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格闘聖職者の冒険譚  作者: 岩海苔おにぎり
第5章 ミズガルム共和国に迫る影
34/102

アクタの街のスラムでの出会い

1734年 2/11


 バルナの街を出立したレグルス一行。昨日のうちに、宿で盗みを働いたのは先日の女盗賊であったことは報告している。そのことも気にはなるのだが、今は別の件で話をしているところである。


「・・・盗賊の発生件数の割には、兵士が動いてる感じがしないんだが、どう思う?」


「確かにな、動きが少ない気がするね。」


「昨日、盗賊どもを突き出した時も、対応が雑だった気がするしなぁ。」


「そうよねぇ。これまでに捕まえた盗賊はほとんど商人が雇った護衛みたいだしねぇ。」


 ラーク、アレク、ラルフ、エストがそれぞれ話しているが、実際、俺レグルスもそう感じていたりする。これだけの盗賊発生で公的機関が盗賊討伐にあまり動いていないとか考えにくいのだが・・・


 この日はそんな会話をしながら1日を移動し、そろそろ野営御使用かという時になって、10名程の盗賊が襲ってきた。勿論撃退したが。きっちりロープで縛り、逃げられないように固定する。うるさいので、防音結界で覆ってやった。一晩過ごした後、別の荷台にこいつら盗賊を乗せ、馬車でけん引する。男衆で見張りをしながらね。最初は暴れていた盗賊たちもだんだん大人しくなってきた。・・・こいつらを外でつないで移動しているせいか、この日も、翌日も盗賊が別に襲ってくることはなかった。まあ、そりゃ警戒するよね。・・・で、結局次のアクタの街に着くまでは他の盗賊には出会わなかった一行である。


 アクタの街は霊峰ミズガルムからウルズ湖に注ぐ大河、ウルズ川の河口に位置している。ウルズ湖の沿岸付近は水産資源が豊富で、漁業が盛んである。レグルスは、これまでの旅路が内陸を通ることが多かったために、今回は魚料理が食べられることを、ちょっとだけ期待していたりする。で、実際に街に着いてみると、本当に水が多い街だと実感する。書物にはよく水の都と表現することもあるようだが、この街の南にはウルズ川、西には漁港があり、街のいたるところには水路が張り巡らされていた。その水路にはボートがいつも浮いていて、人が乗っている。どうやら、有料で街の色んな所に運んでくれるようであった。街の西側は繁華街、東側は建物が少しばかり傷んでいる印象がある。あっちはスラム街なのかもしれない。そう思いながら、まずは街の中心部ではなく、町はずれにある兵舎に向かっている。


 レグルス達がこの街で真っ先にやるべきことは、連れてきた盗賊の引き渡しである。ということで、現在は兵舎に来ているところなのであるが、何やら一部の住民が抗議をしているようだった。


「盗賊をちゃんと取り締まれ!」 「税金泥棒!」 「仕事しないなら解散しろ!」


 なんとまあ、言いたい放題ではある。が、特にこういった言動を取り締まる気もないようだった。まずは自分たちの用事を済ませよう。


「盗賊を捕まえたのですが・・・引き取っていただけますか?」


「・・・ああ、・・・それではこちらの書類に記載を尾根がしますねぇ・・・」


 何ともやる気も感じられない応対ではある。連れてきてこれなら、自分たちから取り締まるようなことも無いんだろうな?・・・そう思いながらも疑問を口にしてみる。で、話してくれた内容は・・・


1.盗賊討伐に許可が必要で、その許可に1週間以上も待たされてしまう。


2.夜勤の許可が中々下りない。すなわち兵士はほぼ夜に常駐していない状態である。


3.勤務地以外での行動許可が下りない。すなわち街道警備ができない。


 要約するとこんな感じであった。捕まえたいのは山々だが、規則がその妨げになっているらしい。事務側はどうしてこういう対応をするのか聞いてみたというのだが、


「通常業務が煩雑で、手が回らないの一点張り。」だそうだ。


 盗賊の討伐はかなり優先度が高いはずなのだが、後回しにすることを口実に、寧ろ盗賊たちを守っているかのような対応である。・・・とはいえ、この辺の他国の行政の在り方に口出しするわけにはいかないため、ここはおとなしく引き下がることにする。この件ばかりに気を取られるわけにはいかない。




 兵舎を後にしたレグルス達は、まず宿を取り、昼食を取る。午後からは自由時間とした。アレクとラルフはつるんでどっかに行ったようだ。ラークはミリアムと一緒にいたがって、拒否されていたがリーフを間に挟むことで何とか同行許可を貰ったようだ。彼の進む道はなかなか険しいな。そして、俺レグルスはエストと図書館に来ていた。初めエストは「街を買い物でもしながら散策したい。」と言っていたのだが、俺が勇者関連の本を探したいから、買い物行きたいなら行ってきたら?といったら、頬を抓られてしまった。未だに右の頬がいたかったりする。ちょっと解せないと思うレグルスである。


 というわけで、今は2人で書棚の本を物色しているところである。ここには、勇者の伝説とか、その時代の歴史とかそういう本はそれなりに見つけることはできたのだが、肝心の勇者の力に関する本が見当たらない。まあ、ダメもとで探しているので、別に構わないのだが、できれば何かヒントになるようなものでも見つけたいところではある。


「ねえ、これなんかどうかしら? 勇者関連とは違うんだけど・・・」


 そういってエストが渡してくれた本には【光魔法大全】と書かれていた。中を開いて見てみると、【ライト】【フラッシュ】【ヒール】【リフレッシュ】【リザレクション】等々多くの光魔法の効果や難易度、習得の条件、修行方法などが記載されていた。そのままページを捲っていくと、【シャイニングピラー】という名前の項目を発見した。・・・どれどれ・・・対象を聖なる光で捕捉し滅する魔法。術者が敵と認定したものすべてに一度に発動することが可能で、敵味方入り混じった混戦状態においても、選択的に敵だけを滅することが可能。莫大な魔力を消費し、賢者と呼ばれるような高位な魔術師や勇者が激しい修行の末、身に着けることがあるらしい。詳しい習得方法は不明。


「・・・なあ、これって、イザヴェラ襲撃の時にリーフが使った魔法に似ていないか?」


 イザヴェラ襲撃時に、リーフが敵だけを選んで一度に滅殺した魔法は未だに本人にも正体が分かっていなかったのだが、エストにも見せてみると同意が帰ってきた。これはリーフにも教える必要があるな。・・・この本を支所のところへ持っていき、紙に複写してもらうと、一旦図書館を出る二人。さて。


「ねえねえ、まだ時間あるでしょう? 街に行きましょうよ?」


 レグルスの同意を得て街に繰り出す二人。何気なく歩いていると、服飾店を発見。レグルスは嫌ではあったのだが、さっきは自分の用事を優先した手前、断れず入店。いや、エストと一緒なのが嫌だったのではない。そんなので嫌に思ったことはないのだが、ここは服飾の店である。男のレグルスとしてはサクッとほしい服を選んでほしいのだが、そんなわけもなく、エストの服選びにかかること2時間。その間着替えては脱ぎ、の繰り返し。その度に似合っているかどうかを聞かれる。・・・ここで、つい適当に似合っているよ。とか言おうものなら鉄拳が帰ってくるので、真剣に見ることにする。必要があればダメ出しもする。・・・ものすごく精神が消耗するが、それがエストにはうれしいようだ。・・・そんな様子を見て疲れながらもかわいいと思ってしまったのは内緒だ。・・・結局、旅先で着る戦闘にも耐えられるローブに、街を散策する時用のおしゃれな服と2セット購入した。ついでに俺のも街を歩く時用を躱されてしまった。・・・まあ、いいけどね。


 服飾店をでた俺たちは、特に目的もなく折角なので、水路に止めてあったボートに乗ってみた。銀貨2枚を渡したら、「街の中ならどこでもいけるよ。」とのこと。ならばと、適当に見栄えのよさそうなところを通行してもらうことにする。・・・こういうのんびりした時間もいいなと思いつつぼーっとしていると、


「スリだ~!」


 街の人か旅人かは分からないが、男2人が小さな女の子を追っている。・・・ってまさかその小さな子がスリやったってか? ちょっと疑問に思いながらもエストと二人で追ってみることにした。


 小さな女の子はそのまま追いつかれそうになりながらも、スラム街の方に走っていった。追っていった2人もスラム街に入っていったようだが、そこで女の子を見失ったようだ。・・・周囲を見回しているとこの辺りの光景はさっきまでの風光明媚なそれとはまったく違うものだった。今にも崩れ落ちそうな建物群に、ところどころにいる汚れた服を着ている人たち。道も整備されたものとは程遠く、ここまでは水路も走ってはいない。埃っぽい印象さえある。まさにスラムといった感じの街並みである。そのまま、適当に歩いていると、ずっと先の方から男たちの怒鳴り声が響いてくる。ただ事ではないと思い、そっと近づいてみると、


「おい、もっとあるはずだろ? 今も取ってきたばかりだろう? 早く出すものだしな?」


「今ので全部。もうないよ?」


 ごつい体つきの大男が小さな女の子・・・10歳いってないな、あれ。その子をゆすっているようだ。あれは、さっきのスリの女の子だな?


「嘘つけ!」


「きゃ。・・・痛い・・・離して・・・」


 男は女の子の髪を掴んで持ち上げている。さすがに酷いな。そう思ってたらエストが我慢できなかったようだ。


「あんた! 小さい女の子に何やってるのよ! 離しなさい!」


「あん? 何だテメ~! よそ者はすっこんでろ!」


「あんたこそ女の子離してどこへでも失せなさい!」


 あ、コイツ、自分の両手の指の関節を鳴らし始めた。実力行使に出る気か?


「口で言って分からない奴には体で分からせるしかないな。」


 そう言うと、下品なにやけ笑いをしながら近づいてくる。・・・なので、


「ぐえぇ~・・・・」


 男が近寄ってくる前に、逆に懐に入ってボディブローをお見舞いしてやった。・・・あ、倒れた。そのまま動かなくなったその男。・・・まあ、死にはしないだろう。


「こっち来て。」


 促されるままについていくこと数分。どうやら、この子の家に案内してくれたようだ。


「助けてくれてありがとう。お兄ちゃん、お姉ちゃん・・・わたしユーフィ。」


 自己紹介してくれたユーフィちゃん。助けてくれたお礼にお茶を振る舞ってくれるようだ。・・・少し発酵していたが、クセをやや感じる程度で、まあまあおいしい。ズズッ・・・ついでにスリのことについて聞いてみる。


「ごめんなさい。スリは悪いことだってわかってるの。でもそうしないとここでは生きていけないから・・・」


 まずは、聞けるところまで話を聞こうとしたところで、


「ただいま~、ユーフィ、いい子にしてた?・・・って、アンタ!」


 先日からお世話(?)になっている女盗賊だった。俺たちを見て見覚えがあっただろう。すぐに短剣を構え警戒態勢に入る。・・・ああ、そういえばこの前拾った手紙にユーフィって書いてあったような?ということは、この女が姉のカペラってわけか?・・・人質を取られたとでも思ったのか、睨みあうこと1分ほど。ここで、先日拾った綺麗な袋を出して見る。・・・途端に表情を変え、混乱し始めるカペラ(?)




 混乱しながらも情報交換をして、今はカペラも落ち着いている。お守り(?)はこの前の遭遇時に偶然拾ったこと、ユーフィはスラムの男につるし上げられているところを偶々見かけ助けたことを話す。で、家に案内してもらったら、カペラが帰ってきたと。逆にこちらもカペラサイドの話も聞く。


 このスラム街のどこかに、この国を揺るがしうる犯罪組織【呪いの蛇】があるらしい。基本盗賊稼業らしいが、密輸、麻薬、暗殺、殺し屋何でもありらしい。で、この姉妹は両親の事業の失敗で借金のかたにされ、売られたらしい。その両親も結局殺害されたのだとか。そして、月に一定以上の納金があればここに生活し続けてもいいとのことであった。・・・この街から逃げることは考えなかったのか?と聞いてみたら、余計な情報を持っている奴は絶対に生かしては置かないんだそうだ。どこまでも追いかけて殺しに来ると・・・・


「まあ、事情は分かったよ。こっちの被害については、今すぐはどうこうはしない。ただ、そのまま許すとかそういうわけにもいかないから、明日、改めて俺たちの仲間と一緒に話でもしないか?」


「ああ、わかったよ。こっちには妹を救ってもらったっていう恩もあるしな。・・・なるほどこの石から連絡が入るようになっているのな?・・・時間は10時。お前たちの宿だな。ユーフィと一緒に行くよ。」



 思わぬ収穫を得たレグルスとエストは気分よく宿に戻っていく。カペラは不安げにため息をつく。それを心配そうに仰ぎ見るユーフィであったが、この部屋の会話が盗聴されていたことは、油断していたこともあってか、誰も気が付かなかったのであった。





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