女盗賊とレグルスの失態。
ちょっとこの話はしばらく続くかもです。
1734年 2/8
ヤースの街で一泊した際に盗賊出没の噂を聞いたレグルス一行。本当に盗賊が出た場合の対策をするため情報収集がてら、この街のギルドに来ている。討伐依頼か出ていれば、それで状況は少しは分かるというものである。・・・なるほど、ここから首都のラバナに至るまでに、延べ二十数件の盗賊が出没し、そのうち数件に討伐依頼だ出されているな。・・・事前に受注しても、討伐後に報告に来てもどちらでもいいのか。・・・とりあえず一通り盗賊襲撃の情報は頭の中に入れておく。
1/10 ラバナ近郊 盗賊15名 1商隊を襲い、金品を奪う。商人の殺害報告なし。
1/13 ヤース近郊 盗賊10名 1商隊を襲い、金品を奪う。商人の殺害報告なし。
1/15 アクタ~ラバナ間の街道 盗賊1名 1商隊を襲い、金品を奪う。商人の殺害報告なし。
1/20 バルナの酒場 窃盗の被害 本人気が付かず。 別の客が逃げていく不審な人物を目撃。
1/22 バルナ宿屋 盗賊1名 1商隊を襲い、金品を奪う。商人の殺害報告なし。
1/25 アクタ宿屋 盗賊5名 1商人を襲撃・殺害。金品の強奪。宿の店主は無事。
1/28 ヤース~バルナ間の街道 盗賊1名 1商隊を襲い、金品を奪う。商人の殺害報告なし。
2/1 ラバナ近郊 盗賊15名 1商隊を襲い、金品を奪う。抵抗する護衛5名を殺害。
2/3 ヤース~バルナ間の街道 盗賊1名 1商隊を襲い、金品を奪う。商人の殺害報告なし。
2/5 バルナ市内 盗賊4名 旅人4人を襲撃。 うち1人殺害。金品奪い逃走。
2/6 ヤース~バルナ間の街道 盗賊10名 1商隊を襲い、金品を奪う。抵抗する護衛5名を殺害。
・・・あるわあるわ。・・・これはすべて被害を受けたものだけで、撃退に成功したものは出ていないっぽいし。・・・ヤース~バルナ間が多いなぁ。実際に盗賊を撃退するかどうかは別にしても、ラバナに到着するまで警戒しないと俺たちも危ないかもな。・・・とか思ってると、ミリアムが、
「依頼受注するにはどうすればいいんですの?」
「ああ、ギルドカード提出すればいいんですよ。」
「私持ってませんわよ?」
「ギルド登録すればいいんじゃね?」
「分かりましたわ。」
・・・ん? ちょっと待て。 ミリアム? ギルド登録する気?
「レグさん。何か問題でもありますの? これからもギルドを通してっていう場面、かなりありますわよ? リーフもこっちいらっしゃい。」
う~む。王子・王女がギルド構成員って・・・すごく抵抗感があるのは気のせいか?・・・いや、受付のお姉さんも顔が引きつってるし、前代未聞何だろう。・・・まあ、ダメか?って聞かれたらダメじゃないっていうしかないけどさ。・・・しかも片方勇者様だよ?・・・ああ、とうとう、ギルドマスターまで連れてきちゃった。・・・だんだん話が大ごとになる。・・・面白がっちゃって、ラークまでいっちゃったよ。・・・
結局、ミリアム、リーフ、ラークは今後のためということで、登録だけはさせてもらった。ただ、盗賊討伐依頼はあえて受注させなかった。この旅はそれが目的ではないからね。来たら捕まえる方向で考えるということで一つ納得してもらった。・・・それよりもステータスボードでの確認の際、リーフにとって重要な情報を聞くことができた。
リーフは才能の欄に、勇者の才能とは書いてるが、現在の職業は王族である。マスターが言うには、勇者として覚醒していれば、王族の隣に勇者と併記されるはずだとのことだ。・・・要するにリーフはまだ勇者とは呼べない存在らしい。まあ、勇者としての力の発揮か、勇者としての功績か、何かのきっかけがあれば、表記に勇者と現れるはずだとマスターは言っていた。だが、自分の力が発揮できていないことが証明された格好になり、案の定というか、リーフ落ち込んでいるし。今のところ、どうすれば力を発揮できるようになるか不明なんだよな。本人日々修行してはいるけど、今のところ大きな力は引き出せてはいない。・・・これについてはいったん保留だな。
盗賊関係の情報を入手できた一行は、一路バルナに向かって進んでいく。オスロを出た後から、交通量が多くなってきたこともあり、この馬車には軽く迷彩効果を掛けていたのだが、今はその効果は切っている。もちろん、この馬車が豪勢であり、盗賊が寄ってくるのではないか?という期待からだ。・・・まあ、あのギルドでの依頼の数を見れば、1件2件の依頼を解決したところで、状況は変わらないであろうが
ただ、気になっていることはある。主にヤース~バルナ間での盗賊1名と表記されているのが目立っていた。・・・おそらくはすべて同一人物だろう。普通盗賊は群れを成す。一人ではやらないのだ。だから、1人で盗みを働くという暴挙に出るものが沢山いるわけがないと考える。言い方を変えれば、そういうアホは一人だけであろう。逆に言えば、それを繰り返しできるほどの腕利きだともいえる。警戒しなければならないのはこういうのかもしれない。
ヤースの街を出てから3時間程経っただろうか。午前中は特に大きな動きもなく、盗賊の集団は襲ってこなかった。現在は馬車を止めて、昼食中である。天気も良いので、外で干し肉でも焼きながらパンにかじりついている。・・・うまいものを食べていて全員が油断していた。特にレグルスは油断していた。
俺たちの周囲に風が吹いたような気がした。気が付くと数人の小銭が盗まれていた。小銭といっても王族の3人は持ち歩くのは金貨である。つまり割と大金。そうでない面々も銀貨とかいろいろ今の一瞬でやられたようだ。俺はというと、金は収納に入れて無事であったが、・・・肉を焼くときに使っていた、秘蔵のシュネー村産の胡椒の瓶だった。・・・ふと街道の先を見ると、全力で掛けている女の姿が見える。
「おのれ・・・絶対に許さんぞ!!!!」
小銭であればまだよかった。恐れくは簡単に諦めがついたであろう。だが、読書以上にに食べ物を作ることと食べることを生きがいにしているレグルスである。我を忘れさせるには充分であった。レグルスは全力で追いかける。そう、先日の襲撃の際、飛竜の群れを一人で倒した時の勢いそのままに。女盗賊との距離は一瞬で縮まった。・・・捕まえた・・・そう思った瞬間、女の持っていた煙玉が炸裂する。いつもであれば、相手の気配も同時に掴みながら行動するため視界を奪われるくらいでは相手を見失うことはない。・・・が、興奮して我を忘れていたレグルスには効果絶大であった。・・・煙を晴らすころには、もう誰もいなかったのだ。・・・この様子を残りのメンバーは見ていることしかできなかった。
「・・・ガルルルルル・・・」
普段は冷静沈着なレグルスだったが、完全に出し抜かれたために、食事中を狙われたために、大変貴重な香辛料を盗まれたために、キャラ崩壊をおこしてしまっている。数時間前まで、パーティーメンバーへのツッコミを一手に背負っていた存在とは思えないありさまである。今の様子だけ見ていると、普段見せている、理知的な様子は全く感じられない。事案が発生してから1時間、未だ怒りが収まらないレグルスである。・・・今は少しでも早く元のレグルスに戻そうと、エストとミリアムがレグルスを挟み込むようにすわって、交互に頭をなでなでしている。それでもなお、鼻息が荒いままである。
「・・・ちぃ、何だよ、この状況。羨ましすぎるじゃねぇか?! 一人寄こせ! てか、ミリアムは俺のだ!」
「あなたのモノでは少なくともないですわ!(怒)」
「まあ、羨ましくはあるかな。・・・お前はお前で、何書いてんだよ?」
それぞれ、ラーク、ミリアム、ラルフである。そして僕アレクは、これはチャンスと思い絵に残すことにした。・・・うん、これはいい絵になる・・・ラルフの言っていることは当然無視。・・・レグは・・・そのうち元に戻るでしょう・・・だから、リーフもそんなにドン引きしなくても大丈夫だよ?
「大変失礼を致しました。」
馬車の中での、見事な土下座である。あれからさらに2時間。頭をなでなでされつつ、ふと突然スイッチが入ったレグルス。我に返ったらしい。今は全員に、あの件以後の自らの振る舞いについて謝罪中である。まあ、だれも怒ってはいないんだけど。寧ろ完璧超人ぶりを見せつけてきただけに、全員ニマニマしている。今後何か交渉事が発生した際のネタにするつもりだろう。・・・俺アレクはというと、さっきの光景のデッサンは終了した。後は色を付けるだけ。これはいい絵ができる。色んな意味で。・・・
こんなことがあったその晩。実はもう一件襲撃があったのだ。盗賊は10名。武器を持って金品を要求してきた。まあ、普通そうだよね。夜来るよね。・・・でもね、君たち運が悪かったね。今日はね、レグ君、おこだよ。・・・ああ、レグのマジ切れの闘気を浴びちゃって・・・あれって、竜も硬直しちゃうあれだよね?・・・可哀そうに全員失禁しちゃって・・・数名は口から泡を吹いて気絶しているし・・・エストちゃん優しいね。盗賊たちの涙吹いてあげてるよ。「もう大丈夫だよ。」だって。そう言いながらしてることって、両手を縄で縛ってるんだけどね。・・・何にしても、君たちが仕掛けるのは今ではなかったってことだね。・・・僕たち今日、実は何もしてないよね。・・・レグルスの御乱心で終わる今日一日でした。丸。
次の日は特に大きなこともなく、順調に馬車を進められている一行である。で、冷静になったレグルスといつも通りのメンバーが昨日の女盗賊について意見を交わしている。
「やっぱり、昨日のって、ギルドにあった一人の盗賊なんじゃない? 場所的にもさあ。」
「確かにやたらあったよな? この辺一帯を活動拠点にしてるんだろうな。」
「まあ、時間があれば捜索して捕まえてもいいんだが、旅の目的を考えると深追いはダメだな。俺たちは一応急ぐ旅をしているのだし。胡椒はそのうち転移でシュネー村に戻ってしこたま買ってくる。ココデカウと高いし。」
それぞれ、エスト、ラルフ、レグルスである。レグは今一吹っ切れてないね。胡椒のことまだ言ってる。まあ、冷静な判断が戻ってきただけいいか。そう思うアレクである。
「もしかしたら、あの女盗賊はまた来たりしてね? バルナの街の次、アクタくらいまでは警戒してないとダメかもよ?」
特に反対意見もなくうなずく一同。・・・そんなことを話しているうちに、この日も終わり、次の日になってようやくバルナの街に到着した。連れてきた盗賊団は官憲に引き渡し、ギルドに報告したうえで、そのまま宿を取り、各々くつろいだ後、素直に寝ることにした一行。全員が眠りについたタイミングで、
「ドロボー!!」
こういったキーワードに敏感になっている一同が飛び起きる。何やら他の階でガタガタ音がすると思ったら、上の階から何者かが飛び降りて逃走したのが見えた。女?・・・あ!
そう思った瞬間、レグルスは窓から外に出ていた。ここも2階だけど、これで怪我するほどやわではない。見たら、アレクも来たようだ。一緒に追いかけることにした2人。冷静さを取り戻したレグルスは気配を消し、相手の気配から行動先を予想し回り込む。アレクはそのまま追ってくれるようだ。うまくいけば挟み撃ちにできる。
「ん? 今回はしつこいねぇ? あれ? あの男は?・・・あいつからは今何も取ってないよね?・・・あ、数日前に街道沿いで香辛料盗んだ時にいた仲間の一人かも?・・・ふ~ん。追って来たんだ。御苦労だねぇ~。」
そう独り言を言ったのは、最近、この辺一帯を騒がせている女盗賊のカペラである。今も、高級宿に泊まっている客から、金目の物を盗んできたところである。今回だけでなくもう何回盗みを働いたか分からない。先日の香辛料もそれはもう高い値段で売れた。・・・すべては生活のため。そう割り切って盗みを繰り返している。ただ、【殺さない】【必要以上に取りすぎない】これだけは守るようにしている。それを破ってしまえば、ほんとの悪党になってしまう。・・・まあ、盗みそのものが悪ではあるのは承知しているが。・・・親はいなく、まだ8歳の妹を養うには遊郭に行くか、犯罪に手を染めるかしかないのである。・・・悪いとは思っているが、生きるためとはいえ捕まる気はない。
「あいつ、しつこいねぇ。まだ追ってくるよ・・・そろそろ煙幕を、・・・え?」
どこから現れたというのか、別の男が自分の逃走方向に現れたのである。この一瞬の動揺の隙に、煙玉は追って来た奴に奪い取られていた。クソ!・・・正面にいた男が殴りかかってくる・・・
現れたのはレグルスであった。レグルスは捉えたと思ったのだが、加減して殴ろうとした拳は空を切る。そしてその女は右隣の屋根に上っていた。この一瞬でジャンプした?・・・いや・・・そういう筋肉の動きではなかった。・・・これは・・・風魔法か?・・・ここで突風が吹いた。思わず目を背けると、もうそこには女はいなかった。今の突風も自分を自我すための魔法だったのかもな。たぶん転移魔法を組み合わせて逃げたんだろう。・・・2度目もまんまと逃がしてしまったレグルスである。だが、少しだけだが収穫があった。女盗賊は慌てていたのか何かを落としていった。・・・よく見ると、何かの袋のようだ。悪いと思いつつも中身を確認すると、何かが書いてある紙が入っていた。
『カペラお姉ちゃんへ、
いつもお仕事ありがとうね。危ないお仕事しているみたいだけどがんばってね。わたしはいい子にして待っています。帰ってきたら、またお姉ちゃんが好きなパンケーキ焼いてあげるね。 ユーフィより』
手紙だった。大切な家族なのだろう。綺麗な袋の中に丁寧に折りたたんで入れてあった。お守り代わりにしているのかもしれない。しかも本人の名前と妹の名前が書いてある。これは大きなヒントだ。とはいえ、わざわざ探す時間はないのだが。・・・運命の悪戯が作用すればまた会うことがあるかもしれないなあ?・・・そう思いながら、アレクとともに今のことを報告しに宿に帰るレグルスであった。
次回は明日4/5の15時までは・・・




