ミズガルム共和国へ
この章からミズガルム共和国編になります。
1734年 2/3
グリバール王国、オスロの街を出立する一行。まずは馬車に揺られながらミズガルムとの国境を目指している。国境近辺は山岳地帯になっているため、関所も峠に位置している。その関所までは4日程は掛かる距離である。今乗っている馬車はグリベルにてそのまま使用許可を貰ったものを使わせてもらっている。まだまだ極寒のこの時期、暖房機能が付いた馬車は貴重であった。この寒空の中、今更この機能のない馬車で寝泊まりするのは自殺行為である。一行は馬をそこそこ休ませながら、少しずつ歩を進めている。・・・とはいえ馬車の中では、大いに暇である。時間もたっぷりあるため、個人でめいめい好きなことをすることもあるのだが、今は皆で談笑している。・・・レグルスを除いて。
「! あの~、あんまり近寄らないでもらえます?! 距離近すぎですわよ?」
「これは失敬。・・・その、あまりに今日は寒いのでな。」
「そうですか~? この部屋、今25℃ありますけど?」
さりげなく、ミリアムに近寄っていたラーク。もう体が接触するような程ミリアムに接近している。勿論、馬車内は十分に広く、そんなに接近しなければならないほどの狭さも感じない。ミリアムから苦情が上がり、逆側でミリアムの隣に座っているエストから疑問の声が上がったところである。エストの目からは「嘘つけ!」と言わんばかりの眼光が光っている。
「ちぇ~。連れね~よなぁ? なあ、アレク?・・・って、おめぇも話を聞いてないのかよ?」
よく見たら、もう一人、話に加わっていない仲間がいたようだ。・・・ん? いつもは風景画とか描いているのに、今回はこっちを見ながら書いているのか?・・・たまには人のやり取りを絵にするのもいいのかもな? と、そこで視線を切り、自分が今読んでいる本に再び没頭する。
「ラークもミリアムを構いすぎると完全に嫌われるぜ。・・・まあ、ネタでやってるんだろうが・・・」
「な! てめぇ、ラルフ! 芸人殺しはやめろって、いつも言ってるだろう!」
「まあ、ほどほどにしていただけたら、私もそれほど嫌ではないのですけど・・・」
「お! とうとう俺に惚れ始めたか?!」
「・・・・・・・・・それはないですわ・・・何でそうなるんだか(怒)・・・」
「ラーク?・・・ちょっと自意識過剰じゃないかしら?・・・ミリアムも暗黒面に落ち始めているわよ?」
「あっはははは・・・・・・・はぁ」
とうとうリーフは乾いた笑いをした後、ため息をついてしまった。ラークさんラークさん、ほどほどにしないと、呆れられてしまいますよ。って何だかんだ俺もそっちに気が獲られているなぁ。
現在レグルスは、オスロで購入した、【ミズガルムの共和制の弊害】という本を読んでいるところである。これからミズガルムに入国するにあたり丁度いいと思ったのだ。その内容とは?
ミズガルムは、今から1000年程前には、それまで続いていた王政が余りの圧政だったために、国民による革命で打倒されて共和制になったのだとか。その後は細かな決まりこそ変えられてはいるものの、その時の政治制度をそのまま引き継ぎ現在に至っている。他国では国王とほぼ同じ権力を有する存在は、ここでは大統領と呼び、5年に1回行われる大統領選挙により選出される。また、国民の意見を大まかに集約するために、いつのころからか、政党と呼ばれる組織が生まれ、現在は諸外国と積極的に関わり、世界全体の利益のために行動すべきとする【秩序党】と、自国の利益を最優先とし、世界とのかかわりには比較的消極的な【国民党】という大きな政党が存在している。大統領はこのどちらかの党首が選挙で当選することが普通になっている。議会についても、構成員たる議員も選挙で選ばれ、ほぼこの二大政党で議席が占められるのである。
国民の意思が反映されるこの国は、常に安定した政権運営がされると思われがちなのだが、実際はその仕組みが抱える矛盾で、大きな行動がなかなか執れなかったりすることがあるのである。現に今から7年前に始まるイザヴェル王国への侵略に対しての国策をどうするべきかで議会が紛糾。実は、現在のネルヴァ大統領は、2期目であり、当時は1期目であったが、彼は秩序等であり、イザヴェル王国への積極的介入を掲げていた。が当時から議会の多数派は国民党であり、外国への介入には消極的であったために、支援の具体的内容が中々決まらなかったのだ。結局、大統領が拒否権をちらつかせる形で国民党側の譲歩を引き出し、一定の支援をイザヴェル王国側に送ることができるようになったのである。その後も情勢の変化ごとに、大統領側と議会側の対立は激化して、円滑な対応ができていないのがこの国の大きな問題点である。
というような内容が、この本の前半に書かれていた。そのまま続きの、この国の主要な政治家と掲げる政策の詳細、対立関係などの項目を読もうとしたところで、
「かぁ~! なんつ~硬い本を読んでるんだ? 俺も王族の端くれだが、そんな本なんか読んだこともねぇぞ! よくそんなの読んで頭痛くならねぇよな?」
人の本に文句を言い始めるラーク。あんた、王子だよね?・・・これを読んだことないって・・・グリバールの将来は大丈夫か?
「全く読んだことがないのは、一国の王子として大問題なのでは? 私はもちろん目を通してますわよ?」
「僕も、一応は読んだことあります。・・・というか読まされましたが・・・」
「俺はいいんだよ。全部ミリアムに対応してもらうから。」
「・・・まるで、私があなたのモノにでもなったような言い草ですね・・・私は知りませんわよ?」
「いやな、そこは、ほら!・・・グリバール王国の将来の王妃としてな・・・」
「誰が王妃ですか!・・・いい加減にしないと怒りますわよ!(怒)」
「・・・もう怒ってるじゃん・・・」
ラークとミリアムの夫婦(?)漫才をそのまま聞き流していると、今度はエストが、
「レグもそろそろ読書はそのくらいにして、昼食にしましょう?・・・って聞いてる?!・・・はい、本閉じて、皆で一緒に食べましょ?」
拒否は許されなかった。・・・とうとう本を奪われる俺。・・・せめて栞を挟ませてくれ!・・・俺の読書は、このようにして強制的に終わらされたのだった。
そんなやり取りをしながら、4日目に入ると、国境に位置する、クレイドル山の麓に到着した。このまま緩やかな坂道を登っていくと国境に当たる峠に着く。グリバール王国とミズガルム共和国は、というよりは、ミズガルム共和国はこのユグラドル大陸にあるすべての国と友好関係にある。そのため、その峠に設置されている関所は、細かい手続きなしで通ることが可能になっている。今回、グリバール王国がイザヴェル王国への援助等を運ぶために、領土内の通行することを許可したためか、心なしかすれ違う馬車が多く感じる。・・・坂を上り始めてから3時間程経っただろうか? どうやらクレイドル峠に差し掛かったようだ。そこで、入国の許可を貰い、・・・ここからはミズガルム共和国である。今度は緩やかな下り坂を降りること4時間。ヤースの街に到着する。緯度的にはオスロより若干南な程度なので、時期の問題もあり、まだまだ寒い。現在もう日も暮れているため、急いで宿をとる。それほど豪華な宿でもないが、一晩泊まるには充分である。
荷物を降ろして、一服した一行は、併設された酒場へ夕食がてら向かうことにする。・・・酒場はなかなかにぎわっているようだ。全員分の食事と6人分のエールを注文し、待つことしばし。肉料理が中心の食べ物が運ばれてきた。お腹も空いていたこともあり、皆がっついて食べている。
その食事の最中、近くの席から、特に聞くつもりもなかったのだが、何かの噂話が聞こえてくる。一度聞こえてくると聞きたくなってくるのが人というものである。そのまま、レグルスはその話声に耳を傾けてしまう。
「・・・また、盗賊団が出たんだってなぁ? 今回はヤース~バルナの間の街道沿いを襲われたって話だぜ? そいつは殺されはしなかったが、身ぐるみ剥がされたらしいぜ?」
「その話なら俺も聞いたぜ。それにバルナの街中でも強盗が出て、旅人から金品奪っていったって話だ。・・・ったく官憲は何やってるんだ!って話だぜ。」
「何か裏では、中央のお偉いさんが裏の犯罪組織と繋がっていて官憲が掴んだ捜査情報を横流しにしてるとか・・・」
「か~! それじゃ、一般市民はやってられんな! まあ、本当かどうかも分からないけどな。」
「お前さんはどうなんだよ? 結構手広く商売やってるみたいだけどよぅ、被害にはあってないのかい?」
「それなぁ。実は1週間前だったか、一度襲われそうになっちまってなぁ。まあ、ギルドで護衛雇っていたから、そん時は撃退できたって報告は聞いてるよ。護衛料ケチってたらって思うとぞっとするぜ。」
「おめーのとこもだったのか? 怖えなぁ。 まあ、お互い気を付けようぜ?」
横で聞いているだけなのだが、街中でも襲撃されるとかとんでもない話である。こちらもグリバール王国御用達の高級馬車に乗っているため、そういう連中が多いのであれば全く他人ごとではないのである。本気でその時の対策を考えなければと思い始めた時、
「レグさん。今の何とか出きませんかね? 犯人逮捕できる方向で。」
よりにもよって、リーフが聞いていたか。この子は人一倍正義感強いからなぁ。まあ、俺の隣に座ってたんだし、聞こえるよな。あんな大きな声で話してれば。まあ、向こうも隠すつもりとか全くなさそうだけどさ。・・・今のリーフの話を聞いて、全員が興味を持ってしまったようだ。しょうがないので、今聞いた話をまとめて説明する。
「それ許せないわね?! レグ! 絶対捕まえるわよ?」
「おうよ。悪い奴は懲らしめないと気が済まん。」
エスト、ラルフ、今現在、できるだけそういう方面に首を突っ込みたくないんですが・・・
「私たちが囮になれば、寄ってきませんこと?」
「馬車が馬車だからな。何もしなくても寄ってくるんじゃないか?」
いや、寧ろ寄ってこないように何かしたいんですが・・・ラーク、ミリアムもこういう時は波長が合うんだよね。王族が自ら囮になろうとか聞いたことないよ?
「レグ。ここは諦めて、犯人捜査に協力しない? この人たち、やる気になっちゃったし。」
アレクにまで言われてしまった。比較的パーティー内で冷静なこいつにまで言われたら俺としては止めるすべはなく、・・・
「やばいのはバルナって街っぽいし、お金持ちの振りして、いい宿に泊まるわよ。そして盗賊が誘き出されたら、・・・ギッタンギッタンにして捕まえてやるんだから。」
エスト・・・周りのお客さんに注目されてるって分かってる?・・・はぁ。
こんな感じで、移動がてら、盗賊討伐の方針が掲げられた一行である。・・・はてさて、どうなることやら。




