい。 そのニールさんは、もう漁港に来ていたようだ。
「おう! よく来たなお前たち。 今日はマグロの一本釣りだ。賃金は釣れた場合は弾むが、しっかりやれよ? てか、今日はまたナヨっとしたのばっかり集まったな。大丈夫か?」
いかにも漁師って感じの厳つい出で立ちのニールが、開口一番こう述べる。ラルフはまだ頭が付いていっていないようだ。完全にキョトンとしているが、もちろんこれは、マグロ漁を装って出航しようというわけである。勿論ニール氏の周囲を誤魔化す為の偽装工作なのだが、一人ピンと来ていないようだ。
「今日はよろしくお願いします。ニールさん。」
そういって、普通に仕事しに来ましたという体を取るジョバンニ。早速漁船に乗るよう指示される。船には、つなぎが多数用意されていて、どうやら着ろという意味らしい。今着ている服の上からで構わないようだ。・・・撥水性の良さそうなつなぎを身に着け、いざ漁場へという見た目になった一行。周囲から全く怪しまれることも無く、この漁港から出航する。
実際にこの船には、何本ものかなり大きな釣り竿が設置されている。話を聞くとマグロ漁にも何度か人を雇っていっているのだとか。勿論今日はそれをするわけではないが、なるべく目立たない上陸ポイントを探すため、真っすぐは行かずに、実際に漁場に行ってみるなどの徹底ぶりである。
現在は洋上であるが、船室に籠っているレグルスとエストを除いて、同行したメンバーは船上にて風に当たっている。気持ちのいい海風が頬を撫でていく。磯の香りもほのかにして、経験のないメンバーにとっては新鮮である。
「あの~、レグルスさんはどうしちゃったんですか? エストさんもですけど。」
事情を知らない、ジャンヌが皆に尋ねる。・・・詳しい話を聞いて・・・、
「あの人、船酔い酷かったんですね。・・・ってことは、ここに来るとき本来はかなりの船旅になる予定だったんですけど、どうするつもりだったんだろ?」
「ああ、かっこ悪いからあえて気にしない振りしてたんじゃないの?」
「まあ、アイツは意外とその辺の体裁とか気にするからな。後生だから、あんま覗いてやるな。上陸した後もあんまり触れない方向でな。」
ジャンヌの更なる問いに、かなり他人事のカペラと、よくレグルスのことを知るラルフが答える。恐らくは、また横になって回復魔法でもかけて貰っているのだろう。
出航してから何時間経ったろうか? 何とか人の気配がない岩場を見つけ上陸することが出来た。ニールはというと、そのまま沖に出ていった。船が空で入港したら怪しまれるから、適当に何か魚を釣ってくるらしい。レグルス達はその岩場を離れ、そのまま歩くこと数十分。何とか大きな道があるところまで出ることが出来た。見渡すと旅人らしき者も確認することが出来た。
「・・・あれが世界樹なのね。」
エストがそう言うように、まだまだ遠くにあるそれが、島の端のここからでもよく見ることが出来る。高さ10㎞は伊達ではない。その方向に向かっている道もあったので、ここからは収納していた馬車で移動することにする。そして、全員乗り込んだ後、とりあえず野営が出来そうなポイントまで移動するのだった。
数時間だけ時間が遡る。レグルス一行が、このような行動をとっていたその日の昼過ぎ、帝都ガルドの皇帝の間にて、皇帝テオドールは午前中に聞いた戦果の報告内容を思い出し、思ったほど、有利には戦争を進めてはいないことに考えを巡らせていた。イースへの空爆により相当なダメージは与えてはいる。その後占領した街が奪い返されたりして入るが、そのようなゲリラ戦法がいつまでも続くはずはない。やがては、帝都イスカへの空爆も決行し、こちらが勝利するのも目に見えている。
だが、数年前から、魔王軍に接触を受け、そこから齎された技術からすれば、ことは簡単に進むと思っていた皇帝にしてみれば、この苦戦自体が予想外の事態であり、苛立ちを隠せないでいる。
「フン、どいつもこいつも、役に立たない奴ばかりだな。なかなかうまくいかん。・・・」
そんな独り言を呟いたところで、ある兵士が、かなり慌てた様子で皇帝の間に飛び込んできた。
「皇帝陛下、・・・ゲフンゲフン・・・一大事でございます。・・・はぁはぁ・・・」
急いできたのか会話にもならない様子。・・・落ち着いて反すように問いただすと、
「南西部の油田地帯から出火しました。何者かが攻撃を加えた模様です。火災はパイプラインを伝って、かなりの地域に燃え広がっております。燃えているのが原油なため、消火作業は難航しています。報告は以上です。」
この報告を聞いたテオドールは、怒りのあまり頭に血が上り意識を失いそうになるのだった。気を取り直して発した一言は、
「犯行を行った犯人・組織は発見の上血祭りに上げろ! 魔力か何かでどこに逃げたか痕跡を辿るのだ!」




