コトナ村の秋祭り前日
ここから本編です。
「5時間目のこの時間は、はこの国【イザヴェル王国】の歴史のお話をしますねぇ~」
「「「「「「はーい」」」」」」
元気よく子供たちが返事をしているこの場所は、イザヴェル王国・コトナ村にある初等学校の4年生の教室である。
「イザベル王国はどのくらい前からあるのかわかりますか?・・・わかる人、手を挙げて!」
「「「「「「ハイ!」」」」」」 「・・・ハーイ・・」
大部分の子たちは元気よく、一人自信なさげに手を挙げている子もいるけど~ぉ と担任であるエレンは思いながら、とりあえず一番元気のよさそうな【ラルフ】に目をつけた。
「では・・ラルフ君!」
「ハイ、100年前です!」
自信満々であったが
「ブッブー、違いますぅ。じゃ、次のわかる人!」
ラルフ君はとりあえず手を挙げただけだな、アイツ、ケロっとしてるし、次はあえて自信なさそうな子に当ててみるか?・・・と思いながら「レグルス君」と呼んでみる。
「・・・ハイ。1726年前です。・・・」
「はい。正解。だいたいでよかったんだけど、詳しく知ってるんだね。よくできました。」
途端に、「オオー!」というどよめきが起こる。すると一人の子【エスト】が手をあげた。
「先生!今年って1726年だよね?今の答えと関係あるの?」
「実はそうなの。王国ができた年を元年、つまり1年としたのね。だから1726年は王国ができてから1726年目ってわけ。」
種明かしをされて、「なあーんだ」とか「ふーん」とか「なるほど・・・」とかいろいろ声があがる。
「ちなみに、みなさんがよく使っている魔法はいつぐらいからあるか知ってますか?」
し~ん・・・う~む、無反応か。レグルス君は、恥ずかしそうに動いているけど・・・同じ子ばかりもなぁ・・・よし
「じゃ、クイ~ズ!・・・このイザベル王国が建国された年より前か後かどっちだ?・・・もっと昔だと思う人?」
1、2、3、・・・10人手をあげたか。逆のことを聞いたら5人手をあげた。うん?手をあげていない子が3人ほどいるんですが・・・ってか1人机に落書き書いてるんですけど。ありゃ【アレク】か。一番後ろの席だからって・・・教壇からは丸見えだってわかってないな、あれ。
「正解は、王国ができる前です。今回は正解した人が多かったですねぇ。実は2500年以上も前に魔法は発見されたといわれています。魔法の扱いがうまかった人たちが中心となって王国を作ったといわれているんですよ。」
・
・
・
「このように、順調に発展してきた王国ですが、1056年に1度滅亡してしまいます。【ロイ】君わかりますか?」
「これは知ってます。魔王が攻めてきたんですよね。」
「はい、その通りです。魔王ゲルザードですね。『人間を食料にするため』とか『魔力を多く使う人間から多くの魔素を奪うため』とかいろいろ言われていますが、王国にすむ人々の多くが殺されました。王国軍は倒そうと勇敢に戦いましたが、返り討ちにあいました。」
教室の隅々から「ひぇ~」などの呻き声がわずかに上がる。そしてアレクの落書きは最終局面に入ったようだ。色鉛筆も使って中々の芸術作品である。すばらしい・・・が許さん。
「でも、こわ~い魔王を倒してくれた人たちがいるんですよね。もちろん勇者と呼ばれる人ですが、名前は知っていますよね。わかる人は答えてね。せ~の~」
「「「「「「【勇者カミュ】!」」」」」
「はい、みなさん正解で~す。この勇者カミュが1060年魔王ゲルザードを倒して、後1065年イザベル王国を再建します。この国が今のイザベル王国のもとになっているのですね。」
・・・とここまで話したところで、キンコンカンコンとチャイムが鳴りだす。
「では、時間も来ましたし、キリがいいので今日はここまで。明日は秋の収穫祭があるので学校はお休みです。くれぐれも危ない遊びをして後から叱られないように楽しく過ごしましょうね。ではロイ君、号令お願い。」
「起立!礼!」
「では、解散。みんな、気を付けて帰ってね。そうそう、アレクはちょ~と残ってください。少し先生とお話ししましょう?」
「え~!早く帰りたいよ~。なんで~!」
アレク、ばれてないと思っているのか、不満たらたらのようである。そしてほかの生徒はすでに教室にはいない。同情するものは誰一人いないようだ。
「机の絵、すごく上手ですね~。先生、書いているところちゃんと見てましたよ、(怒)」
その後アレクがしっかり反省するまでお説教するエレンであった。
今は午後2:30頃、僕レグルスは学校をでて家へ帰る途中である。別に友達がいないわけでもないのだが、あまり多くの友達と一緒に騒ぐようなタイプではない。他の友達はよく外で鬼ごっことかをしていて、自分もそれに混ざることもある。体力は自分でいうのもなんだけど、別にひ弱というわけではない。
まあ、特別力があるわけでもないのだが。どちらかというと、本を読んだりして、静かに過ごすほうが好きだ。本も自分たちの間ではやっているような子供向け物語も読むけど、この世界の地理や歴史・伝説に関することや魔法関係について書いてあるもの、医学や数学、生物、化学、その他雑学などもよく読む。
・・・そのせいで、幼馴染のエストには「本ばっかり読んでないでたまには外行こう?」などと半ば強引に引っ張っていかれたりするのだが。・・・そういうのも嫌いではなかったりする。・・・ん?
「・・って!・・・・・ちょっと待ってってば!」
すごい勢いでエストが走ってきたけど、どうしたんだ? なんかすごい形相なんだけど、ちょっと怖い・・・
「あんた、今日は一緒に帰ろうって。・・・・はぁはぁ・・・わたしが【マニ】【ベル】【メアリ】とちょ~と話してる間にいなくなってるんだもん!ひどいよ!」
まずい!すっかり忘れていた。基本一人で帰るから、惰性でここまで歩いてきてしまった。家が隣にある彼女は、なんだかんだ言って僕と一緒にいることが多く、僕の唯一の特別仲の良い友達といっていい。『どうやって宥めようか?』と考えていると。
「まあ、いいわ。喧嘩はしたくないし、とりあえず許してあげる。で、明日の秋祭りどうする予定?まさか、お祭りなのに一日中本読んでるだけとか言わないわよね?」
「予定は決まってないけど、どこかのタイミングではいくと思う。」
図星を突かれるとは・・・・目きょどってないよね?
「じゃあさぁ、夕方から一緒に見に行こうよう?」
「うん、いいよ。どうせなら、他に誘う?ラルフとかアレクとかマニとベルとか・・・」
『ギン!』と音がしそうな程、エストの眼光が鋭くなった気がした。そして両目の端が吊り上がって見える。怖いです。彼女時々こうなるんだよね。なぜ?
「明日はさぁ、2人で行こうよ。」
もちろん嫌ではないので、OKを出す。エストうれしそうな顔をする。なぜか知らないがこちらもうれしくなる。
「うん、楽しみにしているからね。またぁ~」
ちょうど互いの家の前についていたので、2人とも自分の家に入っていく。家の裏手に回り玄関から入り
「ただいま~」
と言ってみたところ、だれからも返事はない。当然である。家は教会をやっていて、家の正面では両親が教会に訪れた人のお祈りを見守ったり、懺悔を聞いたり、ありがたいであろうお話をしたりしているのだろう。明日が秋祭りというのもあるので、明日の秋祭りの打ち合わせとかがあるのかもしれない。最近特に忙しそうだし。いつものように本でも読むか。そう思い、父の書斎の本を引っ張り出すのだった。
夕方、今日のお勤めを終えた両親が部屋に入ってくる。
「「ただいま」」「おかえり」と毎日の親子の挨拶である。
しばし時間が経過し、父【アスク】、母【シュリー】、そして僕レグルスが食卓についている。今日の献立は野菜のトマトソース煮込みだ。骨付きの鶏肉も一緒に入っていて、スプーンでつついたら簡単にほぐれるくらい良く煮込まれている。焼き立てパンもある。いつもながらとてもおいしい。
「明日は秋祭りだが、お前の10歳の誕生日だな。10歳になったらステータスボードを渡すことになっている。知っているな。渡すのはこの部屋ではなく、正面の教会の方だからな。」
「大丈夫だよ。わかってる。起きたらすぐ行くよ。」
普通、この国だけじゃなく、この世界に住む人は10歳の誕生日にその町の教会でステータスボードを渡される。そこで、自分がどんな職業に向いているのかがわかるんだ。もちろん、現在の能力も数値化されてわかるようになっている優れものである。素材と魔力があれば簡単に作れるらしいけど、発明した人はほんとにすごい。ちなみに両親のステータスは
アスク LV45 天職 聖職者 回復魔法の才能 転移魔法の才能 現在の職業 神父
HP 251
MP 437
力 51
器用さ 30
素早さ 123
魔力 389
技能 光魔法LV30 回復魔法LV40 転移魔法LV30
シュリー LV44 天職 聖職者 魔法の才能 現在の職業 シスター
HP 217
MP 512
力 40
器用さ 100
素早さ 154
魔力 441
技能 光魔法LV15 火魔法LV25 氷魔法LV15 風魔法LV20 回復魔法LV35 料理LV40
掃除LV25
てな感じである。職種にもよるし、個人差もあるが普通の大人の能力は50~100位、自分の職業に関するステータスは100以上。200を超えるとかなりの達人のようである。また努力すればレベルが上がり、ステータスも伸び、スキルも上のレベルに上達するらしい。そう考えるとうちの両親、とてもすごいのではなかろうか・・・
「私たちも職業柄、事前に見ることはできるのだけど、あえて見ないようにしているのよ。だからレグがどんな感じになっているのか楽しみよ。」
「お父さんたちと違って全然低いかもよ?あんまり期待しないでよ?」
特にHPとか力とか素早さとか全く自信はない。それに自分に天職がつくとも限らないし・・・
「仮に低かったとしても、今後の努力次第で運命はいくらでも変わる。天職なしでもすごい人はいくらでもいるしな。それに天職と違う職業の人だって珍しくはないぞ。」
「ところで、明日はその後どうするの?エストと約束してるの?」
ちょっとニヤニヤしてる母。ウザイ。
「うん。でも夕方からね。日中はどうしようかな・・・」
「まあ、年に一度のお祭りなんだから、楽しんでいらっしゃいな。」
・・・という会話をしつつ夜が更けていく・・・